完了災事のグランギニョル

帝国から、新たな兵器運用のオートマトンのオーダーが入った、私のラボに遣わされた帝国兵が、それを告げたのである。
私の名はグランギニョル。周囲からはDr.グランギニョルだのグランギニョル博士だの、結構適当に呼ばれている。
既に帝国に対して数百のオートマトンを製造、そして派遣している。帝国は人々や国々に対しての脅威として十分となりえている筈だが、
今の軍事力ではまだ飽き足りないらしい。発注数等、詳細な内容を伝達した後、その帝国兵は足早に帰還していった。
本来ならば、私も帝国に加担するようなマネはしたくない、しかし、食い繋ぐにはこれしか方法がない現状では、こうするしかなかった。
帝国は、私にオートマトンの製造と提供を要請し、その見返りとして、資金の支援と帝国との安全協定を約束した。
そのおかげで、人付き合い以外では、特に難なく過ごせている。
オーダーされたオートマトンの詳細表をもう一度読み返し、ラボに戻ろうと踵を返したその時。
道の片隅でみすぼらしい姿をした少女が横たわっていたのが見えた。


彼女は孤児であった、出生はまるで不明、まあこのご時勢、そんなに珍しくない。
長い間何も口にしていなかったのか、かなり衰弱していて、生きているのが不思議なレベルである。
私は彼女を、ベッドに寝かせて様子を見ることにする。


彼女は目を覚ますと、物珍しそうな目で周囲を見回す。
目を覚ましたそこが知らない世界なのだから、当然の反応だろう。
私は、起きたばかりの彼女に食料を与える。
食べてもよいのか、といった感じの視線を投げかけて来たが、私がゆっくり頷くと彼女は必死に、笑みを浮かべ、涙をこぼしながら、と
なんともずいぶんと忙しい感情表現をしながら、食料をあっという間にたいらげてしまった。
一体今までどのような生活をしてきたのかと気になったが、私はその好奇心を押し殺した。


彼女は自らを、「セルラ」と名乗った。
名前以外はあまりよく覚えていないようで、どういう経緯で倒れていたのかさえ覚えていなかった。
然るべき施設に預けようかとも思ったが、それを彼女に告げると頑なに否定された。
幸い、ラボには部屋が空いていたため、ラボで彼女を預かる事となった。
彼女は、その小さな体のどこに入るのかわからないくらい食べる、また食費が嵩むぞ。


彼女が此処で過ごすようになってから数ヶ月。
彼女はすっかりラボの一員となっていた。
他の研究員の行動を観察したり、せがまれてしょうがなく買ったぬいぐるみで遊んだりと、
最初こそあまり口を開いてくれなかったが、最近は普通に会話もするようになった。
この数ヶ月で、彼女は子供らしい無邪気さを手に入れた、のだと思う。
何の研究をしているのか、と聞かれた際に、咄嗟に答えられなかったのが何とも遣る瀬無いが。
ちなみに、彼女は私を「おじさん」と呼ぶ。私はそこまで老けているのだろうか・・・?


帝国から、新たなオートマトンのオーダーがあった。
普段見慣れない帝国兵の姿を、彼女は物陰からずっと覗いていた。
人見知りするので、物陰から出る事は結局なかったのだが。


外で遊んでいた彼女が、服を泥まみれにして、泣きべそかきながら帰って来てさあどうしたことか。
どうやら、私の研究を、通り掛かった少年達に「人殺しの研究」と言われ、それに激怒したらしい。
彼女はとても泣き虫で、些細な事でも泣いてしまう。しかし芯の通ったとても強い子だ。

悲しくて泣いたら、ずっと悲しいままだ、そんな時は、笑って悲しい気持ちも全て吹き飛ばしてしまえばいい。

私がそう言うと、彼女は半べそで私に満面の笑顔を見せた。
彼女の笑顔はとても眩しかった、私や研究員たちは、この笑顔に一体何度助けられただろうか。
それにしても・・・「人殺しの研究」か。
完全に否定できないその事実が、私の心を深く抉った。


彼女がテレビを凝視している。
何を見ていたのかはわからない。
何を見ているのか聞いても、内緒としか言わない。


「わたしね!おおきくなったら!メイドさんになる!!」
彼女は突如こんな事を言い出した。おそらく、あの時凝視していたテレビの影響だろう。
なんでも、
メイドさんになって、おじさんのおてつだいするの!!」
だそうだ。
涙腺の決壊を止められなかった私は、彼女を強く抱きしめた。
圧迫されて苦しそうな彼女が、悶えながらも「ないたらずっとかなしいままだ」と私を慰める。
嬉しい時は、泣いてもいいのだ。


彼女がこのラボに来てから数年。
彼女は、私に時折反発するようになった。
自分の少年としての心はとうの昔に忘れたし、ましてや年頃の少女の気持ちなんてなおもわからない。
まあ、年頃の少女とは、こういうものなのだろう。


彼女とまたケンカした。
彼女が此処に来て間もない頃に買い、ずっと大切にしてきたぬいぐるみを壊してしまったのだ。
新しいものを買ってやると言っても、あれがよかったの一点張りである。
しまいには、ラボを飛び出してしまった。
腹が減れば、帰ってくるだろう。


彼女が一向に帰ってくる気配がない。
流石に心配になった私は、慌ててラボを飛び出す。
彼女は外に出ても、普段ならば必ずラボの周辺にいる。
しかし、どこにもいない。
子供の足と言っても、もう随分と時間が経っている。
私はあまり考えたくない結末を頭に巡らせながら、血眼になって彼女を探した。
探して、

探して、

探しに探して・・・

聞き覚えのある泣き声が聞こえて、駆け寄ると。

壊れたぬいぐるみを抱えて立ち尽くす彼女がいた。


彼女はすっかり泣き疲れたようで、私の背の中で眠ってしまった。
結局ぬいぐるみはどうすればいいのかと悩みながら帰路に着いていると、彼女の口から、ぽそりと小さく言葉が発せられる。
「おじさん大好き」
寝言とは分かっているのだが、なんとも耳元でそんな言葉が聞こえるとむず痒い。あと「おじさん」という呼び名にはいつまで経っても慣れない。
義理の父親という立場に立っている人間は、皆こんな感じなのだろうか。


彼女がまた泣きながら私に飛び込んできた。
それも指から所々小さい出血がある。
一体何事かと思って聞いてみると、どうやら熊のぬいぐるみを直そうとして裁縫に挑戦したらしい。
普段も「人形作り」ばかりしている事だし・・・
裁縫、始めてみようか?


難しい。
いや本当に難しい、私が普段やっている「人形作り」とはワケが違いすぎる。
そもそも私は然程器用ではない。
まさか針に糸を通すだけで30分かかるとは思わなかったし、指だってこの前の彼女と同じ状態だ。
負けられない戦いが、そこにある。


指はまだ痛む、というか真新しい出血さえ生まれてしまった。
だが、マシな裁縫は出来るようになった。
彼女の熊のぬいぐるみは壊れる前と差が無い程に直ったと、彼女が言ってくれた。
にしても、人間、なせば成るものだな。
相変わらず針に糸を通すのは30分かかるが。


彼女はよく人形とお喋りをして遊んでいる。
男の私からすれば、何が楽しいのかよくわからない。
増してや大人になった今では尚更だ。
ああ、しかし、フィギュア同士を戦わせるのは私もよくやった。友人とそれをやると決着が1時間経ってもつかないのだ。


彼女が、試作のオートマトンに話しかけている。
彼等は素体こそ人間のものだが、その肉体の支配構造を殆ど機械に置き換えられ、最終的には元々の意識などは消滅する。言葉なども発する事はできない。
出来るだけ人間に近づけようとすると彼等は自我を保てなくなるのだ、故に機械による信号に置き換える。
しばらくオートマトンを見つめたあと、彼女は私にむかって、なんだか気難しい表情で歩み寄り、こう告げた。
「あのお人形さん、家族に会いたいんだって」
私は飲んでいたコーヒーをとにかく勢い良く噴き出して戦慄した。


子供の言う事を信じるものではないのかもしれない、あれもただのごっこ遊びかもしれない。
しかし彼女の険しい表情を思い出し、私は無意識にあのオートマトンの素体の出所を探っていた。
素体の出所と、素体自身の情報を元に、私はこのオートマトンの家族の下へと出かける事にした。
オートマトンを日中堂々と歩かせるのはアレなので、ちょっと変装というか、カモフラージュさせる。
彼女がオートマトンに花を植えつけ、「どうよ」と言い放つが、しばらくオートマトンを見つめたあと、申し訳なさそうに花をぶっこ抜いた。
この前もそうだが、少々疑問に思っている事があるのだが、まさかなぁ・・・?


素体と(彼女も同行)共に、素体の御家族の下へと向かった。
玄関を出た奥さんであろう方に、素体を確認してもらう。
まあ結論から言って、確かにその素体の御家族だった。旦那さんだそうだ。
奥さんは泣きながら、素体を抱き締める。だがそのオートマトンに、旦那さんとしての意識は無い。
と、思っていたのだが。


オートマトンは、静かに奥さんを抱き返す。そんなバカな。その素体は既にオートマトンであり、旦那さんでは無いハズなのだ。
しかし、オートマトンが一芝居打って出る程の思考を持ち合わせているとは思えない。理論上、絶対にあり得ない!!
私が苦悩する最中、彼女は奥さんに向かって、口を開いた。
「私も、会えて嬉しいよ、もう、二度と、会えないと思って、いたからね・・・・だって」
その言葉が奥さんに伝わった瞬間に、オートマトンは静かに機能を停止してしまった。
旦那さんをこのような姿にした私は、一体何を言われるのかと思ったが、私が予想していたものとは全く正反対の言葉が飛んできたのだ。
「ありがとうございます」
・・・・・、オートマトンを作り続けて、まさかオートマトン絡みでお礼をされるとは思わなかった。
だが、おかげで分かった事もある。
たった今この時をもって今までのオートマトン理論が大きく覆され、そして私が抱いていたとある疑問も、確信へと変わった。
彼女は「人形と話す能力」を持っている。
今日の私は、興奮と驚愕で、さぞすごい顔をしていた事だろう。


幾つかのオートマトンを製造するも、彼女は彼等の声を聞き取れないらしい。
素体の意識のままオートマトンとなったあの試作体。それと似た性質のオートマトンを造ろうとするものの、どうにもうまくいかない。
オートマトンの権威とは言われても、やはりオートマトンは未知数だ。


私はあの試作体の件を機に、オートマトン製作により没頭するようになった。
基となった人と、同じ意識を持つオートマトン、それは即ち、死者を蘇らせる事と同義だ。
世の理に反する事になるであろう研究、公表するつもりは無いが、禁忌に触れたくなるという好奇心が私の研究意欲をとにかく掻き立てる。
それに、新たな理論書(レポート)も纏めなければならない。


日夜オートマトンを作り続ける日々。
だが、不思議と苦ではなかった、相も変わらず彼女はオートマトンの声が聞こえず、進展こそ無いが、私はこの研究に、今までに無い高揚感を覚えた。
進展が無くても、造ったオートマトンは帝国に売りさばけばいい。






進展は無い。






今日も進展は無い。





次も。





また次も。






そのまた次も。






気がつけば時は進み。






さらに進んだ。






だが私は研究の手を緩めない、すばらしい、此処まで意欲的に打ち込めた研究が、果たしてあったのだろうか?
否、無い、なんせこれは『神に成らんとする』あわよくば『神さえ超えようとする』研究なのだ。
人知を超え、世の理をちゃぶ台のごとくひっくり返す研究。
私はすっかり、研究を行うだけのマシーンのようになってしまった。
相変わらず進展は無いが、この研究をしているだけで、私は――

「おじさん」

「セルラか、さあ、今日も彼等の声を聞いてくれ」
「・・・・・」
「どうしたんだセルラ、さあ――」
「おじさん、変わっちゃったね」
「!!?・・・・・な、何を言っているんだ」
「変わっちゃった、って言ったの、今のおじさん、ただの機械みたいだよ」
「機械、か、まあ一応、自覚はしているよ、だが、この研究意欲が、留まる事を知らないんだ!!凄いよこれは!!場合によっては神にさえなれてしまうのだから!!」
「機械が」
「・・・?」
「機械が神に成れるとでも思ってるの?」
「なん・・・だと・・・?」
「機械みたいに研究ばっかして、機械みたいだという自覚もあるなら、貴方は神になんかなれっこ無い」
「・・・・・」
「貴方は、そこにいるオートマトンと同じ!!彼等は貴方の玩具でしかないし!!貴方はさしずめ!!神に造られた玩具でしかない!!!」
「セルラ・・・・ッ!!!」
「声・・・聞こえないって言ってたよね・・・」
「? ああ・・・」
「最初は研究のお手伝いが出来るって思って、私は張り切って彼等の声に耳を傾けた、けど、それはおじさんの研究を踏みにじると思って、おじさんのお手伝いが出来なくなると思って、あえて聞こえないと言っただけ、今思えば、それも間違いだった」
「つまり・・・それは聞こえていたのか!!?だったら今からでもいい!!彼等は何と言っていた!!!」
「知りたい?」
「ああ!!」
「じゃあ、教えてあげる」


「痛い」
「!?」

「怖い」

「やめてくれ」

「嫌だ」

「死にたくない」

「そうね、とにかく叫んでる子もいたし」

「ほんとはまだ数え切れない程にあるんだけど」



「私はお前の玩具ではないとか」

「あ・・・・・」

「殺したい、殺したいって連呼する子とか」

「うあ、あああ・・・・・・」




「小娘、そこのバカにこう伝えろ
     貴様は研究者でも、神でもない――

           ただの、悪魔だ。って」

「やめろ!!!」
「ッ!!」
「それ以上は・・・やめてくれ・・・」
「何よ・・・言えって言ったのは!!貴方じゃない!!!あの時彼等にも意思があると知ってから!!貴方は彼等の気持ち考えた事あった!!?」
 「まるで用済みみたいに運ばれてくる死体弄繰り回して!!生み出したオートマトンは全部!帝国に売り飛ばして!!!」
  「おかげで帝国は驚異的なまでに軍事力を手に入れたわ!!それで死ぬ人だってたくさん増えたそうよ!!ええ!!この街以外はね!!!!」
「やめてくれ・・・!!たのむ・・・!!」
「研究意欲ですって!!?笑わせないで!!貴方がやってきた事は、研究じゃない、ただの殺戮・・・」
 「貴方が目指してきたものの名を使うとするなら、『神への冒涜』って所かしらね・・・!!」
「・・・・・」
「もう、このラボに助手は一人もいない、今の貴方を見かねて、みんなどこかに行っちゃった、それさえも貴方は気がつかなかったの」
「だったら・・・」
「何」
「お前も何処かに行ってしまえばいいだろう・・・?」
「なっ!?」
「私が憎いか!?聞きもしたくない罵声の数々を浴びさせられて、お前も研究材料の一環とされ!!お前を散々私の夢物語につき合わせてきた!!」
 「お前は私が憎いはずだ!!人の、オートマトンの命を弄び!!散々とコケにしてきた私が!!」
「お、おじ・・」
「だったら!!さっさと私のラボからいなくなれ!!!!此処は!!私の!オートマトンの権威!!Dr.グランギニョルの!!夢の居城だ!!いいや!そんなヌルいものではないか!!そう、魔王の根城だ!!!私の領域に勝手に入ってくるな!!!」
「!! ッッッだったら!!!此処で本当の意味で一人になれ!!!!あんたなんか嫌いだ!!そこで誰からも認知されないままッ!!人間性もろとも!!ゴミみたいに腐っていけ!!!」













行ってしまった。
私は今まで何をしてきたのだろうか。
さっきまであった研究意欲は?
さっきまであった高揚感は?
今あるのは、虚無感だ。
今あるのは、おそらく今も私に憎悪の念を発しているのであろうオートマトンだけだ。
驚いたな、私のラボは、こんなに広かったのか。
普段は何人もの助手が研究に勤しんで右往左往している。
そうだな、助手達の荷物とか、泊り込みのための日用品とか、たしか家具の類もあったか?
助手と談笑しながら、コーヒーを飲んでて、難しい話をセルラが頭を抱えながら聞いてて。
研究に行き詰った時にはセルラの笑顔が全員を励ました。
・・・・・


ラボの一室、無機質な空間だったこの部屋も、今ではすっかり女の子の部屋だ。
私も良く知る、今では唯一その形を変えていない、ラボの一室に他ならなかった。
足元を見ると、彼女がずっと大事にしていた熊のぬいぐるみが転がっている。
私が修復した形跡もしっかり残っている。いかにも不器用な奴が縫いましたって感じの糸の縫い目。何が壊れる前と変わらない、だ。
それに、私の覚えの無い縫い目もある。セルラも、裁縫ができるようになったのか。随分と私に負けず劣らずヘタクソだが。

「そういえば、前にも喧嘩して、お前は飛び出していったな・・・・・」
「今回は、私が追い出しちゃったんだけどな・・・」


私は無意識に、ラボの正面口に向かって走っていた。
セルラを探さなければならない、私の侵した過ちを、セルラが、私が作ってきたオートマトン達も含めて許してくれるとは思えない。
だが、私は、彼女が必要なのだ。仲間が必要なのだ。
さっきあんな事を言っておいてなんだが、私の我侭を聞いて欲しい。

「私を!一人にさせないでくれ!!!」


正面口を突っ切り、外に出ると、目の前にいた何かに思いっきり衝突してしまった。
それは、あの時の試作体である旦那さんとの再会を果たした奥さんだった。

「す、すみません!あ、あの、あの時はありがとうございました」
「ぶつかっておいて申し訳ないのだが先を急いでいる!!話は後にしてくれないか!!」
「ああああのちょっと!?」
「何!?」
「いえ、先ほど貴方のお子さんを見かけたので、一応伝えておこうかなって・・・」
「!! どこに!?」
「私の家のすぐ近くの通りですが・・・」
「ありがとう!!」
































さてと、どこから話せば良いのだろうな。
とりあえず結論から言おう、セルラはラボに帰ってきたよ。


































『私だ、覚えてくれているか』

『ああ、本当にすまないと思っているよ、セルラのおかげで、目が覚めた』

『セルラかい?ああ、彼女なら』

『死んだよ』

彼女は、ピクリとも、動いてくれないけどね。


車に弾かれて意識不明の重体。
後に医師達の口から、セルラがまもなく死亡したと告げられた。
そして、セルラの小さく、冷たくなった体を、私は引き取り、いまこのラボに帰ってきたというわけだ。

『その割には落ち着いている・・・か』

『まあ、そう聞こえるのも無理は無いよ』

『悲しみとか、悔しさとか、色々出て来過ぎて、自分でもよくわかんない事になってる』

『今自分が、どんな顔してるのかもわからない、鏡を見ようとしても、視界がぼやけてハッキリ見えないんだ』

『ああ、ごめんごめん、用件を話すのを忘れていたよ』

『私は神になるのはもうやめた、セルラに言われたからね、神になれないってさ、あんなに激昂したセルラは、初めてみたよ』

『でも、その代わりだ、あえて彼女の言葉を借りるなら』

『私は【神への冒涜】を、実行しようと思う』

『嫌なら別に構わない、これは私のエゴだ。それでも付き合うというのなら、是非、君の力を貸して欲しい』

『Dr.アリエ』


Dr.アリエは、私の一番の助手だ。
「あり得る」が口癖で、少しあわてんぼうだが。
腕と才能、それに知識だって私に劣らない。もしかすると私以上かもしれない。
分野は微妙に違うので張り合いようが無いのだが。


アリエも協力してくれる事となり、私達は、今まで入っていた帝国からのオートマトンの発注と製造を全て打ち止め。
究極のオートマトンの製造、セルラの蘇生を開始した。
できるだけ、人としての形を残したまま、彼女をオートマトンとして蘇らせる。
セルラに生きていて欲しい、私を一人にしないで欲しいという我侭を通すには、この方法しかない。
もちろん、心境としては複雑だ。仮に成功し、セルラがオートマトンになったとしよう。
その瞬間から、必然的に、彼女は兵器となる。私が製造してきたのは、軍用オートマトンなのだ。
装備を外したオートマトンを、今更製造するのは不可能。
兵装も含めて彼等はオートマトン故、欠けると、機能しなくなってしまう。
神になろうとする暇があるのなら、私は非戦闘型のオートマトン開発にでも着手しておけばよかったと今更後悔した。本当に今更すぎる。


製造は困難を極める。当然といえば当然だ。
私が人間性を失うほどに没頭しても、進展は一切しなかったのだから。
さらに今回は試作体とはワケが違う。
彼は様々な機械兵装があったが、今回は人としての姿をできるだけ完全に保つ。というこれまた私の我侭が条件にあるのだ。


帝国からの遣いが時折やってくる、その度に追い返しているのだが、あまり空白をあけるワケにはいかない。
だが、製造もまるで進まないのがもどかしくて堪らない。やはり神の理に背いてまで、人を生き返らせるのは不能なのか?
セルラ・・・彼女の名であるその単語には、「細胞状の〜」といった意味があると、とある資料に記載されていた。
細胞状の・・・か・・・・。アリエには休息をとるように言っているが、私は全然眠っていない。瞼が重いのを堪え、打開策を探す。


進展があった。
そう、セルラという名の持つ「細胞状」という意、ありとあらゆる兵装を、彼女の細胞に収束する事で、細胞を変質させて質量にさえ囚われない自由な無機物変形を可能にするといったものだ。
やはり、彼女を兵器にする事は避けられなかったが、長きに渡ってまるで進行の無かった【神への冒涜】に、一歩近づいたのだ。
一歩、たった一歩進んだだけにすぎない。しかし私にはそれが希望の光に見えた。アリエも同じ考えだと思う。


不思議だった。
あの進展から、不思議と、事がうまく運んでいる。
何かのフラグなのではないかと思ったが、特に何も無く、確実にセルラは蘇生の方向へと足を運んでいた。
やがて、肉体の調整も終わり、セルラは人としての外見を保ったまま、オートマトンと成ったのだ。
都合上、左目の下部に金具を、左耳にも補助機器を取り付けざるを得なかったのだが。アリエは「カッコイイからいいんじゃないでしょうか」と言った。
お前好き勝手言うけど一応この子私の娘なんだぞ。


