動手帳思念大戦 Ps-2 cp-3 光と闇の相乗

その事象は確立。 逃れる術は無い。

Ps-2 cp-3 闇と光の相乗



とりあえずはてなタワーの入り口付近に降り立つ、外は殺伐としているのだがタワーからは妙に楽しそうな声が響く。暢気なものだ、こっちは色々と走り回っているってのに。足無いけど。
聞こえてくる声からしてトランプでもやっているのだろうか、まあ<友好的>と言えば<有効的>な疑念の扱い方だ。もっとも、俺はばばぬきと大富豪、あとスピードしかやったことがないのでいまいちトランプはわからない。理由は普段トランプをやらない上にグリモアがそれしか知らないからだ。
しかしこのタワー、999階あるのだが上の階層埋まる程の人数がいるのだろうか。まあ正直タワーがどうとかは別にどうでもいい。別の問題があるからだ。
「亡者異変以降一度も此処には寄ってないのだが・・・」
俺は黙って前を見る、他の奴らもおそらく唖然としている。
「おい!何すんだよ!さては俺の星を奪おうって魂胆か?」
「だれがてめえの星なんかいるかよ!そういうお前が俺の星狙ってんじゃねえのか!?」
疑念は信頼と疑惑の間、その性質は良くも悪くもなる。
・・・・・此処の奴等は元より意地汚く星を稼ぐ連中だ、そのあたりは昔とまったく変わっていない、だが今は見事に<悪い方の疑念>の性質に支配されさらに酷い状況になっている。
周りの人間に星を奪われないかびくびくした状態で人々は疑念を更にばら撒いていた。いつも通りと言えばまあいつも通りなのだろうが、どのみちこいつは酷い。別に何も話しかけてすらいないのにいきなり「やめろー!!」とか言ってくる。うざかったのでとりあえずS・B・S(シューティングバレットスター)打ち込んだら喜んでた。キモかった。
「中央街は案外広い、全体がこんな調子じゃ面倒極まりないだろうな」
「しかし・・・本当にここにダウトがいるんですね・・・」
「確実にな、既に疑念だらけだ」
「仲間だから居場所がわかる・・・あながち間違いではないのかもしれませんね」
「キャハハハハ!あんなのが仲間?嫌でも思いたくないわね!!あいつはミトラ様を愚弄したのよ?」
笑ってはいるが全力で否定する信仰心の思念、そこまで疑念の思念が嫌いなんだろうか、まあ口ではいくらでも言える、本心だとそんなに嫌って無いのかもしれん。
ついでに一つ言っておくと俺は平和の思念が嫌いだ、本心から。とにかく本心から。
「おいお前!さっきから何みてんだよ!」
「お前も俺の星を狙ってるんだろ!!や、やらねえぞ!ここここれは俺の星だ!」
・・・・・やっぱこいつらもう亡者になろうがなかろうが変わりないんじゃないのかコレ。むしろ亡者のが扱い容易だったぞコレ。
「やっぱめんどいなこいつら・・・」
「私が出ます」
ミトラ=クルスが奴等の前に出ると、奴等の言葉の雨には耳を貸さず、背中の巨大な十字架を持ち出した。その十字架を軽く上に掲げ、すぐさま地面にストンと突き立てた。
俺には何が起こったのかイマイチ分からなかったのだが、突き立てた瞬間に大人しくなるうっさい(正確にはうっさかった)人間2人。何をした。一体何をしたのだミトラ=クルスよ。
「星は独占するものではありませんよ、人と手を取り合い、共に分かち合って手に入れるものです。分つ心とは慈悲、そのような肩身の狭い行いをしてはあなた方の世界は永遠に小さいままです、もっと周りを見なさい、あなた方の視野はそれだけで広がってくれるはずです、自分正義ではなく、もっと色んな物に関心を持ち、その者、もしくは物の心を知る事です。その(以下略)」
何をしたのかはさっぱり不明だが、さっきまで☆★言ってた奴等は涙を流しながらミトラの話を深く聞いていた、ついでに信仰心の思念も聞いていた。




恐るべし・・・!!ミトラ教・・・!!!





やがてミトラの長話は終わり、さっきの連中は超さわやかな笑顔で中央街の闇に消えていった、恐るべし・・・!!ミトラ教・・・!!!・・・・・・・二度目!
「さて、すみません待たせてしまって、それでは行きましょうか」
「キャハハハハハ!!今回も素晴らしかったですミトラ様!!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・いい話でした・・・」
「お前もかよ!!」
無駄な道草を食わされたせいでかなり時間をとられてしまったが、俺達は改めて杭柱の捜索を始めた。中央街はただでさえ広いのと、杭柱の影響を受けたアクティブに疑念を撒き散らす変なのが多いせいでかく乱させられてしまい、捜索は困難を極めた。途中、タワーから「ダウトォ!!」という声がした、おそらくトランプの方。
何も無いのはあまりに苦痛なのでさっき気になった事を聞いてみる。
「おい、慈悲の思念」
「はい?なんですか?」
「その十字架なんぞ?」
「これですか?」
「それ以外に無いだろ、なんか地面にドーンってやったらバーンってなってあいつらシャキーンってなったように見えたんだが」
「これは<哀れみの十字架>、私の肉体の一部であり、これを地面に突き立てると周辺の争う心をかき消してくれるんです、思念体には効きませんけどね、あっ」
説明中に手が滑ったのか十字架は重い音を立てて地面に転がる、それと同時に周囲のうるさいのがまたおとなしくなる、突き立てずとも地面に転がりさえすれば効果あるのかコレは。謎い。
「おい、肉体の一部そんなガサツな扱いで大丈夫か?」
大丈夫だ、問題ない
なんか顔が一瞬濃くなったような錯覚を見た気がしたが大丈夫だ問題ない。
とりあえず妙に興味を持ってしまい手にとってみたくなったので十字架に手を伸ばし、軽く拾い上げた。さっきの音と見た目に反してすごく軽いのだが、それ以上は特に仕組みも何もわからんから結局すぐさま返す事にした。
「いけませんよイハンさん、これは慈悲の無い人が持・・・・・ん・・・・ん!!?」
「どうした、傷でも入ったのか、言っとくが落としたお前が悪い」
「あ、いえ、何でもないです、気にしないでください」
「変な奴だな」
よくわからない反応をする慈悲の思念体を尻目に俺はずいずいと先々と進む。いや、奴らが遅いんだ、今までは俺が奴らの歩幅に合わせてたんだ、つまりそういうことだ。いや足無いけど。
ちなみに信仰心の思念体はすこぶる速く、俺のスピードに容易くついてくる。足あるのに。



