動手帳繰形劇〜Tragic Grand Guignol

あれとかそれとかこれとか

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■0.あらすじ
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日陰の地――
物が無くなったり新たな名所が出来たりと、祭りのように賑やかだったのは既に過去の話。
季節の移ろいと共にその余韻は失われ、この地には静かに冷たい風が舞い込んでくる。

かつての騒動が残した爪あとは瞬く間に舞い込む風と共に流され、
代わりに冷え込む気候だけを残していった。

本格的な冬の到来と共に、神明神社の巫女、伊沙弥 神巫は知った顔を数人集め、年明けに向けての準備で
大忙しのようである。初詣にも知った顔しか来ないのに、健気と言えば健気である。

  守「此処においといたらいいのかな?」
 黒奈「ん、まあいいんじゃないか?後で神巫がどうにかするだろう」
  廻「しかしだな、普段より人の来ないこの神社に、初詣だからと参拝客が来るのかい?」
 黒奈「来るワケ無いだろ」
 虹子「見かけるのも何処かで見知った顔ばかりのような気がしますが」
  空「そんな無駄な事をさせられているのか?私達は」
 黒奈「無駄では・・・ないと思うぞ?結局大宴会にしかならんのだが」
  守「お客が誰であれ、賽銭がマトモに入るのがその時だけだからね・・・まあ目を瞑ってもいいんじゃないかな・・・」
  廻「おおナムアミダブツ!!」
  空「お前が言うとわりとシャレにならない」

神巫が留守である事をいい事に随分と言いたい放題の面々、座敷わらしの衣流芽守と詐欺師の鳴神黒奈を始め、
かつての異変で関わった者達が集結している。

死神、六道廻。河神の如き力を持つ白蛇、白雲郷虹子。そして付喪神である風鈴空。
その光景は統一性がなさすぎてなんだか異様である。

  廻「ここで奉ってる神なんかはどうやって生きてるんだい?信仰あるの?」
 黒奈「存命手段は不明だな・・・」

各々が愚痴を溢しながらも準備を進めている傍ら、くしゃみを連発しながら境内へと足を運ぶ姿があった。
そのくしゃみを量産している人物こそ、伊沙弥神巫である。隣には人里で花屋を営む半妖の少女、浅間桜もいた。
おそらく神巫に捕獲されたのだろう。見事に荷物を持たされている。

 神巫「へっくしッ!まったく何なのかしらこのくしゃみ・・・」
  桜「風邪でも引きましたか?」
  空「誰かに噂でもされているのだろう、お前も人気になったものだな。ある意味では」
 黒奈(私達に他ならないではないか)
 虹子「しかしまあ、随分と時間がかかりましたね。桜さんにも手伝って頂いているのに」

神巫が買出しのために神社を後にしたのは、既に2時間も前になる。
特に買い物の量が多かったわけでもなく、ものの30分もあればカタのつく程度のものだ。
まさか神巫が何を買うかで迷うなんて事もないだろう。そうに決まっておる。

 神巫「ちょっとばかし邪魔が入ってね・・・というか、アンタ達だってもう経験済みじゃないのよ」
  桜「ちょっと異常とも言えるレベルですよね、あの数は」

最近、この日陰の地全域で自立する人形を見かけるようになった。
かつての異変の最中に、数体の自立する人形と遭遇した事はあった。死期を知らせる物や警告を促す物。
しかしその程度と言えばその程度、頻度だってそこまで多いワケではない。

ところが、最近遭遇する人形の数は、桜が言うように異常とも取れる程なのだ。
行く先々で人形人形・・・、里に至っては人集りが出来ているくらいで、その半数以上が自立人形だ。
そのあまりの異常性に、里や森、山、教会などの面々から神巫に調査の依頼が何度も出ている。
例外として人形が沸いて来ないのは、この神明神社だろうか。どうしてマカロン

