動手帳廻死霊

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■0.あらすじ
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  ある夏の蒸し暑い日の事である、神明神社には相変わらず人影が微塵も
  無い。どうも人里は最近、「毎夜、燐光のような光が空にまいあがる」
  という噂でもちきりなようだ。
  「蛍だ」とか「幽霊だ」とかいろんな噂がそこいらで右往左往している
  。幽霊ならうちで厄除け祈願でもしに来ればいいのにと神巫は思った。

  そんな事を考えながらお茶を濁していると、遠くで足音が聞こえる。

  「黒奈かしら?それとも参拝客?」

  と神巫はぽそりと呟く。が、その読みは両方ハズレであった。

  「伊沙弥 神巫さんですか?お手紙を預かっております」

  「あら、ご苦労様です、ついでに参拝でもして行きませんか?」

  「あ、申し訳ない、まだ仕事が残ってるので、遠慮しておきます」

  あっさりと断られ、しぶしぶと手紙を受け取り、男は去っていく。
  逃げるように去る男を眺める神巫。その後、特に他にする事も無い
  ため、神巫は手紙を開く。
  そして手紙の内容を見て神巫は驚愕した。

  その内容は詐欺師である黒奈の死に関する一報だった。

  「う・・そ・・?」

  突然の朗報に動揺する神巫、それもそうだろう、黒奈が簡単にお陀仏す
  るとは考え難いからだ。
  だんだんと不安が重なっていく神巫を尻目にまたその耳には石段を登る
  足音が入ってくる。その音の方向へ振り返ると、そこには。

  黒奈の姿があった。

  「なんだ、あんたのイタズラか」

  「なんだ、茶も出さずに第一声がそれか、イタズラって何の事だ、心当
  たりがありすぎるから具体的に話せ」
 
  「あんたが死んだって内容の手紙が来たのよ、これ、出したのあんたで
  しょ?」

  「・・・・・いや、出したのは私じゃないんだが・・・なんというか」

  「何よ」

  「死んだってのは事実だ」

  「からかってるのかしら」

  「いや、事実だ、私は確かに死んだ、んで何故か生き返った。というよ
  り人里の人間は最近バタバタ死にまくって私みたいに生き返ってる珍現
  象をそこいらで起こしてるぜ?」

  「どういうこと?」

  「さあね、最近流れ始めた噂と関係でもあるんじゃないか」

  「むう・・・」

  少し考え込む神巫、そして何かが吹っ切れたかのように神巫は飛び立っ
  た。

  「おい!神巫!どこ行くんだ?」

  「考えてみなさいよ、人が死ぬ、そして生き返る、どう考えても普通じ
  ゃない、これは異変よ! い・へ・ん!」

  そう言うと一目散に人里の方向へと飛び出していった。

  「やれやれ、あいつ異変になると基本ああだしなあ・・・まあいいや、
  中々面白そうだし、あいつについて行けばなんかあるかもしれん」

  そして黒奈も神巫を追ってさっきまで死に場所だった人里に向かって飛
  び出して行った。
  


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■1.キャラ設定
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◇プレイヤーキャラサイド

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 ○伊沙弥の巫女
  伊沙弥 神巫(いざなみ いちこ)
  izanami itiko

  種族:人間
  能力:霊力を操る程度の能力

  割と常識人な神明神社の巫女さん。昔こそ厚い信仰のあった神社だが、
  いまではからっきしとなってしまった神社の巫女さん。

  異変解決でどうにか信仰を取り戻そうと考えるが、うまくいった試しな
  んか一度も無い。今後も無い。


  黒奈が死亡したという一報を受けたその直後、普通に何事も無く神社に
  赴く黒奈と最近の燐光うんぬんの噂から異変の匂いを嗅ぎ付け、解決に
  向かう。


 ○天性の詐欺師
  鳴神 黒奈(なるかみ くろな
  narukami kurona

  種族:人間
  能力:電気を操る程度の能力

  性悪天才詐欺師さん。

  好奇心と興味本位が原動力の暢気な気分屋だが、頭は非常にキレる。


  人里にて【仕事】の最中に不慮の事故で死亡してしまうが、次に目が
  覚めると特に何事も無いかの如く、復活していたのでとりあえず神社
  に赴いた。

  神巫が異変だと大騒ぎして飛び出して行ったため、興味本位だけでつい
  ていってみる事にした。
 

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◇敵キャラサイド

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 ○1面ボス 夕刻の極楽
  一基 満足(ひともと まんぞく)
  hitomoto manzoku

  種族:妖怪
  能力:心を満たす程度の能力

  日中は大人しいが夕刻になると活発化し、持ち合わせのお菓子を食べな
  がら人里を練り歩く、道行く人間に食べてるものと同じお菓子を配って
  まわるため、良い妖怪と思われる反面、変わり者と言われている。変な
  妖怪。本当に変。

  夕刻に会うことが出来ればお菓子をほおばりつつ「満足満足」とか言い
  ながら軽快なステップで踊っているのを見る事ができる。行儀悪い。


  ある日、いつも通りに人里を訪れるとぐったり倒れる人々、お菓子あげ
  ても反応を示さず困っていた所に現れる人間。

  これは助かった!、そう思い人間の元へ駆け寄った。

  するとどうだ、とんだとばっちりじゃないか。
 
  
 ○2面ボス 人類最大の夢
  二次 元華(にのつぎ もとか)
  ninotugi motoka
  
  種族:人間
  能力:平面になる程度の能力

  外の人間は平面になる事を強く望むらしい、彼女はそれをいとも容易く
  やってのける。だが見たまんま風に弱い。

  平面になれるという事はあらゆるものに貼り付くことができるという事
  、式の中に入り込み、縦横無尽のその中を動き回れたり、Tシャツに貼
  りついてど根性する事もできる。やはり風に弱い。水にも弱い。

  突風の日に変な物体が浮遊していたらほぼ確実に彼女。


  異変の事などお構いなしに薄い状態で浮遊中、突如人間に能力を無理や
  りかき消されて尻餅を付く、それに怒りを覚えた彼女は弾幕勝負を持ち
  かけた。


 ○3面ボス 灼熱博打魂
  三暗刻 単(さんあんこう ひとえ)
  sannankou hitoe

  種族:妖怪
  能力:運気を見る程度の能力
  
  鬼もビックリの豪腕を持つ竹をばっさばっさ切ったような性格の妖怪、
  勝つか負けるかの真剣勝負に全力を注ぐ。弾幕勝負も博打もドンと来い
  。

  ツキの回っている人間を見つけて博打をしかける、何かを賭けるなどは
  基本的には無く、ただ真剣勝負のスリルを味わいたいだけ。場合によっ
  ちゃイカサマだってやっちゃう。妖怪が相手でも然り。弾幕勝負を持ち
  かけてくる時もある。

  絡まれる方からすればなんとも迷惑な話である。


  「幽霊が大量に発生する」、その話は彼女の耳にも入っていた。怖いも
  の見たさに幽霊の出現する場所に訪れた彼女は、強烈な運気を放つ人間
  の気配を察知する。当初の目的である幽霊なぞそっちのけで、彼女はそ
  の人間の前に飛び出した。


 ○4面ボス 死相視る緋蜂
  四濡通 雀(しぬがよい すずめ)
  sinugayoi suzume

  種族:人形
  能力:死相を暗示する程度の能力

  死期の近い人間にその死相を暗示する自立して動く人形。

  多彩なからくりを搭載してるので、もしかすると死相の暗示というのは
  「出会ったら死ぬって事じゃね?」といった噂もある。真相はわかりま
  せん。というよりあまりわかりたくないです。


  彼女はあらゆる場所に現れ、それも死期の近い人間の前に現れる。

  謎の幽霊騒動により死相の無い人間が無数死に、無数また生き返る現象
  を目にした彼女は今回の騒動の黒幕を把握する。


 ○5面ボス 六道の道しるべ
  六道 廻(ろくどう めぐる)
  rokudou meguru

  種族:死神
  能力:六道へ導く程度の能力

  ベルを使い、彷徨える魂を六道輪廻へと送り出す死神。

  実際は生き過ぎた人間(仙人や天人)を地獄へと引き摺り下ろすのを本
  職としている。まさに死神。また、彼女の持つベルは死ぬ運命に無い霊
  を肉体へと戻す事も出来る。