しかし何だろうか。



何か、これまでにないほど




嫌な予感がする。

「ミトラさん、さっきの驚きよう、どうかなさったのですか?」
「哀れみの十字架は慈悲を持たぬ者を弾き飛ばすのです、それに関しては思念体であれお構い無しなのですが・・・」
「違反の思念であるイハンさんが持っても反応が無かった、と」
「どういうことでしょうか・・・?」
「まあ、イハンさんはどうやら普通の思念体とは少し違うみたいなので、詳細はお教えできませんが」
「普通とは違う・・・?」
「とりあえずですが『十字架を持てたということはイハンさんにも少なからず慈悲がある』と思っておいて解決させた方が良いでしょう」
「うーん・・・そう思っておきます」
「・・・・・・・・あれ、イハンさんは?」
「ミトラもいませんね・・・・・」
「参りましたね・・・疑念の性質が散乱しすぎていて他の性質が感じ取れません・・・」
「仕方がありませんね・・・こちらはこちらで探しておく事にしましょう」

「あれ?ミトラ様は?」
「遅すぎるから置いてきた」
「えー」
「まあ大丈夫だろ、たぶんきっとおそらく」
「大問題だ」
「しかしお前、随分探すのに乗り気だな、疑念の思念はお前にとっちゃ嫌いな奴じゃなかったのか?」
「嫌いだよ?ミトラ様を侮辱したんだもん。いや、最近はそんな事も無いし極端に嫌いでもないんだけどさ?」
「どっちだよ、嫌いにしたってお前随分楽しそうじゃねえか」
「キャハハハハ!私決めたんだよ、あいつの封印解いたら無条件で<断罪>してやるんだ!!」
「なにそれたのしそうおれもまぜてください」
やっぱりニヨニヨしてはいるが、案外話の分かる奴で心の何処かで安心した、結局疑念の思念をどう料理するかで盛り上がってしまい、なんか約二人程の事が記憶から飛んでいる気がしたがまあ別に今はどうでも良かった。
てかそれらがいないおかげで重荷が取れた感じがして自分のペースで杭柱を捜索できる。信仰心は足があり、一般の思念体に多く見られる浮遊能力は有していないにもかかわらず、息一つ切らす事無く俺のペースについて来ている。
それ故にあの<ダブルオブジェクト>級に気にかける必要は無いから尚更行動がしやすい。
どうやら今まで俺が信仰心の思念に対して抱いていたモノは偏見だったらしい。まあ、笑うと怖いのは確定事項なのだが。
だがその辺の問題はともかく、この中央街、見た目の同じようなビルが何本も立ち並んでいるために自分たちが何処を移動しているのかわからなくなるのがしょっちゅうある。
唯一目印として機能するはてなタワーの存在が唯一の頼りである。それでも自分の大まかな位置ぐらいしかわからないため不便なのは変わらない。そのため。
「・・・・・あれ、ここってさっきも来なかったか?」
「そうだっけ?キャハハハハ!」
という現象が起こりかねない。てかもう時既に手遅れ。軽く【迷いの森】状態であるために捜索は今までの比にならないほど熾烈を極める。正直めんどい。嗚呼めんどい。




「・・・ヴィヤズさん・・・!!」
「・・・今まで姿を見せなかったのに・・・!!何故あなたが今此処に・・・?」
「僕が僕の好きに動いて何かおかしい所でもあるのかい?僕はただ器の中身を取り出しにきただけ、とある人物に頼まれてね。さらにイハンが此処に赴いてるそうじゃないか、好都合な事に別行動までとってくれてさ、君をイハンの隣に置いておくと、何かと面倒だから、ついでに君たちにはそこで屈しておいてもらうよ?」
「くっ・・・!!」
「・・・・・・・・・随分遅いと思えば・・・貴様、何を遊んでいる?」
「遅い?君の感性は実に不思議だな、<プロト=フィロソフィア>。君はもう少し我慢強さを養った方がいい、まだ1分47秒しか経っていないじゃないか」
「貴様等が何やら仕出かしているから、この私の壮大なる研究意欲が掻き立てられてね、いてもたってもいられないのだよ」
「せめて君の中古作品(アンティーク)を引き出すまで待つ事はできないのかい」
「研究者の1秒とは貴重なのだ、貴様を待っていてはいずれ日が暮れてしまう」
「君のそれはただ落ち着きが無いだけだ、カップラーメンすらまだ出来てない」
「ああいえばこう言う、まあいい、ところで貴様がさっきまで遊んでいたそこに転がってる粗大ゴミ共は何だ?」
「これはこちらの用件だ、しかし君の興味さえあれば、持ち帰ってもいいんじゃないか?」
「・・・・・!!」
「中々興味深いが、このようなものは後回しだ、今はこの私の作品を回収するのが先決ではないのか?」
「おっと、君が話を逸らすから本来の趣向を忘れていたよ」
「この私に責任があると言うのか?」
「さあ?どうだか?」
「・・・・・」
「君の作品は僕が回収する、君はとっとと帰れ、そしておとなしくしていろ」
「チッ・・・・・」