肉体は培養カプセルに投下され、生命維持装置によって、体は生きているのと同然の状態となった。成長だってする。
そう、この時点で、セルラは生き返っているのだ。端末による会話だって出来てしまう。だが、これで完全ではないのを忘れてはならない。
『>:おじさん?いる?』
「!?」
「博士!!セルラさんから・・・コンタクトがありました!!!」
『<:私がわかるか、セルラ』
『>:うん、わかるよ、私死んじゃったんだね』
『<:・・・ああ、本当にすまない、もっとお前の気持ちに、オートマトンの気持ちに、耳を傾けるべきだった』
『>:・・・・・』
『<:そして、なんだ、また怒るかもしれないが、お前を俺は生き返らせたよ、お前の言う、神への冒涜を、やってしまったんだよ、どうしてもお前を失いたくなくて。随分と、我侭な気がするがな』
『>:・・・もう一度、おじさんとお話できるのはとっても嬉しい、だけど、うんそうだね、まだ懲りてなかったの?』
『<:一応、目は覚めたつもりだがな・・・』
「今は眠そうですけどね」
「うるさいぞアリエ」
『<:そして、生き返らせる代価として、お前を兵器にせざるを得なかったのも、言っておかねばならない』
『>:・・・・・そっか』
『<:今のお前は、好きなように思い描いた兵器へ変形出来る。今はそこまで自由度は高くないハズだが、いずれはどんな大きさのモノにでもなれる』
『>:もう、そんな事はいいの』
『<:何?』
『>:私!今までお話できなかった分!おじさんとたーーーーーーーーーっくさん!お喋りしたいの!!』
 『>:だから、兵器だとかオートマトンとか、今は忘れて欲しい』



『>:おじさん?』
『<:あ、やっほーセルラさん、覚えてますか、助手のアリエです』
『>:覚えてますよ、あの「あり得る!」ばっかり言ってた人ですよね』
『<:中々ひどい覚えられ方してるなあ僕。一応最近はそこまで言ってないんですけど、まあいいや。あのですね、今博士は已む無き事情によって、会話続行不能なんです、なので、時間を置いてからでもよろしいですか?』
『>:嬉しい時は』
『<:泣いても良いのだ。流石セルラさんだ、僕より博士を見ているだけの事はあります。お察しの通りです』
『>:それほどでもないです、とりあえず、わかりました、私もなんだか疲れて来たので、また時間を空けてからお話します』
『<:うむ、ありがとう、そいじゃーお休み』

「・・・・・」
「博士」
「・・・・・」
「大丈夫です、今のセルラさんは視覚も聴覚もありませんよ」
「うわああああああぁぁぁぁあああぁぁあああああッ!!!」
「大声で泣く博士、初めて見ましたよ、写真とって他の助手達に送りつけてしまいましょうか」
「うおおおおぉぉおぉおおおおおぉぉぉぉおおおッ!!!!!」


あまりに事がうまく運んだ事でセルラは事実上の蘇生を果たした。
だが、今までがうまく運びすぎていただけなのだと。本来、この製造というのは、完全なる未知である事を改めて思い知らされた。
セルラが、≪バグる≫のだ。端末が突如ノイズを発し、セルラの発言が、化ける。

『>:おじしっしsじじじzっじじじじ失し強いしし塩shづいhふぃ尾jh語彙rhjg:オアhるg;hkrj瀬後:い;れkjphts所;いhsjrt:h』klkstrhb所l;背kthptじぇ青phjkrtshpk@rhj」ptrslhp@てkp」』
「くそッ!!またかッ!!」
『<セルラ!大丈夫か!!』
『>:>>::>>>>:言ったt代々言いだいいよっよよよおおyyyっよおおおよっよお+家ておいdしおsづいhfdkjd;dh』
『<セルラ!!セルラ!!』
「博士!!セルラさんが!!!」

そして、無尽蔵な機械の塊に、そうだな、シャレではない、まさに「機塊」と呼べるまでに歪な変形を行うセルラ。
見ていられなかった。
今のセルラは感覚など無いハズなのに、端末からは「痛い」とも捉えられる文字列。そして、まるで押し寄せる苦痛に耐えているような表情。
とても見ている事など出来なかった。

「どうすればいいんだ・・・」
「博士、レポートを読ませて頂きました」
「いや、しかしそのレポートは、古いぞ。オートマトンに意思が無いものだと思って纏めたものだからな」
「しかし、セルラさんの症状に関係のありそうな記述は、しっかりとありましたが」
「何!?」
人間性です」
「・・・・!!」
「<オートマトンは、人に近づければ近づける程、その膨大な人間性に耐えかねて、自我が暴走を始める>」
 「古い、とは言いましたが、この記述自体には、訂正の余地は無いですよね」
「ああ・・・・・」
「まさか神になることに没頭しすぎて自分の書いたレポートの内容さえ飛んでいましたか」
「冷静さを欠いていただけだ。つまり・・・」
「ええ、セルラさんから、ある程度の人間性をデータとして抜き出し、削除すれば・・・」
「ダメだ!!」
「・・・・・」
「言っただろう、セルラは出来る限り人間の状態でオートマトンにする、出来る限りなどといっても何かしらの人間性を失ったら、もし、それこそ致命的な人間性を失ったらどうするんだ・・・?」
「博士、夢物語だけで研究が出来るとお思いですか?」
「ッ・・・」
「ではこのままセルラさんが人ならざるモノとして、鉄の塊として死んでいってもいいと!?」
「それもダメだ!!」
「博士は我侭すぎるのです!!完璧な研究を行ったとしても100%の結果が出せるワケが無い!!娘さんを、出来るだけあの頃の状態に戻したいという気持ちは、分からなくも無いです、しかし!!彼女は生命維持装置が稼動したあの瞬間から日に日に成長している!!精神だって、既に大人に近い!!このまま彼女が子供としての無邪気さを崩し、大人としての人間性を培ってしまえば!!それこそ!!今以上に酷いものを!!貴方は見る事になるかもしれないのです!!」
「セルラももう、子供じゃない・・・そんな事は・・・わかっているつもりだ・・・」
「これじゃ、博士の方が子供っぽいですよ・・・それに人間性を削ぐ事で、セルラさんが正常化するかどうかも結局わからない、確実ではないのです、博士は言ったハズです・・・私達のやっている事は完全なる未知だと・・・、未知に融通が全て通るワケが無いのです」
「・・・・・」
「セルラさんの人間性をある程度削ぎ、正常化する事に賭けるか。このバグを正常化できず、機塊となるセルラさんを、黙って眺めるか。これは、貴方が選択してください。言っておきますが、他の打開策を探る程の時間は、私達にはありませんよ。帝国が、そろそろ黙っていないでしょうからね」
「クソッ・・・!!」


『>:ねえおじさん』
『<:なんだい、セルラ』
『>:今私は音も聞こえないし目も見えないけど、大丈夫なのかな』
『<:何も感じ取れないのは不安だろうね、大丈夫だ、生命維持装置を解除して、生命としてその存在を確立できたら、君は目も見える、音も聞こえるようになるよ。』
 『<:ただそうだね、一応、装置が稼動している間は今のセルラは人間と同様なんだ、だからセルラは普通に生きている人間のように成長している、そして、装置を外した瞬間からオートマトンとなり、成長は停止する。君は変形時以外は、唯一の人間と同等の肉体構造のオートマトンとなる。一応知っておいた方がいいかなって』
『>:私の、バグを取る方法は見つかったの?』
『<:・・・・・』
『>:おじさん?』
『<:ああ、見つかったよ』
『>:本当に!?』
『<:ああ、どうも自分は周囲を見るのがかなりヘタクソらしい、アリエ君が、私の過去のレポートから方法を導いてくれたよ、自分の書いたレポートの内容さえ既に頭から無いとは、恥ずかしい限りだよ』
『>:そっか、すごいね、アリエさん』
『<:ああ、彼は私の一番の助手だからね』
『>:ちょっと変わってますけどね』
『<:ああ、違いない』
 『<:とりあえずだが、明日にでも、その方法を試してみようと思う、セルラさえ良ければ、だが』
『>:私は大丈夫だよ』
『<:そうか、ありがとう、それじゃあ、今日はゆっくり休むといい』
『>:おじさんもね、見えないから分からないけど、どうせ寝てないんでしょ?』
『<:鋭いな・・・』
『>:伊達にアリエさんよりおじさんを見てないので』


正常化のために人間性を抜く、となると、相当膨大な量を抜く必要があるハズ。生半可な量では意味が無い。
だが、抜くとなれば、抜くほどにセルラは人間ではなくなる。
しかし、このバグさえ消滅すれば、後は生命維持装置の稼動を解き、セルラを完全に蘇らせるだけで良い。段階としては、そこまで既に差し掛かっている。
どうすれば、よいのだ・・・『未知に融通が全て通るワケが無い』。彼の言葉を思い出す。


「博士・・・決心は、つきましたか」
「ああ。思えば、私のやっている事は、我侭を通り越して傲慢だったのかもしれない」
「では・・・!」
「彼女の『記憶』を削除する」
「記憶ですか!?しかし、そんな事をしては・・・彼女から貴方は消滅します!!」
「・・・・・、記憶を消失させる事で、培ってきた人間性を、すべて彼女の中から放り出すのさ、私達との記憶も、全てまとめてね。一時的に、ではあるが0にする事ということだから、確実性は格段と上昇するはずさ」
「博士・・・」
「彼女の精神を人間に留める事が可能で、かつ人間性を抜き取れるのなら、コレがもっとも最善策だと考えた」
「しかし、それでは、彼女は・・・セルラさんはどうなるのですか・・・父親である貴方はどうするのですか」
「翌々考えてみれば、セルラを突き放し、その結果セルラは死んだ、殺したのは私も同然なのだ、今更父親面ができるか?できると思うのか?」
「ですが・・・」

「私は最低な研究者さ、娘同然に育ててきたこの子を・・・私の親としての自覚が足りずに死なせてしまったこの子を・・・!!」
 「今度は私のエゴで!!兵器として蘇らせようとしているのだぞ!!!娘を殺した挙句に!娘を!人を殺す機械にする親が!果して存在したか!!?」

「それ以上は言わないで下さい、博士。それを言ったら、元も子も無い、今までの研究さえも根本から否定することになる」
「・・・・・私は、研究に没頭するあまり、セルラを束縛していたんだよ、オートマトン達の声を聞かせて、ろくに構いもしないでね、だから、もう、彼女を自由にしてあげたいんだ。それで許してもらおうとは思わないけど、彼女を私に縛られる事の無い存在にしたいって、そう決めたんだ」
「・・・セルラさんは・・・・」
「ん?」
「逃げようと思えば、貴方の元からいつでも逃げる事ができたハズです」
「・・・・・」
「しかし、彼女は、最後まで貴方の元を離れなかった、これがどういうことか?理解できますか?」
「・・・・・・・・・それは・・・」


その時だった、正面口が蹴破られ、大勢の人影が、ラボの中に押し寄せてくる。
その人影は紛れも無く、私の製造したオートマトン。容赦なく銃弾を乱射して来た。
時間切れだった、オートマトンを従えるのは、帝国以外にはいない。
帝国が、シビレを切らして襲撃を開始したのだ。
私達は咄嗟にセルラの開発室へと逃げ込む。この部屋のセキュリティレベルはかなり高度なので、しばらくは大丈夫、のはずだ。


『>:どうしたの、おじさん』
『<:帝国が攻めて来た、セルラ、今から早急に君のバグを取り除く作業を開始する』
『>:逃げないと・・・』
『<:ダメだ、それは出来ない』
『>:でももしもの事があったら、おじさんも!アリエさんも!殺されちゃうよ!!』
『<:・・・・・セルラ、今から君の記憶を抹消する』
『>:え・・・?』
『<:言語能力などの重要なものを除く、膨大な記憶を全消去する。0になる事で、一時的に、人ではない状態にする』
『>:それじゃあ・・・嫌だ!!私嫌だ!!!おじさんも!ラボのみんなも!!忘れちゃうって事だよね!!?そんなの絶対嫌だよ!!!』
「セルラさん・・・」
『<system:素体の精神構造を、データ化します...』
『>:おじさん!!!』
『<:・・・私だって、本当はこんな事はしたくなかったさ』
『>:おじさん?』
『<:ただ、私は、私の知るセルラが戻ってきてくれればよかった』
 『<:しかし、それは不可能だったよ、人形ではない、人を作るというのは、あまりに未知数すぎた』
  『<:冒涜された神が、私に天罰を下したのだろうな、なんとも最後まで愚かな科学者だったよ』
『>:最後・・・?おじさん?』
「博士、何を言って・・・」
「アリエ」
「は、はい・・・」
「済まなかったね、君を巻き込んでしまって」
「違います、私が巻き込まれに来たんです」
「ふっ、相変わらず変わっているよ君は」
「良く言われます」
「此処にはに緊急脱出装置がある、特に必要は無いと思って暇つぶしに造ったものだが、まさかここで役に立つとは思わなかった」
「私だけで脱出しろと申しますか?」
「それ以外の何に聞こえたのかな」
「そんなあり得ないこと、私がするとお思いですか?一度は貴方を見かねて出て行った私ですが、今の研究者としての魂を持つ貴方を、私が見捨てるワケがありません」
「まあ、言っても聞かないだろうなとは思っていたさ」
『<:そうだセルラ』
『>:何?』
『<:ついこの間な、お前の服が完成したんだよ』
『>:服?』
『<:なんというかだな・・・小さい頃、お前がなりたいって言っていた・・・』
『>:メイド服!?作ったの!?』
『<:ああ、裁縫スキルが自分でも分かるくらい、随分と上達してな・・・気がついたら服が作れる程になっていたよ』
『>:おじさんすごい!!着てみたい!!!』
『<:なんだか、娘の服を作るってのは・・・どうもアレだな・・・しかも普段着とかじゃないし・・・』
『>:私は嬉しいよ』
『<:そうか、そういってもらえると嬉しいよ』
『>:ああでも!着るためには記憶消さないといけないんだよね?迷うなあ』
『<:なんだか随分と軽いね』
『>:私はおじさんの研究のお手伝いがしたいの、おじさんを困らせているようじゃ、いけないと思っただけ』
『<:・・・・・セルラ?』
『>:何、おじさん』
『<:もう一つ、お前に教えておかねばならない事があったよ』
『>:?』
『<:泣きたかったら思いっきり泣いたらいいんだよ、時には無理して笑う必要も無いんだ』
『>:・・・・・今の私は、泣きたくても泣けないよ』
『<:そういうものなのか』
『>:そーいうものなんです』
『<:・・・・・』
『>:やっぱり・・・嫌だよぅ・・・私、おじさんを忘れたくないよぉ・・・』
『<:ああ、私も悲しいさ、本当はセルラに、私を忘れて欲しくなんか無い・・・だけど・・・』
『>:あ』
『<:セルラ・・・?』
『>:ああああ。ああ。あ。。。。あ。あ。ああ。あ。あ』
『<:セルラ!?』
「くそっ!こんな時にッ・・・!!やはり実行するしかないのか・・・!?」
「しかし、博士・・・」
『>:ああああぁあhsjlkfdsajkshaikaahdkjsahdaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa??>>KK+K』
「・・・・・止むを得ない!!!!!私は!セルラを助けたい!!」


セルラが暴走し、私は電子暗号化された彼女の記憶を消去するシークエンスを作動させた。
彼女の記憶は、ゆっくりと剥がれ落ちて行く、ゆっくりである事が私には救いだった。

しかし

「何故正常化しない・・・?」

彼女の暴走が、沈静しない。記憶は消失を始めているはずなのだ、少しずつでも、安定していかないとおかしい。
それどころか、彼女は今までにない程に悶え、一際巨大な機塊へと変貌を遂げている。

「記憶だけじゃ足りないというのか!!?」
「博士、どうしますか!!?」
「何か、何か無いか・・・?」
『>::::−−c−−−−えl−−−−−r−−あ−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−』

更に何かを抜けば良い、良いのだが・・・それでセルラに何かあった場合は・・・

「どうすれば良いのだ!!!どうすれば!!!」

私はおもわずヤケになって端末を叩く、気がついた時にはもう遅かった。
結果として、セルラは、正常化した。端末を叩いた際、何かの削除シークエンスを作動させたようだ。
一体何を削除したのか分からないが、何かを失った事で、セルラのバグは消滅した。
おそるおそる、私はセルラに話しかける。これで思考や会話に問題が現れた場合はどうしようかと、私の中で不安が過ぎった。



『>:バグ、取れたんだね』
『<:ああ』
『>:私、もうすぐ全部忘れちゃうんだね』
『<:ああ、生命維持装置も解除した、しばらくすると君は眠りにつき、うまくいけば、装置無しでも生命維持が可能となる。その瞬間から君はオートマトンで、成長も停止する』
『>:そっか』
『<:すまない』
『>:なんで?』
『<:本当にすまない』
『>:どうして?貴方はどうして謝っているの?』
『<:今の私には謝る事しかできない』
『>:・・・・・、いいよ、なっちゃったものは仕方ないし、そっちの方が諦めだってつくもん』
『<:・・・・・』
『>:だからさ!私が眠くなるまで!記憶が続く限り!!今まで出来なかった分!!もっとおしゃべりしたい!!おじさんとお話したい!!』
『<:・・・セルラは、強い子だな・・・』
『>:それほどでも?』


私とセルラは、これでもかという程に語りつくした。
会話する分に、何が失われたのかは結局分から無いが、確実に彼女から、私達の存在が消えていっている事は分かった。
途中から、徐々に、口調さえ変わってしまったのだから。
厳重な扉からは何かで叩く音が聞こえ、アリエは部屋の隅で何かを書きとめていた。彼なりに空気を読んでくれたのだろう。


『>:・・・・・なんだか、眠くなって来ました』
『<:装置による生命維持の効果が解け始めているのだろうな』
『>:もう、お別れなんですね』
『<:ああ、そのようだな』
『>:博士、とても楽しかったです、此処まで会話をした事は、過去にありますか?』
『<:こんなにぶっ通しで喋る事は、全く無かったかな、なんせ間に研究を挟んでいたから』
『>:子との時間は、ちゃんと作らないといけませんよ』
『<:ははっ、違いないな、精進するよ』
『>:活動限界が近いです、鈍重に圧し掛かる眠気に抗えません』
『<:抗う必要は無い、ゆっくりお休み』
『>:最後に一つ、よろしいですか?』
『<:なんだい』

「大好きだよ、おとうさん」


私は突如耳に入ってきた声に驚愕し、セルラが培養されているカプセルへと目をやった。
無表情で少し引きつった、笑顔を作ろうとして失敗している顔で私を見下ろすセルラがいた。
私達は顔を見合わせ、少ししてセルラは静かに瞼を閉じた。
同時に、私があの時に何を奪ったのかも悟った。
「博士・・・今の声は?」
「セルラの声だ・・・可能なのか?こんな事が」
「・・・理論上は、不可能なハズです・・・」
「・・・・・おとうさん、か・・・・・」
「嬉しそうですね、博士」
「ふふっ、初めて呼んでもらえたんだぞ、当然だろう」
「・・・・・」
「・・・・・さて、アリエ、君も早く脱出するんだ。いつ帝国がセキュリティを破ってくるか分からない、流石に、余裕を扱きすぎてしまった」
「お断りします、私だけのこのこと逃げるなどあり得ません」
「そういうと思ってだな」
「何です?」
「脱出装置のボタンは私が持っている」
「はい」
「このボタンを押すとだな」

アリエの足元がにゅるっと開き、大きな空洞になる。

「随分古典的な脱出装置ですね」
「古臭い人間の考える事なんてこんなものさ、あと技術としては結構最新鋭なんだがね」

などといっている間に、アリエの姿は無い。空洞は滑り台状になっており、最終的にすごい勢いで外に放り出される、無駄ロマン。


結構高度なセキュリティ、を自負していたのだが、まさか力技で開けられるとは思っても見なかった。
力自慢の帝国騎士、ルドガー卿の仕業である。彼は一般兵だった頃から、帝国からの遣いとしてよくラボに来るため、面識がある。
彼は無数のオートマトンで私を包囲し、語りかけてきた。

「どういうことだグランギニョル博士、帝国からの発注を、全て打ち止めにして、一体どれ程の時間が経ったと思っている」
「お久しぶりですね、ルドガー卿、何、とあるオートマトンを製造してましてね」
「・・・・・これがそうか、何度か見たことある気がするが、これは貴殿の娘ではないのか」
「ええ、そうです」
「・・・・・お前達、銃を下ろせ。・・・・・話を聞かせていただこうか」







「なあ博士よ・・・此処まで聞いておいてなんだが・・・・、貴殿が天才なのは分かっているが、貴殿はバカか?」
「ああ、大バカ野郎だ、どうしようもないまでのな」
「頭の弱い私には、貴殿の話はあまり理解できぬが、私には、娘を蘇らせようとして、全く別物が出来上がっているようにしか見えぬぞ」
「ああ、そうかもしれないな」
「貴殿ともあろう者が!!一体何を考えているのだ!!!」
「もう何も考えちゃいないさ、今となってはな」
「娘に固執するあまりに廃人と化したか!!」
「何とでも言え」
「・・・・・取り乱した、無礼を許せ。とにかく用件を伝えさせてもらう」
 「実にシンプルなものだ、『Dr.グランギニョルの抹殺』。それだけだ、皇帝陛下は、貴殿の判断を、帝国への反逆と見られた」
「そうかい」
「覚悟は、出来ているのか」
「ああ、逃げも隠れもしないさ」
「そうか」
「ただ、頼みがある」
「何だ、言ってみろ」
「セルラが目覚めた時に私の事を悟られないように、私が彼女に与えた名を除くこのラボ全てにある私の名を抹消してくれ」
「何故そこまでする」
「彼女は自由になったから、もう、私に縛られる道理はないからさ」
「・・・・・承知した、他に言い残す事はあるか」
「用件は、それだけさ」



「セルラ・・・・・・・・ごめんな・・・・・本当に・・・・・・ごめんな・・・・・」































目を開けば見知らぬ世界。自身が誰なのかさえ、分からない。
無機質な回転音を上げる右腕を突き刺し、薄いガラスの膜を破壊する。
無造作に置かれた机の上には、無数の書類と洒落た服。それと随分古ぼけた熊のぬいぐるみも置いてある。


服は随分と私にぴったりだった。
書類には、私の事について書かれているようだが、所々に掻き消されたあとも見受けられる。
何が何やら、その内容を見た所で私にはさっぱりだったが、しっかりと私の名前は記載されていたようで良かった。
名前さえ分からないようでは困るのは目に見えている。
熊のぬいぐるみは、触らないでおいた、何の変哲も無いぬいぐるみだというのはわかるが、何故だか触れるのがとても恐ろしかったのだ。


『個体名:セルラ。セルラ=グランギニョル。私の、掛け替えの無い、最高の   にして、究極最悪のオートマトンだ』


私の名は


セルラ=グランギニョル








「・・・・・人はそれを」



「エゴイズムというのです」



END

Ps-3 Cp-1 ルコ=モノトーンの遭遇

Ps-3 Cp-1 ルコ=モノトーンの遭遇

どうも、ルコ=モノトーンです。開始早々、変なのに絡まれています。
今の世の中、良くある事です、平和な世界などというのはどこも表向きなだけなのです。

「それで、私はどうすれば良いのでしょう?」

私はその変なのに問いかける。

「何、簡単な話だよお譲ちゃん、お前の持ってる星をあるだけいただけたら痛い目は見ないで済む」

「ああ、違反者さんですか、じゃあ私と一緒ですね」

「は?」

「私、<丸コピが使える>んですよ、といっても、コピーするのはメモじゃないので、星は持ってないんですけどね」

「はっはっは、譲ちゃん、何いってんのかいまいちよくわからねえなぁ、いいからさっさと星出せって言ってんだろ!」

変なのは密かに隠し持っていた短刀で私に斬りかかり、私の右袖に若干深めの切り傷を残した。この手の違反者は短気なヤツしかいない。
幸い、私の上半身は思念体特有の<霊体>なので、痛みもダメージも大した事は無い。一応言っておくとノーダメではない。

「な!いきなり何をするんですか!」

我ながら驚くフリはうまくない。何度か経験しているせいで、不意打ちにはすっかり慣れてしまった。

「お前がいけないんだぜぇ?さっさと言うとおりにしないから・・・」

「でも・・・無いもの出せって言ったってどうしようも・・・」

「いいから星をよこせっていってんだろおおおがよおおおお!!?」

変なのは瞬時に私との距離を詰め、短刀が私の首筋を掠める。
その瞬間、パキーンだとかそんな感じの金属質の音が響き、男の短刀は根元から折れてしまった。
男の短刀、なんだか卑猥である。

「あれ―――」

変なのが動揺する素振りを見せるその時既に、私の両腕から伸び交差する二本の長剣が、奴の喉元を捕らえていた。
先ほどエース・ハイスピードより盗んだ【スラッシュリハイド】なる技である。

「な、何がおこって・・・?」

「良いこと教えてあげます」

「へ?」

「通報されて違反と判断されなかった作品は、例えどんなに通報者が納得がいかなくてもそれ以降違反にはなりません」

「・・・・・」

「私に同じ手段は通用しませんよ?そのままの意味でね?」

変なのは顔を真っ青にしてその場にへたり込み、まああまりにも情けない表情を晒しながら一目散に逃げていった。ざまあ!