  お宝探知ネズミと似たような話し方をする。きみはじつにばかだな。    


  異常な数の幽霊を目撃し、黄泉送り、肉体蘇生を繰り返す。できれば根
  源を絶とうと考えているのだが、目を離すとすぐにまた霊が増えるため
  一切動けないでいる。


 ○6面ボス 横難横死邪の亡霊
  五林中 日蓮(ごりんじゅう にちれん)
  gorinzyuu nitiren
  
  種族:亡霊
  能力:横難横死を操る程度の能力

  不慮の事故により命を落とした亡霊。

  自らをこのような姿に変えた相手を見つけ出し、復讐として相手も同じ
  目にあわせようと目論み、成仏が出来ないでいる。でもこの体も案外便
  利、なにせ飛べるし。

  自らの手を汚す事無く相手を痛い目にあわせたり殺すことができるが、
  特に害の無い者には何もしないので、遭遇したら悲鳴でも上げながら逃
  げるといいかもしれない。


  彼女を殺した犯人を捜すための人手(幽霊)とその幽霊の誤報によって
  結果大量の死人を出してしまった今回の黒幕。
  特に悪気があるわけではないが、無論死人がでてるので人間は邪魔しに
  やってくる。



  彼女がまだ人であった時、彼女には仲のよい妖怪がいた。

  人と遊ぶことは無く、その妖怪とばかり遊ぶようになり、里の人間から
  は蔑まれた。

  だが彼女はそれを一切気に留める事は無かった。
  彼女はその妖怪を親友と呼び合う程に仲が良く。
  周りがなんと言おうが、彼女にとってその妖怪と遊ぶ事の方が最高の楽
  しみだった。

  しかしそれが長く続く事は無かった。

  河で遊んでいる時の事、突如その妖怪は彼女を突き飛ばした。
  無論、冗談半分のつもりだった。妖怪は水浸しになってしまった彼女を
  見て笑うつもりだったのだろう。

  だが彼女は水に浮いたまま起き上がる事は無く、少し経つと水の中に沈
  んでいった。


  
  次に目が覚めると、彼女は幽霊の姿となっていた。

  何があったのか記憶も曖昧だったが、その中で彼女は唯一覚えているも
  のがある。

  ―「私は何者かに殺された」
  
  彼女は自らを殺した者の顔だけを覚えていた。そして誓ったのである。


  「私はこいつに復讐する」

  
  
  
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■2.エキストラストーリー
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  夕刻の神明神社
  異変が解決した今も相変わらずその敷地に参拝客の姿は見当たらない。
  いるのは神巫の知人のみだった。その後、五林中は犯人探しを諦め、人
  が謎の死を遂げるという事は無くなっていたのだが・・・

  神巫 「え?それってどういう事よ?」

  黒奈 「私だって俄かに信じがたいさ、だが今言った言葉の通りだ」

  神巫 「一度死んだ人間が自ら命を絶つ・・・どういう事かしら・・・
  ?」

  黒奈 「それも自殺志願とかじゃねえぜ、奴らは生き返るのを目的に死
  んでんだ」
  
  人里の人間が怪死する事は無くなったのだが「すがすがしい」「何度や
  っても新鮮」「やめられない」などと言って廻の力で生き返る事を目的
  に自ら自害する者が後を絶たないのだ。

  日蓮 「言っとくけど、こればかりは私は無関係よ?痛い目にはもう逢
  いたくないもの」

   廻 「いくら何でも自ら死を選ぶのはおかしいね、生に執着してこそ
   人間だ、仙人やら天人みたく、必死に生きようとする人間だっている
   のに、わざわざ自分から痛い目に会ってまで生き返ろうとも普通は思
   わないだろう。全く、本業に戻れるのはいつになるだろうね、こっち
   はただベル振ってるだけって訳でもないのに」

  神巫 「あんたはどうも無いの?」

  黒奈 「私は死ぬまで生き続けたいな」
  
  苦い顔をしながら話し込む4人、そこに陽気なステッポで歩み寄る影が
  あった。お菓子妖怪、一基 満足である。最初に会った時と比べると何
  やらずいぶんとテンションが高かった。

  満足 「まん♪まん♪満足!一本満足!フぇい!!」

  神巫 「いつぞやの満足妖怪じゃないの、何の用よ、こんな所まで、用
  が無いなら賽銭だけでも入れておきなさいよ」

  満足 「廻さーん、これ、どーぞー♪」

   廻 「私にかい?なんで?」

  満足 「夕方からのからのかんばりにー、だよ!」

  神巫 「いや、私は無視ですか、そうですか」

  満足 「ところで、何のお話してるのー?」

  黒奈 「何、お前には無縁だ。異変は解決したのに人里の奴らが死と蘇
  生に依存してやがんだよ」

  満足 「・・・!!」

  黒奈が発言した瞬間、満足の顔は一瞬険しくなり、そしてそそくさと神
  社から立ち去ってしまった。

  日蓮 「何かあったのかな」

  黒奈 「むう・・・あいつ、何か隠してやがるな」

   廻 「何故そうだと思う?」

  黒奈 「職業柄、心が揺れ動いたのがわかるんだよ、詐欺師ってのは相
  手の心を揺するような仕事だ。つーわけだ、神巫」

  神巫 「いわずもがな、よ」

  廻と日蓮には人里の人がまた死ぬ事が無いように見回りを依頼した、廻
  が言うにはあまり霊のままでいると肉体が腐敗して元に戻れなくなるら
  しい。彼女らが赴けば被害は最小限に抑えられるだろう。
  そして神巫と黒奈はそそくさと飛び立つ満足の後を追うことにした。
  「依存」への手がかりを探るために。

  

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◇敵キャラサイド

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 ○エキストラ中ボス 夕刻の極楽
  一基 満足(ひともと まんぞく)
  hitomoto manzoku

  種族:妖怪
  能力:心を満たす程度の能力

  依存の言葉を聞いて一目散に逃げ出した満足、やがて神巫達に追いつか
  れてしまい、仕方なく追い払おうとする。時は夕刻、彼女が最も活動を
  得意とする時間帯。彼女は本気の弾幕を展開する。

  
  彼女は「依存」させた人物を知っていた、人間達に悟られる前にそれを
  やめさせるために彼女は神社を飛び出した。

  その人物は知らなかった、その「依存」が大惨事を引き起こしていると
  。


 ○エキストラボス 止まらない依存の迷路
  八童 蝦煎(やわらべ かいり)
  yawarabe kairi

  種族:河童
  能力:依存させる程度の能力

  あらゆる物事に対しての「依存」を与える事ができる妖怪。

  
  一度ドでかい事をやらかしたいと思っており、自らの能力を使って人々
  を依存させてやろうと考えて決行、だがそれが先の異変と重なってしま
  い、人里の人間が死と生に依存してしまった。
  
  彼女はある理由で人里には近づかない。
  
  彼女には人里の様子が分からない。
  
  故に彼女はその惨状を知らない。


  そして彼女の知人は飛び出した、「異変」となる前に彼女を止めようと
  。


  
  やがて、自らの行っている事が大惨事を起こしている事を知り。
  蝦煎はすぐさま能力を解いた。
  
  根が悪い妖怪では無いので、彼女は、避けて通っていた人里にも赴き、
  人々に頭を下げて深く反省したらしい。

  日蓮はというと、復讐などという言葉は一切口に出さず、
  神巫達に叩きのめされたのが随分と効いたのか、蝦煎を快く許してしま
  った。

  今の人里は妖怪が蔑まれるあの頃とは違う。
  彼女はもう人里に怯える事は無いだろう。

  