しかし神巫は心の中で「普段賽銭くれないクセにこんな時だけ」と僻みながら、結局調査に乗り出すには至っていない。

  廻「さしずめ、人形の軍勢にもみくちゃにされてなかなか帰るに帰れなかったといった所だろうか」
 黒奈「飛べよ」
  守「人ごみの中ってどうしても動きづらいもんね・・・」
 黒奈「いや飛べよ」
 神巫「まあそんな所ね、桜に手伝ってもらってなかったら荷物さえ無事かわからないわ」
  桜「お役に立てたなら何よりです」
 黒奈「ねえ・・・飛ぼう・・・飛んで下さい・・・」
  空「しかしだな、里の者達からも依頼が来ているのだろう?
    そこまで迷惑するならば素直に調査にでも乗り出せば良いじゃないか」
 神巫「嫌よ、ご覧の通り初詣の準備で忙しいのにそんな異変でも無いものに首を突っ込む余裕は無いの」
 虹子「カタブツですねえ、婚期逃しますよ」
 神巫「うるさいよ」
  廻「だが考えても見て欲しい」
 神巫「何をよ・・・」
  廻「里の民が、普段まるで全然ッ!神明神社を訪れるのには程遠いんだよねぇ!!といった状況。
    だのに、その依頼をするために此処まで赴いたという事だろう?それも何人も」
 黒奈「そうか、それを解決して見ろよ。忽ち評判は上がり、初詣に来る奴も増えるだろうぜ?
    普段とはワケが違う、なんたって里の奴ら直々の依頼なんだぞ?」
 神巫「俄然やるきになりました」
  空(ちょろい)

相も変わらずこの巫女、信仰というワードが絡む何かには弱い。

 神巫「そうとなればパパっと片してしまいましょうか!!」

そう言いながら神巫は猛スピードで天空めがけて突っ込んで行く。
その姿た忽ち点のように細かくなり、仕舞いには1分も経たぬ内に見えなくなってしまった。

 黒奈「おい待てよ!一人でブッ飛ばすヤツがあるか!!抜け駆けしたからには手柄取っても文句言わせねえからな!!」

既に見えない神巫に対してグチグチ言いながら黒奈も続き・・・

  桜「皆して調査ですか!!これは私も負けてられませんね!!!」

妖怪としての血が騒ぐのか、燃え上がる桜も一人飛び立って行った。


 虹子「あらぁ、行ってしまいましたね・・・」
  空「ふむ・・・」
  廻「どうかしたのかい」
  空「この人形の大量増殖、本当にただ増えただけだろうか、どうにも何か裏がある気がしてならない」
  廻「なんだ、君もそう思ったのか。どうにも臭うのは違いないね、古く錆びれた死の臭いだ」
 虹子「ただ増えただけ、にしては確かに人形達の挙動はどうにもおかしい気がします。何かを必死に探しているような・・・」
  空「私達も向かった方が良いだろう、ただ突っ走っている人間達では、少々不安が残る」
  廻「だったら、人間達に合流した方が良いのではないかな、如何せん、彼女等は単独行動だ」
 虹子「それでしたら私は半妖の彼女の元へと向かいます、廻さんは黒奈さんへ、風鈴さんは巫女の所に向かって下さい」

そうして、不穏な空気を感じ取った三人は、散り散りとなった人間達を追うように出発する。

その最中で着実に、黒い衝動は覚醒の時をゆっくりと縮めて行く。







  守「天照ーーー!!起きてーーーー!!初詣の準備手伝ってーーーー!!」


彼女は彼女に出来る事を成す事にした。


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■1.キャラ設定
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◇プレイヤーキャラサイド

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 ○伊沙弥の巫女
  
  伊沙弥 神巫(いざなみ いちこ)
  Izanami Itiko

  種族:人間
  能力:霊力を操る程度の能力

  神明神社の巫女さん。
  年明けに向けて頑張る姿勢を見せるだけ見せて見せまくる巫女さん。

  真面目な常識人。ほぼ唯一と言っても過言ではないだろう。
  だが信仰が絡んだだけで人としてのレベルが極端に下がる。
  だが大丈夫だ色々と。

  普段神社に赴きもしない人々が、人形の大量増殖による依頼を寄せるも、
  神巫は一切耳を貸さない。初詣の準備に向けて忙しいというが、
  こういう時にだけ頼ってくる人々に対して少々スネている。なお賽銭は入れてもらってない。