突然だが、よく私の能力は最強だと耳にする。主に【∞−インフィニティ−】の事だろう。しかしそれは大きな間違い。
そもそも【∞−インフィニティ−】というのは、簡単に言えば一度受けた技に対して無敵になる能力である。まあたしかに強いっちゃ強いかもしれない。
だが、さっきは食らい所の問題でどうとでもなったが、一度食らうのは激烈に痛くてやってられない。食らったあとでも、食らわないと知りつつその恐怖が再起する。
戦闘において、確かにほぼ確実に優位に立てる能力だ、しかし自ら痛い思いをしてまで無敵になどなりたいと思うだろうか?


この能力を持つ私自身はそうは思わない。何故なら私はマゾナントカではないからだ。痛いものは痛い、自ら痛みを望んだりしない、痛みで快楽を覚えるのはどうかしている。
しかしそんな最強の(とか言われている)能力も創生の世界ではいくらでも雑魚になりえる。

私の能力を封殺するためだけに変な設定や存在を与えられた創生者達に、私は敗北感は微塵も感じず、逆に激烈な哀れみを覚える。

だってそうだろう、存在する理由が思念体を倒す、はたまた倒す対象が私に限られているパターンだってあるのだ。
それは創生者に限る話などではない、私を倒すために、創生の神々は幾らでも御託を並べる。奴等はあまりにもくだらない私を殺すだけの殺戮マシーンを量産している。

最強はひとつだ、最強は二つもいらない、最強の盾には最強の矛。故に皆頂にどうしても立ちたがる。俺より強い奴に会いに行ってぶっ殺さないと気が済まない。
私を最強と錯覚した神は、不要な人形を産み落とす。効かないとか、消失とか、無効とか相殺とか必殺とか削除とかのオンパレード。効かないとか無効は私もそうなのだが。
別に考えるのは良いと思う、だからといって長さも大きさも違うような人の物差しで他を計らないでほしい。

私が何をここまで自身に関する思いに耽っているのか。

それは





ヒマだからである。

エース・ハイスピード、彼の放つ斬撃を目視した私は【スラッシュリハイド】のラーニングに成功し、我が物とした。


そして、その実験台だとでも言うかのように現れた変なのを見事撃退。


だ か ら ど う し た の だ 。



イハンを探せ?


イハンに応戦できる?





イ ハ ン い な い じ ゃ な い か 。



あいつはうごメモ最速(といっても過言ではないの)だ、同じ思念体なのに人並みの足しか持たない私にはイハン=メモラーに追いつけない。
奴がどうしても見つからなかったり、逃げられまくったりした時はこうしてゴロゴロして気分を晴らす。


ありのままにこれまで起こった事を話せばイハンを探すかゴロゴロすると一日が終わっている。


それが毎日続いて一年が終わっている。

何を言ってるのかわからねーと思うがいやあまりにわかりやすすぎる。

皆誰しも、各々のコミュニティがあり、友達がいる。
同じ違反の思念体であるあのイハン=メモラーでさえ、友達がいるのだ。むしろベストパートナーがいるのだ。カレーとナンなのだ。
私には友達がいない、僕は友達が少ない、などというどころか私は友達が全くいない!!具無しカレー独り立ち!!ライスも無いぞ!!

私が持つコミュニティは大体私を殺してくるような奴らばっかりだ!!
思念体は死ぬ事は無い、致死を受けると消滅し、その性質が世界に充満してさえいれば多少記憶が飛んでまた復活する。
だから冒頭のような思考に走ってしまう。無限ループって怖くね?

せめてイハンに匹敵するスピードを持つ者を【スティール】する事さえできれば、イハンに追いつく事だって造作もない。
【スティール】というのは、触れた相手の能力をコピーする事ができる能力だ。ある程度のその人物の外見的特徴を入手する事もできるので、場合によっては空が飛べるようになるなどのオマケも付属される。
それ故なのだ、時既に今更だが、スラッシュリハイドをラーニングするくらいだったらついでにエース自身を【スティール】すべきだったと後悔した。
なんせ彼は速いから、スティールすれば彼の速さも手に入る。


ひとまず、物思いに耽るのもそろそろ飽きて来たので再度イハン捜索の方へと行動をシフトする事にした。
私もイハンやら他の思念体みたく趣味のひとつやふたつくらい持った方が良いのだろうか。つくづくそう思うのだが何をすればいいのやらわからないから困ったものだ。







うごメモ町。
またこの地にやって来た、どれほどにイハンの速度が速くてもイハンは大規模な事件でも起こさない限り遠方まで飛んでゆく事はない(と思う)。
つまりこの近辺をテキトーに捜索するだけでわりとイハンと遭遇できるのだ、実際今までもそうだった。そして成す術がなかった。
ただし図書館に直接赴いてはならない、<よもや異質とも言えるレベルにでかくて頭のよろしくない魔道書>が存在するからである。
あのよもや異質とも言えるレベルにでかくて頭のよろしくない魔道書の持つ固有技、<リリードレイン>。
直訳して百合吸収の意の通り、女の子に対してキスをする事で、魔力だのなんだの、とにかく<その者のありとあらゆるエネルギー系の物質をカラッカラになるまで吸収される。>

もちろん抵抗はした。ああしたとも。

もちろんよもや異質とも言えるレベルにでかくて頭のよろしくない魔道書の見た目通りの腕っ節の強さに成す術が無かった。

もちろんモロに喰らった。

もちろん吸い尽くされて体はまともに動かなかった。

もちろんラーニングだって発動した。

もちろん使うわけがなかった。いや意地でも使いたくなかった。


そんなワケで図書館には赴けないのだ、赴いたら死ぬ(ほどエラい目にあう)。
まあ最近わかったのだが、私の気配を察知するとイハンは図書館には絶対に居座らない。
リリードレインをぶちかまされた後によもや異質とも言えるレベルにでかくて頭のよろしくない魔道書が教えてくれたのだ。
「イハンならなにかをさとったようにとびだしていった」と。
何故リリドレぶちかました後にそれを提示したのか理解に苦しむが、これで図書館に行く必要はなくなった。二度と行くものか。
私は早速イハンを捜索する準備にとりかかる、準備といっても実に簡単なものだ、ちょっとばかし性質を感じ取るだけ。
思念体には全員、性質を感じ取る力が備わっており、感じ取った際にそれが何の性質なのかもすぐ把握できる。
しかし精度は悪い、感じ取った所で、その思念体がどこにいるのかもわからない程。思念体捜索に使う際は、感じ取った性質の濃くなる所を探す他ない。
さらに今回の場合は相手が逃げてしまう。
同じ思念体なのだから、イハンもこの力が使えるのは当たり前、イハンが私の存在を察する前に見つけ出さなくてはならない。

「・・・・・んや?」

違反の性質は確かに感知した、イハンはまだそんなに遠くには行ってない。しかし、気になる点がひとつ。
そこら中から別の性質が感じ取れたのだ、この性質は、<無の性質>だろう。
ヒッドイ精度でも無数に感じ取れるくらいに鏤められた性質。まさに<充満している>と言った方が良いのか。
まだイハンが近くにいる。しかしこの異常とも言える性質の蔓延。

どちらをとるべきか迷った挙句に、私は<無>の性質を取った。



無の性質が色濃く出ている方向をほぼ手探りで辿って行く。
ここまで性質が立ち込めてるのに、町は穏やかな雰囲気で変化は見られない。

「性質が感じ取れるが故に怖い光景だなぁ・・・」

「むー」

「・・・・・あにゃ!?」

背後にさっきまでは存在しなかったモノがそこにはあった。
捜索に必死になりすぎて気がつかなかったが確かに無でも違反でもない別の性質がそこにはあった、一体いつからいたのかわからないが、思念体が私の後をつけていたのだ。
無数のドーナツを頬張りながら盛大にな!

「え、えーっと、いつからいたの?」

「むっむ」

「名前は?」

「むーむ」

「職業」

「むむむむ」

「性別」

「むんむ」

「好きな食べ物」

「むむっむむむむむ」

「<む>以外喋れますか?」

「むむ」

「フッ・・・」

わっからねえ。

ご覧のとおり、彼(彼女?)は「む」以外の言語を発する事ができないらしい、<欲>の思念であるのはわかるのだが、それ以外はさっぱりだった。
素性も知りようがない者の相手をこれ以上したって仕方がない、私は小さくため息をつき、再び捜索に戻る。

「性質が薄いなあ・・・これじゃ捜索が余計難航しちゃうよ・・・」

「もちもち」

「こっちは結構濃いかも、というか、違反の性質も消えてないし・・・今からイハンの捜索しても・・・いやいや、今は・・・」

「ぐっちゃぐっちゃ」

どうしてだ。

どうしてついてくるのだこの小動物。
しかもなんだ、さっきまで食べていた大量のドーナツが、今度はわらびもちにシフトしているではないか。そんなべっちょべちょするものをどこから出した。

「なんでついてくるんですかねぇ・・・」

「むむー」

やっぱり言ってる事は微塵もわからない。会話が止まれば、またこの小動物は食べる事に集中する。
なおさらついてくる意味もわからない。
しかしこうも私にかまってくると、私だって気になりだすものだ、それが性分だ。
私はイハンホイホイ(仮)として使うつもりだったホットケーキ(冷めてる)を彼(彼女)の眼前にぶら下げた。
するとどうだろう、この小動物的思念体はそのホットケーキに興味をしめしたのか、ぶらーぶらとゆれるホットケーキをまるで輝きの無い目で追っているではないか。
あいかわらずわらびもちを食べる手は一切止めないが、時折むっむっと声が漏れる。やばいどうしようかわいい。

「むっむっむ」

「食べたい?」

「むっむむ!」

相当渇望しているようだ、この小動物の着こなす布からよだれらしき物質がにじみ始めた。

「本当はイハンをおびき出すためのものですけど・・・食べても――」








腕ごと持ってかれたァァーーーーーーーーーーーーッ!!!
まだ言い切っていない!まだ食べてもいいとまでは言っていない!だがだめだ!この小動物はついに自らの抑制をぶち破り己の物欲を赴くがままに開放したのだ!盛大にな!
その結果がこれだ!ホットケーキにかぶりつくどころか、見事に私の右手までもがおいしくいただかれているのだ!私の腕は霊体だぞ!おいしくないぞ!きっとおいしくないぞ!
さらにそれだけで済む話ではなかった!何なのこの子顎ぱぅあ強い!さっきから盛大にジャイアントスイング決め込んでるのに外れる気配が無い!コレが欲に忠実になった者の底力だとでも言うのか!?そうなのか!?

「おまあああああああああ!?おまああああああああああああああああ!!?」

私は思わず興奮状態に陥る、突然自分の手もまるごとかまれたら誰だって焦るものだと思う。
小動物の口の中で、確かにホットケーキが瞬く間に蹂躙されていくのがわかる、わかるが故に余計に気色が悪い。
私の手の内に在ったその確固たるモノがどんどん消滅してゆく、そしてついにそのホットケーキであった存在が完全に消滅すると、小動物の口はさっきまでの強固な顎の力とはなんだったのかと思わせる程にするりと抜けた。
霊体故にべたべたするなどのなんというか精神的に嫌悪感を示すアレは無いが、さっきまで口の中に存在していたという事実が、私の気分を良くない方向性に導く。一言で言えば『なんかいやだ』。

「ふーっ・・・ふーっ・・・」

「むっ」

私の絶大な疲労とは裏腹に、小動物は、満足げだった。それはもう満足げだったのだ。
それを尻目に、落ち着きを取り戻した私は再び捜索を開始しようと試みる。
すると、歩もうとした私を止めるように、小動物は私の服の袖を引っ張るように掴む。
今度は何だ、と若干呆れ気味に反応を示すと、小動物は掴んでいた袖を離し、ふわふわと私の前に出て、前方を指差しながらゆっくりと前進していく。

「むっむむむー!」

相変わらず何を言っているのかはわからない、わからないのだが、なんとなく私に対して道案内のようなものをしている、そんな気がした。
果たしてその案内の先にあるものが私の求めるものなのかは定かではないが、私は私自身の予測が合っている事を信じ、その小動物の後をついていく事にした。
時折小動物は他の物に興味を持っていかれそうになり、進行速度はなかなかに遅い。それでも私は黙々とこの小動物についていく、すると、段々と人通りの無いエリアへと足を踏み入れて行っている事に気がつく。
裏通りか何かか、整備された様子も無く、光はあまり差し込まない。
果たしてこんな所に何があるのだと、一瞬疑問を抱いたが、性質を感じ取ってみると、確かに<無>の性質が少しずつではあるが強大になっていくような感じがした。
周囲は薄暗く、そして様々なものが散乱して非常に足場が悪い、足の無い思念体であるこの小動物は、足場の事など気に留める事無くただまっすぐに進んでいるのだが、足がある私は思念体であるのに空を飛ぶ事ができないのだ。
しかし、私はふと思いついた、

【スティール】である。
相手に触れる事で発動するこの能力は、既に先程この小動物に噛まれた事でその条件を突破している。
先程説明したが、【スティール】は能力だけでなく外見的な特徴も多少手に入れる(ほぼ服装が変わるだけだが)、それによって空を飛べたり、高速で動けたりといったオマケも手に入るのだ二度目。
この足場を歩くのはあまりに酷であるため、私は早速【スティール】を発動し、この小動物の能力と外見を手に入れようと試みた。
ティールの発動によって、私の外見は瞬く間に変化する。まるで魔法少女が変身するかのようにコミカルな調子で、頭にはシルクハットが装着され、マフラーにスーツネクタイと、なんだか小動物とはかけ離れた外見となってしまった。
足があるのもそのままだが、一応飛行能力は手に入ったので問題ない。
外見的特徴を得る、とは言ったものの、全部が全部習得元そのままといったワケでもない。それは案外人によって差異がある。
外見を変え終えた私は、先に行ってしまった小動物を追いかける、今度は薄暗いのに注意して壁にぶつかったりなどしないようにせねばならない・・・。
それにしてもこの姿はなんともお腹がすくような気がする。



小動物に連れられ、かなりの時間が経った。
薄暗く、何があるかもいまいち確認し辛い、私は小動物の姿を見失わないように慎重に後をついていった。
着実に前に進んでいる事はわかるのだが、果たして先に進んでいるのかさえもわからないような感覚、光の無い空間とは、ここまでも人を不安にさせるものなのか、私は人ではないのだが。
後ろを振り返っても、この通りの入り口から差し込んでいた光は見えない。もう相当な距離を進んだのだ、当然と言えば当然だ。
一方の小動物はというと、何もしゃべらず、ひたすら何かを目指すように突き進むだけで、一切こちらに反応を示さない。この暗さの中で、この小動物は前が見えているのだろうか。

「むっむむ!」

「ん?どうしたの?」

ぼんやりと見えるその視界の中で、小動物が突如口を開き、前方を指差した。マフラーで口は見えないのだが。
その言葉を聴いた境に、多少、周りの景色に色が灯っている事に気がつく、指差したその先を見ると、一筋の光が差し込んでおり、視界に写るものがかすかに明瞭となっていたのだ。
今までの暗闇から募った不安を、全て振り払うかのように、私はほぼ無意識でその光を目指した。後から小動物も続く。
そして、その通りを抜けた先にあったのは、小さな空間。使われなくなった住居や、廃棄物で囲われるように構成されたその空間は、同じうごメモ町とは思えない、なんとも不思議な空間を生み出していた。
そして、その空間の中央にそれはあった。強大な<無>の性質を生み出す<謎の柱状の物質>がそこに突き刺さっていたのだ。
柱には蒼白く輝くどこかしらの言語のものと思われる文字が彫りこまれている。

「これが・・・町中に充満していた性質の正体?」

「むむっむ」

「なんでこんなものがあるの?それに、貴方は何でこれを知っていたの?」

「むむー・・・」

「まあ、質問してもわかんないんだけどね」

私は柱に存在する文字に目を通す、丸と線で構成されたその文字の束、何が書かれてあるのかは・・・・

「あれ?」

このような文字は知らないし、今日初めて見たハズだ。しかし私はこの文字がなんとなーくよめるよーなそんな感じがしたのだ。

「んーと・・・わ・た・し・の・・・」

と、その時、私は私達以外の別の存在に気がついた。性質を感知できるという事は思念体で間違いない。
私は念の為に警戒したが、私達以外の別の<ソレ>は、特に身を隠す事もなく、普通に私達の前に現れる。

「ありゃりゃ、七(ズィーベン)、どうしてこんな所にいるのさ」

私達の前に姿を現したその思念体、頭に笠を被り、まるでカエルのような感じの顔つき、いうならば風来人といった感じのその思念体は、私の隣にいる小動物に声をかける。
どうやらこの小動物、名前を七(ズィーベン)と言うらしい。

「むっむむむっむ」

「いや、教えちゃダメだって言ったよね、七には特別に教えてあげたけどさ」

「む」

「お菓子くれたからなら仕方ないね、そうだね」

どうしてだ、どうして会話が出来ている、いや出来ているのか?カエルがテキトーな事言っているだけなのではないか。

「それで?キミはどうしてココに来たのかな」

「え、えーっと・・・異常なレベルの性質が感知できたから・・・かな?」

「・・・・・まあいいや、七なら教えちゃっても仕方ないし、それに漏れてる性質でそのうちバレかねない状況だったし」

その思念体はそのまま言葉を続ける。

「一応自己紹介とかしておくよ、僕の名前は<九十九街道宮橋>、この見た目から分かる通り、僕は思念体、性質は<夢>だよ、まあ君も思念体なら言わなくともわかるか、わかるよね」

「ええ・・・はい・・」

「それで、どうするのキミ」

「え?」

「性質漏れてたのは知ってるけどさ、それ感知して此処まで来て、どうするつもりだったの?」

「あ」

無の性質の異常感知がなんかヤバイなーと思って捜索した、様々な困難を乗り越え、小動物、もとい七の力も借りて私はついにその原因を突き止めたのだ。



だからどうしたというのだ。その先はまるで考えてなかった。やったーみつけたよー、の謎の勝利の余韻に浸りすぎていた。
どうするべきか、いや、せっかく原因を突き止める事ができたのだ、ここはやはり・・・

「性質を放散する原因を取り除きます!」

「人に影響とか無いのに?」

「私が気分的に嫌だからです!!」

「む!」

気がつけば七も隣で戦闘体制をとっている、何を考えているのかカエルが被っていた笠を口に詰め込みながら。
この子も気分で生きてるタチなのだろうか。

「はあ、まあそうなるよね、別に想定内だしいいや、対策くらいしてあるから」

そう言うと、カエルは懐から水晶体の物質を取り出し掲げる。何か仕掛けるつもりだろうと判断した私はそのカエルに向って距離を詰めるのだが・・・
奴の掲げた水晶体は眩い光を放ち、その光に怯んだ私は思わずその足を止めてしまう。その光は私と七、あとカエル自身を瞬く間に包み、私の視界は一瞬だけ真っ白な白無の世界に生まれ変わる。
そして、次に私がみた光景は、柱のあった小さい空間ではなく、どこかしらの平原の一角だった。すぐ傍には七もカエルもいる。

「あの柱を今勝手に弄ってもらうのはちょっと困るんでね、なんだっけこれ、えーっとああ、<転移結晶>だ、それの力で吹っ飛んでもらったよ、消耗品なのが残念だけどね」

「何故貴方も飛んだのですか?」

「いやだってこれ使って自分で飛んだ事無かったし、それにキミ此処で足止めとかしとかないとまたあの場所に来て柱にあんな事とかしちゃうでしょ?」

なんてテキトーな、それにできる事ならあの通りは二度と通りたくないのだが。暗いし怖いし。

「だから僕はキミの邪魔をします。ぶっちゃけヒマなだけなんだけどね、柱を移動し終わったらやる事なかったし」

ヒマ人しかいないのか。

「思念体探しをしているのに毎回違う性質が転がりこんでくるのは嫌です!気色悪いです!キモいです!柱は潰します!あそこ行きたくないけど!!」

「むむーーーーッ!!」

「七は何でそっち側なんだい」

「んむっ!」

「それならまあそうだね仕方ないね、でもやるからには容赦しないからね、6割くらい」

このカエル、七に対して仕方ないしか言ってないような気がする。本当に会話できているのか、ますます微妙だ。あと6割容赦しないとはどういう事だろうか。
「む」としか発音しない思念体と、現代人類よりも地味に先を行く日本語(日本語?)を行使する風来人じみた思念体。
マトモに言葉を話しているのは私だけだ、なのに日本語を喋ってくれないこの二人の方が会話が成り立っているっぽいってどういう事だ。
なんだろうこの気持ち、疎外感?