「ねえ」
「なんぞ?」
「やっぱミトラ様を探しに行った方がいいんじゃないかな」
「今更だな、どうせ向こうは向こうで動いているだろうし、探すのは困難だろ、それはもう杭柱以上に」
「それはそうだけどさぁ?」
笑っているのに変わりは無い、だが次第にその表情に不安が募っているのがわかる。
それにしても、一応はてなタワーを渦巻き状に外周するようにザックリと見て回ったハズなのだが。


無い。


杭柱が何処にも見当たらない。手探りとなるとここまで見つからないものなのだろうか。
「おい、疑念の思念そのものの気配はわからないのか、図書館からこの地域を当てたみたいに」
「キャハハハハ、そこまではわかんないわよ、私だってなんでわかんのかさっぱりだもん」
ダメだこいつ。
「でもさ」
「ん?」
「今までと比べたらやたらと範囲が広すぎない?今まで、と言っても私が向かったのは一回だけだけど」
「杭柱の影響下に置かれるのは杭柱がぶっ刺さってる地域全土だろう、中央街は特別広いからな、特におかしい事は無いはずだが」
「あれ?そうだったっけ?」
「・・・・・どういう事だ?」
「うーん、私がミトラ様を助けた場所は全体が変じゃあなかったんだけどなあ、キャハハハハ」
え、なんだそれ、聞いてないぞそんなの。
「同じ町の中でもミトラ様の影響で<優しくなり過ぎてる人>と<それを見て引いてる人>がいたのよ、ミトラ様の力が全土に及んでいるなら人を見て引いたりしないじゃない?何せミトラ様の性質だし、キャハハハハ」
我慢の思念と嘘の思念が追いかけるのに精一杯という速度で走っていたと聞いたが、こいつそんな所まで観察していたのか、慈悲の思念といいこいつといい、なんというか教会組が末恐ろしく思えてきた。
いや今はそれよりも。
「信仰心の思念ー!!お前なんでそんな大事な事黙ってやがったーーーー!!!」
まずはこいつを責め立てるべく、奴の両肩を掴みぐいんぐいんとシェイキングしまくる。貴重な情報を報告しないとは、ゆるすまじ。
「きゃーはーはーはーはー、だああぁぁぁぁぁってぇぇぇぇぇぇとぉぉぉくに重よよおおぉぉぉぉぉぉぉじゃなあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいと思ぉぉぉぉぉぉぉってたしぃぃぃぃぃ第一ぃぃぃぃぃぃぃぃ・・・・・・・・・」
とりあえず脳みそMIXを解いた。
「・・・・・第一?」
「知ってると思ってた」
「・・・・・・・・・・・・」
おそらく、俺が向かった場所でも地域内での範囲外はあった気がする。翌々考えてみたら疲労の思念の領域とか特に。
これは完全に俺の観察力不足じゃねえか。不覚を取った。
「つまり・・・中央街全域を覆える効果範囲を生み出せる・・・・何だ?」
「キャハハハ・・・は?いや分からないの」
「ちょっとまて、いきなり話が進展しては整理が追いつかん、俺はバカでなければ天才でもないのだ、考える時間はほしい。流石に」
「でもその・・・『こうちゅう』・・・だっけ、何にしたって思念体の性質はそっからでてるんだよね?いつもより強力な毒電波でも出てるんじゃない?」
「毒でんぱ・・・・・デンパ・・・・・電波・・・・・?」
なんか出てきそうで俺は同じ単語を延々と呟く、その様子を信仰心の思念は黙々と見たり、時々つっついてきたり、例のごとく笑ったり。
気付いてはいたが俺はそれに一切反応は示さなかった。むしろもうちょっとで答え出そうなのに邪魔しないでほしい。
そして俺は過去に起こった一つの光景を思い出す。



<-亡者異変->



はてなタワー禁断の1000階。




俺はその場には赴かず、<オリジナル>との血湧き肉踊る決戦を望んだバンレンジャンカオスの好きにさせてやった。




しばらくして突如突風が吹いたかと思うと、空から瞬いた白銀の粒子、その粒子は中央街全土に降り注ぎ、亡者達を元ある姿へと戻す。




それはバンレンジャンカオスの敗北。




解は出た。



「信仰心!今すぐはてなタワーに向かうぞ!!」
「うわ!ビックリした!!いきなり何なの!!?」
聞く耳は持たない。奴の手を強引に引っ張り、俺は俺の出せるスピードでタワーに向かった。たぶん引きずっているだろう。今はどうでもいいが。
亡者をこの世から抹消するために起動した<救世システム>、それはこの中央街の全土を飲み込み、この地に蔓延る全ての亡者は消えうせた。
そう、範囲は<中央街全土>、仮に思念体の持つ性質が同じ、もしくは似たような原理でばら撒かれているのなら場所はそこだ。
てかそんなのただの推測でしかなく若干こじ付けすら混じっている。実際はここまで探してないんだからもうあそこにあって下さいお願いしますという願望の方がより強烈だ。マジで。