動手帳思念大戦 Ps-2 Cp-2 慈悲と信仰心の信頼

もし知ったその時、その時既に事象の一つとなる。

Ps-2 Cp-2 慈悲と信仰心の信頼

俺たちは覚束ない足取りで図書館へと戻る。足ないけど。
ガルテスとヴィグレイマは平和の思念の治癒を受けたもののその状態は完全ではない。俺に関しては治癒そのものを受けていない。平和の思念に治療されるのが嫌なだけだ。
だが俺は先の戦闘で味わった謎の感覚、自分が自分でない何かに陥る感覚によっての疲労が重なり、実質アウトラインギリギリだった。でも治療は受けてたまるものか。意地でも受けんぞ。だがやはり所詮は痩せ我慢である、時々浮力が不安定になり、地面に屈してしまいそうになる。
というか全員フラフラであり、なんというか外からみればまるでゾンビの行進のようである。しかもうち二人は外見だけで言えば幽霊なのだ、自分で言うのもなんだがもう軽く歩く心霊現象じゃねえか。足無いけど。
度々こちらに飛んでくる視線を気に留める余裕も無く、俺達が図書館にようやくたどり着いたその時、そこに待ち受けていたのは。
例の扉の爆音である、全員体力が限界に近かったが、爆音によって扉の前でさらに気を失いそうになる、ヴィグレイマに関してはもう倒れている。
この扉も直す直すと言っておきながら一向に直していない、グリモアが帰ってきたら真っ先にこの扉を直してもらう、そう心に決め、扉は開けっ放しにしておいた。
そして図書館の中ではヤグレムがすでに帰っておりいくつかの本を読んでいる痕跡があった。結局こいつは単独で何をやっているのだろうか。
「随分と派手にやられたようだが、何があった」
「アズゥの部下にメッタメタにされた、よくわからん力でどうにかなったがな」
「4人掛かりだというのにか、それによくわからない力とはなんだ」
「よくわからんからよくわからん力なんだよ」
「それもそうか」
「それと・・・だ」
「何だ」
「お前は単独で何をやっている、別行動とかなんか言ってどっか行ってるみてえだが、お前が実際何をやっているのか知らん」
「それをお前が知って何になると言うのだ、私は私のやる事がある、お前は自分のやるべきことをやっていればいい」
「じゃあお前のやるべき事が何か教えろ」
「言い方が変わっただけだ、質問が変わっていないぞ。それでは同じ返答しか出せん」
しばらく俺とヤグレムは睨み合い、図書館はシュンと静まり返る。
またしばらくして、その沈黙を遮るようにガルテスが俺に話しかけてきた。
「イハン、わりいが俺はそろそろ寝床に戻る事にするぜェ?あまりここに長居するワケにもいかねェし、やっぱ俺は外じゃねえと落ち着いて寝る事さえ出来ねえ」
「・・・・・わかった、戻っていいぞ。ただし扉は閉めるな、そろそろ本格的に音がヤバイ」
「ああ、まあ何かあったらまた来るかもしれねえがなァ」
ガルテスは自らの寝床へ戻っていった、てかそういえばそうだ、アズゥは一度封印を施した思念体には手をかけていない、それに誰かを襲うなんて事も確認されていない、ここに集結するより分散させたほうがいいかもわからん。むしろ無害なら柱なり何なり放っておいてもいいのではなかろうか。
などと考えているとヤグレムが俺の心を見透かしたかのように鋭い視線を向けてくる。この立案は却下、結局アズゥ達の居所を掴むまでは地道に柱をぶっ壊して中の思念体引っこ抜いて回るしかないのだ。それしかやる事ないのだから。でも流石に助けた奴と協力者全員ここにおいておくとパンクするだろう、確実。それは考え物だった。
「しかし、ヴィグレイマは完全にノックアウトだなこれは」
「久々に激しく動いたのではないのですか?」
「元々アグレッシブなジジイではあったのだが、<天空大陸異変>以降運動してないのかもな、運動しろよジジイ、メタボるぞ」
「・・・・・・・・・・うっさいぞイハン」
「なんだ、起きてたのか」
ヴィグレイマが起き上がる、平気を装っているつもりだろうが、汗だくだし若干苦しそうなのが表情に出ている。無理すんな、ポックリするぞ。もう歳なんだから。
俺はふと思い立って星を作り出し、それをヤグレム目掛けて打ち抜いた。やはりあっさり掻き消されてしまう。本当に純粋な無想星を作り出せるのかすら疑問に思える。
「いきなり何だ」
「疲れている方が無心になれるんじゃねえかと思ったが、そうもいかねえな」
「そんなに簡単ならわざわざ修行する必要なぞないだろう」
「それもそうか、やっぱめんどくせえな」
無心とはなんなのか、軽く考えていると遠くから・・・なにやらジェットエンジンのような音が聞こえた。
外に出るとそこにはメイドとなにやらどでかい戦闘機が留まっていた。おい住宅地域に戦闘機が飛ぶなよ、ソニックブームで窓がやべえだろ。てかいくつか既に窓割れてるだろ。手遅れかよ。マジかよ。
そしてその戦闘機からまだメイドがおりてくる、戦闘機って普通一人か二人で乗るものですよね。しかもなんか行きの時よりメイドが多い、一匹所か二人増えてる。一匹は思念体だろう、みりゃわかる。もう一人はようわからん、俺の経験的に普通ではない。
空になった戦闘機は謎の変形過程を経てまた一人のメイドの姿へと戻った。<オートマトン・『セルラ=グランギニョル』>、やはり普通ではない。
「ただいま戻りました、ご主人・・・」
「変な演技はもういい」
「あら、気が付いていたのですか」
「いきなりあんなことになったら流石にな、それで・・・だ、あからさまメイドが増えている事についての説明は無いのか」
「出会いました」
「そうか、だからなんだってんだ」
片方は<規律の思念体・エレノア=オルダー>、もう片方は知らん。
「おいセルラ」
「なんでしょう」
「この経験値は何者だ」
「<ヴェルレ=ゼルメタライト>、どうも主とはぐれてしまったようです、経験値だけに」
「で、同行させたのか、この経験値を」
「ええ、まあ倒すわけにもいかないので、経験値ですが」
「あまり経験値って言わないでくださーーーーーい!!」
しかもこのメイドも違反の影響が無いらしい、メイドってのは無敵なのだろうか、そういうもんなのだろうか。わからん。
そこにとてとてとグリモアが駆け寄る、相変わらずメイド服のままだ、よくもその格好のまま外を歩けたな。グリモアはともかくとして、クロニクルまで。
「イハンわたししねんたいたすけてきたよ!ほめてwwwwほめてwwww」
などとぬかしながらグリモアは俺を抱きしめてくる、だがこいつは見た目に反して人一人絞め殺せる位(推測)の腕力があるために俺の生命力が確実に抉り取られていった。
痛いを通り越してもはや意識が消失しそうである。
とりあえず頭を撫でてやると「えへへ〜」と言って大人しくなった、今度から身の危険を感じたらこう対処する事にしよう。
「幽霊さんなにやら他の団体さんの姿が見えませんが何かあったのでしょうかあとそのもあもあしたもの食べてもいいでございますか」
「あの片目隠れたオッサンなら帰った、そしてこれは喰えん。あとサルヴィナ、ヴィグレイマがあっちで寝てるからとっとと行ってやれ」
「なん・・・ですって・・・?」
そういうと一目散にヴィグレイマの方へと飛び出すサルヴィナ、あんな悪乗りには乗っておきながら主の心配はするというのはこいつはメイドとしてどうなのだろうか、それはこいつ以外にも言えた事なのだが。
ここでセルラがふとあたりを見回し、俺に問いかける。
「そういえば、他にも思念体が三人程いませんでしたか?見当たりませんが・・・」
「一人が勝手にどっかいったからな、他の奴等に追うように頼んだワケだ」
「大丈夫なのですか?その今回の異変の親玉が彼らの前にまた現れたらどうするのです?」
「だったらとっくに此処襲撃でもして、連れ去ってるだろうよ、一度柱に捕らえた奴は用済みかもしれん」
「しかし憶測でしょう?」
「憶測だ、だが勝手に飛び出したのはまぎれもない<信仰心の思念>、他の奴は仮に俺の憶測が外れた時の保険だ、まあもっとも、保険用意した所でアズゥに対抗できるやらわからんがな」
にしても何故信仰心は図書館を突如として飛び出したのだろうか。なんとなく目的も無しに飛び出しそうな性格ではあるのだが。
するとそこにサルヴィナに支えられた状態でヴィグレイマが俺の元へとやって来た。サルヴィナは姫百足を行使しているのでなんか体中がすごい状態である。あえて言えばキモい。
「すまぬ、イハン、ワシらはそろそろ帰還するぞ」
「私達が住む領域はあなた方のおかげで影響下から外れたので、此処に泊めていただく理由も無くなったのです」
「そうか、まあ好きにすればいい、図書館に客でもないのが溢れかえるのも困ったものだからな」
「貴様らしい返答じゃのう、まあ何かあればまた世話になるかもわからんぞ」
そう言って奴らは扉を抜けていく、サルヴィナが扉を閉めそうになるので慌てて静止し、奴らはそのまま遠くの方へと消え去っていった。
「・・・・・グリモア、クロニクル」
「はい?」「なーにー?」
「扉の金具付け替えておけ」
「わかった」「あいさー!」
「それならば私もお手伝いします、経験値さん、あなたも協力してください」
「経験値って言わないでくださーーーーい!!」
「なんですか楽しそうなので私も混ぜていただきたいのですがところでセルラさん太もm」
「・・・・・やれやれ・・・」
俺は一息ついて椅子に腰掛ける、ただし若干浮いている。机の明かりを点し、そばに置いてあった読みかけの本を手にとった。その本にはグリモア手作りのしおりが挟まっており、そのしおりは七色に輝く光の粒子が集まり板状に構築されて出来ているもので、触ると粒子を撒き散らし微かに発光する、どう見ても人工のものではない。
普段人間の姿をしているグリモアとクロニクルだが、改めて人間ではない事を思い知らされる。封印されていたのにも何気に納得がいくだろう、人知を軽く超越した事を平然とやってのけてしまうからな。
俺は本を開いてしおりを抜き取り、1ページ、また1ページと読み進める、グリモア達がドアを直している間の束の間の休息だが、ロクな休息など道端で変な詩聞かされたの以外では全然取っていないので丁度良い心の肥しだった。
「手伝わないのですか?」
「俺は手伝うつもりはない、こういうのはグリモアがやってくれるからな、そう思うならお前が手伝ったらどうだ」
「金具はちょっと、データ類ならどうにかなるのですが・・・」
「<妙な傘>は直せるのにか」
「あれは<傘>ですから」
「おい、イハン」
ヤグレムも入ってくる、ヤグレムから話しかけてくるということはどうせ大した用でもない。
「何の用だ」
「私はまた出るぞ」
「・・・また<お前のやるべき事>って奴か?」
「そうだが、それがどうした」
「お前は何をやっているんだ」
「またその質問か、お前はそれしか言えないのか?」
「それとしか聞きようが無い、言っておくが何度でも聞いてやるぞ」
「・・・・・あまりにしつこいのは困り者だな、少し話してやる、私は<答え>を、<たった一つの答え>を探している」
「答え?」
「2年前、いくら待とうが、いくら動こうが、私が唯一、全く見出せなかった答えを私は今更になって探している」
「何でまた唐突に、その時は見付けられなかったんだろ?その<答え>ってのが」
「・・・私はこの異変に<答え>に繋がる公式が隠されている・・・そう睨んだ。私はあの時に解けなかったこの数式を・・・この異変によって読み解き答えを導き出す。確証なぞ無い、だが―」
「はいはいわかった、聞いたのは俺だがお前の言ってる事はだんだん分からなくなる、とりあえずお前は何かを探している、この異変でその探し物が見つかりそうなワケだ、そうだろ?それでいいんだな?」
「・・・・・・・」
「・・・・・ハァ・・・もう何もきかねえから、とっとと行って来い、<答えを見つけにな>」
俺は本を読み進めたままそう答え、ヤグレムはエンプティホールを開き、その中に身を沈めていく。
正直驚いた、表情にはあまり出てないのだが、奴はどことなーく熱くなって話していた。冷静さの薄れたヤグレムは見たことがない、その<答え>というのはそこまで重要なものなのだろうか。とりあえず聞けて満足したし、特に内容も俺には全く関係の無い話だろう。どのみちめんどくさいから関わりたくないのだが。
俺は黙々とそのまま本を読み続ける。平和の思念は一度修理組の元へ赴いたが、確認して自分が出る必要が無い事を覚ると本を物色し始めた。ざまあ。
ふと脇を見ると傍に置いたしおりが七色に姿を変えながら光を放っていた。どうやって作ったんだろうか、コレ。