  しかし、直々の依頼故、解決すれば認知度上がるよって言ったらなんということでしょう。
  彼女は色々と放り出して飛んでいってしまったのだ。


 ○因果を断つ付喪神

  風鈴 空(かぜすず そら)
  Kazesuzu Sora

  種族:付喪神
  能力:死の運命を捻じ曲げる程度の能力

  付喪神。紛れも無く付喪神である。
  何の付喪神かは判らず、何かしらの耳が生えている。

  神巫に捕獲されて初詣の準備を手伝わされていたが、
  その当人はというと見事に飛び出して行った。

  他の二人と同様に、人形が増えた事に何か深いワケがあると睨んでいる。
  その直感は彼女が持つ能力が齎したものなのか、別にそうでもないのか。

 
 ○雷電の詐欺師

  鳴神 黒奈(なるかみ くろな
  Narukami Kurona

  種族:人間
  能力:電気を操る程度の能力

  気分屋で頭の冴える詐欺師の少女。
  最近では小屋の周囲にも人形が徘徊を始めたため、神明神社に避難している。

  面白い事にはとことん首を突っ込む。それが彼女の生き様であり、これからもそうだろう。
  しかし今回はどうにも興味が沸かない様子。異変になってからでないとつまらないようだ。

  一応、神巫が信仰を糧に飛び出して行ったため、その希望をへし折ろうと奮闘してみる事にした。
  あくどいなさすがくろなあくどい。


 ○死の音色を奏でる死神

  六道 廻(ろくどう めぐる)
  Rokudou Meguru

  種族:死神
  能力:六道へ導く程度の能力

  どちらかと言えば仕事熱心な方の死神。
  本来の生の枠から外れた人間を無理矢理地獄に突き出す仕事をしている。

  別に仕事というわけではなく、人形の事が気掛かりだったために調査に乗り出していた所を
  神巫に発見されて捕縛される。ナムサン!

  人形達の増殖の魂胆に何か不吉な臭いを感じており、
  それを彼女は「古く錆びれた死の臭い」と表現している。
  その言葉に意味があるのか別に無いのか。


 ○儚き花の半人半妖
  
  浅間 桜(あさま さくら)
  Asama Sakura

  種族:半人半妖
  能力:儚くする程度の能力

  半分妖怪の血が混ざる人間の少女。
  両親が彼女を捨ててしまい、今は里で一人、花屋を営む。

  各地で物が無くなる異変以降、神巫を通して数々の交流を持ち、
  特に退屈するような生活は願っても来なくなった。残念だったな。

  里で人形行列に悪戦苦闘する神巫を発見し、自分の店も現状故商売にはならないため、
  彼女の手伝いをする事にして神明神社を訪れた。

  しかし手伝いのつもりで来たのに赤いのと黒いのは調査のために飛び出す始末。
  彼女に至ってはそれを勝負か何かと勘違いしたのか勝手に燃え上がる始末。

  もう止められる人物などいないツッコミ不在の始末!


 ○河神の如き白蛇妖怪

  白雲郷 虹子(はくうんきょう こうし)
  Hakuunkyou kousi

  種族:白蛇
  能力:主に河を操る程度の能力

  かつて河を司る存在として祀られていた白蛇。

  神巫にカイシャクされたワケではないが、
  以前屋根の上から現れるのが結構カッコよかったので屋根から現れた。
  神巫に捕まった。自爆。自縛。

  他の二人同様、人形の大量発生がただ発生しただけではないと睨んでおり、
  彼女は発生した人形達が何かを探しているように見えたようだ。
  本当にそうなのか、別にそうでもなくキョロキョロしているだけなのか。


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◇敵キャラサイド

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 ○1面ボス 噛み砕く発条人形
  
  勝割 繰身(かちわり くるみ)
  Kachiwari Kurumi

  種族:人形
  能力;胡桃を割る程度の能力

  自立して動くくるみ割り人形。くるみを割る人形。顎がスゴい。
  背中に発条がついているが、巻いていなくても動く事は出来る。
  巻けばわりとはやくなる気がする。

  とある使命をもとにうごめく人形達の一人。
  しかしその人形の群れから逸れた草食動物のような彼女は、
  まさに肉食獣のような形相の人間と、わりと冷静な妖怪に出くわす。

  (アカン)  