タワーへはあっという間に着いた、俺がもてる全速力だ、当然といえば当然だろう。信仰心の思念は無理に引っ張ったせいで足が傷だらけだった。そういや足あったんだったこいつ。
「あんたね・・・一体なんのつもり――」
「此処に杭柱がある」
「・・・・・マジで?」
「マジだ」
実際は確証は無い。
「でもミトラ様達と合流したほうがいいんじゃない?」
「ならばお前はそこで自分が此処にいる事を知らせる狼煙に代わるものをあげておけ、俺は塔の外側から最上階まで突っ切る。合流したら最上階まで上って来い」
「え?こんな高いの上るの・・・?」
「・・・・・たぶんエレベーターはある・・・・たぶん」
とりあえず曖昧に返答してすぐさま俺はタワーの外壁に沿って真っ直ぐに上へ飛び出した。本当は特に<いてもいなくても変わらない>ようなあいつらを待っていても良かったのだが、<嫌な予感>がそうはさせない。
雲を突き抜けても、さらに上を目指す。それにしてもこんな高すぎるタワー、どうやって建ってるんだ?風吹いただけで一撃だと思うのだが。









「・・・・・」
上部にどれだけ上ろうが紅の空は延々と続き、目に刺さる。さらに嵐にも似たような突風が吹きつけ、到達までに困難を極めたが、かろうじて目的地へと到着した。どのみち、中から攻めるよりは確実にこちらの方が速い。俺的には。
はてなタワー999階の上に聳え立つドーム状の物体。俺はその窓ガラスを突き破って中へと進入する。それと同時に割った窓ガラスから強烈な風が入ってくる。


見つけた。



ダウト=ディストラストが封印された思念思想の杭柱。



どうやら推測は的中したらしい。ドンピシャだった。



あとはこれを破壊すればいい。












「やはり、来たんだね」

突如背後から声が聞こえて、自然にその方向へと振り返っていた。
この声には覚えがある。




「アズゥ=ブラックフェザー・・・・・!!」
俺の<違反>を利用して世界をわけのわからん状態にした張本人がそこにいた。
「やれやれ、少々寄り道をしてしまってね、これならプロトの言うとおり、少し遅かったって事か、君に先を越されるなんて」
「何をしにきた・・・!!此処に何をしにきた!!!!」
「おお怖い怖い、君は相変わらず声がデカいね、そんなに声を荒げなくったって、聞こえてるよ?」
「質問に答えろ・・・・!!」
「・・・・・探求心の思念、プロト=フィロソフィアのご要望だ、せっかくその柱に入れた器だけど、僕が直々に回収する事になった、中にいる疑念の思念体を。彼女が言うには、疑念の思念とは彼女の作品らしい」
アズゥは足音も無くこちらにじりじりとにじり寄ってくる。
「悪いが、今回の標的は君じゃない、そこをどけ。そしてその中に眠る疑念の思念を明け渡せ。そうすれば君には危害を加えるつもりは無い。今はね。」
俺は一切動かない。力の差は歴然。それは前回思い知った事だ。だが、こいつには負けたくなかった。こいつの言う通りにするのは、俺自身が許さない。
「・・・・・、抗うか、違反の思念体、君はもう少し話の分かる奴だと思ったが、残念でならない」
アズゥの口調が変わった気がするのと同時にうっすらと目を開いたのが見えた、俺はその目を見てゾクッっとした。あまり認めたくは無い、だが俺が今抱いている感情。



恐怖。



「行くよ・・・!!」
掛け声と同時にこっちに突っ込んでくるアズゥ、俺は瞬時に身構える、が。
「な!?」
アズゥは俺など眼中に無いかの如く俺を通り過ぎて柱の方へと直進していった、そういえばそうだった。こいつの目的は柱の中に封印された奴を奪う事。自分で入れたクセに。
俺はすぐさま奴を追いかけるように飛ぶ。スピードだけなら辛うじて俺のほうが上だったため、追いつくのは容易だった。しかしアズゥの動きを止めようにもおそらく俺の攻撃は襲撃時と同じく回避される。
追いついたはいいが、【アズゥを止めるのは不可能】、そう断定した。ならば・・・・・
「ネガティブウォール!!!」
自らの動きを止めてそう叫ぶと柱を囲うように黒い壁が複数現れる。やはり自分が思ったモノよりデカい。だが今はそれで好都合だ。
アズゥは壁に覆われた柱の前で静止し、少しの沈黙の後こちらを向いた。
「・・・・・中々良い足掻きだ、だがこんな紙切れ程度で、破壊を防げると思っているのか?」
どんな自信だ、強化ネガティブウォールを紙切れ呼ばわりだと?
だが事実、強化されてるとはいえ壁程度ではアズゥの攻撃に耐えられる可能性はほぼ無い。悔しいがそう断言できる。
「・・・まあ、いいか。図書館でも、ちゃんと君の相手はできてなかったし、そこまで構って欲しいのなら、相手をしてやらないと失礼だ。本来、目的だけ達成して帰還するハズだったのに、とんだ道草を食わされたものだね」
「・・・・・」