「イハーン!ドアなおったよー!ほめt」
「今日はもうなーでなでしただろバカ、抱きつくな、死にかねんから」
「古い方の金具はどうしますか?」
「ゾンビメイドにでも食べさせておけばいいだろ」
「なんと失礼な私はお肉しか食べませんよところでセルラさんいい加減にその太もも食してもよろしいですかいいですよねいただきます」
「焼肉にしますよ」
「うりーん」
「んで、お前らはそろそろ元の服装に戻ってくれないか、違和感がすごい違和感」
「えー」
嫌がるグリモアを尻目にクロニクルが自らのメイド服を掴み、剥ぎ取るように引っ張るとするりと脱げてしまい、クロニクルはいつもの青々しい格好に、メイド服は本の表紙に戻った。それを見たグリモアもぶーぶー言いながら剥ぎ取r脱ぎ、メイド服は表紙へと姿を戻した。
「んで、やってもらいたいこともやってもらったワケだが、お前らはどうする」
「何がですか?」
「ご覧の通り、大多数はもう自分の居場所に戻っている、お前らは帰らなくて大丈夫なのか?」
「確かにそろそろ戻らないとご主人が怒る可能性があります水切らすとご主人枯れます帰りますセルラさんいい加減太ももかじらせてください」
「ひき肉にしますよ?」
「ハンバーーーーグ」
「まあ、あまり客でも無いのに長居するのは失礼ですね、リザさん?あなたの館へお邪魔させてもらっていいかしら?お手伝いぐらいはさせて頂きますけど」
「おおそれは有難いですぜひお願いしますかじらせて」
「おゆはんはハンバーグですね」
「まるーん」
漫才でも見てるのだろうか俺は。
「経験値さん?あなたはどうされます?」
「私はまた主人を探す事にします、あとさらりと経験値って言わないでくださいよー」
「そういうワケですので、私達はこれで失礼します、また何かありましたらお尋ねするかもしれませんので」
「あいよ」
メイドがぞろぞろと外へと出る、新品の金具に交換されたドアは静かな音を立ててゆっくり閉じていった。音に殺される心配はこれでまたしばらく無い。
さて、今此処に残った奴はまず平和の思念、奴は俺の傍で軽く物色した何冊かの本を静かに読んでいる。何もせずともウザい。
次に規律の思念、他のメイドは去ったがこいつはまだいる、ホコリの有無を確認でもしてるのだろうかさっきから本棚を指でなぞっている。だが残念だったな、ここのものは全てグリモアの魔術によって<汚れなどを弾く>ようになっている。ちなみに今はどうともないが、過去にこの魔術で俺は<一切の本に触れることが出来なくなった>事がある。俺はそんなに汚れているのか、いや確かに心は汚いだろうが。
そしてグリモアとクロニクル、ソファーでゆったりしているクロニクルに対して、グリモアはコスプレにハマったのか色々な本のカバーを物色して着替えまくってる。足が長いからかチャイナが妙に似合っている。あと使ったらちゃんとカバーを元の本に戻してほしい。
・・・・・久々に静かな時間が流れる、出来ればこのまま一日を終了したい、働きたく無いでござる。絶対に働きたく無いでござる。
するとその願望を木っ端微塵に粉砕するかの如く聞き覚えのある甲高い笑い声が聞こえる、もう嫌な予感しかしない。そして盛大に扉が開き、扉が壁にぶち当たる音が図書館全体に響く、直したばかりだぞ、丁寧に扱えバカヤロウ。
「キャハハハハハ!!インポッシブル!!」
図書館を抜け出した信仰心の思念である、とりあえず意味が分からない。その後ろからふらふらと脱力しきった様子で現れる我慢の思念と嘘の思念。相当振り回されたに違い無い。そしてその後ろからまた見慣れぬ思念体の姿が現れる。そしてその思念体は背中の十字架を大きく揺さぶりながらそそくさと中へ入り、丁寧に戸を閉めて挨拶を始めた。
「初めまして、<慈悲の思念体、ミトラ=クルス>です、ビリーヴがお世話になったみたいで、大変感謝しています」
特に何かした覚えは無いし感謝されるタチではない、しいて言えばビン詰めにした程度しか覚えてない。
「特に世話した覚えは無いが、まあいい。ルチア、何があったか説明しろ」
「ご覧の通りですよ、彼女・・・信仰心の思念体が真っ直ぐ向かった先にあった思念思想の杭柱に封じられていたのがこのミトラさん、当の信仰心の思念によれば<彼女を助ける目的で飛び出した>そうですけど」
「それはつまり・・・」
「向かう前から慈悲の思念体の居場所がわかってたって事になるZE?」
俺の発言に割って出るように嘘の思念体が言葉を続けた、確かに嘘の思念の言う通りに考えられる、影響下でその性質を感じ取るなら兎も角、今はどの性質の影響下にも無いここから真っ直ぐに自らの求める性質に直行するというのは元から場所を知っていると考えるのが妥当だろう。まあただ突っ走ってたら偶然慈悲の思念体でしたってのも考えられなくないが。
「あの・・・」
慈悲の思念体が口を開いた。
「彼女が難なく私の元まで辿り着けたのは、<私が信仰対象>だからじゃないかと思うのです」
「・・・ん?」
俺はおもわず首を傾げる、信仰先だから辿り着けるというのはいまいちわからない。
「有難い事に、ビリーヴは私の事を信仰の対象として見てくれています、もしかすると彼女は性質を辿ったのではなくて<信仰を向けるべき先>に向かって突っ込んで行ったのではないでしょうか・・・私も彼女のすべてを知っているワケでは無いのであくまでも憶測の域なのですが・・・」
「そうなのか?信仰心」
「キャハハハハハハハハハハ!!ミトラ様がそう言うならそうなんじゃないかな!!!」
「はい、本人も分かっておりません、本当にありがとうございました」
「どうやらそのようですね・・・・・あ、ダウトは?」
「ダウト?」
「<疑念の思念、ダウト=ディストラスト>です、白髪で周りに目がたくさん浮遊している私の仲間なのですが・・・お見かけしてませんか?」
「仲間か・・・残念だったなそんな奴全く見てない、おそらくお前と同じ、柱に封印されてると見るのが一番だろう」
「そうですか・・・」
「ミトラ様ー、あの性根腐った男がどうかしましたかー」
信仰心の思念が仰向けの状態で俺の足元からぬるりと出てくる、やめろびびるやめろ、まあ足無いけど。
「こらビリーヴ、例えダウトがあまり好きでなくてもそのような言い方はいけません」
「申し訳ありません、キャハハハ」
暴走がデフォかと思ったが、慈悲の思念が相手だと随分素直である。正直ビックリした。ただし笑う。
「せめて場所さえ分かれば行けなくも無いが、流石に一個体がどこに封印されてるかは分からんぞ、いままでだって行き当たりばったりの虱潰しだからな」
「そうなんですよねぇ・・・」
「キャハハハハハハハ、わかるよ、奴の居場所」
「は?」
「え?」
そう言って信仰心の思念体が指差す方向は、巨大なビル郡の立ち並ぶその中にひとつ、天を突く程に高いタワーの聳える【うごメモ中央街】だった。以前バンレンジャンカオスの手によって亡者が集中的に沸いた地点でもある。アレは以降【亡者異変】と呼ばれ、その異変によって使用した救世システムは現在機能が停止している。
「またあそこに赴く事になるたぁおもわなんだ」
「それにしてもビリーヴ、本当にこちらの方角で良いのですか?」
「キャハハハハ!大丈夫です!たぶんね!」
「確証なし・・・ですか・・・しかしミトラさんを一発で見つけだしたのであれば信用の余地はありますね」
気がつくと平和の思念が俺の背後に佇んでいる。
「なんだ、聞いてたのか平和の思念」
「ええ、しっかりと」
「・・・まあいいか、出るならとっとと出るぞ、早く事を済ませたい、めんどくさいから」
「ルチアさんとヲトギさんはどうされますか?」
「HEY YOU![俺はいつでも臨戦態勢だZE!?]」
「私は遠慮しておきます」
二人とも相当バテている様子だった、信仰心の思念、こいつらをここまで疲労させるというのはいったい何をどうしたのか。ところで今の嘘の思念の発言は嘘でよかったのか。規律は今までがメイドまみれだったからあまり見たくないので触れないでおいた。
とにもかくにもこれで次の行き先が確定した、本当に疑念の思念体がそこにいるかわからんが、まあ行く事に越した事は無い。と思う。
図書館の扉がゆっくりと静かに音を立てて開く、外は・・・・・相変わらずの鮮血色に染め上げられている。時間的には夕刻だろうが、日の光すら届かないためにそれがわからない。不便だ、それはもうあまりにも。
俺に続き、平和の思念、慈悲の思念、信仰心の思念が外へ出る、戸をしっかり閉めてルチアとヲトギのいる図書館を後にし、俺達はうごメモ中央街へと飛び立った。