 ○2面ボス 七色の子入り人形
  
  七竈 利好(ななかまど りよし)
  Nanakamado Riyosi

  種族:人形
  能力:増える程度の能力

  自立して動くマトリョーシカ人形
  人々子宝を抱く願いを成就させる使命を持つ自立人形の一人。

  彼女も、他の人形と同様にある命を受けて周囲を徘徊していた。
  物陰から何かが動くのが見えた彼女、彼女には合計で14個の目があり耳があり・・・
  とにかく全てが7倍ある。探し物が見つかったと飛び込むが
  そこにいたのは人間と妖怪。

  (アカン)


 ○3面ボス 白銀のメイン盾
  
  知弩 盾子(ちど たてこ)
  Chido Tateko

  種族:妖怪(ぬりかべ)
  能力:障壁を作る程度の能力

  『浄瑠璃劇館』を守るデキる門番。
  色黒で銀髪の重装甲騎士。謙虚。
  鎧や体の一部がブリキに挿し変わっている黄金の鉄の塊で出来たブリキ騎士。

  人形達が出てきては帰る場所である館の情報を手がかりに辿り着く人間と妖怪。
  しかし彼女によって門前払いを食らってしまう。第一何を言っているのか絶妙にわからない。
  門とは破るものだと誰かが言っていた気がする人間は当然のように強行突破を目論む。


 ○4面ボス 振り出しに戻った呪い人形
  藁蘂 古麦(わらしべ こむぎ)
  Warasibe Komugi

  種族:人形
  能力:さいしょからはじめる程度の能力

  かつて裕福な暮らしを手に入れた長者の子孫。
  が、人形になったのが彼女である。藁ならいくらでも掴める。
  俗に言う藁人形。

  裕福な暮らしに身を任せていたら気がつくと身を滅ぼしていた。
  その後、彼女は死後にある人物と出会い、新たな体を授かった。
  それが藁人形の体である。まさかご先祖が最初に掴んだものに自分がなるとは思わない。
  
  裕福な生活に慣れていたために怠惰な生活を送っていたが、人形になってからは
  考え方を改め、その人物の元で暮らしている。自分の体で納豆を保存するのはどうなのか。
  人形として与えられた使命は、誰かを報われなくする事。

  盾子の力で生み出された守護障壁の力で立体迷路のようになった浄瑠璃劇館を突き進む人間と妖怪。
  しかし、ふと何度も同じ場所を回っている事に気がつく。
  彼女の能力によって振り出しに戻っているのだが、それは彼女も同様。
  迷路の中に取り残されたお互いが鉢合わせするのも、そう時間のかからない話だった。


 ○5面ボス 帰ってきてる警告人形
  赤光 羽虎(あかみつ ぱとら)
  Akamitu Patora

  種族:人形
  能力:警告する程度の能力

  以前宇宙空間まで追いかけて来た警備の出来る傀儡人形。
  警告するならどこにだって現れるが、今回は屋敷の警備に当たっている。

  館の迷路化が及ばない区域まで到達した人間とお供の妖怪。
  辿り着いたのは大きな舞台。ステージ上には彼女が佇む。
  案の定これ以上の進入に対し警告する彼女と、それを聞かない人間の戦いが開演する!


 ○6面ボス 人形浄瑠璃の主
  型繰 瑠璃子(かたくり るりこ)
  Katakuri Ruriko

  種族:亡霊
  能力:自立人形を作る程度の能力

  自立人形を生み出す事の出来る人形師。
  といっても、その自立人形の正体とは、人形を入れ物とした死後の魂である。
  蘇生術と言っても差し支え無いが、入れ物となった人形に課せられた使命を全うしなくてはならない。

  今回の人形の大量発生とは、謎の失踪を果たした四濡通雀の捜索のためである。

  お互いに人間だった頃からの付き合いらしい。
  人間だった頃にも一度雀は失踪し、そして謎の死を遂げた。

  彼女は人形師としての腕を磨きに磨き、雀の魂の器となる人形を作り上げた。
  それによって誕生したのが今の「四濡通 雀」である。
  しかし、没頭のあまり気がつかぬ内に人をやめていたのだが。