「ええいおのれゆるさんぞゆるさん」

私は自分の中で勝手に膨張した怒りの赴くままに、ド無機質な声を発しながらカエルに飛び掛る。
無論、その手には二振りの剣が具現されている。
私は自分自身の技をひとつも所持していない。某所でもしっかり目にしみる「技無し」だ。
物凄く汎用的なパンチだとかキックだとかは別にラーニングせずとも繰り出せるのだが、このカオス渦巻く血みどろ☆ワールドにおいて思念体以下どころか人並みに貧弱な私に汎用パンチでダメージを与えられる相手などほぼ存在しない。
だからこそ、私はこの3つの能力を駆使して戦う必要がある。

「スラッシュリハイド!」

交差する二振りの剣が、カエルの眼前で軌跡を描く。全体的になんだかもったりしているものだから、さほど戦闘力は高くないと思っていたのだが、このカエル、スラッシュリハイドをギリギリかわせるくらいには素早い。
空を切った剣の具現を解除し、私は体制を持ち直す。

「うわぁあぶね、いきなり斬りかかってくるってなかなかヒドくないっすか」

しっかり臨戦態勢だったくせに。

「既にやるきならこっちも仕掛けるよー」

だからお前も臨戦態勢だったろうが。

「・・・・・」

その手には武器の類は持ってないから、何か特殊技能を使うタイプだろう事は推測できる。
問題は奴の性格だ、元々、能力に依存した戦闘スタイルを取る奴は、パッと見ただけではその手の内がわからないしギリギリまで明かそうともしない。当然といえば当然だ。
故にあのもったりとしてひょうひょうとしている類の輩は、考えが読めない分、余計何を仕掛けてくるのかわからないのだ。
イハンのような力任せな能力や技ならばまだいい方だが、中には尋常じゃないまでに複雑かつ読みにくい能力を持つ者もいる、そう、あまりに複雑すぎて創生の神さえ全く扱いきれていない程に複雑なのが。複雑すぎていちいち説明とか必要なのが。
先ほど、『転移結晶』なる見た事もないアイテムを使用した、アレもヤツの能力の片鱗なのだろうか?

と、ふと奴の手元を見る。
するとどうだ、たった今まで何も握られていなかった腕に、一振りの剣がある。まさに在る。
出した素振りがまるで無かったが・・・、なんかの手品だろうか

「ん?驚いてる?驚いてますよね?しっかたないなー!教えてあげますあげますともさ!僕の能力は《幻想を招来する能力》!この世に存在しないものを何らかの場所から何らかの手段で個此処に持ってくる能力!」

「・・・・・」

「今招来したのは[宝剣カリバーン]、独自の意思を持つ剣で使用者を選ぶってこの前どっかで調べた!」

「随分とアバウトというか・・・なんかアンタ自身全然わかってないでしょ」

「うん、だって幻想だもん、存在しないものなんて想像した虚空しか確固たるモノが無いじゃない、大体は人が考えたモノでしかないんだから。わからないから幻想なの、調べたトコロで架空なの、『諸説あります』でカタがついちゃうの、おわかり?」

何を言っているのか私には半分さえ理解する事ができない、おそらく私の頭力のせいではなくこのカエルの言葉がおかしいのだ。
ただなんとなくうっぜえ事は理解した、OK、それが理解できれば充分だ。
あと、まあ見事に能力バラしおるコイツ、私のさっきの無駄な分析が、本当に無駄になったじゃないか。
実力はそこそこあるようだが、コイツは見た目通りのバカだ。確証した。

「でも、ちょっと待って下さい」

「なにかようかな?」

「カリバーンって、使用者選ぶんですよね」

「はいそうです」

「大丈夫なんですか貴方」

「それほどでもない」

そう奴が言葉を放った瞬間に、カリバーンから青白い雷光が走り、カエルの腕を多少焦がしながら後方へと吹き飛んで地面に深く突き刺さった。
まあ大体予想はしていたが、彼は剣に選ばれなかったのだ。

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

剣が吹き飛んでからの、謎の間と謎の空気、空気を読むように冷たいそよ風が吹きぬけ、落ち葉を転がす。

「ごめーんちゃい☆」

「そうですかありがとうでんせつのhぽうけんすごいですね」

私は表情を変える事無く、そう呟いて奴との距離を詰める。そして咄嗟に放った[スラッシュリハイド]の二連撃が、奴の体を深く捉えた。
斬撃を受けたカエルが棒読みに近い断末魔をあげながら勢いよく後方へ吹き飛び、地面に刺さったカリバーンのグリップって言うのか要は持つところに頭を打ちつけ、再度走る雷光の餌食となった。
何のコントだよこれ。

「ふっふふふ、貴様なかなかにやるようだな・・・!」

あんたもなかなかに重症だと思う。
X字に切り裂かれ、全身コゲコゲで体の至る所から煙が上がっている。
言っておくが、勝負始まってからまだ然程経っていないし、私はまだ一撃しか入れていない、大体のダメージはカリバーンの拒絶反応だ。
一方七はバナナを食べている。

「申し訳ないですけど、私これ以上茶番が続くなら帰りますよ?」

「ああ待ってお願いこれからだからおもしろくなるの!!そんなあっさり終わったらやかんが文字数稼げないでしょうがよ!!」

今こいつ言ってはいけない事言った。

「といっても、あなた既にボロボロじゃないですか、自爆で。自爆で。」

「二回言わないで下さい」

「・・・・・、私あまり戦うのは好きじゃないので、そっちが引いてくれるなら何もしませんよ?ホントデスヨ?」

「それじゃつまらないじゃんか、お楽しみは・・・・・これからだsrえ!!」

奴がここぞという所で盛大に噛みながら、何かを投げつけて来た。
それは大きく上空で弧を描き、私目掛けて、確実に速度をつけながら落下してくる。
それは結晶体のような、しかし先ほどヤツが使った転移結晶とは違う、神秘的でどこと無く怪しい・・・

「む!!」

「え!?」

七が突如叫び出し、落下中の結晶体に意識を囚われていた私は驚いて後退しながらたじろいだ。
おかげで直撃を免れたがその瞬間、地上にぶつかった結晶体が強烈な衝撃を起こしながら姿を変える。

「えぇえ?」

着弾点に、随分と歪な形の巨大な緑色の結晶が無数に生えているのである。いや、生えているだけではない、よく見ればその結晶の粒がそこらに散乱している。
あと少し後退が浅かったらビリーヴ=アダマスのように、いやそれ以上にタチの悪いものになっていたかもしれない。

「どうよ僕の《幻想爆弾》!!扱いに困ったモノをテキトーに放り投げた時に思いついた技なんだけどね――」

「思いついた時の話はいいよ・・・何を投げたの・・・コレは・・・」

奴なら聞けば話してくれるだろう。

「ああ、コレかい、今投げたのは『賢者の石』ってヤツだっけか、錬金術において万能の物質とされ、錬金術に用いれば物体を如何なる性質にさえ変質させられるモノ、だったハズ。簡単な話、生ゴミを純金にできちゃうの」

「・・・・・」

「そこのキレーなでっかい宝石も、別に生えてきたワケじゃない、石が着地した際の衝撃で飛び散った土が、繋がった状態で変質したものさ」

その言葉を聞いて血の気が引き戦慄した、吐き気のようなものも一瞬こみ上げたかもしれない、七がいなければ、直撃は逃れる事ができてもどこかしらが巻き込まれていただろう。
肉体を構成する複雑な元素群を、いとも簡単に血の全く通わないひとつの元素の塊に変えてしまうのだ。わからないから幻想、人の思い描いた形が幻想、その幻想が、奴の持つ能力があまりに恐ろしいものだということを理解した。

怖い。

恐い。

怖くてたまらない。

何をしているんだろう私は、ただ相手に一撃もらっただけじゃないか、それも外れているじゃないか。
当たって死んだとしても、思念体はまた蘇る事ができるのだ、何も恐れる事ないじゃないか。

なのに、

なのに!!

脚がすくんで動けない、スラッシュリハイドを具現した腕が持ち上がらない。奴の幻想爆弾は使う気にはなれない。
エース・ハイスピードの時もそうだった、彼は本気で私を殺しに来た、戦っている記憶が途中から無いということは、私は彼に殺されたのだろう。
だが死んでもまた蘇る事ができても、蘇った際に死に際の記憶が無かったとしても、やっぱり今死に直面するのは恐くてたまらないのだ。
カエルがただ呆然と足無いけど突っ立っている、たったの一撃で恐怖にすくんで動けなくなった私を嘲笑しているのか、視界がぼやけて何も見えない。
おそらく、私は今、とてもだらしない顔で泣いているに違いない。エースと戦った時も、こうだったのだろうか。
慣れたなどというのは錯覚だ、死を忘れてしまっただけの錯覚でしかないのだ。命を賭ける事というのは、此処まで恐ろしいものだったのだ。

逃げなければ。

勝算もあるかもしれない、だが、こんな状態だ、冷静な判断などできない。

死に恐怖して戦いなどできるワケが無い、一人で勝てるワケが無い。

一人で・・・・・・





一人?


ハッと気がつくと、左手に謎の違和感を覚え、目をやる。
七だ、七が私のスラッシュリハイドを食べているのだ、何してるんだこいつ。

ある程度食べ終えると、やはり何を言っているのかはわからないが、七は何か言いながら私の前に立つ、足無いけど。

「ふぅーん」

「な、なんて言ってるの・・・」

「君は一人じゃないよー、だとかその辺、良い友情活劇だねー、待ってた甲斐があったよ」

「むむっ」

「バカにはしてないよほんとだよほんとです」

七は私の方をみて、親指を立てて私にに拳を突き出した。そして再度カエルの方へと向き直ると、七の両手が変化を始める。

「!?」

あの感じはなんとなくだがわかる、あれは私がスラッシュリハイドを具現する時と同じ。
やがて七の両腕は瞬く間に変化して行き、そしてそれは二振りの










バナナになった。

「!!?」

凄く勇ましい感じに(真後ろにいるので表情は見えない)カエルに切りかかって行く七。
交差したバナナの皮が綺麗に剥かれ、凄く黄色黄色している黄色の軌跡がカエルを捉える。
なんというか皮を剥いた状態でそれとなく放置した時みたいなあのすっごくいやな感じの半生具合でカエルにX字状の傷を負わせた。
たぶん傷を負ったのは精神面だと思う。

「むっ!」

そしてこのドヤ顔。
だが、この一撃を食らったカエルも黙ってはいないはずだ(臭いから)

「・・・・・・おのれーゆるさんぞきさまらー」

今の一撃を負ったカエルが激昂し・・・げ、激昂?

「もうまったなしだほんきでいくからかくごしろー」

そう言ってヤツが取り出したのは、『賢者の石』。
私は思わずまたあの恐怖が再起しそうになる、が七が私の(食べかけの)スラッシュリハイドが具現された手を握り、あろう事か思いっきりかぶりついた。それとなく痛いです。
だが私はそのやり取りのおかげで落ち着く事ができた。私はもしかすると安心する場所が欲しかったのかもしれない。いや、そんな綺麗な話は無いか。

そういえば、七が先ほど放ったバナナは、見事なまでにバナナだったが、一応形としてはスラッシュリハイドだった。
アレが私のこの具現した剣を食べて会得したものだったとするのならば、食べさせまくればどうなるのだろうか?

一種の賭けだったが、私は勝ちへの活路を見出した。

「七!行くよ!!」

「むーっ!!」

そう言うと、私は七に向けて思いっきり剣を振り回した。
七に向かって伸びる鋭い剣先が空を切る。
打ち合わせなどしていない、もし七がこの攻撃をまともに食らえば、とてつもない大惨事だ。
だが私は知っている、七の『食べる』事への反応速度を、此処に至るまでに幾度と見てきたのだ。
接触するその一瞬で、七は口を大きく開き、剣に向かって思いっきりかじりついた。
勢い良く噛み砕かれた剣はあっという間にバラバラになる、が私は止め処無く、もう一度剣を具現し、2撃目を七に向けて放った。
2撃目を『喰』らい、3撃目を『喰』らい、4、5、6、と続けて行くがあのカエルがただ黙っているワケが無かった。

「そォォーーーーーーーーれぃ!!!!」

奴は七と私の間に向けて石を投げて来たのだ。
私と七は急いで後退し、石から距離を置いた所で石は『錬金』し、今度は黒光りする物体へと姿を変える。黒曜石だろうか。
さらにそこから追い討ちをかけるように石を投げてくるが、私たちはそれぞれ回避する。
当たってしまった時の恐怖はもちろんあったが、さっきのように恐怖に駆られるようなことはなかった。
だがしかし、面倒な事に七との距離が離れてしまった、これでは【技を食べさせる事】ができない。

「七!!今そっちに行く!!」

「むむむ!!!」

「そうはさせないもんね!!」

私と七は互いに距離をつめるように動く。
それを邪魔するかのように奴はデタラメに石を投げるが、その着弾点を縫うように回避して私たちは距離をつめる。
そして――

「むげっぷ」

「満足したかい、七」

「む」

「それは良かったよ」

七が、満足のいくまで技を食べた。言っている事はわからないが、七は腹を摩り、ぽんぽんと叩いている。準備完了だ。

「突撃だー!!標的はあの変なカエルーーーーー!!」

「むーーーーーーーーーーー!!」

私達はそう言うと、カエルに向けてとにかく突撃した。

「う、うわぁあああああああこっち来たああああああああ!!」

今度のカエルは棒読みではなく、ガチで叫んだように思える、が表情は変わっていない。わからんヤツだ。
カエルの抵抗はまるで機能せず、私達はカエルに急接近し、そして二人で、そう、七だ出したのはバナナではない。
私と同じ二振りの剣、スラッシュリハイドを構えた。

「だが残念!!」

しかし奴はしぶとかった、奴が手を合わせると、奴の周囲の空間が歪み、そして奴は叫んだ。

百鬼夜行物語!!!』

奴が叫ぶと同時に、歪んだ空間から無数の妖怪が突撃して来た、この数を対処するのは、どう考えても不可能だ。
せっかく勝機を見出せるかと思ったのに、勝てる寸前まで差し掛かったのに・・・





だが、私は、<既に奴の技を見ている>のだ!!!
私はスラッシュリハイドを一時的に解除し、手を合わせて叫ぶ!!!!

百鬼夜行物語!!!!!』

奴と同じように、歪んだ空間から無数の妖怪が出現し!互いの妖怪達と衝突して相殺した!!
随分と短い百鬼夜行を終えて、妖怪の中に紛れ込んでいた中から姿を現したカエルに向けて、私達は剣を振り下ろす―――

「あ、あかんわコレ」


『スラッシュリハイドXX!!!!!』
『むむむむーむむ!!!!!!!!!』


決まった、確実に決まった。





決まってみると案外あっけなかったりする、恐怖に涙していた事も、今ならものすごく過去の事のように思える。
思いっきり切り裂いちゃったカエルは、一切動かない。死んではいないようで、本当にしぶとい。

「七、ありがとうね」

「む」

私たちは、もう一度柱を探るべく、あの暗がりの裏道を突き進む事になった。
が、しかし、その柱はさっきあったはずの場所には無く、私達は見事に無駄足かまされたワケだ。七には足が無い。
どうやらあのカエルが私達を転移させる際、柱だけ違う場所に転送させていたらしい。

無限枝運の結末

こんな話を聞いた事があるだろうか

もしくは何かしらの会話で、この類の台詞を言った事もあるかもしれない。

「お前がそんな事をするとは珍しい、明日雨でもふるんじゃないか」

普段行動を起こさない者が、突如として珍しい行動をとったとき、
人はよくこんな感じの発言をする。

珍しい事が起こった後に、さらにまるで予期せぬ事が起こる。

詳しく調べてはいないから推測だが、意味的にそんな感じで使われるのだと思う。


だがそれはあながち間違いなどではない。

世界は一人一人それぞれの行動によって無数に変率する。

たった一人の運命事情だけでも、世界を大きく変える事だってあるのだ。

個人の持つ先の事象だけですでに膨大だ。

憶か? 兆か? もしくはそれ以上か?