血の色に染まった空に4体の思念体が空を切る、訂正すると一人は走っている。その最中で慈悲の思念は何か深く考え事をしているようだった。なんとなく気になったために俺は慈悲の思念体に問いを向けてみる。
「お前はさっきから何を考えている」
「何故ビリーヴが私やダウトの居場所を特定できるのか気になってしまいまして、私の仮説はどうやら違うみたいですし・・・」
そこまで頭フル回転させて考えるような事なのか、正直どうでもいい気がするのだが。
「あまり難しい事でも無いと思うのだが」
「わかったんですか!?」
「まあ、お前らは信仰心とダウトなんたらをどう思ってる」
「ええ?仲間・・・ですけど・・・」
「つまりそういう事だ」
「ビリーヴがダウトを本当に信頼し得る仲間だと思ってるって事ですか?」
「まあそうなるんじゃないか?あいつ何考えてるかわからんし、可能性も無くは無い」
「ううん・・・でも居場所まで分かるものなのでしょうか・・・?」
「そういうものだ、生憎、こちとら同じような事ができるタチでな」
慈悲の思念は信仰心の思念と見た、それにつられて俺も奴をみてみる、あいかわらずにへらにへらと笑い、ものすごいスピードで地を駆け抜けている、いつにも増して怖い。
慈悲の思念はそんな信仰心の思念を見てクスッと笑った、何故笑ったのかはサッパリだ。
俺は視線を戻すと何の変哲も無い森が目に入る、俺はその森に片目の隠れた中年の姿を思い浮かべた。
「・・・・・・・・・・どうせ雑魚寝でもしてんだろ」
「何か言いましたか?」
「何もねえよ、いちいち独り言に反応すんなバカ」
俺達が何気無く会話をしているその内、前方にいつか見覚えのある巨大な天を貫くタワーがその姿をハッキリとさせた。

動手帳思念大戦 Fs-2 cp-1 違反と平和の二律

だが惨劇を知る者は少ない、知らない方が幸せかもしれない。

Fs-2 cp-1 違反と平和の二律


図書館からメイド軍団を送り出し、ヤグレムは別行動。さらにあの後、図書館から信仰心の思念体、ビリーヴが抜け出したと留守番組が追いかけて報告に来たため、留守番組である我慢の思念と嘘の思念にはアズゥに関連する者への警戒を促して信仰心を追跡するよう要請した。そして残った男衆、ガルテス、ヴィグレイマ、平和の思念、俺は(流れ的に)同行動する事となった。朝っぱらから色々ありすぎて平和の思念を罵倒する気力すらない。
「んで、どうするよ」
「どうする、といわれましても。柱の発見と破壊でしょう?」
「いや、それはわかってんだ、言葉の通りに解釈するんじゃねえ」
「じゃあどうすればいいのです?」
「・・・・・、言葉の通りでございます」
反論する気さえ起こらない。
「ガルテスさん、でしたよね?」
「ん?あと『さん』はやめてくれねえかァ?」
「あ、すみません。ですが呼び捨てだと性に合わないもので」
「まあ勝手にしろ、んで、なんだァ?」
「ガルテスさんの調査領域にいた人達はどんな傾向でしたか?」
「あァ・・・?どんなんだっけかなァ・・・忘れちまったぜェ」
「おい、ガルテスよ、お主あんな印象的なことを忘れたのか」
「起こった事あんまいちいち覚えてられっかよォ・・・・」
「あんな?」
「うむ、外の人間共が<全員大の字でうつ伏せ>じゃった」
「なん・・・だと・・・」
「気力が減退する傾向の思念体でしょうかね・・・ちょっと存じ上げないです」
「まあ行ってみたら早い話だろ、性質さえ感じ取れたら何か分かるからな」
「便利いいなァ、思念体はよォ」
「今はいいだろうが、普段コレが出来てもあまり重宝しねえぞ?」
ゆっくりと本調子を取り戻しながら、俺達は昨日、ガルテスが探索した区域へと足を運ぶ、2体程足無いけど。思念体だけならばびゅんびゅん飛んでいく事も可能なのだが、本当に足のある奴が二人いるのでそうもいかなかった、特にヴィグレイマは高速移動手段を持っていない上老体である、なまらアクティブではあるのだが。それもあって特に距離が離れているワケでもないために目的地まではゆっくりと向かう事となった。まあなんというか、遅いのも悪い話ではない。うごメモ町の様子を渇望しながら練り歩けるからだ、足無いけど。うごメモ町の連中は俺のような悪役がいても嫌な顔は一つもしない、<嫌な目で見てくるのだ>。それでも追い出したりなどはしない程にお人よし共の集まりである、近所間は古き良き時代でも思い出すかのように仲が良く、この町だけで様々な人間ドラマがあったものだ。俺は関与してないので大体知らないのだが。