「「スター・・・・・!!」」





「クリエイト!!!」「リジェレート・・・!」
同時に星と作り出す事で開戦した、しかし精製はアズゥの方が圧倒的に早く、精製が完了した瞬間に星はこっちに高速で飛んで来る。
「っぶね・・!!」
こっちが仕掛けるスキが一向に無い。俺が1個作ってる間に奴は4、5個程精製してくる。しかも精製から発射までのラグが無い。
最初からこっちが不利になってしまった。
咄嗟にネガティブウォールを作り出し、防護陣営を張る。身を隠しての銃撃戦がしばらく続いたが、あからさま連射量の違いで戦況は結局俺が不利なままだ。流れ弾によって割れた窓から強烈な風が押し寄せる。聞こえるのは星の射出音と風の音のみ、戦場と化したこの場に妙な緊張が走る、最も、緊張しているのは俺だけだろう。壁から少し身を覗かせ、アズゥの表情を伺う、奴はは余裕の表情を浮かべていた。
「いつまでそうやって隠れてるつもりだい?」
アズゥがシビれをきらして話しかけてくる、今出るワケにはいかない、今出たら「殺せ」と言っているようなものだ。
「くっ・・・・・」
「やれやれ・・・かくれんぼにはもう飽きたよ、いい加減面倒だし、そろそろ炙り出してあげる」
「何・・・?」
「言っただろう?君が作り出す壁なんて、僕にはただの紙切れさ」
奴のマントの形状が変化し、渦を巻いた形態に変貌する。そしてその渦状の形態をしたマントから【何か】が射出された。
「・・・・グリーンスター・・・?」
しかし妙に威力が弱い印象を受けた、スピードもさっきまで放ってた普通の星と比べると明らか遅い。その星は力無くネガティブウォールに突き刺さった。大それた事を言い放ったわりには随分拍子抜けさせられたものだ。が。

アズゥは不敵な笑みを浮かべた。その笑みから俺は察知した。


『コレはヤバイ』


すぐさま自分がもたれ掛かっていた壁から離れるも、少し気付くのが遅すぎた。
奴の放ったグリーンスターは突如として大爆発。俺はその爆風に巻き込まれ、タワーの壁に叩きつけられた。
爆発をモロに喰らったネガティブウォールは破壊はされてなかった。しかし、<壊れた形跡が無いだけ>、ネガティブウォールは壁とは言い難い程妙に歪な形にひん曲がっていた。俺がまともに喰らってたらどうなっていたか、あまり想像したくない。
「やっと出てきたね、いつまでサバゲーやってるつもりだったんだい?」
「チッ・・・」
俺は再びアズゥと対峙する、結局小細工も通用しない。サバゲーが何かわからないのだが。
「少しは楽しめるようになったかと思って相手してあげたんだけどなあ、全く成長していない、君に費やした僕の時間、返してくれない?」
「まだだ!!まだ終わってねえ!!」
「でもねえ・・・そんな小細工ばっかじゃ本当に日が暮れてしまう。それに、君自身、今の爆発<だけ>で相当な痛手を負ったハズだ。必然的にもう終わってるんだよ」
奴はそう言いながら既に柱に向かって進んでいる。



「!?」
どうにか力を振り絞り、悪足掻きとも言えるスターガンを奴に打ち込む。奴の羽織るマントによって簡単に切り刻まれたが、奴の視線はまたこちらに切り替わる。
「・・・・・すまなかったねイハン」
「・・・どういうつもりだ・・・!?」
「僕はさっき、君の事を全く成長していない、そう言ったね」
「・・・・・」
「しかしアレはどうやら間違いだったらしい、そうだね、イハン。君は以前と比べたら・・・」








「よりいっそう往生際が悪くなった、うざったいほどにね・・・・!!!」
奴は今まで開かなかった眼を完全に見開き、紅く鋭い眼光を此方に向けて来る、奴はさっきまで遊んでいるに過ぎなかった。
だがこれは違う、奴が纏っている覇気は今までと全く比べ物にならない。本気で抹殺するつもりだ。しつこいのは地雷だったか・・・?
奴の前方に黒い瘴気が集結し、一握り程度の凝固体を精製していた。此処何度かソレと同じものを見ているので奴が作り出そうとしているものが何かはすぐに把握した。


破壊弾。


破壊光線が撃てるならこっちも使えるだろうと考えるのが妥当か。どうにかしなければ俺が消し飛ぶ。だがどうしようもできない。打ち所が悪かったのか視界がぼやけて来てまともに動けない。死ぬ、やばい、死ぬ。
「フフフフフ・・・・フッハッハッハッハ!!」
突如けたたましい笑い声をあげるアズゥ、やべえぞこいつ、あからさま正気じゃない。
「やはり君は僕の障害にしかならない!!昔からそうだ!!!君と平和の思念が常に僕の障害となり続けて・・・悉く、悉く、悉く、悉く、悉く、悉く、いつも、いつも、いつも!いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも!!!!!!!」
「昔から・・・?お前は何を言っている!?」
これは完全に危ないスイッチを踏んでしまった。足無いけど・・・なんて今は言っている場合では無い!!対策は無いのか!!
ネガティブウォール・・・おそらく何十に重ねても防ぎきれない。破壊弾の威力は俺が既に保証済みだ。
ベクトルアウト・・・破壊弾は着弾すれば破裂する、ベクトルアウトの発動条件は『対象に触れる事』、対象が破壊弾そのものなら自爆しに行くようなものだ。爆風ならたぶん腕だけが無傷になる。つまりあんま意味無い。


無い。


「消えなよ!!!イハン=メモラー!!!!!」
「ちっくしょおおおおおおおおお!!!」

奴から放たれた破壊弾は俺のすぐ傍の床に着弾した、その爆風によりドームの窓は全て割れて一部は窓枠ごと吹っ飛んだ、屋根は消し飛び、俺自身の違反によって紅に染まった空が一望できる。