とてもじゃないが数える事などできない。

世界規模ともなれば、巨大な運命集合体がまるで大木の枝のように連なっている。

その枝全てに、違う結末が存在する。

生ける者達全てが世界の命運を揺るがしているともいえるし、
たった一人が世界の結末を大きく左右しているともいえる。

それが確率事象。



だが私が見たものは、そんな膨大で、狂気じみた数の運命ではない。


一本。


たった一本だ。


一本ならば用意された結末も一本だけだ。


運の悪い事に、その結末とやらは、


私達を


世界を


この箱庭を


根本から否定する結末。


私は観る事ができる。

変率する運命ならば、私も結末を左右できる。

だが私の観たそれは枝ではなかった。

大木だった。

決められた運命しか持たない、真っ直ぐに伸びた大木。


私は枝を選ぶ事ができる。

しかし大木を裂く事はできない。

枝を創る事はできない。

何故なら私は観る者だから。


傍観する者だから。

エンシャント握り飯

※ESDキャラは除外 ※幼少や成長、変身や合体も別キャラとして換算

めも郎:緑髪の少年、色んな可能性を秘めた泣き虫       
大人めも郎:名称現写で大人の姿になっためも郎
イハン:違反の思念体、愛がわからない
イハン完全体:ルコ=モノトーンとの合体後
イハンTHE OVER:良心を忘れたイハンの姿
イハンTHE END OF WORLD:希望を見出せなくなったイハンの姿
ルコ:イハンの半身
オグ:イハンとなる前の姿、黄希星の思念体
アズゥ:黒絶星の思念、圧倒的カリスマ
九十九街道宮橋:夢の思念体、何考えてるかわからない
エンヴィー:嫉妬の思念、ミステリアス
ルーツ:期待の思念体、ギターを背負って詩を詠う
●12
氷宮冷子:物忘れのすごい女子高生
葉柳紅葉:万能女子高生、冷子の親友
ケルビン:冷子の邪気眼覚醒後の姿
スルト:神の名前をテキトーに拝借した炎の精霊
マイナスケルビンスルトが冷子と肉体共有した、ケルビンのもうひとつの姿
ダークケルビン邪気眼の覚醒によって芽生えた別の人格
秋風塔耶:人為的に邪気眼を植えられた者の一人
日陽修辞:ケルビンの前に立ち塞がる邪気眼の覚醒者
未黒舞:人為的に邪気眼を埋め込まれた少女
百花繚乱:紅葉の邪気眼覚醒後の姿
ユグドラシル世界樹の名を持つ精霊
リバイア:海神の名を持つ精霊
炎上院焔:スルトの真の姿
カノッサ【氷宮凍二郎】:機関の最高権力者にして冷子の父親
●26
筍御飯(スンユーファン):童顔ファイター、女の子と言われるのが嫌い
※御飯(幼少):友達の少ない生意気少年
筍雨後(スンユーホウ):御飯の「おばあちゃん」、外見は17歳のままの126歳
筍孟宗(スンモンゾン):御飯の父親、御飯が幼少の頃に他界
筍千島(スンチェンダオ):御飯の母親、雨後の娘、御飯が幼少の頃に他界
筍峰山(スンフォンシャン):筍家の先祖、完成された時の能力を操る
栗御飯(リーユーファン)御飯に宿っていた別の人格
栗金団(リージントゥン):別人格の正体、黒の根源
焼茸(シャオロン):村を失い筍家に居候していた少年、修行の末に彼も時の能力を身に着ける、女嫌い
※焼茸(幼少):村一番のやんちゃ坊主、それが↑になる
黒焼茸(カオスシャオロン):黒の力に囚われた焼茸、所持していた武器と一体化している
焼飯(シャオファン):焼茸の父親で村長
刀嵐(ダオラン):黒に魅入られた少女、口数は少なく、冷酷。焼茸の義妹
※刀嵐(幼少):ドわがままなお姫様、焼茸を振り回してるかと思ったら振り回されている
刀狩(ダオショウ):村を出て企業を成功させた男、刀嵐の父親
天叢雲(アマノムラクモ):封印されていた現人神、狐の耳と尾を持つが、れっきとした人間
●42
モコ:色々と薄いメモ体
●43
ギルザード:片手銃の使い手
ギルザードフレイムオーラ:炎の力をあやつるギルザード
ハルバード:ギルザードの弟型人造人間、人格は女の子
Drアリエ:「ありえる!」が口癖の人造人間の権威
ディンゼム:王家の少年、王子といわれるのは嫌い
トロック:小さな村に住む青年
アーツ:非道な人造人間
シャトレーゼ:ディンゼムに恩がある人造人間、革命家
アルクー:強くなるかませ犬
レッド・ギルザード:ギルザードの遺伝子情報を元に造られた兵器運用人造人間
R・ギルザードフロストウェイブ:氷の力を操るレッドギル
セルラ=グランギニョル:変形能力を持つオートマトン、メイド
セルラ(幼少):人形遊びが好きな孤児の少女、人間
Drグランギニョルオートマトンの権威、孤児であるセルラを保護した
クロカード:帝国に対しての反対勢力のリーダー
サイフォン:反対勢力のサブリーダー
リミタリー:反対勢力の紅一点
エドガー:アックスを操る帝国軍の巨漢
ファイザー:迫撃ロケランを使用する貧血司令官
バベル:鈍器を使う帝国軍の・・・なんだろう
セル:防御特化の変形を行うオートマトン、JK
エンフェルサイス:帝国の総帥
●65
ヒロキ:少年A
マコト:少年B
●67
青葉竜人:剣に選ばれたねぼすけ
赤木楓:竜人の幼馴染
アッシュ:獣人、たぶん犬
宮アギル:弓に選ばれた少年
ナルス:そのへんのナルシスト
カレン:トンファーに選ばれてるシスター
ディストミリオ:魔物が蔓延る世界にしたその人
●74
ケアリル:王家四代目の王子
ビィ:黄色いなぞの生物
プリンビィ:プリンっぽい何か
ロッコビィ:ブロッコリーっぽい何か
りゃりゃ:ふざけた顔をしたトレジャーハンター
デビックス:ケアリルの兄、悪魔族
どりゃごん:りゃりゃの相棒、だったヘンなドラゴン
エターナル:ケアリルとデビックスの祖父にあたる人物
フェルク:エターナルの父親、王家初代
ラグナル:ケアリル、デビックスの父、王家三代目の王
スズカ:ケアリル、デビックスの母、体が弱い
太よーくん:うざい顔の太陽っぽいの
冷とーくん:うざい顔の氷っぽいの
暗こくん:黒いなにか
台ふーくん:うざい顔のサイクロン
も雲くん:うざい雲
ちくたくん:う時計
だんでぃー太よーさま:渋いお顔のナイスガイ
ユウキ:偏狭の村で村長を務める青年、はげてなどいない
アツキ:りんご農園を営む青年、ユウキの相棒
リョーヘイ:膨大な魔力を秘める少年、背が低い
アキト:猫っぽいヤツ、言動が意味不明
ポン太:タヌーキー
オウル:古代生物を封印している機械
リボルト:オウルが封印していた古代生物
リボルトⅡ:人の魂を吸収して、人の姿となった
リボルトⅢ:体が爛れ落ちるなぞの物体となった
不死身くん:つんつくつー
漆黒の不死身くん:どうしてこうなった
暗黒の不死身くん:不死身くんダークサイド
マンゲーグー:3m20cmの棒人間
ウーマンゲーグー:3m20cmの棒人間
マンゲーグーMAX:余計巨大化したマンゲーグー
マンゲーグーMAXディメンジョン:神としての真の姿
マンゲーグーMAXDアドベントジャッジメント:の、さらに上位
サバディ:テレサではない
大天使サバディ:下半身が無い天使
堕天使サバディ:ダークサイド
イレイザードラゴン:有無を操る電子竜
クロウラー:イレイザードラゴンを復活させようとする青年
マイ:クロウラーに付きまとう亡霊
ラウロン:無数の魔眼を持つ少年
アーバン:言動が女の子臭い少年
リグロン:トンボの虫人
レクシル:ケアリルの暴走強化
ゴルギア:ビりゃの暴走強化
ファミクル:りゃりゃの暴走強化、何故か女の子
小石:エンシェントデスゴーレム
山田:山田
田中:田中
伊藤:伊藤
やたいましと:やたいましと
にぃにぃ:小動物的ビィ族
カルス:にぃにぃの兄
エラメス:ケアリルをライバル視する
つっちー:掘る事が好きなビィ族
ベルギルグ:つっちーの親友、体が自分では動かせない
陽光:カッターナイフを武器にするビィ族
ダーゼスト:月光島の王様、暴君
ルクス:ダーゼストの子
ラスティー:くらうでぃー島の王様
リンクラー:かつての月光島の王
メビウス:氷を操る片割れ
インフィニティ:炎を操る片割れ
ジェミニメビウスとインフィニティの合体後
あの方:な!
その方:あ!
この方:ちんちきーちんちきー
メガサファイア:あの方この方その方の合体後の姿、全長1km
にんじんさん:にんじんにんじん
だいこんさん:だいこんだいこん
プロテインさん:おぺぺいぱーおぺぺいぱー
スピリットルビー:にんじんだいこんぷろていんの合体後の姿、全長1.5km
大災伝説神龍レジェンディア:二極の竜さえ上回る力を持つ創造竜
必殺矢汁死君:謎の物体
ディングリス:かつてのくらうでぃー島の王
●150
ぎゃー:謎の物体
刃竜ジャギロス:ぎゃーの変身後の姿
ダークドッペル:姿を真似る事ができる影
ゲイボルグ:「右」を忘れた竜人
グングニル:怪力無双の竜人
リベリー:謎の物体
ベリアント:ベリベリーが変身した姿、竜人
バルムンク:大剣を操る少女
ジャベリン:博識な竜人
ジェノア:かなり幼い外見の竜人の王
●160
緑ヶ丘森治:普通の大学生、悲しいくらい
ラプラス:キノコ系女子、ドジ
ラプラスン:ラプラスの胞子から誕生する小さいラプラス
●163
新月夢魔(しんげつむま):夢界に住まうバクの妖怪
古島くん:夢界において厨二病が具現化されたただの少年
●165
ばかだろう:大体「お前バカだろう!」としか言わない変な物体、▽
あれ:画面外から生えてきてスライスされるあのよくわからないもの
●167
ミューク:ラークの夢の中に召集された少年
ラーク:自分の夢の中に人を隔離して楽しんでいる
●169
Pイハン:祖父の影響で図書館を営む少年
Pルコ:医者、寝不足気味
Pアズゥ:独特な格好の青年、とある魔導書を探している
Pオグ:本が大好きだったイハンの祖父、既に他界
グリモワール:究極の魔導書、カステラ大好きなバカ
クロニクル:全宇宙の歴史書、割と常識人、もとい常識本
バイブル:神が述べた聖書、神出鬼没
スクロル:秘伝の巻物、ドジっ子属性完備な侍
ネクロノミコン:禁忌の魔導書、グリモワール大好き
●178
プライム:剣士、通称プーさん
プーマン:謎の生命体1
プーミン:謎の生命体2
二宮銀次郎:謎の生命体3いや銀次郎さんに謝れ
●182
エルハイア(赤):おっとりした少年
エルハイア(白):爪を振るう残忍な少年
●184
ダークマターメテオ:暗黒物質
最強破壊神クリスタラー:DMメテオの最終形態
バーレン:どう見てもゴルドー
バミューダバーレン:UFOのようなバーレン
ホーリア:ケアリル、ビィ、りゃりゃの合体後
ダリア:デビックス、どりゃごんの合体後
グレイロード:ケアリル、ビィ、りゃりゃ、デビックス、どりゃごんの合体後
ピーマン:ピーマン
パプリゴン:ピーマンの変身後
ラディアゴン:だいこんの変身後
キャロルゴン:にんじんさんの変身後
トラベル:天使、鍵をぶっさす事で時間を制御できる
クエイク:悪魔、ギターをかき鳴らす事で大地を揺るがす
グランブレイバ:ケアリルとデビックスの合体後
六角竜ヘキサドラゴン:六角形の竜
五角竜ペンタドラゴン:五角形の竜
機関竜ドラゴンレイル:機関車の竜
奇竜パンドラドラゴン:ビックリ箱の竜
艦竜ヤマト:戦艦の竜
死竜ソウルイーター:屍の竜
島竜グランガイア:島の竜
●205
グリーズ:図工の能力者、視界に写る対象を折り曲げる
アンノーン:美術の能力者、作品や画材を任意で爆発させる
コーガ:歴史の能力者、踏んでいる地面と同じ素材のゴーレムを作る
バイヤー:理科の能力者、虫を体内に住まわせる
イージア:保健の能力者、治癒効果促進と再生効果付与
ハードラ:体育の能力者、殴った対象の痛覚だけを刺激する
バックログ:家庭科の能力者、なんでも食べられて、体内で構成して吐き出せる
ソエリドール:情報の能力者、生態情報にハッキングし、何かしらの状態異常を起こす
ニンジン:数学の能力者、過程と結果を2倍にできる
ジェール:体育の能力者、相手を一撃で沈められるが、自分も一撃で沈む
ν(ニュー):技術と美術の複合能力者、対象を自分の作品へと作り変える
●216
ゲイザー:熱を操る少年
ランダー:お笑い大好き少年
ファンクス:格闘少年
ノア:ベルであらゆるものを癒す少女
ハデス:最強の戦士
イビル:一度大陸を全支配した極悪人
フーラン:掃除が好きな青年
ライノス:クールな青年
アノン:ばか
カラーズ:色を消して輪郭だけになる能力を持つ
カラーナ:カラーズの姉、絵を描くのが好き
モノトーン:色を奪う能力を持つ
バイダリオス:ハデスの兄、愛ネギ、ゾルゼムスブレードを使用する
ゾルゼムス:遥か昔に名を轟かせた剣豪、今はネギの中にその魂を宿す
ラルス:影があまりに薄い
マミーナ:ラルスの妹、ゲイザーが好き
リーン:強大な魔力を手に入れるために人々から吸収し続けてきた王家の娘
リミルナルク:かなり若く見える国王、娘の行動を知らない
リー:ハープを片手に唄う詩人
ポプラ:頭にウッドくんが生えている少年、「意志」が欠落している
ウッドくん:ポプラの頭に生えている木、しっかり者
強雷(ごうらい):ハデスに並んで最強と謳われる格闘家
クルセイド:化石大好き少年、何かの頭骨をかぶったら外れなくなった
アルフェッカ:次元を捻じ曲げて異空間を拓く能力を持つ
アセレス・ボレアリス:語尾に「ッ」がつく変り者少女
アセレス・アウストラリス:ボレアリスの姉、弱い
スズキさん:舌が伸びるお姉さん
マスター:喫茶店を営んでいる、空気圧を操る
それ:名前がなかったのでゲイザーにこの名前にされた、ナンパ癖がドキツイ
プランテット・アース:十二邪神団の一員、植物を操る
ラストディランス:時間の速度を操る十二邪神団、アースのパートナー
ミランク:無口で必要最低限しかしゃべらない、鏡に別人が映る
クラウド:腕の無い少年、代わりにバケモノの手が彼の周囲に浮遊している
メカボルン:あらゆるメカを生み出す天才、だがド貧血で鉄分が足りてない
カイサー:骨のブーメランを巧みに扱う青年、だがすぐキレてCa足りてない
ファイン・イフリート:ばか
コールディ・リーザラ、:貴族出身の残忍な少年、コールディは一族の通称
レクシル(同名別キャラ):闇に堕ちたリクスを救うために行動する
リクス:天種を呼ばれる天使の種族だが、翼がもがれて闇に堕ちてしまった
ゼクス:謎の人物、十二邪神団で唯一パートナーがいない
アフター・ゼロ:十二邪神団のリーダー、暗黒神を復活させ、世界をリセットしようと企む
黒神ゾラ:大量の野菜によって復活した暗黒神、ナスで再封印可
絶対神ゼクス:ゾラの封印されたナスを生で食べて合体したゼクス
ルーペ:アストロ海賊団の見張り担当
マップ:アストロ海賊団の航海士担当
マスト:アストロ海賊団の料理担当
イカリ:アストロ海賊団の錨の上げ下ろし担当
デッキ:アストロ海賊団の掃除担当
キャノン:アストロ海賊団の技術担当
トレジャー:アストロ海賊団の頭脳担当
アストロ:アストロ海賊団の船長、本名えだまめ
マッドラン:アストロの帽子の中に住む砂のドラゴン
ウイ:伝説のトレジャーハンターとまで言われた青年、今は引退している
ジャック:ウイと共に各地を巡ったソーサラー
トルーノ:ランダーの父親
ルダンバオ:ファンクスの父親
アトラード:ゲイザーの父親
プロキオン:ダークトリックスターによって造られたメカ
ノドゥス・セクンヅゥス:二人で一人前の一人、光を操る
ノドゥス・プリムス:二人で一人前の一人、闇を操る
デネブ・オカブ:前が見えているのかわからないくらい帽子を深くかぶっている
ナシラくん:デネブ・オカブの被る、顔が描かれた帽子、ただの帽子
アルタイル:目からビームが出る
レグルス:元ダークトリックスター、植物研究専門のマッドサイエンティスト
ミカヅキ:ダークトリックスターのリーダー、機械都市を破壊するために力を欲する
マンゲツ:力を手に入れたミカヅキの姿、ただのバケモノ
ルビー:ゲイザーによく似た容姿の青年
ナクア:ゲイザーのライバル、水と泡を操る
リュードー:竜っぽい男、炎が吐ける
スー:体より大きなヘルメットを被る少年、電気が流れている
ポーラ:ソルとルナ、そして神殿を守る青年、神の力の一部を使う事ができる
ジークフリード:ポーラの反転人格、悪い奴ではない、神の以下略
デヴィー:ソルとルナの親役
エイリョンツァイ:口うるさい変な名前のオッサン
陽極神ソル:太陽を司るまだ幼い神
月極神ルナ:月を司るまだ幼い神
天極神ジギルロア:ソルとルナの真の姿
ポー:幽霊みたいな少年
エクタン:ポーと行動を共にしている幽霊、誰にでも見える
トォー:暗い雰囲気を滲み出す少女、ふきだし無しで喋る
セヴラル:トォーの影、しっかりしている
パルドーニャ:猫の獣種
リバリーガル:狼の獣種、少しだけ時を止められる
アダガット:孤高の戦士、ハデスと強雷に惨敗する
ベンジャミン:ポプラの親友
イーヴィルトレント:人々の意思を食らい成長する気、ウッドくんはこのなりそこない
創造神クリエリア:落ち着いた雰囲気の創造神
破壊神デストリア:無邪気な破壊神
イビ:イビルの魂が分離したその欠片
ビル:イビルの魂が分離したその欠片
ウロロ:魔種の大臣、次期王であるレクシルを陥れた
アパラーヌ:天種の大臣、次期王であるリクスを陥れた
アルフェリア:大妖精の名を持つファンクスの母
オルファス:大妖精の地位を奪おうとするファンクスのライバル
キャンディーラ:あめちゃん大好き
ワカバ:森の大精霊
ルーゲイン:虫種の医者
アルビレオ:ルーゲインの奥さん
サファイア:ランダーと容姿の似ている青年
トパーズ:ファンクスと容姿の似ている青年
ジュエリー:時を越える能力を持つ
クリスタル:ジュエリーと容姿の似ている青年
輝星神アークトゥルス:ダークトリックスターによって奉られていた神
精霊神リッカオ:彼が眠りについてしまい、各地の精霊が好き勝手し出した
イゼリオナーガ;ランダーの兄、弟が嫌い
アルファード:時を越える能力を持つ
ルーツ:世界で最初の生命
グリーズ(同名別キャラ):各地を練り歩く商人
ズゥリグ:グリーズの反転人格
ハルト:弱い
ディスハルト・アゼルベイガ:不死身
アノア:ノアの兄
エオリア:ハデスの妹
●329
音音音音(おとなり ねおん):声であらゆる音が出せる
一基満足(ひともと まんぞく):一本で満足できる
二次元華(にのつぎ もとか):平面
三暗刻単(さんあんこう ひとえ):ざわ・・・ざわ・・・
四濡通雀(しぬがよい すずめ):死 ぬ が よ い
五林中日蓮(ごりんじゅう にちれん):事故死した亡霊
六道廻(ろくどう めぐる):輪廻転生へと送り出す死神
神龍七星(だいじんりゅう ななほし):ドラゴンボッ
八童蝦煎(やわらべ かいり):かっぱえびせん
武九旅ヨミ(むくろ よみ):屍と合体する事で強くなる
十慕 木子(じゅうぼ ここ):妖怪シスター
壱拾壱 御門(とおひと みかど):自惚れが強い妖怪
サンタ・ディーサムベル:サンタサン
天使 リエ(あまつか リエ):ガブリエル
御前神 ルエ(みまえがみ るえ):ミカエル
忌数 反理(いみかず はんり):ロリ悪魔
回回回(えかい まわる):神速天狗
駆井尊(かるい みこと):某先生並みの死亡率
超珍剛数弥(ちょうちんごう かずや):どうも・・・木吉さん・・・
狩暮千代子(がるぼ ちよこ):ものに染み込む事ができる
赤光波虎(あかみつ ぱとら):警告
日鳥膳(ひとり ぜん):だっかーらおーうーちーへーかーえー以下略
伊藤差寺(いとう さてら):サテライト、星と交信できる
出降宇宙(でふり そら):スペースデブリ、ものをよく壊す
敦出池叶多(とんでいけ かなた):流れ星、とんでもない努力家
針翠霊羽(はりすい れいは):ハレー彗星、箒の尾の軌跡に毒を散布する
秋桜慧星(あきざくら えぼし):惑星探査機、観測を楽しむ神
田畑案山子(たはた あやこ):ただのカカシですな
百目百子(どうめ ももこ):百目鬼という妖怪、目がいっぱい
●358
ティンクルリーヴァ:差別を受ける者達を保護している
ラオユン:魔導人形、作者不明
ジョーカー:ラオユンが造った魔導人形
ノート:心眼を持つ異能者
ゼクセルハイド:盲目の超能力者
●363
神(かみ):薄い
神(しん):細い
物理神モノグラム:神と神の合体後の姿
●366
アイゼン:ギルド「グランドクロス」のリーダー
●367
とっしんさん:趣味はショルダータックル
アイアンメイデンさん:とっしんさんのおかあさん
マミーさん:マミーだけどとっしんさんのおとうさん
ぐんそうさん:学級委員長
しょうぐんさん:ぐんそうさんのおとうさん
たいささん:ぐんそうさんのおかあさん
高原:脆い
角砂糖先生:口うるさい、水に弱い
きょだいせんぱい:でかい
ごくどうさん:すごい顔
くみちょうさん:いい人
野丸先生:普通
アンノウンさん:侵略者
●380
INVICTUS-01:人工無敵生命体、「量」を操作できる、読みは「インヴィクトゥスゼロワン」
INVICTUS-02:人工無敵生命体、「分解」を操作できる、数字の読みは「ゼロツー」
INVICTUS-03:人工無敵生命体、「密度」を操作できる、読みは「ゼロスリー」
INVICTUS-04:人工無敵生命体、「性質」を操作できる、読みは「ゼロフォー」
INVICTUS-05:人工無敵生命体、「融合」を操作できる、読みは「ゼロファイブ」
INVICTUS-666:人工無敵生命体、「存在」を操作できる、読みは「ダミアンナンバー」
霊芝龍ガノデオロン:珍しいキノコが肉体に自生している古龍、湿度を操る
●387
撃敵大壊造ストレンデリア:「人型」、他の撃敵大怪造を破壊するための存在
撃敵大怪造トランベリオン:「鳩時計型」、常時空中浮遊、尋常ではない再生能力を持つ
撃敵大怪造ジークグライア:「自動販売機型」、物体を複製し、操作する
撃敵大怪造ヤーデスムリデス:「ベット型」、高速で動き回り、錯乱効果のある音波を放つ
撃敵大怪造ジルギルガルグ:「素体不明」、憑依した物体を撃敵大怪造として変貌させる
撃敵大怪造エルダリゲニオ:「クジラ型」、地面や壁を自由に潜る、水には潜れない
撃敵大怪造スパイルレギオン:「掃除機型」、反転能力によって、軟化や硬化が可能
撃敵大怪造ニゲルハイム:「キメラ」、素体は不明、他の撃敵大怪造を捕食し、自身の一部とする
撃敵大怪造ゴバックリターニエ:「ポスト型」、常時空中浮遊、危害が及んだ際に、及ぶ前まで時間を戻す
●396
Not:ゴツイ腕の機械人間の女の子、ジャンクだったが、修復された
冷蔵庫:Notのお父さん、つまり直した人、冷蔵庫に手と足が生えている、キモイ
●398
アーケル:流星軍が大将の一人、超活性化した細胞ととてつもない運命力を持つ
●399
グラサージュ:チョコレート娘
カスタード:プリン娘
グルコース:水飴娘
●402
しいたけ:なんかキノコ
●403
堕落天使サヴォル:落ちぶれていない天使、サボリ癖がすごい
空腹天使ハラヘル:究極的におなかがすく
天召天使シンドル:死亡フラグ
解錠天使アイテル:閉まってるドアを閉まったまま開ける
怠惰天使クーネル:食べて 寝る
味素天使デジル:究極の味噌汁が創れる
破折天使ヘシオル:とりあえずバッキバキにできる
記憶天使オボエル:凄まじい記憶力を持つが即効忘れる
黙殺天使ダマル:喋れ
愚痴天使ダベル:喋るな
訪問天使タズネル:ピンポンダッシュマスター
週末天使カタストル:地獄を見せ(月曜日にす)る力を持つ凶悪な天使
布団天使マルマル:布団虫
履物天使サンダル:鼻緒をちぎりまくる
凍結天使コール:凍結能力持ち、溶かせない
装飾天使デコル:あらゆるものをド派手にして目を痛くする
●419
緑野湯時(みどりの ゆじ):緑色に全てを捧げる
グリーン=リース:湯時の夢の中の姿、緑の領域の支配者、能力は「まだ使える(ファストリペアー)」
紫重恒和(ししげ つねかず):力自慢
バイオレット=バスター:重の夢の中の姿、紫の領域の支配者、能力は「怪力無双(オメガストレングス)」
灰原ケン(はいはら けん):機械の好きな双子の兄
灰原コウ(はいはら こう):機械の好きな双子の弟
グレイロード=アッシュ:灰原兄弟の夢の中の姿、灰色の領域の支配者、能力は「努力の結晶(デストロイロマネスク)」
黄暮葉蔵(きくれ はくら):造形が得意

動手帳天上臨

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■0.あらすじ
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 時は流れ、年の変わり目の季節となった日陰の地。
 各地全域で雪が積もり、神明神社も例外なく白銀に染め上げられた。

 人里には、はしゃいで外に飛び出す者、家で丸くなっている者さまざまで
 あるが、此処はというとやはり参拝客など来ない。ある意味で此処には季
 節感が無いと言える。

 「やっぱり来ないなあ、お賽銭箱へのルートにある雪だけは掻いておいた
  のに」

 「暇そうだな、巫女」

 「お菓子食べます?」

 「いらないわよ、と言うよりいつまで居るのよあんた達。居座るんだった
  らお賽銭でも入れておきなさい」

 縁側で足を振りながら暇そうな素振りを見せる神巫。
 先の死亡異変を解決した神巫だったが、それで信仰が回復する事は無く、
 代わりに異変に関わった妖怪やらなんやらに好かれてしまったのだ。

 特に、人里の人の数に未だ慣れていないお菓子妖怪、八童蝦煎と、それに
 付き添っている形の同じくお菓子妖怪、一基満足はかなりの頻度で神社を
 訪れる。
 神巫にとっては参拝客でもなんでも無いため、ただの迷惑なモノである。

 「妖怪に賽銭求めるとか、世も末だな」

 神巫がその声の方へと視線を向けると、そこには神社の領内に佇む一人の
 少女の姿があった。鳴神黒奈、詐欺師である。

 「それならあんたが入れなさいよ、こっち今ジリ貧なんだから」

 「私はケチでは無いからな、五円位は入れておいてやる」

 「それをケチって言うんじゃないの?」

 「ああ、そうだ、お前こんな話知ってるか?」

 「勝手に話を逸らさないで」

 「まあ聞けって、何か最近妙に地響きが多くてな、山の方じゃ雪崩も起き
  てるらしいぜ」

 「・・・それで?」 

 「この話じゃダメか、ならお前この間隕石が落ちたって知ってるか?」

 「・・・・・それは知ってるわよ、里中大騒ぎだったもの」

 一昨日程、空から森に目掛けて謎の飛行物体が落下してきたのである、里
 の者はたちまち大慌てで、噂が流れに流れた挙句、何の根拠も無く隕石が
 落下したという事になっていたのだ。
 神巫と黒奈も、この里の騒ぎを嗅ぎ付けて噂自体は把握している。

 「それが今になってどうしたのよ」

 「何でも落下地点に向かった物好きがいたらしい、そいつらが言うには、
  その落下地点には隕石なんて無くて、代わりに教会があったみたいだ」

 「教会!?」

 驚いたように立ち上がる神巫。

 「そう、教会だ!あくまでこれは私の可能性論だが・・・年末も近いこの神
  社に参拝客が一人も来ないのは、その教会が信仰を独占してるんじゃない
  かと睨んでいる・・・。念を押すがあくまで私の憶測だ、どう出るかはお
  前に任せるが・・・」

 「・・・そこまで言われて調査しない手は無いでしょう?」

 そう言って神巫は雪の降る空へと飛び出していった。

 「やれやれ、信仰が絡むとあいつもちょろいな、この神社元から人来ないの
  に」

 「かなり手馴れているな、詐欺師」

 「まあな、これで面白くなったぜ。お前らはどうする?私は神巫とは別の調
  査をするつもりだが?」

 「付いてって大丈夫なのか?」

 「大丈夫だろう、たぶん」

 「それなら私は巫女の方へ行くよ、楽しそうだし」

 「じゃあ満足、お前は私と来い、私のサポートをしたまえ」

 「え?神社の留守はどうするんですか?」

 「ああ大丈夫だ、ねぼすけ神とざしきわらしがいるからな」

 「んん?」

 「なんだ知らないのか、まあいいや、機会があれば説明してやる」

 こうして、蝦煎は神巫の後を追い、黒奈と満足は別の目的で調査に向かっ
 た。



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■1.キャラ設定
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◇プレイヤーキャラサイド

                                                                                                • -

 ○伊沙弥の巫女
  伊沙弥 神巫(いざなみ いちこ)
  izanami itiko

  種族:人間
  能力:霊力を操る程度の能力

 賽銭箱に続く雪だけ除ける地味に几帳面な巫女さん。
 相変わらず信仰は回復しないがめげない巫女さん。

 話に信仰が絡むと周りが見えなくなるのか、黒奈の口車にまんまと乗せら
 れ、隕石が落下したと噂されていた箇所にあったという教会の調査に向か
 う。

 今回はただの調査であり、異変じゃない・・・・?