  また雀がいなくなるのではないか?
  過去に囚われ、そう思ってしまった彼女は、彼女を復活させる過程において誕生した
  人形達を総動員させ、自らも捜索に出向いた。

  しかし、一通り探しても見つからないため、彼女は一度館へと帰還した。
  侵入者の一報と共に。


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■2.エキストラストーリー
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  日陰の地――
  まだ人形は各地をうろついている。
  まあそれでもかなり数は減った方だ。減らすようにお願いした。
  それから数日後の事である。

  神巫「ま、一応はカタがついたって事で」
  黒奈「初詣の準備も既に粗方終わってて助かったな」
   桜「うーん、しかし・・・お友達さん、見つかるといいですね・・・」

  縁側でゆっくりくつろぎながら話す3人の人間。
  初詣の準備は、彼女達が飛び出した後に殆ど守が片付けてしまったようだ。
  できる子。なお今回のコレで神巫の信用が集まったのかは不明である。

   桜「しかし、心なしか、なんだか里の賑やかさが以前と変わらないような」
  黒奈「そうか?」

  人形の数はたちどころに減った。ならば少しばかり静かになってもおかし
  くないのだが、どうにもその傾向は見受けられない。
  それどころか、賑やかというよりやかましいくらいだ。
  
  瑠璃子「お嬢さんの読みは中々鋭い。非常にマズい事になった」
   神巫「いつの間に!?」

  人形達の長、型繰 瑠璃子が屋根の上から逆さにの状態でひょっこりと顔を出す。
  これには人間達もビックリだ。屋根の上から亡霊なんて心臓に悪い。

  黒奈「マズい事ってどういう事だ?」
  瑠璃子「それがだな・・・」

  よく見ると、彼女は既にボロボロで、幾度と交戦したような跡が
  複数見られる。結構シャレにならない事でもあったのだろうか。
  瑠璃子が説明しようとしたその時、神社の石段を叩く音が響いてきた。
  それも複数、急ぎ足のようだ。その音の主は空、廻、虹子だった。

   空「マズいぞ神巫!」
   廻「人形達が本格的に暴れだしてる!!」
  虹子「とてつもない凶暴性を発現させています!!!」
  神巫「なんですって!?」
  瑠璃子「彼女らに言ったままだな、私の管理外で人形が暴走を始めた
      心当たりは・・・一応無い事は無い。知り合いに出来そうなのがいる」
  黒奈「そいつの所に行けばいいんだな?」
   桜「その方はどこに?」
  瑠璃子「湖を越えた先に私が元々使っていた人形屋敷がある、奴はおそらくそこにいるハズだ」
  神巫「よし・・・それじゃあ行くわよ!!」


  人間と妖怪は、再度出発する。
  人形達に宿った黒き衝動を抑えるために。

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◇敵キャラサイド

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 ○エキストラ中ボス 七色の子入り人形
  
  七竈 利好(ななかまど りよし)
  Nanakamado Riyosi

  種族:人形
  能力:増える程度の能力

  ドス黒い魔力にやられ、暴走を果たした利好。
  何故か体のあちこちに蜂を模したような外装が生えている。
  彼女は唐繰人形と言うワケでもないため、おそらく魔力に当てられた影響だろう。
  見境なく破壊を繰り返し、人を襲う危険な状態。

  問題はもっと凶暴でもっと見境の無いヤツらがやってきた事だが。


 ○エキストラボス 居るのに居ない文楽役者

  黒衣 遣陰(くろご やかげ)
  Kurogo Yakage
  
  種族:亡霊(ポルターガイスト
  能力:影から操る程度の能力

  全身が真っ黒で闇に紛れる亡霊。
  一部では騒霊とも言われる、俗に言うポルターガイストである。
  しかしその名のわりに、彼女は動きこそ活発だがあまり口数は多くない。

  人形達を暴走させている魔力を垂れ流している根源。
  人形を操っているのが自分のようなものとだけ言い、
  あとは多くを語ろうとはせず、目的も言ってくれない。

  非常に困るタイプの相手だが、彼女が原因である事はハッキリしている。
  原因さえわかっていればやる事はひとつしかない!!