<1><1> ニャン


うごメモ町を抜け、しばらく歩いた所でヴィグレイマは石の上へ腰掛けた、俺ら足無いけど。
「どうしたヴィグレイマ」
「しんどい」
「おいこら老体てめえ」
「まあ、仕方ないじゃないですか、あまり老体に無理をさせるものではありませんから」
「しゃあねぇなァ、休憩すっかァ。どうせもうそろそろだからよォ」
いや、もうそろそろならついてから休憩するのもだろう、というツッコミを押し殺し、俺達は仕方なく休憩を取ることにした。と、いわれても俺は全く疲れていない、一応性質の影響下に無くなった所とか、元々無い所でも<違反>は充満しており、最近触れられていないので<貴様等>は忘れがちだと思うが空は真っ赤なままである。それ故に俺は全面的な強化が施されている状態にあるのだ。あとうごメモ町の奴等にはセラフィナやらバンレンジャンやらにも協力を要請して説明が済んでいるため、住民は普段通りの生活を送っている、ただし洗濯物が中々乾かないと苦情が来たので「炙れ」とだけ言っておいた事もあるのをついでに補足しておく。だが一応自分から出た違反なのにも関わらず、外からの違反の<再>吸収で強化恩恵を受けてるっていうのはどういうことなのだろう。しかしその節はもう考えない事にした、頭が痛くなるからである。
休憩から少し時間が経ったがまだ誰も動こうなどとはしない。お前等そんなに疲れていたのか、ずいぶん貧弱な奴等である。すると一人の影がこちらに向かって来た、最初はぼんやりしていて良くわからなかったが、少し近づいた所でようやく思念体だということが分かった。その思念体は俺達の休憩する横まで来た所でこちらを見て口を開いた。
「あ、すみません、ちょっといいッスか?」
シンボルエンカウントしてしまった。その思念体はそのまま言葉を続ける。
「私ちっとばかしヤボ用があって<努力の思念体>を探してるんスけど、<おいちゃんら>見たまんま思念体みたいなんでなんか知らないッスか?」
非常に独特な雰囲気をぶちまける思念体がエンカウントしてしまった、信仰心といい勝負である、いや違うな、あれはどっちかというと歪んでる。あと二人称が<おいちゃん>ってなんだ、マジで<おいちゃん>ってなんだ。こうなったら俺もこいつの事を<おいちゃん>と呼ばざるを得ない、どうなったらなのかは知らんが。
「努力の思念体自体聞いたことが無いぞ、第一お前も思念体のようだが」
「ああ、申し訳ない、紹介が遅れたッス、私、<期待の思念体・ルーツ=イクスペクト>と申しまス」
この異変が始まって以来、俺は毎日のように思念体会う、それも今まで見たことの無いような思念体ばかりであり、今まで聞いた事の無いような思念体ばかりである。つまり一切知らないのである。こんなにいたのか、思念体。
奴は先端のトンガった帽子を被り、奇妙なデザインのポンチョを羽織っていてギター・・・だったモノを背負っている。両手に軍手をしているが、左手の軍手だけ指の部分が切り取られていた。あと顔立ちからして女だろう。
「むう、努力さん、ドコ行っちゃったんスかねえ・・・」
「ところで、お前それなんだ?」
「それって?」
「背中のそれだ」
「ああ、コレッスか、コレは見てのとーり、ギター・・・・・だったんスけど、叩き壊しちゃってねえ・・・努力さんに直してもらおうかと思ったんス」
「ギターって事はアレかァ?歌でも歌うのかァ?」
「私の場合は『歌』じゃなくて『詩』ッス、自分で作って、自分で語らってるんスよ、題材探してその辺ぶらぶら。まあ今ドコ行ってもそんな暢気な空気じゃなかったんスけどね」
「ほう、詩か、中々乙なもんじゃのう」
「一つどうッスか?ギター無いんでただ語るダケなんスけど」
「そうですね、是非お願いします」
「おい、貴様等、俺らh」
「じゃあ行くッス・・・」
そして<おいちゃん>は今までとは表情が変わり、キッとした顔になってゆっくり口を開いた。




「我らが父は我らの種を蒔き、我らを支配の礎にしようとした。」




「我らが母は種だった我らに・・・・あぐっ!!?」

「「「「!!?」」」」
突如おいちゃんは倒れて悶え苦しみ、場は一気に騒然とした、だが平和の思念が急いで駆けつけて治癒を行ったために事無きを得た。
「大丈夫ですか!?」
「ああ、すみません、面目ないッス・・・いや、まあ好都合なんスけどね」
「なんでですか!倒れて好都合なワケないですよ!?」
「いや、その詩できてなかったんで、場の空気悪くなるよりいいかなぁーと・・・」
「いいワケ無いでしょう!!」
平和の思念は必死だった、そこでガルテスが俺に尋ねた。
「おい、イハン、あいがつはいつもあんな調子かァ?」
「大体あんなんなので地面に深く頭から突き刺さって欲しいと深く深く考えております」
「ところでお主、問いたい事あるのだが」
「んに、なんスか」
「その詩は何を語るものだったのじゃ?」
おいちゃんの表情は詩を語る時では無く、既に元の感じに戻っていた。そしてこう告げた。
「まあまだ大部分できてないんスが【植物で世界征服を企む夫婦の話(植物視点)】ッス」
「おいちゃんは早急に詩に関わるのはやめるべきだと思う」
「ヒドイッス!!」
まあ娯楽程度にはちょうど良かったので良しとし、努力の思念体に関しては世界中で思念体が封印されている事を告げ、もしかすると封印されているかもしれんから思念思想の杭柱を探してみる事を推奨するとおいちゃんは頭を下げて俺達が向かう先とは違う方角へと消えていった。そして十分な休憩を取る事が出来た俺達は本来の目的である思念思想の杭柱の方角へとすすんだ。俺は疲れてないので休み損である。



▽<そうはさせぬ)