 ○興味本位の河童
  八童 蝦煎(やわらべ かいり)
  yawarabe kairi

  種族:河童
  能力:依存させる程度の能力

 依存の能力を操るお菓子妖怪。
 病み付きになりそうなスナック菓子を常備している。

 ただ神社に居るだけではあまりに暇だったため、神巫に同行する事に。

 
 異変以降、人間は怖くないものと認識したため、人間の言動に進んで興味を
 示すようになる。何故神巫に同行したのかは、黒奈に比べてとっつきやすい
 からである。黒奈の事はどうも苦手らしい。

 ○天性の詐欺師
  鳴神 黒奈(なるかみ くろな
  narukami kurona

  種族:人間
  能力:電気を操る程度の能力

 まんまと神巫を調査に乗り出させた性悪天才詐欺師。
 人里を活動拠点とするため、人里で流れた噂や情報などにはかなり詳しい。
 
 面白い情報が手に入ったため、神巫にその情報を伝えると案の定面白そう
 な事になった。が、今回は同行しない。
 
 一基満足をつれて神巫とは別に『地響きの調査』に出る。が、
 連れて来た理由は腹が減った際の食料供給である。

 
 ○半ば強制の妖怪
  一基 満足(ひともと まんぞく)
  hitomoto manzoku

  種族:妖怪
  能力:心を満たす程度の能力 

 人里など、日陰の地の各地で軽快なステップを刻みながらお菓子を配って
 回る妖怪。蝦煎とは仲が良い。


 黒奈によって強制的に同行させられる事となった哀れな犠牲者。
 何のために同行させられているのか、黒奈の調査内容などがまるで分かっ
 ていない(というか説明されてない)が、それでも黒奈に一応付いていき
 、所々で満足バーを食べる事を勧める。如何なる状況でも全くブレない。

                                                                                                • -

◇敵キャラサイド

                                                                                                • -


 ○1面ボス 愉快な合体戦死
  武九旅 ヨミ(むくろ よみ)
  mukuro yomi

  種族:妖怪(がしゃどくろ)
  能力:合体する程度の能力

 手ごろな白骨や怨霊を求めてうろうろする妖怪。
 怨霊や屍と合体して力をつけるが、その分体も大きくなり、合体元に応じ
 た鎧や刀と言った妙なオプションもついてくる。
 あまり合体しすぎると、自分の体重を支えきれず動けなくなる。
 そのため、使い終われば合体は解除する。
 
 ちなみに中身はほぼスカスカである他、頭脳もほぼスカスカで、
 あまりあたまはよろしくない。


 屍や怨霊を求めてその場をうろついていた所で人間と遭遇してしまった不
 幸な通りすがり妖怪。

 遭遇した人間を戦死させて、自分の一部にしようとと意気込むが、まあア
 レです相手が悪すぎました。残念。


 ○2面ボス 修道吸血樹
  十慕 木子(じゅうぼ ここ)
  zyuubo koko

  種族:妖怪(ジュボッコ)
  能力:血を啜る程度の能力

 大きな戦いのあった場所に生える木が大量の血を吸って妖怪化した。
 「母」と呼ぶ存在によって、自由に動く事のできる肉体を授けられ、
 その者の元で修道女として修行している。
 争いは嫌いだが、人間ではない者の血を吸ったのが原因で時折好戦的に
 なる。

 修行中の身だが、血が欲しくなる時があるらしく、
 その度に頭突きで邪念を払おうとする。

 ちなみに彼女はスモモの木であり、時期が来るとしっかり実が生る。

  
 「母」の頼みでとある物を探しに外に出ていた所で人間達と遭遇する。
 情報の提示を求める人間達に最初は逃げの姿勢だったが、突如豹変して
 木子が勝てば情報提示、負ければ血をもらうという条件で弾幕ごっこ
 持ち掛けて来る。

  
 彼女が妖怪となる前、一つの樹木だった頃、地上で繰り広げられた白い
 翼と黒い翼を持った天上の者達の戦いがあった。

 天上の者達は激しく争い、やがて白い翼を持った者が勝利を収めた。

 屍となり、多くの血を流した黒い翼の者達。木子はその者達の血を吸い
 妖怪となった。天上の者達の血は人間のものより強大な力を彼女に与え
 、時折自我さえも崩壊させてしまう。

 暴走した木子は、その場に居た天上、地上のあらゆる生命の血を見境無
 く吸い尽くした。慌てふためく者達を他所に、白い翼を持つ者の長が前
 へと歩み、木子の傍で立ち止まる。

 木子は言う。自我は保っているようだった。

 「逃げてください、このままでは貴方も殺してしまいます」

 だが長は引く事無く、木子にこう言った。

 「構いません、貴方を聖戦に巻き込んでしまった、私はその報いを甘ん
  じて受け、悪魔の血による呪縛から貴方を解放します」

 容赦無く襲い掛かる木子の無数の枝は長の体を捕らえ、確実に血を抜き
 去っていく。
 苦痛に耐える長だが、呼吸を整え、力を振り絞り、手に持つ秤を天に掲
 げ高らかにこう言い放った。

 「我が名はミカエル!今こそ神の御名を借り、力を代行せん!この者の
  血の呪縛を解き放ち、生命としての形を与え給え!!」

 長の言葉と共に秤からとてつもなく眩しい極光があふれ出す、その光を
 浴びた木子は激しく苦しみだし、体がゆっくりと崩れていった。

 次に目が覚めると、木子は大きな建物の中に居た。
 地上の生命と同じ姿となっており、体は自らの意志の通りに動く。
 目を覚ました事に気がついた長は、木子の元に駆け寄り、好きなように
 生きて良いと言った。だが木子は答えた。

 「好きなようにして良いのならば、お願いがあります。私を貴方様の傍
  に置いて下さい、私には今、行くべき所も成すべき事もありません、
  血の呪縛から解き放ってくれた貴方様の元に居る事が、今の私にとっ
  て最大の本望なのです」

 天上へと帰還しようとしていた長は少し困ってしまう。彼女が取り込ん
 だ悪魔の血は、呪縛から開放されただけであり、それそのものは彼女の
 中に未だ存在する。天上の者にとって穢れでしかない悪魔の血を宿す木
 子を天上へ連れて行くのは、彼女自身が危険に晒されてしまうのだ。

 そこで長は提案した。

 その内容は『次に私や天上の者が地上に降り立つまで、この教会を守り
 続けて欲しい』というものである。次いつ降り立つのか分からないため
 、『嫌になった場合は構わず放棄しても良い』という条件もつけた。

 この提案に木子は承諾し、天上の者達は天へと昇って行った。

 そして数百年が経ち、天上から舞い降りた二人の天使を迎えたのは。


 嫌気を射す事無く教会を守り続けた木子であった。
  
  
 ○3面ボス 圧し折りお菓子妖怪
  壱拾壱 御門(とおひと みかど)
  toohito mikado

  種族:妖怪
  能力:あらゆるものを圧し折る程度の能力

 満足、蝦煎に続く新手のお菓子妖怪。彼女は細い棒状のお菓子を常時携
 帯している。能力により、いかなるものも折る事ができるが、最も折る
 事が多いのは「話の腰」。
 お菓子を束で瞬時に食べる特技を持ち、良く自慢してくる。ウザい。


 突如現れ、人間に同行しているお菓子妖怪に突っ掛かって来る。

 お菓子妖怪からは、すぐ話の腰を折るためにまるで会話にならないから
 と相手にされていない。

 だが彼女は嫌になるほどしつこかった。ウザい。


 ○4面ボス 聖夜の来訪者
  サンタ・ディーサムベル
  santa deli-samuberu

  種族:サンタクロース
  能力:プレゼントを届ける程度の能力

 真夜中に人の家に上がり込んでは置き土産を仕掛ける赤服一族の一人。
 決まった名前は無いため、族称である「サンタ」と名乗っている。
 最近は小さい子さえも自分の存在を信用してくれないため、少々悩んで
 いる。

 普段は教会にその身を置いてもらっている。クリスマスでなかろうと
 年中赤い装束のままである。

 実はサーフィンができる。しかもかなりうまい部類。 

 
 クリスマスの時期だからか、各地を右往左往している伝承の通りの格好
 をしたサンタクロース。ぼんやりしていると衝突しかねない。

 教会への道を聞く人間達だが、サンタの勝手な提案で息抜きとして弾幕
 をプレゼントされる。
 
 迷惑な話だが、いつもサンタにお願いを聞いてもらってるのでたまには
 サンタのお願いも聞いてあげましょう。


 ○5面ボス 予言と啓示の聖者
  天使 リエ(あまつか リエ)
  amatuka rie

  種族:天使
  能力:神の声を代弁する程度の能力

 「母」と呼ばれる存在と共にこの地に降り立った天使と呼ばれる種族。
 天上にいるという神の声を聞き、代弁する力を持つ。
 名前は「天使」と「自らの名」を捩った仮名。
 落ち着いた物腰で、彼女にも「母」のような包容力がある。
 
 悩みなどを相談すると、嫌な顔一つせず話を全て聞いてくれて、
 さらに能力を駆使して的確な答えを導きだしてくれる。


 儀式の準備を執り行う「母」の邪魔をさせない為に教会への侵入者を
 追い払おうとする。

 噂の中の隕石の正体は彼女と「母」の事、あくまでも『舞い降りた』
 なのだが、舞い降りたと言うには人間の物差しだとあまりに速すぎた。
 (着陸寸前で一度空中で静止してからゆっくり降下しているため、
  一応舞い降りるであっているのかもしれない。)

 
 ○6面ボス 翼をもがれた天上の長
  御前神 ルエ(みまえがみ るえ)
  mimaegami rue

  種族:人間
  能力:神の摂理を代行する程度の能力

 「母」と呼ばれ慕われている聖職者。
 木子が間違えて「母」と呼び、そのまま母と呼ばれる事になった。
 彼女自身も結構気に入っているらしい。
 神に成り代わって神の力を行使する力を持つ。
 
 本来は天使なのだが、今回大地に降り立つ際に翼を失い、天使としての
 力が大幅に低下しているが、それでも並外れたパワーを秘めている。
 リエ同様、名前は仮名である。


 天上の者にとって、あるいは地上の者達にも災厄と成り得る者の封印の
 ために地上に降り立ち、封印の儀の準備を行っていた。

 仮に復活してしまった時のために、木子に過去の戦いで使用した剣と盾
 の捜索を依頼していたのだが、未だ発見できていない。


 侵入者達が現れた事で、儀式が間に合わなくなり、災厄の象徴を復活さ
 せてしまう事になる。


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■2.エキストラストーリー
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 神明神社
 調査を終えた神巫と黒奈が話している。

  神巫 「終わってから気が付いたんだけどさ」
  黒奈 「何さ」
  神巫 「噂でようやく存在が知れ渡った程度の教会に信仰が奪われる筈
      無いわよね」
  黒奈 「もしかして今に至るまでずっと気が付いてなかったのか?」
  神巫 「まんまとしてやられたわ・・・!!」

 「そもそも奪われる程の信仰が無い」というセリフを押し殺し、
 黒奈は神巫を嘲笑った。
 そこにお菓子妖怪の二人もやってくる。

  蝦煎 「まあ別に面白かったからいいんじゃない?」
  神巫 「あんたは随分暢気なものねぇ・・・」
  蝦煎 「巫女が信仰に依存しすぎなだけじゃないのか」
  満足 「私は振り回されていただけだった気がしますけど・・・」 
  黒奈 「何言ってんだ、お前は私の腹が減った時に役にたってくれただ
      ろ?」
  満足 「うーん?」
  神巫 「あ、あれは・・・」 

 神巫が真っ先にとあるものに気が付く、それに反応して全員が神巫と同じ
 方を向いた。
 そこには天使 リエと御前神 ルエの姿があった。

 だがその姿は既に満身創痍のようだった。

  神巫 「どうしたんですかその姿!?何かあったのですか!?」
  リエ 「・・・・・木子にやられました」
  黒奈 「は?木子って、あの修道女の事か?どう考えてもお前等を倒せ
      るような器じゃないだろう、あいつ」
  ルエ 「・・・・・」
  リエ 「母様・・・こうなれば、この者達に任せるしか無いのでは、
      そもそも災厄が目覚んとしている原因ははこの者達の・・・」
  ルエ 「人の責任にしてはなりませんよリエ、これは私が注意を怠り、
      判断を誤った故の結果なのです」
  リエ 「申し訳ありません・・・」
  黒奈 「いいからとっとと話せ、モタモタしてるのは嫌いなんだ」
  
 リエとルエは互いに目で会話し、
 考えが纏まったのか、ルエの口がゆっくり開く。

  ルエ 「本来なら巻き込む訳にはいかないのですが、已むを得ません
      あなた方にお願いがあります、どうか教会へ向かってほしい
      のです、このままでは災厄が目覚めてしまう・・・」
  神巫 「・・・さっきから災厄ってなんなの?」
  リエ 「厚かましいとは思いますが今は説明してる猶予も無いのです
      とにかく、それ程に危険なものだと認識していただければ」
  黒奈 「ようはもっかい教会に飛んでいけばいい訳だな、よっし、
      行くぞ満足!付いて来い!!」
  満足 「あ、やっぱり私も行くんですか」

 さっさと飛んでいってしまった黒奈と満足を他所に、神巫と蝦煎は天使
 達を縁側まで運び込む。
 
  神巫 「全く黒奈ったら・・・怪我人労わるくらいできないのかしら」
  蝦煎 「諦めろ、詐欺師はそういう人間だ」
  神巫 「まあ、そうなんだけどね。あんたはどうする?私も教会に向か
      うつもりだけど」
  蝦煎 「私も行くよ、とりあえず巫女に付いて行けば面白いのがわかっ
      たから」
  神巫 「それはどうも」

 こうして神巫と蝦煎も教会へと向かう。神巫はいつに無く戦慄していた。
 今まで感じた事の無いような邪悪な気を感じるからである。

 「ただの調査」は、「異変」へと成り代わろうとしている・・・。
 
 気がする・・・。

                                                                                                • -

◇敵キャラサイド

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 ○エキストラ中ボス  妖怪吸血樹
  十慕 木子(じゅうぼ ここ)
  zyuubo koko

  種族:妖怪(ジュボッコ)
  能力:血を啜る程度の能力

 「災厄」の復活が近い事により、肉体に宿った悪魔の血が共鳴。
 青白い肌と黒い翼を持つ姿となった木子。
 ルエに依頼されていた筈の剣と盾を身に着けている。

 共鳴によりあふれ出る力を制御できておらず、自我も失っているため、
 教会へと入ってきた人間達に対して問答無用で襲ってくる。


 ○エキストラボス  神に抗った災厄
  忌数 反理(いみかず はんり)
  imikazu hanri

  種族:悪魔(サタン)
  能力:摂理に反する程度の能力

 神の理念を否定し、天上を襲撃した元天使。
 悪魔の王の証である「サタン」の名を持つ。

 大昔に天使により施された封印を破り、復活した。
 天上、あるいは地上に対しても災厄となり得る存在。

 ・・・なのだが、永きに渡る封印によるものか、それともルエに一度負け
 て懲りたのか、かなり毒気が抜けている。フリとかではない。

 本気で争う事に対して全く気力が起きないため、「遊び」である弾幕ごっ
 こを非常に気に入っており、復活して早々、人間達に勝負を持ちかけて来
 る。


 天上に一人、神の言葉に理解を示さない天使がいた。
 無論、他の天使は皆、神のお膝元である。
 故に彼女を蔑む者も多かった。
 だが、それでも彼女は神の思想に対して、「はいそうですね」などと言う
 事は全く無かった。

 そしてある日、彼女と、彼女に賛同する者達が、神への見せしめとするた
 めに天上を襲撃した。

 反理と賛同者達の猛攻により崩れ行く天上。

 天使達はどうにか防ごうと試みるが、反理の指揮術により不意を付かれて
 しまい、あっというまに劣勢となる。

 反理は勝利を確信した、そしてこれならば神にさえも勝ててしまうのでは
 無いかという少々行き過ぎた希望を持ち始めた。

 だがその希望は一瞬で絶望へと変わる。

 反理の前に対峙した大天使ミカエル、そして大天使ガブリエル。
 その奥には圧倒的な威圧感を放つ「とてつもなく巨大な存在」があった。

 反理は思わず身震いしてしまう、実物を見た事など今まで一度も無い、
 だが、目の前にいるその巨大な存在が神だという事は一目見るだけでわか
 った。

 先ほどの希望は一瞬で崩れ去り、反理にひとつの思想がよぎる。


 勝てない。


 反理はようやく自分が敵に回した存在の大きさに気が付き、咄嗟に地上へ
 と逃げていった。


 苦し紛れとはいえ、地上へと降り立った反理とその賛同者達、
 だが、降り立った彼女らは既に悪魔としての存在に成り代わっていた。 
 地上に逃げんとする反理達に、神が罰を与え、天使として存在する事を許
 さなかったのである。
 
 遅れて現れたのは大天使ミカエルと天使兵達。

 もう逃げ場など無い。

 反理は賛同者達に巻き込んだ事を謝り、悪あがきとも言わんばかりに無数
 の天使の軍団へと突っ込んで行く。

 だが賛同者達は、反理を蔑む事無く、最後まで「賛同者」として反理と共
 に戦った―――



 結果、他の賛同者達は戦死し、あろう事か、反理はいくらトドメを刺して
 も死ぬ事が無かったため、封印される事となった。

 こうして、天上と地上に渡る天使と悪魔の聖戦は、幕を閉じた。


 と思われたのだが・・・



 数百年が経ち、神により「反理の封印が薄れている事」を告げられたリエ
 は、ルエと共に、地上に降り立つ事となる。


 それこそが今回の全ての始まり。


 

 人間達と弾幕ごっこを堪能した反理。
 災厄と呼ぶのが難しい程に毒気が無くなっている事をリエとルエに伝える
 と、少々困った様子だった。

 神にその説を伝えると、神も少し困惑した様子で、「教会に置き、監視す
 るように」との事。「即刻再封印しろ」などと言わないあたり、一応話の
 分かる神ではあるらしい。

 木子はというと、反理によって制御しきれない力を抜き取られ、見事正気
 に戻ったのだが、自分の過ちをしっかり覚えてるらしく、リエとルエに対
 して死ぬ気で謝っていた。しかしどうやらあの悪魔形態にはいつでもなれ
 るようになったらしく、彼女は若干得をした事になる。


 こんな感じで、今回の騒動と、ついでに永きに渡る聖戦に幕が降ろされた
 のである。

すてみタックル

日記として使うのはいつ以来であろうか(
大学の課題がもりもりしていてなかなか娯楽に時間を裂けなくなってまいりました熱湯です。

卒業制作展にて公開する(ハズである)「とっしんさん」と、まだタイトル決まってませんが「キノコ娘ラプラス」が出てくる4コマをもぎもぎ制作ちうです。合計16ページの壁はなかなか高い。

しかし課題で押し潰されまくっているとはいえやりたい事なり描きたいモノなりはもりもり増える始末。A氏となんだかうおおしている「メイドさんがキノコ狩りに行く話」も「霊芝龍ガノデオロン」なるものまで作ってしまったというのに。

思念大戦は一応地味に進んでたりはします。今はもはや止まってるようなモノですが、それはもう地味に進んでます。思念体の増加が今の所停滞してるので構成はしやすいです。それでもここまで増えるとは思いませんですがw、80って。ついでにバグの思念って採用でいいんだよね?