  出来の良い人形には魂が宿ると瑠璃子に吹き込んだのは彼女である。
  あくまでも霊魂を人形に宿らせる秘術を教え込んだまでだが、
  人形師としての力を想像を超える域まで増大させた事には驚いたらしい。
  その目的とは、人形や道具などの動かぬものたちによる支配。
  当時はまだ妖怪などを恐れる風潮があったものの、
  その恐怖は着実、そしてゆっくりと薄れていっていた。
  
  このままでは本来幻想であるはずの自身が消えてしまう。
  そう思った彼女だが、どうしようも無い。
  漠然と物を動かした所で人間がそこまで怖がらないからだ。

  しかし彼女の元に、一人に人間が迷い込んだ。
  それこそが失踪扱いとなった生前の雀である。

  彼女は一見してもわかるくらいに体に異常をきたしていた。
  妖怪と成らんとしている彼女は、誰にも見つかる事の無い
  死に場所を求めていたのだ。妖怪となる事で、親友の存在を
  忘れたくなかったのだ。

  雀に興味を持った彼女は、まだ理性のある雀からあらゆる事を聞いた。
  親友の事。人形屋敷の事。自身が取り替え子である事も話し、
  可能ならば殺して欲しいとも頼まれた。

  一通り話を聞き終わった彼女は、ここで支配計画と、人形師による
  蘇生の可能性を見出した。雀は彼女を全く怖がらない、それは彼女に
  とっては最も屈辱的な事であった。
  しかし、彼女はそれを気にしなかった。話を聞く内に、雀との居心地の良さを感じたのだ。

  殺す事は惜しい、しかし、考えを尊重したいと願ったが故の蘇生案である。

  再度異常を垣間見せる雀、残された時間が限りなくゼロに近い事を悟った彼女は
  雀を徹底的に、完膚無きまでに叩きのめした。復活の余地があるが故の、圧倒的に無慈悲な殺戮。
  そうまでしなければ、妖怪というものはしぶといものだ。特にこの本能で生きる者は。

  

  雀の死を確認した後に、彼女は瑠璃子の元を訪れた。
  雀の原型の無い遺体を見せ、それを絶対な絶望とし。
  彼女を復活させる術を教え、それを唯一の希望とする。
  まるで人形のように心理を突かれた瑠璃子は、それだけに長い年月を費やした。

  彼女の復活と、支配計画の実現のために。  


  そして更なる年月が経過し、瑠璃子が人間をやめた頃。
  「彼女」は完成を向かえた。

  四濡通 雀は、彼女達の前に再度姿を現した。
  表面化した妖怪が失せた事で、その魂はまた雀のものとなっていた。

  感動の再開を果たし、それを傍から眺めていた遣陰はふと思った


  支配とはなんだったのか。この光景を見て、まだ私は支配だの言っているのか。


  急に自身の野望がバカらしくなった彼女は、考えるのをやめ、
  表の支配者にならずに裏方に徹する事にしたのであった。








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■3.ファンタズムストーリー
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  遣陰を打ち負かし、暴走していた人形達は皆我へと帰った。
  幸い、大きな被害に及ぶまでにカタがついたので一安心である。

  瑠璃子「何故こんな事をしたんだ」
  遣陰「・・・・・」

  遣陰は相変わらず口を開かない。
  しかし、しばらく考え込んだ後、頑なに開かなかった口をするりと開く。

  遣陰「もういいわ、もう手遅れでしょうし」
  神巫「・・・?」
  黒奈「口を開いたと思ったら言ってる事はわからんな」
  遣陰「瑠璃子?貴方、ここ最近で人形が一人脱走してないかしら?」

  瑠璃子はハッとした表情を浮かべた。神巫達も話だけは聞いていたので把握出来た。
  紛れも無く、四濡通雀の事だろう。

  瑠璃子「雀の事か・・・!?雀の行方を知っているのか・・・!?」
  遣陰「ええ、彼女が私の所に来てね、頼まれ事があるって言ってね、
     『私を壊して欲しい』って、お願いしてきたの、二度目よこれで」
  瑠璃子「何を・・・言っている、それでお前は壊したのか!?雀を!!」
  遣陰「そんな事するわけないじゃない、彼女は私にとっても大切なお友達よ?
     わざわざ貴女に助言までして蘇らせたのに」