「消滅したら見れねえ光景だな・・・・」










「ええ、なんとか・・・間に合いました・・・・・!!」


俺の眼前には



開いた傘を構えるボロボロの平和の思念がいた。今の攻撃を防いだ影響からか、調整したばかりの傘がまたエラい事になってる。それに何故既にボロボロなんだ。
「良かった!!なんとか間に合いました!!」
「キャハハハハ!イハン何やってんの?」
全くこっちは死にかけたっていうのに信仰心は相変わらずだ、さほど時間は経っていないハズなのにこの声が懐かしく感じる。
「・・・・また僕の邪魔をするのか・・・!またそうやって僕の前に立ちふさがるのか・・?!!」
「・・・イハンさん、なにやら彼の挙動が・・・」
「ああ、いきなりああなった、最初は悪足掻きにキレたと思ったんだが・・・そうでは無いらしい、俺と平和の思念が昔から邪魔してくるとかワケのわからん事を言い放ってくる」
「昔から・・・?とにかく彼の挙動と発言もそうですが、もう一つ、妙な事が・・・」
「妙・・・?」
「今の彼、心が完全に空白です」
「それは例の心の声が聞こえるってヤツか?空白ってどういう事だ、昔が何とか言ってるのにそのビジョンも何もないのか!?」
「おそらく・・・彼の発言は彼の本心では無い・・・って事では?憶測ですが・・・」
「つまり?『アイツが放った発言はアイツの発言では無い』と?意味がサッパリだ」
「あ!」
ミトラが叫んだ事で俺達の会話は中断させられる、奴は何かに対して指を差している。その先にはダウト=ディストラストの姿があった、さっきの爆発が囲っていた壁もろとも柱を粉砕したのだろう、最悪のタイミングだ。
「何がどうなっているんだ・・・?」
その声に反応して我に返ったのか、アズゥはハッとした表情でダウトに視線を向ける。
「ダウト!!逃げて下さい!!」
「!?・・・・くっ・・・・・!!」
「もう遅いよ・・・!!」
ダウトはミトラの声を聞き、咄嗟に飛び出す。
屋根が無くなった事でさらに広々としたドームを二体の思念が翔る、がその距離は確実に詰められていった。
そして観念したのか、俺達の前方付近で制止し、アズゥもゆっくりと接近する。
「落ち着きの無い研究者様がシビレを切らしてお待ちかねなんだ、待つのが嫌なら自分で回収すればいいものをねえ?」
アズゥはいつも通り、あの落ち着いた感じのアレに戻っている。一歩でも動けば標準がこちらに向いてきそうだ。
「研究者・・・だと・・・!?まさか、またあいつが俺を!!?ふざけるな!あいつは断じて研究者などではない!!!」
「それは本人に会ってから直接彼女に言ってくれ、僕に言われたって答えようが無いよ」
そう言い放つと奴のマントは無数の鋭い形状に変化し、疑念の思念に対して真っ直ぐに伸びて行った。そして・・・


「・・・・・ッぐ!!」
奴のマントは肉体に深々と突き刺さり鮮血が流れ落ちる。


あまりの光景に俺は言葉が出ない。


そう、それはあまりに『予想外』。


奴に刺されたのは平和の思念だった。
「見くびっていたよ、君にまだそこまで動ける体力が残っていたなんて。いや、回復技でも使用したのかな?惜しい事をしたよ、プロトが来るまでは、完全に消し去るつもりだったのに、まあ・・・・・」
平和の思念はまだギリギリ意識はあるようだが、かなりぐったりしている。
「結果としてはコレで良い、って所かな?それでも従来の目的からは外れてるけどね」
「貴様・・・!!」
まただ。
またこの感情。
嫉妬の思念のときと同じ、ドス黒い衝動。
平和の思念には念を押されている、この衝動に飲まれそうになった時は意地でも自我を保つようにと。
俺は必死に抑えた、決して平和の思念の念押しを素直に遂行しているワケではない、この力は危険だ、自分でもわかるくらいに。
「さて、このガラクタ、どうしようか」
奴はマントに刺さったままの平和の思念を躊躇など一切せず振り回す。
「貴様・・・!何を・・・!!」
「何って、ガラクタぐらいどう扱ってもいいだろう、それともガラクタ扱いして怒ってる?<どこかの誰かさん>は確か粗大ゴミって言ってたねえ?」
「ッ貴様ァアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


平和の思念、



<すまん>、抑えるのは、俺の器じゃ無理。





――




「!!」
此処は何だ!?俺はどうなっている!?
気が付くと眼前でアズゥが傷だらけで立っている、その上息も上がっているようだ、何があったのかさっぱりわからないが、意識が飛んでからあまり時間が経ってないのは理解した。
だが俺はある事に気が付く、体が動かない。俺としての自我は蘇っているのに体が一切言う事をきかない。
「破壊光線・・・・」
「また、破壊光線・・・・?」
「砕破!!」
俺が地面に拳を叩きつけると地面から無数の破壊光線が連なって射出される。最も、俺自身は全く動いてないし喋っていない。
今の俺は俺であり、俺ではない、完全に自我とは別の意識として孤立している。
それにアズゥの言動が意味不明だ、何があったのか、『助けて』しか言ってない。
「突然強くなったかと思って一瞬焦ったけど・・・」
アズゥは軽やかにソレを回避するとマントを鋭利な形態に変換させて突撃してきた、ソレを俺は両腕で受け止める。無論俺の意思とは全く関係が無い。
「だけど・・・!君の動きは極端、単調に僕という標的に対して攻撃してくるだけ、スピードに追いつけなくても、それさえわかれば回避は簡単だ。まあ君にはこの言葉すら『助けて』にしか聞こえないみたいだけどね!!」
「・・・貴様は一 いや少しいやその身 ち果てるまでの痛みを知った方がいい」
その瞬間、背中に気色の悪い感触を覚える、その感触の正体は痛々しい音と共にすぐに眼前に姿を現した。