柱探す→柱壊すの流ればっかでどうしようかなーとは思いましたが、なんせ思念大戦にはプロットが無いのでこの流れは変えずにまあ気楽にやろうかと考えてます、無い文章力はネタで補いたい切実。プロットを作ろうという発想はまるでない。


あぐりぐりがんばりましょうか、創作意欲が独り歩き。

動手帳思念大戦 Ps-2 cp-3 光と闇の相乗

その事象は確立。 逃れる術は無い。

Ps-2 cp-3 闇と光の相乗



とりあえずはてなタワーの入り口付近に降り立つ、外は殺伐としているのだがタワーからは妙に楽しそうな声が響く。暢気なものだ、こっちは色々と走り回っているってのに。足無いけど。
聞こえてくる声からしてトランプでもやっているのだろうか、まあ<友好的>と言えば<有効的>な疑念の扱い方だ。もっとも、俺はばばぬきと大富豪、あとスピードしかやったことがないのでいまいちトランプはわからない。理由は普段トランプをやらない上にグリモアがそれしか知らないからだ。
しかしこのタワー、999階あるのだが上の階層埋まる程の人数がいるのだろうか。まあ正直タワーがどうとかは別にどうでもいい。別の問題があるからだ。
「亡者異変以降一度も此処には寄ってないのだが・・・」
俺は黙って前を見る、他の奴らもおそらく唖然としている。
「おい!何すんだよ!さては俺の星を奪おうって魂胆か?」
「だれがてめえの星なんかいるかよ!そういうお前が俺の星狙ってんじゃねえのか!?」
疑念は信頼と疑惑の間、その性質は良くも悪くもなる。
・・・・・此処の奴等は元より意地汚く星を稼ぐ連中だ、そのあたりは昔とまったく変わっていない、だが今は見事に<悪い方の疑念>の性質に支配されさらに酷い状況になっている。
周りの人間に星を奪われないかびくびくした状態で人々は疑念を更にばら撒いていた。いつも通りと言えばまあいつも通りなのだろうが、どのみちこいつは酷い。別に何も話しかけてすらいないのにいきなり「やめろー!!」とか言ってくる。うざかったのでとりあえずS・B・S(シューティングバレットスター)打ち込んだら喜んでた。キモかった。
「中央街は案外広い、全体がこんな調子じゃ面倒極まりないだろうな」
「しかし・・・本当にここにダウトがいるんですね・・・」
「確実にな、既に疑念だらけだ」
「仲間だから居場所がわかる・・・あながち間違いではないのかもしれませんね」
「キャハハハハ!あんなのが仲間?嫌でも思いたくないわね!!あいつはミトラ様を愚弄したのよ?」
笑ってはいるが全力で否定する信仰心の思念、そこまで疑念の思念が嫌いなんだろうか、まあ口ではいくらでも言える、本心だとそんなに嫌って無いのかもしれん。
ついでに一つ言っておくと俺は平和の思念が嫌いだ、本心から。とにかく本心から。
「おいお前!さっきから何みてんだよ!」
「お前も俺の星を狙ってるんだろ!!や、やらねえぞ!ここここれは俺の星だ!」
・・・・・やっぱこいつらもう亡者になろうがなかろうが変わりないんじゃないのかコレ。むしろ亡者のが扱い容易だったぞコレ。
「やっぱめんどいなこいつら・・・」
「私が出ます」
ミトラ=クルスが奴等の前に出ると、奴等の言葉の雨には耳を貸さず、背中の巨大な十字架を持ち出した。その十字架を軽く上に掲げ、すぐさま地面にストンと突き立てた。
俺には何が起こったのかイマイチ分からなかったのだが、突き立てた瞬間に大人しくなるうっさい(正確にはうっさかった)人間2人。何をした。一体何をしたのだミトラ=クルスよ。
「星は独占するものではありませんよ、人と手を取り合い、共に分かち合って手に入れるものです。分つ心とは慈悲、そのような肩身の狭い行いをしてはあなた方の世界は永遠に小さいままです、もっと周りを見なさい、あなた方の視野はそれだけで広がってくれるはずです、自分正義ではなく、もっと色んな物に関心を持ち、その者、もしくは物の心を知る事です。その(以下略)」
何をしたのかはさっぱり不明だが、さっきまで☆★言ってた奴等は涙を流しながらミトラの話を深く聞いていた、ついでに信仰心の思念も聞いていた。




恐るべし・・・!!ミトラ教・・・!!!





やがてミトラの長話は終わり、さっきの連中は超さわやかな笑顔で中央街の闇に消えていった、恐るべし・・・!!ミトラ教・・・!!!・・・・・・・二度目!
「さて、すみません待たせてしまって、それでは行きましょうか」
「キャハハハハハ!!今回も素晴らしかったですミトラ様!!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・いい話でした・・・」
「お前もかよ!!」
無駄な道草を食わされたせいでかなり時間をとられてしまったが、俺達は改めて杭柱の捜索を始めた。中央街はただでさえ広いのと、杭柱の影響を受けたアクティブに疑念を撒き散らす変なのが多いせいでかく乱させられてしまい、捜索は困難を極めた。途中、タワーから「ダウトォ!!」という声がした、おそらくトランプの方。
何も無いのはあまりに苦痛なのでさっき気になった事を聞いてみる。
「おい、慈悲の思念」
「はい?なんですか?」
「その十字架なんぞ?」
「これですか?」
「それ以外に無いだろ、なんか地面にドーンってやったらバーンってなってあいつらシャキーンってなったように見えたんだが」
「これは<哀れみの十字架>、私の肉体の一部であり、これを地面に突き立てると周辺の争う心をかき消してくれるんです、思念体には効きませんけどね、あっ」
説明中に手が滑ったのか十字架は重い音を立てて地面に転がる、それと同時に周囲のうるさいのがまたおとなしくなる、突き立てずとも地面に転がりさえすれば効果あるのかコレは。謎い。
「おい、肉体の一部そんなガサツな扱いで大丈夫か?」
大丈夫だ、問題ない
なんか顔が一瞬濃くなったような錯覚を見た気がしたが大丈夫だ問題ない。
とりあえず妙に興味を持ってしまい手にとってみたくなったので十字架に手を伸ばし、軽く拾い上げた。さっきの音と見た目に反してすごく軽いのだが、それ以上は特に仕組みも何もわからんから結局すぐさま返す事にした。
「いけませんよイハンさん、これは慈悲の無い人が持・・・・・ん・・・・ん!!?」
「どうした、傷でも入ったのか、言っとくが落としたお前が悪い」
「あ、いえ、何でもないです、気にしないでください」
「変な奴だな」
よくわからない反応をする慈悲の思念体を尻目に俺はずいずいと先々と進む。いや、奴らが遅いんだ、今までは俺が奴らの歩幅に合わせてたんだ、つまりそういうことだ。いや足無いけど。
ちなみに信仰心の思念体はすこぶる速く、俺のスピードに容易くついてくる。足あるのに。



しかし何だろうか。



何か、これまでにないほど




嫌な予感がする。

「ミトラさん、さっきの驚きよう、どうかなさったのですか?」
「哀れみの十字架は慈悲を持たぬ者を弾き飛ばすのです、それに関しては思念体であれお構い無しなのですが・・・」
「違反の思念であるイハンさんが持っても反応が無かった、と」
「どういうことでしょうか・・・?」
「まあ、イハンさんはどうやら普通の思念体とは少し違うみたいなので、詳細はお教えできませんが」
「普通とは違う・・・?」
「とりあえずですが『十字架を持てたということはイハンさんにも少なからず慈悲がある』と思っておいて解決させた方が良いでしょう」
「うーん・・・そう思っておきます」
「・・・・・・・・あれ、イハンさんは?」
「ミトラもいませんね・・・・・」
「参りましたね・・・疑念の性質が散乱しすぎていて他の性質が感じ取れません・・・」
「仕方がありませんね・・・こちらはこちらで探しておく事にしましょう」

「あれ?ミトラ様は?」
「遅すぎるから置いてきた」
「えー」
「まあ大丈夫だろ、たぶんきっとおそらく」
「大問題だ」
「しかしお前、随分探すのに乗り気だな、疑念の思念はお前にとっちゃ嫌いな奴じゃなかったのか?」
「嫌いだよ?ミトラ様を侮辱したんだもん。いや、最近はそんな事も無いし極端に嫌いでもないんだけどさ?」
「どっちだよ、嫌いにしたってお前随分楽しそうじゃねえか」
「キャハハハハ!私決めたんだよ、あいつの封印解いたら無条件で<断罪>してやるんだ!!」
「なにそれたのしそうおれもまぜてください」
やっぱりニヨニヨしてはいるが、案外話の分かる奴で心の何処かで安心した、結局疑念の思念をどう料理するかで盛り上がってしまい、なんか約二人程の事が記憶から飛んでいる気がしたがまあ別に今はどうでも良かった。
てかそれらがいないおかげで重荷が取れた感じがして自分のペースで杭柱を捜索できる。信仰心は足があり、一般の思念体に多く見られる浮遊能力は有していないにもかかわらず、息一つ切らす事無く俺のペースについて来ている。
それ故にあの<ダブルオブジェクト>級に気にかける必要は無いから尚更行動がしやすい。
どうやら今まで俺が信仰心の思念に対して抱いていたモノは偏見だったらしい。まあ、笑うと怖いのは確定事項なのだが。
だがその辺の問題はともかく、この中央街、見た目の同じようなビルが何本も立ち並んでいるために自分たちが何処を移動しているのかわからなくなるのがしょっちゅうある。
唯一目印として機能するはてなタワーの存在が唯一の頼りである。それでも自分の大まかな位置ぐらいしかわからないため不便なのは変わらない。そのため。
「・・・・・あれ、ここってさっきも来なかったか?」
「そうだっけ?キャハハハハ!」
という現象が起こりかねない。てかもう時既に手遅れ。軽く【迷いの森】状態であるために捜索は今までの比にならないほど熾烈を極める。正直めんどい。嗚呼めんどい。




「・・・ヴィヤズさん・・・!!」
「・・・今まで姿を見せなかったのに・・・!!何故あなたが今此処に・・・?」
「僕が僕の好きに動いて何かおかしい所でもあるのかい?僕はただ器の中身を取り出しにきただけ、とある人物に頼まれてね。さらにイハンが此処に赴いてるそうじゃないか、好都合な事に別行動までとってくれてさ、君をイハンの隣に置いておくと、何かと面倒だから、ついでに君たちにはそこで屈しておいてもらうよ?」
「くっ・・・!!」
「・・・・・・・・・随分遅いと思えば・・・貴様、何を遊んでいる?」
「遅い?君の感性は実に不思議だな、<プロト=フィロソフィア>。君はもう少し我慢強さを養った方がいい、まだ1分47秒しか経っていないじゃないか」
「貴様等が何やら仕出かしているから、この私の壮大なる研究意欲が掻き立てられてね、いてもたってもいられないのだよ」
「せめて君の中古作品(アンティーク)を引き出すまで待つ事はできないのかい」
「研究者の1秒とは貴重なのだ、貴様を待っていてはいずれ日が暮れてしまう」
「君のそれはただ落ち着きが無いだけだ、カップラーメンすらまだ出来てない」
「ああいえばこう言う、まあいい、ところで貴様がさっきまで遊んでいたそこに転がってる粗大ゴミ共は何だ?」
「これはこちらの用件だ、しかし君の興味さえあれば、持ち帰ってもいいんじゃないか?」
「・・・・・!!」
「中々興味深いが、このようなものは後回しだ、今はこの私の作品を回収するのが先決ではないのか?」
「おっと、君が話を逸らすから本来の趣向を忘れていたよ」
「この私に責任があると言うのか?」
「さあ?どうだか?」
「・・・・・」
「君の作品は僕が回収する、君はとっとと帰れ、そしておとなしくしていろ」
「チッ・・・・・」




「ねえ」
「なんぞ?」
「やっぱミトラ様を探しに行った方がいいんじゃないかな」
「今更だな、どうせ向こうは向こうで動いているだろうし、探すのは困難だろ、それはもう杭柱以上に」
「それはそうだけどさぁ?」
笑っているのに変わりは無い、だが次第にその表情に不安が募っているのがわかる。
それにしても、一応はてなタワーを渦巻き状に外周するようにザックリと見て回ったハズなのだが。


無い。


杭柱が何処にも見当たらない。手探りとなるとここまで見つからないものなのだろうか。
「おい、疑念の思念そのものの気配はわからないのか、図書館からこの地域を当てたみたいに」
「キャハハハハ、そこまではわかんないわよ、私だってなんでわかんのかさっぱりだもん」
ダメだこいつ。
「でもさ」
「ん?」
「今までと比べたらやたらと範囲が広すぎない?今まで、と言っても私が向かったのは一回だけだけど」
「杭柱の影響下に置かれるのは杭柱がぶっ刺さってる地域全土だろう、中央街は特別広いからな、特におかしい事は無いはずだが」
「あれ?そうだったっけ?」
「・・・・・どういう事だ?」
「うーん、私がミトラ様を助けた場所は全体が変じゃあなかったんだけどなあ、キャハハハハ」
え、なんだそれ、聞いてないぞそんなの。
「同じ町の中でもミトラ様の影響で<優しくなり過ぎてる人>と<それを見て引いてる人>がいたのよ、ミトラ様の力が全土に及んでいるなら人を見て引いたりしないじゃない?何せミトラ様の性質だし、キャハハハハ」
我慢の思念と嘘の思念が追いかけるのに精一杯という速度で走っていたと聞いたが、こいつそんな所まで観察していたのか、慈悲の思念といいこいつといい、なんというか教会組が末恐ろしく思えてきた。
いや今はそれよりも。
「信仰心の思念ー!!お前なんでそんな大事な事黙ってやがったーーーー!!!」
まずはこいつを責め立てるべく、奴の両肩を掴みぐいんぐいんとシェイキングしまくる。貴重な情報を報告しないとは、ゆるすまじ。
「きゃーはーはーはーはー、だああぁぁぁぁぁってぇぇぇぇぇぇとぉぉぉくに重よよおおぉぉぉぉぉぉぉじゃなあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいと思ぉぉぉぉぉぉぉってたしぃぃぃぃぃ第一ぃぃぃぃぃぃぃぃ・・・・・・・・・」
とりあえず脳みそMIXを解いた。
「・・・・・第一?」
「知ってると思ってた」
「・・・・・・・・・・・・」
おそらく、俺が向かった場所でも地域内での範囲外はあった気がする。翌々考えてみたら疲労の思念の領域とか特に。
これは完全に俺の観察力不足じゃねえか。不覚を取った。
「つまり・・・中央街全域を覆える効果範囲を生み出せる・・・・何だ?」
「キャハハハ・・・は?いや分からないの」
「ちょっとまて、いきなり話が進展しては整理が追いつかん、俺はバカでなければ天才でもないのだ、考える時間はほしい。流石に」
「でもその・・・『こうちゅう』・・・だっけ、何にしたって思念体の性質はそっからでてるんだよね?いつもより強力な毒電波でも出てるんじゃない?」
「毒でんぱ・・・・・デンパ・・・・・電波・・・・・?」
なんか出てきそうで俺は同じ単語を延々と呟く、その様子を信仰心の思念は黙々と見たり、時々つっついてきたり、例のごとく笑ったり。
気付いてはいたが俺はそれに一切反応は示さなかった。むしろもうちょっとで答え出そうなのに邪魔しないでほしい。
そして俺は過去に起こった一つの光景を思い出す。



<-亡者異変->



はてなタワー禁断の1000階。




俺はその場には赴かず、<オリジナル>との血湧き肉踊る決戦を望んだバンレンジャンカオスの好きにさせてやった。




しばらくして突如突風が吹いたかと思うと、空から瞬いた白銀の粒子、その粒子は中央街全土に降り注ぎ、亡者達を元ある姿へと戻す。




それはバンレンジャンカオスの敗北。




解は出た。



「信仰心!今すぐはてなタワーに向かうぞ!!」
「うわ!ビックリした!!いきなり何なの!!?」
聞く耳は持たない。奴の手を強引に引っ張り、俺は俺の出せるスピードでタワーに向かった。たぶん引きずっているだろう。今はどうでもいいが。
亡者をこの世から抹消するために起動した<救世システム>、それはこの中央街の全土を飲み込み、この地に蔓延る全ての亡者は消えうせた。
そう、範囲は<中央街全土>、仮に思念体の持つ性質が同じ、もしくは似たような原理でばら撒かれているのなら場所はそこだ。
てかそんなのただの推測でしかなく若干こじ付けすら混じっている。実際はここまで探してないんだからもうあそこにあって下さいお願いしますという願望の方がより強烈だ。マジで。



タワーへはあっという間に着いた、俺がもてる全速力だ、当然といえば当然だろう。信仰心の思念は無理に引っ張ったせいで足が傷だらけだった。そういや足あったんだったこいつ。
「あんたね・・・一体なんのつもり――」
「此処に杭柱がある」
「・・・・・マジで?」
「マジだ」
実際は確証は無い。
「でもミトラ様達と合流したほうがいいんじゃない?」
「ならばお前はそこで自分が此処にいる事を知らせる狼煙に代わるものをあげておけ、俺は塔の外側から最上階まで突っ切る。合流したら最上階まで上って来い」
「え?こんな高いの上るの・・・?」
「・・・・・たぶんエレベーターはある・・・・たぶん」
とりあえず曖昧に返答してすぐさま俺はタワーの外壁に沿って真っ直ぐに上へ飛び出した。本当は特に<いてもいなくても変わらない>ようなあいつらを待っていても良かったのだが、<嫌な予感>がそうはさせない。
雲を突き抜けても、さらに上を目指す。それにしてもこんな高すぎるタワー、どうやって建ってるんだ?風吹いただけで一撃だと思うのだが。









「・・・・・」
上部にどれだけ上ろうが紅の空は延々と続き、目に刺さる。さらに嵐にも似たような突風が吹きつけ、到達までに困難を極めたが、かろうじて目的地へと到着した。どのみち、中から攻めるよりは確実にこちらの方が速い。俺的には。
はてなタワー999階の上に聳え立つドーム状の物体。俺はその窓ガラスを突き破って中へと進入する。それと同時に割った窓ガラスから強烈な風が入ってくる。


見つけた。



ダウト=ディストラストが封印された思念思想の杭柱。



どうやら推測は的中したらしい。ドンピシャだった。



あとはこれを破壊すればいい。












「やはり、来たんだね」

突如背後から声が聞こえて、自然にその方向へと振り返っていた。
この声には覚えがある。




「アズゥ=ブラックフェザー・・・・・!!」
俺の<違反>を利用して世界をわけのわからん状態にした張本人がそこにいた。
「やれやれ、少々寄り道をしてしまってね、これならプロトの言うとおり、少し遅かったって事か、君に先を越されるなんて」
「何をしにきた・・・!!此処に何をしにきた!!!!」
「おお怖い怖い、君は相変わらず声がデカいね、そんなに声を荒げなくったって、聞こえてるよ?」
「質問に答えろ・・・・!!」
「・・・・・探求心の思念、プロト=フィロソフィアのご要望だ、せっかくその柱に入れた器だけど、僕が直々に回収する事になった、中にいる疑念の思念体を。彼女が言うには、疑念の思念とは彼女の作品らしい」
アズゥは足音も無くこちらにじりじりとにじり寄ってくる。
「悪いが、今回の標的は君じゃない、そこをどけ。そしてその中に眠る疑念の思念を明け渡せ。そうすれば君には危害を加えるつもりは無い。今はね。」
俺は一切動かない。力の差は歴然。それは前回思い知った事だ。だが、こいつには負けたくなかった。こいつの言う通りにするのは、俺自身が許さない。
「・・・・・、抗うか、違反の思念体、君はもう少し話の分かる奴だと思ったが、残念でならない」
アズゥの口調が変わった気がするのと同時にうっすらと目を開いたのが見えた、俺はその目を見てゾクッっとした。あまり認めたくは無い、だが俺が今抱いている感情。



恐怖。



「行くよ・・・!!」
掛け声と同時にこっちに突っ込んでくるアズゥ、俺は瞬時に身構える、が。
「な!?」
アズゥは俺など眼中に無いかの如く俺を通り過ぎて柱の方へと直進していった、そういえばそうだった。こいつの目的は柱の中に封印された奴を奪う事。自分で入れたクセに。
俺はすぐさま奴を追いかけるように飛ぶ。スピードだけなら辛うじて俺のほうが上だったため、追いつくのは容易だった。しかしアズゥの動きを止めようにもおそらく俺の攻撃は襲撃時と同じく回避される。
追いついたはいいが、【アズゥを止めるのは不可能】、そう断定した。ならば・・・・・
「ネガティブウォール!!!」
自らの動きを止めてそう叫ぶと柱を囲うように黒い壁が複数現れる。やはり自分が思ったモノよりデカい。だが今はそれで好都合だ。
アズゥは壁に覆われた柱の前で静止し、少しの沈黙の後こちらを向いた。
「・・・・・中々良い足掻きだ、だがこんな紙切れ程度で、破壊を防げると思っているのか?」
どんな自信だ、強化ネガティブウォールを紙切れ呼ばわりだと?
だが事実、強化されてるとはいえ壁程度ではアズゥの攻撃に耐えられる可能性はほぼ無い。悔しいがそう断言できる。
「・・・まあ、いいか。図書館でも、ちゃんと君の相手はできてなかったし、そこまで構って欲しいのなら、相手をしてやらないと失礼だ。本来、目的だけ達成して帰還するハズだったのに、とんだ道草を食わされたものだね」
「・・・・・」