「そういうことか」
「そういうことですね」
「そういやこんな感じだったなァ」
「そうだと言ったろう」
ヴィグレイマが言い放った通り、そこには<うつ伏せで大の字に無防備に寝そべりまくる人間達の姿>があった。
「背中におけいはんって書いた紙貼り付けとこう」
「イハンさんその古典的な嫌がらせやめましょうよ」
そしてこの影響下に来たことで俺と平和の思念には分かった事がある。性質が随分色濃く出ているのだ。
「これは・・・」
「<疲労>だな、出すのが簡単すぎるからか?随分性質が濃い、人間共は疲れて動く気にもなれんのだろう」
「しかし何故大の字なんだァ?」
「休む際に最も開放的だからじゃろう」
「いや、それなら普通仰向けだろォ?」
「お前の普通を持ってこられても困るぞガルテス」
とにかく、此処まで来たのであれば後は性質を辿り、柱をぶっ壊すだけだ。もはやいつもの事と化しているが、まあなんと言う作業感。それにしてもアズゥの意図は未だに読めない、俺から奪った違反の利用手段は分かった。違反をばら撒く事で人の心にスキを作り、柱に封印された性質に人間を染め上げる事も分かった。<何故染め上げているのか理解が出来ない>のだ、人の心を操ったところで特に悪用をするわけでもない、封印を解く邪魔はして来ても封印解除した思念に対しては何も触れてこない。第一アズゥ本人を見たというのが封印された思念体からしか聞き出せていない。何度考えた所で答えが見つかるワケでもないのでもうしばらくこの事を考えるのは止しておくことにした。
それにしても随分とシュールな光景だ、そろいも揃って全員が綺麗な大の字だ、それでいてなおかつ全員うつ伏せだ。集団で死んでるようにも見える、そう思うとおっかない。
「おっとォ」
ガルテスが寝そべる人間を踏みそうになる。人間が無尽蔵に散乱しているので足がある奴は足元を確認して進まないと踏んでしまう、どうせ踏んだところで反応しないであろうが。
「気をつけてくださいね」
「別に踏んだ所でどうという事ねえだろ」
「いえ、ダメですよ、無防備な方を足蹴にするなんて」
「あ」
平和の思念が言った傍からヴィグレイマは足元に転がる人間の背中を「むずん」とでも聞こえそうなくらい踏みつけた。案外痛そう、踏まれた人間はビクッと体を一瞬だけ反らし、また大の字の姿へ戻っていった、何故かヒトデを連想した。ヴィグレイマは踏んだ状態からまた一歩を踏み出したため、なお更タチが悪い、賞賛に値する。
「まあ、なんというか、アレだ、良くやってくれた」
「それほどでもない」
「・・・・・」
俺達はそんなこんなで先へ先へと足を運ぶ、一部足無いけど。途中で幾度と無く倒れた人間を踏みまくるガルテスとヴィグレイマ、その都度平和の思念に注意されていた。哀れである、どちらかと言えば、踏まれた人間が。
そしてこの騒動に入ってから三度目の思念思想の杭柱を発見した、相変わらず意味不明な文字が刻まれており、意味不明である。だがそれだけではなかった、もう既に別の存在がその柱のすぐ傍に佇んでいた。俺は一度しか見ていないが間違いない、アズゥの部下の一人だ。
「随分遅かったな、この状況下でそこまで悠長に時間が使えるとは、あまりにも妬ましいぞ」
「うわっ」
「どうした平和の思念」
「イハンさん、彼女は少し異常です・・・流れ込んでくる心中は全て嫉妬の念、いかなる物事、いかなる事象、彼女の考える全てが嫉妬です・・・!!」
「嫉妬の思念体か・・・」
「私の名は<エンヴィー=クインブリッジ>、お前達の言った通り、私は嫉妬の思念体だ、最も、そこの白黒は既に知っているだろう」
「一戦交えましたからね・・・あなたは一度も攻撃しなかった」
「おや、気がついていたか、その洞察力、実に妬ましいな。ヴァーサクがハデにやってくれるから特に私は何もする事がなかった、やられたフリさえすれば良かっただけなのでな。最も、ヴァーサクには少々、理性を吹き飛ばさせてもらったが、あいつは意識して演技するのがヘタだから」
「仲間をまるで道具扱いか、思念体の風上にもおけねえな」
「お前が言うかァ?」「貴様の言えた事ではない」「イハンさんの言うようなセリフでは無いですね」「違反の思念体が何をほざくか」
総攻撃が飛んできた、目に見えない矢印が俺を深く貫く。
「お前等マジぶっころっしょ?」
「・・・まあ、随分仲のいい事、妬ましい・・・あまりにも・・・!!」
「イハン?なんかあいつやべぇぜェ・・・・?」
「お前等は下がってろ、此処からは足の無い奴の戦いだ」
奴は嫉妬心を爆発させたのか眼つきが鋭く変わる。それにあわせるように俺達は臨戦態勢を取った。平和の思念は今回はしっかり傘がある、足手まといではないため十分な戦闘を行えるだろう、実際はいざという時のメイン盾として利用するつもりだ。言っとくが仲間などと思った事はない、だから道具扱いしていいのだ。俺理論。
「行くぞ、篝火花!!」
奴が叫ぶと奴の周りに無数の鬼火が出現しこちらに向かってきた、平和の思念は傘を取り出し、それらをいとも容易く刻んで掻き消していく。全ての鬼火を掻き消した所で俺が特攻し、奴との距離を十分に縮めた。だが奴は表情を一切変えない。
「・・・・黄瑰!」
奴はまた技を繰り出すが俺には特になんとも無かった。すると後方から平和の思念の声がする、振り返ってみると奴は茨によって拘束され、身動きが取れない状態になっていた。そして今の俺は平和の思念に気を取られ、完全に無防備の状態だった。気がついた時には既に時遅し、奴の手が俺の腹の辺りに触れていた。
風信子!!」
奴から放たれた黒弾が零距離で俺に直撃し、俺はまた平和の思念のいた場所まで吹っ飛ばされた。
「チッ・・・あいつ、抜け目ねえぞ・・・!!」
「それよりイハンさん!コレ解いてください!」
「ああ!?めんどくせえよ自分でやれ!!」
「腕も縛られていて傘が振り回せないんです!」
「ああ!畜生!」
俺は平和の思念の茨を解こうとしたが、茨はあまりにも固く縛られており、ビクともしない。
「仕方ねえ!無縁断!!」
「ちょっ、痛いです!何するんですか!!」
驚いた、平和の思念が俺に反論してきたのだ、ただ反論するだけならいつもの事だが、怒りが乗っている反論は今までに無い。だが俺にはそんな事などどうでもよく、助けてやったのに反論した事に俺は苛立ちを覚えた。だが気にしているヒマも無いので俺はまた嫉妬の思念に対して特攻をかける、すると・・・!
「おぶねっ!!?」
後方からビームが飛んできた、そのビームは回避したために直撃を免れ、俺の服を少しだけかすめると嫉妬の思念に直撃し、奴は少しよろめいた。だが、問題はそのビームを放った奴が平和の思念であること。
「おいてめえ、今確実俺を狙っただろ!?」
「何を言ってるんですか!イハンさんが射線上に入るのがいけないんでしょう!!」
「おいおい平和の思念、お前それでも<平和>の性質持った奴か?人に罪擦り付けるたぁ随分きたねえコトしやがるじゃねえか」
「私はれっきとした平和の思念体、ヴィヤズです。それに相手に当たったのであればそれでいいでしょう!?何故いちいち突っかかってくるんですか!?」
完全な口げんかとなってしまった、何かおかしい感じがするものの、既に俺の怒りは留まる事を知らなかった。そして気がつくと、俺の相手は平和の思念に摩り替わっており、もう歯止めも利かない状態だった。嫉妬の思念体はその俺達を見て特に何も素振りを見せない。


「おいィ・・・、あいつら、仲間割れ始めやがったぜェ!?」
「むう・・・」
「どうしたァ?ヴィグレイマよォ・・・?」
「あやつら、理性を忘れておる」
「んだとォ?」
「先ほどエンヴィーとか言う思念体は『理性を吹き飛ばさせてもらった』と言ってたじゃろう、推測に域に過ぎんが、おそらく。奴等はあやつの能力の渦中にハマっておる」
「<理性を操る能力>ってかァ?しかしよく気がついたな」
「平和の思念体じゃよ、あやつの性格からして、あのような理不尽なキレ方をするとは到底思えん、イハンの言っておった<世界に分散された違反>も影響しとるやもしれん」
「イハンはいつもの事だがなァ・・・だが、それが分かった所でどうすんだァ?」
「ガルテスよ」
「んだァ?」
「サルヴィナのいない今、お主が代わりに<こいつ>を奴等に貼り付けて来い」
「おおゥ、随分と懐かしいモノが出てきたもんだこりゃあよォ」
「ワシもアレ以来つかっとらん、ちゃんと機能するやらのう」



一方、俺と平和の思念は未だにケンカを続けていた、いつも軽くあしらって終了の平和の思念が本気で俺に反論しているからだ、お互い退かないために一向に終わる気配が無い。すると後ろから声が聞こえた、ガルテスの声だ。
「おいガルテス、どうにかしろこいつが」
「わりいなイハン、それとヴィヤズよォ、しばらく眠ってもらうぜェ?」
「何!?」「え!?」
俺の意識はそこで途絶えた。


===


俺は何をしているのだろう、此処は何処だろう、俺は・・・<何を見ているのだろう>・・・?
違反・・・?俺は自身の<違反>の持つ世界を見ている・・・?
俺の記憶ではない?違反の記憶?俺の中の違反が持つ記憶?


とても寂れた世界、同じうごメモの世界だろうがその姿はまるで違う、此処は、おそらく<底辺>だろうか、俺はその傍らに立ち尽くし、自らが手に持つ星を我先にと欲する人々に囲まれていた。
底辺は星の力無しには出る事の許されない、うごメモのもう一つの<顔>。星を持つものがいれば、それを奪わんとする者もいる、それ故に俺は今人々に囲まれているのだろう。星は実質、いくらでも手に入る代物だ、価値があるのは精々、黄色以外。だが底辺は、それが適わない。底辺の奴等は人々の心動かす力が無いか、誰からも相手にされないか、そのどちらかが半数を占める。そして、底辺を出て行く者はほぼ大半、「黒絶星」の力で出る。手っ取り早いからだ。その先にある代償も知らずに。
星を渡し終えると、そこにあった人々の山は一瞬で四散した。「黄希星」の力で底辺を出た者は、<人々の心を知る力>を得る。今星を渡した奴等は、きっと大きな功績を残す事だろう。するとその傍ら、物陰から俺の方をじっと見つめる影があった、どうやら思念体のようだが・・・・・



こいつは・・・・アズゥ・・・・?