腕だった、背中、いや既に体中から腕が袖ごと生えている。さらにその腕から連なってまた腕が生えてくる。アズゥは抵抗しようともがいているがさっき突撃した際の刺突形態のマントを俺は全く離さず、アズゥは成す術無くその腕に拘束された。
まさに文字通り、既に俺は俺ではない・・・これではまるで・・・・・
「フフ・・フフフフフ・・・化け物め・・・・・」
奴がまた『助けて』と呟いたタイミングで服のジッパーが開く、生々しい牙が見える時点で既にそれはジッパーでも服でもなんでもない、大口開けたただの化け物だ。
『助けて、助けて、助けて、助けて、助けて助けて助けて助けて――』
「・・・・・お前は何に助けを びているのだろうな・・・」
大口から漆黒の物体が何本も出現し、その一つ一つが確実にアズゥの肉体を貫く。
よほどの苦痛なのか、さすがのアズゥでも表情が少し歪んでいて、今にも叫びだしそうだが必死に堪えているのが分かる。
俺はこの状況を見て優越感に浸っていた。奴は平和の思念をメッタ刺しにし、そして今は奴が同じ目にあっている。
心から思った、いい気味だと。
しかしそんな黒い感情がまた湧き上がった、その時だった――


「・・・ちょっと、調子乗りすぎだよなぁ?テメェ」
突如として目の前に現れた思念体は生えている腕を一瞬で全て殴りつけ、腕は千切れ落ちてしまった。
「アズゥ様、大丈夫ですか?」
「大丈夫に見える・・・?」
「・・・いいえ・・・」
「何をしにきた・・・」
「――決まってんじゃん、死にかけてるアズゥの救出作戦だよ」
「よく破壊せずに連れて来れたね・・・」
「3回は破壊した」
ヴァーサク、エンヴィー。アズゥ一味が揃ったと思ったらまた新手の思念体が空から飛来した。他の奴と比べるとあからさまにふざけている。
そしてまた、あの気色の悪い感覚が再来する、腕を千切られたのにまた新たな腕が生えてきてアズゥを捕らえようとする。
「・・・・・ほい」
仕掛けてきたのは例のふざけた思念、奴が投げつけた光剣が刺さると同時に俺は全く身動きしなくなった。
「それね、刺した奴の動きをちょびっと封じ込めるんだ、どんな強力な奴でもね」
「無駄だ<九十九>、今の彼に言葉は通用しないよ・・・」
「あ、そうなの、せっかく説明したのに、残念でならんな」
「アズゥ様、早く逃げましょう」
「何言ってんだお前、外野はどうって事なさそうだし、今の奴は動けねぇんだろ?ブッ壊すには丁度いいじゃねえか」
「これだから脳筋もりもりマッチョは・・・」
「誰が脳筋もりもりだバカ」
「あー、もうこの際バカでいいや、考えてみなよ、アズゥが挑んで勝てない相手だ。それにこの、なんだっけ、<光のナントカ剣>はほんとちょびっとしか止められないし、集団で挑もうが勝てないね」
「テメェには一言も聞いてねえ、今まで散々好き勝手して口答えすんじゃねぇよバカ」
「・・・いや、九十九の言っている事はあながち間違いでは無い・・・ここは引こう」
「チッ・・・」
「それに・・・引いた方が、おもしろいかもしれないしね・・・」
散々の激しい<耳鳴り>を聞いた後、奴等はアズゥと連れて空へと消えた。
すると今まで背後で立ち尽くしていた疑念の思念が声を上げる。
「奴らの後を追う・・・」
「いけません・・・!!」
「何故だ!?」
「彼らはあまりに危険です、それにあちら側にはあなたの言う研究者もいるのでしょう・・・!?」
「クッ・・・」
「そうだねえ、シスターさんの判断は正しいと思うな、うん」
まだ残っている思念体がいた、あのふざけたカエルっぽい思念だ。バナナを貪っている。
「ちなみに私はバナナおやつに入らない派です。」
「どうでもいい」
「あなたは、あの方達のお仲間ではないのですか?」
「そうだといえばそうだし、違うと言えば違う」
「曖昧な奴ねぇ・・・」
「・・・・どうやら、嘘はついていないようだが・・・」
「・・・ん?なんぞこれ」
「ヴィヤズさん・・・!!」
「ああ、このペラいの、君らの友達?」
「アズゥになんかされちゃったかー、うん。まあいいや、これ没収ね」
「何!?」
何を考えているのか、こいつは平和の思念を担ぎ始める、奴自身小振りなので少しよろめいている。
「イハンはこの会話聞こえてないんだっけ?じゃあイハンに伝えといてよ。『お友達返して欲しかったら、思念思想の杭柱全部ぶっ壊してこの中央街の地下、亡者異変でできてそのまんまの大空洞に来い』ってね、この下、といってもここ上空だしもっと下の下の地下なんだけど。そこ、僕らの本拠地なんだよね」
「本拠地まで言ってしまって・・・あなたは・・・何を目論んでいるのですか!!?ヴィヤズさんをどうするつもりですか!!?」
「そんなの簡単な理由だよ、その方が面白いから。それ以外の理由はたぶん無い。・・・・・ああそうだ、言っとくけど、杭柱壊さないと君らは入れないようになってるんだよ、ご都合主義って便利なもんだねー、まあソコントコヨロシク。おっとそろそろ効果が消えるな、じゃ、伝言、任せたよ!!<生きていればね>!!!」
「何だと・・・?」
「生きていれば・・・って・・・まさか・・・」
奴が空へと消えていくと同時に光剣が消滅し、俺は、ゆっくりと背後にいた思念体達へと視線を移す。既に予想は付いていた、止めようと試みた。



だが、止まる事は、無い。



「マズいな・・・来るぞ・・・!!!」
無数の腕が奴らに対して伸びていく、止める事はできない。



だれでもいい




俺を止めろ・・・・・・!!!