「「スター・・・・・!!」」





「クリエイト!!!」「リジェレート・・・!」
同時に星と作り出す事で開戦した、しかし精製はアズゥの方が圧倒的に早く、精製が完了した瞬間に星はこっちに高速で飛んで来る。
「っぶね・・!!」
こっちが仕掛けるスキが一向に無い。俺が1個作ってる間に奴は4、5個程精製してくる。しかも精製から発射までのラグが無い。
最初からこっちが不利になってしまった。
咄嗟にネガティブウォールを作り出し、防護陣営を張る。身を隠しての銃撃戦がしばらく続いたが、あからさま連射量の違いで戦況は結局俺が不利なままだ。流れ弾によって割れた窓から強烈な風が押し寄せる。聞こえるのは星の射出音と風の音のみ、戦場と化したこの場に妙な緊張が走る、最も、緊張しているのは俺だけだろう。壁から少し身を覗かせ、アズゥの表情を伺う、奴はは余裕の表情を浮かべていた。
「いつまでそうやって隠れてるつもりだい?」
アズゥがシビれをきらして話しかけてくる、今出るワケにはいかない、今出たら「殺せ」と言っているようなものだ。
「くっ・・・・・」
「やれやれ・・・かくれんぼにはもう飽きたよ、いい加減面倒だし、そろそろ炙り出してあげる」
「何・・・?」
「言っただろう?君が作り出す壁なんて、僕にはただの紙切れさ」
奴のマントの形状が変化し、渦を巻いた形態に変貌する。そしてその渦状の形態をしたマントから【何か】が射出された。
「・・・・グリーンスター・・・?」
しかし妙に威力が弱い印象を受けた、スピードもさっきまで放ってた普通の星と比べると明らか遅い。その星は力無くネガティブウォールに突き刺さった。大それた事を言い放ったわりには随分拍子抜けさせられたものだ。が。

アズゥは不敵な笑みを浮かべた。その笑みから俺は察知した。


『コレはヤバイ』


すぐさま自分がもたれ掛かっていた壁から離れるも、少し気付くのが遅すぎた。
奴の放ったグリーンスターは突如として大爆発。俺はその爆風に巻き込まれ、タワーの壁に叩きつけられた。
爆発をモロに喰らったネガティブウォールは破壊はされてなかった。しかし、<壊れた形跡が無いだけ>、ネガティブウォールは壁とは言い難い程妙に歪な形にひん曲がっていた。俺がまともに喰らってたらどうなっていたか、あまり想像したくない。
「やっと出てきたね、いつまでサバゲーやってるつもりだったんだい?」
「チッ・・・」
俺は再びアズゥと対峙する、結局小細工も通用しない。サバゲーが何かわからないのだが。
「少しは楽しめるようになったかと思って相手してあげたんだけどなあ、全く成長していない、君に費やした僕の時間、返してくれない?」
「まだだ!!まだ終わってねえ!!」
「でもねえ・・・そんな小細工ばっかじゃ本当に日が暮れてしまう。それに、君自身、今の爆発<だけ>で相当な痛手を負ったハズだ。必然的にもう終わってるんだよ」
奴はそう言いながら既に柱に向かって進んでいる。



「!?」
どうにか力を振り絞り、悪足掻きとも言えるスターガンを奴に打ち込む。奴の羽織るマントによって簡単に切り刻まれたが、奴の視線はまたこちらに切り替わる。
「・・・・・すまなかったねイハン」
「・・・どういうつもりだ・・・!?」
「僕はさっき、君の事を全く成長していない、そう言ったね」
「・・・・・」
「しかしアレはどうやら間違いだったらしい、そうだね、イハン。君は以前と比べたら・・・」








「よりいっそう往生際が悪くなった、うざったいほどにね・・・・!!!」
奴は今まで開かなかった眼を完全に見開き、紅く鋭い眼光を此方に向けて来る、奴はさっきまで遊んでいるに過ぎなかった。
だがこれは違う、奴が纏っている覇気は今までと全く比べ物にならない。本気で抹殺するつもりだ。しつこいのは地雷だったか・・・?
奴の前方に黒い瘴気が集結し、一握り程度の凝固体を精製していた。此処何度かソレと同じものを見ているので奴が作り出そうとしているものが何かはすぐに把握した。


破壊弾。


破壊光線が撃てるならこっちも使えるだろうと考えるのが妥当か。どうにかしなければ俺が消し飛ぶ。だがどうしようもできない。打ち所が悪かったのか視界がぼやけて来てまともに動けない。死ぬ、やばい、死ぬ。
「フフフフフ・・・・フッハッハッハッハ!!」
突如けたたましい笑い声をあげるアズゥ、やべえぞこいつ、あからさま正気じゃない。
「やはり君は僕の障害にしかならない!!昔からそうだ!!!君と平和の思念が常に僕の障害となり続けて・・・悉く、悉く、悉く、悉く、悉く、悉く、いつも、いつも、いつも!いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも!!!!!!!」
「昔から・・・?お前は何を言っている!?」
これは完全に危ないスイッチを踏んでしまった。足無いけど・・・なんて今は言っている場合では無い!!対策は無いのか!!
ネガティブウォール・・・おそらく何十に重ねても防ぎきれない。破壊弾の威力は俺が既に保証済みだ。
ベクトルアウト・・・破壊弾は着弾すれば破裂する、ベクトルアウトの発動条件は『対象に触れる事』、対象が破壊弾そのものなら自爆しに行くようなものだ。爆風ならたぶん腕だけが無傷になる。つまりあんま意味無い。


無い。


「消えなよ!!!イハン=メモラー!!!!!」
「ちっくしょおおおおおおおおお!!!」

奴から放たれた破壊弾は俺のすぐ傍の床に着弾した、その爆風によりドームの窓は全て割れて一部は窓枠ごと吹っ飛んだ、屋根は消し飛び、俺自身の違反によって紅に染まった空が一望できる。







「消滅したら見れねえ光景だな・・・・」










「ええ、なんとか・・・間に合いました・・・・・!!」


俺の眼前には



開いた傘を構えるボロボロの平和の思念がいた。今の攻撃を防いだ影響からか、調整したばかりの傘がまたエラい事になってる。それに何故既にボロボロなんだ。
「良かった!!なんとか間に合いました!!」
「キャハハハハ!イハン何やってんの?」
全くこっちは死にかけたっていうのに信仰心は相変わらずだ、さほど時間は経っていないハズなのにこの声が懐かしく感じる。
「・・・・また僕の邪魔をするのか・・・!またそうやって僕の前に立ちふさがるのか・・?!!」
「・・・イハンさん、なにやら彼の挙動が・・・」
「ああ、いきなりああなった、最初は悪足掻きにキレたと思ったんだが・・・そうでは無いらしい、俺と平和の思念が昔から邪魔してくるとかワケのわからん事を言い放ってくる」
「昔から・・・?とにかく彼の挙動と発言もそうですが、もう一つ、妙な事が・・・」
「妙・・・?」
「今の彼、心が完全に空白です」
「それは例の心の声が聞こえるってヤツか?空白ってどういう事だ、昔が何とか言ってるのにそのビジョンも何もないのか!?」
「おそらく・・・彼の発言は彼の本心では無い・・・って事では?憶測ですが・・・」
「つまり?『アイツが放った発言はアイツの発言では無い』と?意味がサッパリだ」
「あ!」
ミトラが叫んだ事で俺達の会話は中断させられる、奴は何かに対して指を差している。その先にはダウト=ディストラストの姿があった、さっきの爆発が囲っていた壁もろとも柱を粉砕したのだろう、最悪のタイミングだ。
「何がどうなっているんだ・・・?」
その声に反応して我に返ったのか、アズゥはハッとした表情でダウトに視線を向ける。
「ダウト!!逃げて下さい!!」
「!?・・・・くっ・・・・・!!」
「もう遅いよ・・・!!」
ダウトはミトラの声を聞き、咄嗟に飛び出す。
屋根が無くなった事でさらに広々としたドームを二体の思念が翔る、がその距離は確実に詰められていった。
そして観念したのか、俺達の前方付近で制止し、アズゥもゆっくりと接近する。
「落ち着きの無い研究者様がシビレを切らしてお待ちかねなんだ、待つのが嫌なら自分で回収すればいいものをねえ?」
アズゥはいつも通り、あの落ち着いた感じのアレに戻っている。一歩でも動けば標準がこちらに向いてきそうだ。
「研究者・・・だと・・・!?まさか、またあいつが俺を!!?ふざけるな!あいつは断じて研究者などではない!!!」
「それは本人に会ってから直接彼女に言ってくれ、僕に言われたって答えようが無いよ」
そう言い放つと奴のマントは無数の鋭い形状に変化し、疑念の思念に対して真っ直ぐに伸びて行った。そして・・・


「・・・・・ッぐ!!」
奴のマントは肉体に深々と突き刺さり鮮血が流れ落ちる。


あまりの光景に俺は言葉が出ない。


そう、それはあまりに『予想外』。


奴に刺されたのは平和の思念だった。
「見くびっていたよ、君にまだそこまで動ける体力が残っていたなんて。いや、回復技でも使用したのかな?惜しい事をしたよ、プロトが来るまでは、完全に消し去るつもりだったのに、まあ・・・・・」
平和の思念はまだギリギリ意識はあるようだが、かなりぐったりしている。
「結果としてはコレで良い、って所かな?それでも従来の目的からは外れてるけどね」
「貴様・・・!!」
まただ。
またこの感情。
嫉妬の思念のときと同じ、ドス黒い衝動。
平和の思念には念を押されている、この衝動に飲まれそうになった時は意地でも自我を保つようにと。
俺は必死に抑えた、決して平和の思念の念押しを素直に遂行しているワケではない、この力は危険だ、自分でもわかるくらいに。
「さて、このガラクタ、どうしようか」
奴はマントに刺さったままの平和の思念を躊躇など一切せず振り回す。
「貴様・・・!何を・・・!!」
「何って、ガラクタぐらいどう扱ってもいいだろう、それともガラクタ扱いして怒ってる?<どこかの誰かさん>は確か粗大ゴミって言ってたねえ?」
「ッ貴様ァアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


平和の思念、



<すまん>、抑えるのは、俺の器じゃ無理。





――




「!!」
此処は何だ!?俺はどうなっている!?
気が付くと眼前でアズゥが傷だらけで立っている、その上息も上がっているようだ、何があったのかさっぱりわからないが、意識が飛んでからあまり時間が経ってないのは理解した。
だが俺はある事に気が付く、体が動かない。俺としての自我は蘇っているのに体が一切言う事をきかない。
「破壊光線・・・・」
「また、破壊光線・・・・?」
「砕破!!」
俺が地面に拳を叩きつけると地面から無数の破壊光線が連なって射出される。最も、俺自身は全く動いてないし喋っていない。
今の俺は俺であり、俺ではない、完全に自我とは別の意識として孤立している。
それにアズゥの言動が意味不明だ、何があったのか、『助けて』しか言ってない。
「突然強くなったかと思って一瞬焦ったけど・・・」
アズゥは軽やかにソレを回避するとマントを鋭利な形態に変換させて突撃してきた、ソレを俺は両腕で受け止める。無論俺の意思とは全く関係が無い。
「だけど・・・!君の動きは極端、単調に僕という標的に対して攻撃してくるだけ、スピードに追いつけなくても、それさえわかれば回避は簡単だ。まあ君にはこの言葉すら『助けて』にしか聞こえないみたいだけどね!!」
「・・・貴様は一 いや少しいやその身 ち果てるまでの痛みを知った方がいい」
その瞬間、背中に気色の悪い感触を覚える、その感触の正体は痛々しい音と共にすぐに眼前に姿を現した。

腕だった、背中、いや既に体中から腕が袖ごと生えている。さらにその腕から連なってまた腕が生えてくる。アズゥは抵抗しようともがいているがさっき突撃した際の刺突形態のマントを俺は全く離さず、アズゥは成す術無くその腕に拘束された。
まさに文字通り、既に俺は俺ではない・・・これではまるで・・・・・
「フフ・・フフフフフ・・・化け物め・・・・・」
奴がまた『助けて』と呟いたタイミングで服のジッパーが開く、生々しい牙が見える時点で既にそれはジッパーでも服でもなんでもない、大口開けたただの化け物だ。
『助けて、助けて、助けて、助けて、助けて助けて助けて助けて――』
「・・・・・お前は何に助けを びているのだろうな・・・」
大口から漆黒の物体が何本も出現し、その一つ一つが確実にアズゥの肉体を貫く。
よほどの苦痛なのか、さすがのアズゥでも表情が少し歪んでいて、今にも叫びだしそうだが必死に堪えているのが分かる。
俺はこの状況を見て優越感に浸っていた。奴は平和の思念をメッタ刺しにし、そして今は奴が同じ目にあっている。
心から思った、いい気味だと。
しかしそんな黒い感情がまた湧き上がった、その時だった――


「・・・ちょっと、調子乗りすぎだよなぁ?テメェ」
突如として目の前に現れた思念体は生えている腕を一瞬で全て殴りつけ、腕は千切れ落ちてしまった。
「アズゥ様、大丈夫ですか?」
「大丈夫に見える・・・?」
「・・・いいえ・・・」
「何をしにきた・・・」
「――決まってんじゃん、死にかけてるアズゥの救出作戦だよ」
「よく破壊せずに連れて来れたね・・・」
「3回は破壊した」
ヴァーサク、エンヴィー。アズゥ一味が揃ったと思ったらまた新手の思念体が空から飛来した。他の奴と比べるとあからさまにふざけている。
そしてまた、あの気色の悪い感覚が再来する、腕を千切られたのにまた新たな腕が生えてきてアズゥを捕らえようとする。
「・・・・・ほい」
仕掛けてきたのは例のふざけた思念、奴が投げつけた光剣が刺さると同時に俺は全く身動きしなくなった。
「それね、刺した奴の動きをちょびっと封じ込めるんだ、どんな強力な奴でもね」
「無駄だ<九十九>、今の彼に言葉は通用しないよ・・・」
「あ、そうなの、せっかく説明したのに、残念でならんな」
「アズゥ様、早く逃げましょう」
「何言ってんだお前、外野はどうって事なさそうだし、今の奴は動けねぇんだろ?ブッ壊すには丁度いいじゃねえか」
「これだから脳筋もりもりマッチョは・・・」
「誰が脳筋もりもりだバカ」
「あー、もうこの際バカでいいや、考えてみなよ、アズゥが挑んで勝てない相手だ。それにこの、なんだっけ、<光のナントカ剣>はほんとちょびっとしか止められないし、集団で挑もうが勝てないね」
「テメェには一言も聞いてねえ、今まで散々好き勝手して口答えすんじゃねぇよバカ」
「・・・いや、九十九の言っている事はあながち間違いでは無い・・・ここは引こう」
「チッ・・・」
「それに・・・引いた方が、おもしろいかもしれないしね・・・」
散々の激しい<耳鳴り>を聞いた後、奴等はアズゥと連れて空へと消えた。
すると今まで背後で立ち尽くしていた疑念の思念が声を上げる。
「奴らの後を追う・・・」
「いけません・・・!!」
「何故だ!?」
「彼らはあまりに危険です、それにあちら側にはあなたの言う研究者もいるのでしょう・・・!?」
「クッ・・・」
「そうだねえ、シスターさんの判断は正しいと思うな、うん」
まだ残っている思念体がいた、あのふざけたカエルっぽい思念だ。バナナを貪っている。
「ちなみに私はバナナおやつに入らない派です。」
「どうでもいい」
「あなたは、あの方達のお仲間ではないのですか?」
「そうだといえばそうだし、違うと言えば違う」
「曖昧な奴ねぇ・・・」
「・・・・どうやら、嘘はついていないようだが・・・」
「・・・ん?なんぞこれ」
「ヴィヤズさん・・・!!」
「ああ、このペラいの、君らの友達?」
「アズゥになんかされちゃったかー、うん。まあいいや、これ没収ね」
「何!?」
何を考えているのか、こいつは平和の思念を担ぎ始める、奴自身小振りなので少しよろめいている。
「イハンはこの会話聞こえてないんだっけ?じゃあイハンに伝えといてよ。『お友達返して欲しかったら、思念思想の杭柱全部ぶっ壊してこの中央街の地下、亡者異変でできてそのまんまの大空洞に来い』ってね、この下、といってもここ上空だしもっと下の下の地下なんだけど。そこ、僕らの本拠地なんだよね」
「本拠地まで言ってしまって・・・あなたは・・・何を目論んでいるのですか!!?ヴィヤズさんをどうするつもりですか!!?」
「そんなの簡単な理由だよ、その方が面白いから。それ以外の理由はたぶん無い。・・・・・ああそうだ、言っとくけど、杭柱壊さないと君らは入れないようになってるんだよ、ご都合主義って便利なもんだねー、まあソコントコヨロシク。おっとそろそろ効果が消えるな、じゃ、伝言、任せたよ!!<生きていればね>!!!」
「何だと・・・?」
「生きていれば・・・って・・・まさか・・・」
奴が空へと消えていくと同時に光剣が消滅し、俺は、ゆっくりと背後にいた思念体達へと視線を移す。既に予想は付いていた、止めようと試みた。



だが、止まる事は、無い。



「マズいな・・・来るぞ・・・!!!」
無数の腕が奴らに対して伸びていく、止める事はできない。



だれでもいい




俺を止めろ・・・・・・!!!











「ったくよォ、今日はとっとと寝床に就く予定だったってのによォ・・・」
「ふん、こちとら老体に鞭うっとると言うのに、わざわざ此処まで赴いたのじゃぞ?」
「「覚悟しろよ!!?イハン!!!」」


ガルテスとヴィグレイマ、帰ったハズのこいつらが何故此処にいるのか、あと何故状況既に知ってるのか、謎で仕方ない、だが今はどうでもいい。


もうこいつらに頼るしかない!!

ガルテスが思念体3体を紙にして懐に入れる。
すると奴らは迫り来る無数の腕に向かって走り出した!!

ガルテスは瞬間移動も駆使し、襲い来る腕を全て紙に変え、ヴィグレイマは一本引き千切った腕を媒体としてクローンを作り出し、動きを止めていく。
でも引き千切るのはあくまでも俺の腕だからいい気分ではない。
「ロクな休憩とってねえってのにこれは応えるなァ!!」
「何じゃ?もう降参か?」
「その言葉、そっくり返してやるぜェ!?」
「ふん、たわけ者めが」
喋る余裕すら見せる。こいつら、どんだけ超人なんだ、オッサンとジジイだってのに。でも残念ながら俺にはその内容が分からない。俺の耳には『肉』って単語と『魚』って単語が聞こえるだけだ。
だが、俺との距離は確実に狭まっている。


そして――






「破壊光線・・・」
「何!?」
「んだとォ!!?」
「虚無想!!!!」
やはりやられっぱなしでは無かった。俺が繰り出したまた今までとは別の破壊光線。2つのビットが精製され、ガルテスとヴィグレイマに容赦無く小型の破壊光線が放たれた。
「おいイハーン!!」
「あまり調子に乗るでないぞ・・・!!!」
『肉肉』『魚魚魚』・・・
奴らが今まで行ってきた行動が、虚無想の光線で阻害され、思うように動けなくなっていた。そして・・・
「ぐっ・・・!!」
「畜生!!」
二人は【腕】に捕らえられてしまう・・・
希望は潰えた・・・
違反の思念が希望とか随分と変な話だが・・・




「よおイハン!!!間近で対面ってなァ!!オメェなら捕らえた後引き込むと思ったぜェ?その大口で喰らうためになァ!!!ジジイ!!!さっさとしなァ!!!」
「それでも拘束されとる身だということくらいは考慮せんか!!!言われんでもやってやるわい!!!!」
奴らはコレを狙っていたのだろうか、この最も近づける瞬間を・・・!!
いやたぶん成り行きだろう、どうせ。
成り行きの方がこいつららしい。
ヴィグレイマは手の届く範囲まで引き寄せられると操符を俺に貼り付けてきた、一瞬意識が飛びそうな錯覚に陥ったが、言うほど効果はなかった。
「おいガルテス!!これはいかん!時間稼ぎにもならん!!」
「ちげぇなァ!!一瞬でもスキを作れたら上出来ってモンだぜェ!!?」
ガルテスは俺の頭を鷲づかみにする。
「オメェとは久々に戦ったが・・・!!初勝利は俺のモンみてえだぜェ・・・・!!?」

ああ、お前らの勝ちだ。

俺は朦朧とする意識の中でガルテスの声を聞き、

迫り来る暗闇の中で俺の意識は途絶えた。

















『「・・・・・あッ!!繋がったッス!おいちゃんら!無事ッスか!?」』
「あー声でけェんだよ、携帯ってこんな使いにきいんだなァ・・・、俺も俺の隣で地べたはいつくばってるジジイも無事じゃあねェ、だが成功はしたってトコだァ・・・」
『「そーッスかー、いやー良かったッス・・・」』
「良くねェ!」
『「しッ、失礼したッス・・・」』
「んで、だ。どうすりゃいいんだァ?」
『「イハン=メモラーが、また目覚めないように注意して図書館まで来て欲しいッス」』
「・・・・・ん?オイテメェ、それは此処からものすごい距離があるの分かってほざくのか?」
『「申し訳n・・・あッ・・・・・あーもしもしー?ちょっくら電話代わらしてもらったぜー?」』
「んだァ?お前」
『「私はアーティア、<努力の思念、燐巌地・F・アーティア>だ、ルーツが渡したであろうその携帯を作ったのは私だよ、まだ試作だが、安定して機能してるなら良かった」』
「俺が知ってる携帯とはかなり違う気がするがなァ・・・形とか・・・色々なァ・・・」
『「それは、まあ、試作だからな!!、っといけねえ、話を戻すぜ?悪いがルーツが色々騒いでるもんだからな、ルーツが沈静したら、私達も図書館に直行するから、お前達に迎えを遣したり、私達が迎えに行く事もできねえ、そこは堪忍してくれ」』
「あァ・・・」
『「それと、念を押しておくが、館主、じゃねえやイハンは絶対復活させるな。ルーツが言うには暴走してたらしいじゃねえか、また暴れだしたらたまったもんじゃねえ」』
「今のイハンがヤベェ事ぐらいわかってるっての・・・、それに、この状態のイハンは過去に一度経験済みだぜェ。もういいか?伝える事がそれだけなら切るぞ?」
『「ああ、ワリィワリィ、後ルーツの言動が良くわからねえのも堪忍してくれ!私も時々わっかんねえ時があんだよ、んじゃあな!」』
「・・・って事だそうだぜェ?ヴィグレイマ・・・」
「電話の内容は貴様にしか分からん」
「図書館まで歩いて来い、だとよォ」
「・・・・・」
「なァ・・・ヴィグレイマ・・・」
「何じゃ・・・?」
「イハンの真似事とかじゃあねえんだがよォ・・・なんか、嫌な予感がするぜェ?」
「どうだかの・・・・・」




Ps-2 END