  神巫「それで、その子はどうしたのよ」
  遣陰「さあねぇ、もうとっくに暴れてるんじゃないかしら?」
  黒奈「どういう事だ?」
  遣陰「彼女は元々、人間という器に、人間と妖怪、両方の魂を押し込まれた、
     言わば取り替え子よ、彼女が人形になったおかげで私が押さえこめたんだけど
     まさか他の人形達がその影響を受けているなんてねえ・・・」  
   空「どうして先にそれを言わないんだ」
   廻「全くだ、事情さえ知っていればこちらでなんとかする事だって出来たものを」
  遣陰「彼女の意思を尊重したまでよ、私は裏方ですもの、表舞台で出しゃばる事は
     もうやめたし、これからする事だってないわ」

  瑠璃子が焦りの表情を見せる、その表情はどんどんと張り詰めて行き、
  緊張がエスカレートしているのが見て取れた。

  遣陰「瑠璃子、貴方が行くのはダメよ」
  瑠璃子「何故だ・・・?」
  遣陰「あの子は既に人知を超えている、貴女の操り人形なんて理は、もう通用しないでしょうね。
     せいぜい、こちらも人知を超えた力で対抗しないといけないわ」

  人知を超えた力に対して、どうにか被害が出る前に事を抑える。
  果たしてそんな事が出来るのか。

  神巫「さて、そういう話なら出かけるとしましょうか」
   空「今回ばかりは少々危険が伴いそうだぞ神巫、万全の対策をしておけ」
  遣陰「話、聞いてたかしら?」
  黒奈「ああ聞いてたぞ、しっかりとな」
   廻「異変には迅速に対応しなくてはね、言っておくが死んでも保障は出来ないけど」
   桜「悩んでいたんだと思います、とっても苦しかったんだと思います。
     事情も性質も違うけど、同じ半妖として、私は助けてあげたい」
  虹子「誰かを思っても、結果として誰かを悲しませるのでは意味が無いです
     雀さんにはしっかり反省して貰わないといけませんね」

  神巫「さっさと片付けるわよ!!」

  すっかり燃え上がった彼女達は各自、遣陰の言葉に臆する事無く
  黒い衝動を辿り飛び出して行く。
  それに対して、遣陰は不満の表情を浮かべた。
  

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◇敵キャラサイド

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 ○ファンタズム中ボス

  居るのに居ない文楽役者
  黒衣 遣陰(くろご やかげ)
  Kurogo Yakage

  種族:亡霊(ポルターガイスト
  能力:影から操る程度の能力


  人形浄瑠璃の主
  型繰 瑠璃子(かたくり るりこ)
  Katakuri Ruriko

  種族:亡霊
  能力:自立人形を作る程度の能力


  あの状態になった雀は、人の手で止められるものではない。
  
  この騒動はこっちの責任で、全てこっちの問題だ。

  勢いだけで飛び出せば、今回ばかりはただで済むものでは無くなる。

  遣陰は彼女を殺す時に、自身も満身創痍の重傷を負っている。
  ひとつの器に二つの魂を宿す、その不安定さが生み出す凶暴性を、彼女は知っている。

  故に彼女は止めねばならない。
  彼女の罪を、彼女の犠牲者を、これ以上増やしてはならないのだ。
  それは彼女のためであり、人間のため。

  放っておけば犠牲者はさらに増えるだろう。
  能力が通用しない以上、自己が犠牲になるしか、最小限の被害で抑えられない。

  それは瑠璃子も同様だった。果たしてそれで彼女が喜ぶか?
  そんな事は無いだろう、だが、止める術が無い以上は、こうするしか方法が思いつかなかった。
  
  止められる保障もない、だが精一杯はやろう。これは人間のやるような事ではない。


  しかし、人間達も、人知などとっくに超えているのだ。


 ○ファンタズマボス 哀に軋む最終鬼畜兵器

  四濡通 否罰(しぬがよい ひばち)
  Chinugayoi Hibachi

  種族:妖怪(蜂)
  能力:死をくれてやる程度の能力

  「妖怪」としての本能が、唐繰で出来た体に蜂として表面化した妖怪としての彼女の姿。
  その外装は妖力より成り立つものであり、その外装が剥げ落ちる事で妖怪としての本質も限りなく薄くなる。