「ったくよォ、今日はとっとと寝床に就く予定だったってのによォ・・・」
「ふん、こちとら老体に鞭うっとると言うのに、わざわざ此処まで赴いたのじゃぞ?」
「「覚悟しろよ!!?イハン!!!」」


ガルテスとヴィグレイマ、帰ったハズのこいつらが何故此処にいるのか、あと何故状況既に知ってるのか、謎で仕方ない、だが今はどうでもいい。


もうこいつらに頼るしかない!!

ガルテスが思念体3体を紙にして懐に入れる。
すると奴らは迫り来る無数の腕に向かって走り出した!!

ガルテスは瞬間移動も駆使し、襲い来る腕を全て紙に変え、ヴィグレイマは一本引き千切った腕を媒体としてクローンを作り出し、動きを止めていく。
でも引き千切るのはあくまでも俺の腕だからいい気分ではない。
「ロクな休憩とってねえってのにこれは応えるなァ!!」
「何じゃ?もう降参か?」
「その言葉、そっくり返してやるぜェ!?」
「ふん、たわけ者めが」
喋る余裕すら見せる。こいつら、どんだけ超人なんだ、オッサンとジジイだってのに。でも残念ながら俺にはその内容が分からない。俺の耳には『肉』って単語と『魚』って単語が聞こえるだけだ。
だが、俺との距離は確実に狭まっている。


そして――






「破壊光線・・・」
「何!?」
「んだとォ!!?」
「虚無想!!!!」
やはりやられっぱなしでは無かった。俺が繰り出したまた今までとは別の破壊光線。2つのビットが精製され、ガルテスとヴィグレイマに容赦無く小型の破壊光線が放たれた。
「おいイハーン!!」
「あまり調子に乗るでないぞ・・・!!!」
『肉肉』『魚魚魚』・・・
奴らが今まで行ってきた行動が、虚無想の光線で阻害され、思うように動けなくなっていた。そして・・・
「ぐっ・・・!!」
「畜生!!」
二人は【腕】に捕らえられてしまう・・・
希望は潰えた・・・
違反の思念が希望とか随分と変な話だが・・・




「よおイハン!!!間近で対面ってなァ!!オメェなら捕らえた後引き込むと思ったぜェ?その大口で喰らうためになァ!!!ジジイ!!!さっさとしなァ!!!」
「それでも拘束されとる身だということくらいは考慮せんか!!!言われんでもやってやるわい!!!!」
奴らはコレを狙っていたのだろうか、この最も近づける瞬間を・・・!!
いやたぶん成り行きだろう、どうせ。
成り行きの方がこいつららしい。
ヴィグレイマは手の届く範囲まで引き寄せられると操符を俺に貼り付けてきた、一瞬意識が飛びそうな錯覚に陥ったが、言うほど効果はなかった。
「おいガルテス!!これはいかん!時間稼ぎにもならん!!」
「ちげぇなァ!!一瞬でもスキを作れたら上出来ってモンだぜェ!!?」
ガルテスは俺の頭を鷲づかみにする。
「オメェとは久々に戦ったが・・・!!初勝利は俺のモンみてえだぜェ・・・・!!?」

ああ、お前らの勝ちだ。

俺は朦朧とする意識の中でガルテスの声を聞き、

迫り来る暗闇の中で俺の意識は途絶えた。

















『「・・・・・あッ!!繋がったッス!おいちゃんら!無事ッスか!?」』
「あー声でけェんだよ、携帯ってこんな使いにきいんだなァ・・・、俺も俺の隣で地べたはいつくばってるジジイも無事じゃあねェ、だが成功はしたってトコだァ・・・」
『「そーッスかー、いやー良かったッス・・・」』
「良くねェ!」
『「しッ、失礼したッス・・・」』
「んで、だ。どうすりゃいいんだァ?」
『「イハン=メモラーが、また目覚めないように注意して図書館まで来て欲しいッス」』
「・・・・・ん?オイテメェ、それは此処からものすごい距離があるの分かってほざくのか?」
『「申し訳n・・・あッ・・・・・あーもしもしー?ちょっくら電話代わらしてもらったぜー?」』
「んだァ?お前」
『「私はアーティア、<努力の思念、燐巌地・F・アーティア>だ、ルーツが渡したであろうその携帯を作ったのは私だよ、まだ試作だが、安定して機能してるなら良かった」』
「俺が知ってる携帯とはかなり違う気がするがなァ・・・形とか・・・色々なァ・・・」
『「それは、まあ、試作だからな!!、っといけねえ、話を戻すぜ?悪いがルーツが色々騒いでるもんだからな、ルーツが沈静したら、私達も図書館に直行するから、お前達に迎えを遣したり、私達が迎えに行く事もできねえ、そこは堪忍してくれ」』
「あァ・・・」
『「それと、念を押しておくが、館主、じゃねえやイハンは絶対復活させるな。ルーツが言うには暴走してたらしいじゃねえか、また暴れだしたらたまったもんじゃねえ」』
「今のイハンがヤベェ事ぐらいわかってるっての・・・、それに、この状態のイハンは過去に一度経験済みだぜェ。もういいか?伝える事がそれだけなら切るぞ?」
『「ああ、ワリィワリィ、後ルーツの言動が良くわからねえのも堪忍してくれ!私も時々わっかんねえ時があんだよ、んじゃあな!」』
「・・・って事だそうだぜェ?ヴィグレイマ・・・」
「電話の内容は貴様にしか分からん」
「図書館まで歩いて来い、だとよォ」
「・・・・・」
「なァ・・・ヴィグレイマ・・・」
「何じゃ・・・?」
「イハンの真似事とかじゃあねえんだがよォ・・・なんか、嫌な予感がするぜェ?」
「どうだかの・・・・・」




Ps-2 END