  再度、妖怪へと変わって行く雀、一度目は遣陰によって死を迎えたが、二度目はその遣陰が情に飲まれ、
  操られる事で封印する程度に留まる。それが彼女をひとつ先へと進化させてしまうに至った。

  湧き上がる衝動を抑えられず、暴走寸前の雀。その衝動は彼女を否罰(ヒバチ)へと至らしめた。
  


  人の子として生まれようとする、一人の女の子。それが生まれる事なく、命尽きようとしていた。
  しかしその赤子は、形として捉えられず、消え行く一体の妖怪と数奇な出会いを果たし、
  取り替え子として、この世に正を受けてしまったのである。

  両親は彼女を人間として、たくさんの愛情を以て育て続けた。
  しかし、世間の目はそこまで温かいものではない。彼女を妖怪と蔑み、彼女はいつしか誰かと関わる事は無くなった。

  しかし外に出る事が無くとも、何故かこういうのは向こうからやってくるものだ。
  人々はわざわざ彼女の家の前まで赴き、罵声を浴びせ、物を投げ入れる。どうしてわざわざそっちから来るのかは全くわからない。

  その行為は日に日に過激さを増し、とうとう両親は、彼女を置き去りにして心中してしまった。

  信用出来る人物を失った彼女は、路頭に迷った。
  ほぼ無意識に近い状態で、彼女は彷徨い続けた。出来るだけ人を避けて。

  その中で、彼女は人形屋敷に辿り着く。
  数々の人形に魅了され、瑠璃子に出会い、初めての友達も出来て。
  彼女はそこでようやく、生きている実感のようなものを感じたのだ。

  しかし、時とは随分残酷である。人形屋敷に入り浸るようになってから時は流れ、
  彼女は次第に、人ではなくなっていく実感を感じたのだ。
  次第に薄れていく、人間としての自身の認識。
  罵声の数々も、今まで受けた痛みも、次第に彼女から薄れていく。
  このままでは自分は、瑠璃子という大切な親友の事も忘れ去ってしまう。

  そう思った彼女は、瑠璃子に告げる事無く、一人死に場所を捜し求めた。

  最初からこうすればよかった。望まれず生まれた自分が、少しでも生きたいと願うのが愚かしい事だったのだ。
  しかし、後悔するにはもう遅すぎた。大切なものを覚えてしまった。忘れたい思い出の方が多いのに、それが全ての邪魔をした。
  ならばいっそ、覚えている間に、人間のまま死を迎えよう。妖怪として生きるより、その方が私は幸せなのだと。


  その全てを遣陰に話した。
  亡霊だろうが妖怪だろうが、彼女はもう怖くない。むしろ自らの手で死ぬよりよほど簡単だろう。

  「貴女は、自らのご両親と同じ事をするのね、取り替え子とは言っても、やっぱり血統なのねぇ」

  遣陰は彼女に語りかける、しかし彼女にはその声は届いていない。
  もう彼女は、その殆どが妖怪へと成り代わりつつあった。

  「大丈夫、貴女は生きてていいの。嫌でもまたこの世界を見せてあげるわ」

  そうして、彼女という存在はこの世から消え失せたのだ。



  それからどれくらいの月日がたっただろう。せいぜい人間が人という存在をやめられるくらいだろうか。

  彼女は嫌でもこの世を見せられた。ふと気が付くと、彼女の眼前には、かつての友の姿がある。
  声にならないような声を上げながら、その親友は顔が崩れきっていて。傍には遣陰の姿もあった。

  彼女は親友に向かって告げた。







  「貴女に、死期が迫っています」

  親友は、その言葉を聞いて、笑顔を浮かべながらその場で崩れ落ちた。
  そもそも人間である事がおかしなくらい、永い時を費やしていた。







  勝負の中でゆっくりと、表面化した「妖怪」は剥がれ落ち、そこにはかつての雀の姿があった。
  果たして彼女は妖怪としての片鱗が削ぎ落とされたのか、
  いつしか妖怪として再度暴走を始めるのか、それは分からない。
  だが、彼女や人形達にも、ようやく平穏が訪れたのである。あまりに長く続く、悲劇の人形劇の終幕だった。