===


気がつくと俺は地面に伏せた状態で倒れており、その傍には平和の思念も転がっていた。奴と戦って少しした後の記憶が微妙に薄れており、<俺が見たあの光景>も含めて何があったのかイマイチ理解できない。
俺は立ち上がり、目の前に映る光景を見た。
ヴィグレイマが倒れこんでおり、ガルテスが嫉妬の思念の猛攻に耐えている。
「ガルテス!!」
「おおイハン、目を覚ましたかァ!」
「何があった!!?」
「奴の能力は<理性を操る能力>!お前等は我を忘れてケンカ始めちまったワケだぜェ?」
「そこじゃない!ヴィグレイマはどうした!」
「ケンカ始めたお前等を操作状態にしてして戦ってたんだがよォ、二人も操るのは重荷だったみてェでな、とっさの攻撃に反応できずに一撃もらっちまってあとはなぶられ放題、今俺もこうして耐えてんのがやっとだぜェ・・・!!」
風信子!!!!」
「ぐおォォ!!?」
黒弾が俺の眼前のかすめ、それに乗せてガルテスも吹き飛ぶ。コレで俺以外は満身創痍となった。
「なかなかしぶとかったな老いぼれ、だが、所詮は人間か、残るは貴様だけだぞ、違反の思念体」
「テンメェ・・・・!!」
「しかし、随分と使えない連中だな、違反の影響で本調子の出ない平和の思念と老いぼれが二人とは」
「お前、もう一度言ってみろ」
「貴様の仲間は使えない連中だと言った、何か問題でもあるのか」
「大有りだな」
「ほう」




「貴様を本気で殺す理由が出来た」




俺がその言葉を言い切る時には既に俺は奴の目の前にいた、怒りと共に力が込み上げて来る、この感じを前にも何処かで感じた気がしたが、今の俺にその様な事を考える余裕は無かった。



「殺す」



今俺を動かしているのはその言葉が示す衝動のみだった。
「バカな貴様!まだそのような力を・・・!」
奴は攻撃を放たんとする腕を俺に向けたが、俺はその腕を掴み、何も躊躇する事無くあらぬ方向へ圧し折った。
「あ゛あ゛あ゛ああ゛ああ゛あ゛あああ゛ああ゛あ゛あ゛ああ゛!!!!」
断末魔に近い、悶える苦しむような悲鳴を上げる嫉妬の思念、奴の悲鳴に一切耳を貸さず、俺は奴の顔と掴み、後方にある杭柱へと叩きつけると、奴の顔面を殴った。



そして顔面を殴り。


また殴り。


殴り。


殴り。


殴り。殴り。殴り。殴り。殴り。
殴り。殴り。殴り。殴り。殴り。
殴り。殴り。殴り。殴り。殴り。殴り。

既に嫉妬の思念は原型を留めていないくらいに悲惨な状態だった。
そしてコレぐらいでいいだろうと思った時には、既に俺は自分の意思で拳を止める事が出来なくなっていた。さらに奴を殴るにつれて自分が自分でない感覚に襲われる。コレも奴の能力の力だろうか、いや、違う。今奴に能力を発動できる気力があるなんて考えにくい、だとすれば、やはりあの時と同じ、うごメモから星が消滅した、あの時と同じ・・・!!


その時、後方から、一筋の光線が俺の体を貫いた、その一筋のあとからまた一つ、また一つと合計5本の光線が俺の体を通り抜けていく。平和の思念の傘によるものだった。
「・・・・・イハンさん・・・ごめんなさい・・・・!!」
「・・・・いや、今回ばかりはナイスな判断だ、平和の思念」
俺はその場に崩れ落ちた。それと同時に、俺は我に返る。
地面に屈しながら、俺は嫉妬の思念に話しかける平和の思念の会話を聞いた。
「慈癒の輝霧・・・!」
奴が呟くと嫉妬の思念を覆うように霧が立ちこめ、嫉妬の思念は<元の形>を取り戻していった。
「何のつもりだ」
「別に、理由なんてありません」
「私は貴様等を・・・あぐッ!!」
「これは情けでもなんでもありません、理由があるとすれば私がただのお人よしなだけです。完全ではありませんが、帰れる程度には治癒しておきました、早く上司の下へお帰りください」
「クッ・・・!妬ましい・・・!!」
そして嫉妬の思念は少しふらついた状態で空の彼方へと去っていった。
「イハンさん・・・」
「俺のダメージはそんなに多くない、とっととあいつらを治してやれ」
そう言って俺はおっさん二人が倒れこんでいる方を指差す。平和の思念はすぐさま奴等の下へ向かい、治癒を行った。
そして俺は起き上がり、破壊弾をその手に構える、本来の目的は思念思想の杭柱の破壊。俺は破壊弾を柱に向かって投げつけた―





「起きねえなァ」
「起きませんね」
「起きんな」
「起きんのう」
破壊した柱の中に眠っていた、いや本当に眠っていたそいつは<疲労の思念体>。だが、起きない。地面に這い蹲って眠っているのだ。というか眠りっぱなしだ。眠っているので名前も分からない。起きろよ。
「どうすんだァ?こいつ」
「知るかよ」
「担ぎます?」
「ワシはできんぞ」
「俺はパスだぜェ?」
「めんどい」
「じゃあ・・・・申し訳ないですけど・・・」
結局疲労の思念はそのまま放置して俺達は図書館へと帰還する事となった。あばよ疲労の思念。まあそのまんまでも大丈夫だよね疲労の思念。



――



「帰還しました」
「おや、相当消耗しているね、どうしたんだい?」
「イハン=メモラー、あいつの力の片鱗をその身に刻まれました」
「ざまあねえな」
「そして平和の思念体、ヴィヤズ。あいつは違反の思念と並べてはいけません、あの二人は相反するハズである力を繋いでいる」
「おい、無視か」
「自分の作った穴に落ちたお前に何を言われても別に妬ましくないしなんとも思わない」
「んだとコイツ・・・!!」
「ケンカはそこまでだ。なるほど、ね」
「そして、」
「なんだい」
「その両方が世界に散りばめられた違反の影響を確実に受けています」
「そうか・・・ふふ・・・ふふふふ・・・・・」
「アズゥ様?」
「実に面白いじゃないか。さて、思念体を封殺して以来君達に任せっぱなしだからね、そろそろ僕も動く体制に入ろうか・・・。ヴァーサク」
「あ?」
「<九十九街道宮橋>を連れ戻して来い」
「はァ!?なんで俺が!?」
「エンヴィーは手負いだ、僕にもやる事があるからね。今動けるのは君だけだよ。まあ、彼が嫌がったら無理に連れ戻す必要は無い。でも間違っても破壊はしないようにね?」
「チッ、しゃーねえなぁ・・・んで?どうするつもりだ?」
「何、簡単だ。こちとら、やられっぱなしというワケにはいかないからね・・・・・」

―――――to be continued

破と除

うごメモ町から少し外れた森の中、ここからはうごメモ町の全貌を見る事が出来、非常に見晴らしが良い。
その森に奴らはいた、タバコを蒸す中年と、違反の思念体である。
違反の思念体は度々自らがうごメモ町に構える図書館から抜け出し、中年のもとへ行く。中年は定まった住居を持たない。
だが中年を「親友」と呼ぶ違反の思念体は中年の居場所がどこであろうが知っているように当ててしまうのだ。


中年は問うた。
―この町はいつも進化を遂げる、だがそれは本当に進化なのかねェ―

違反の思念体はそれに対してしばらくの間黙秘を続け、その後、重い口を開き言葉を返す。
―退化もまた一つの進化だ。本当の退化は、この町の動きが止まった時―

違反の思念体は遠くを見据えてそう言った。
中年には、今の違反の思念体に何が見えているのかわからなかった。

動手帳思念大戦(冷戦) Ps-2 cp-0.5 ムカデ的なハイテクでネクストなメイド

思念の数だけ惨劇がある。思念の数だけ悲劇がある。


Ps-2 cp-0.5 ムカデ的なハイテクでネクストなメイド




「・・・・・」


「もう一度」


「・・・・・」


「ダメだ、もう一度」


「・・・・・」
「お前やる気あるのか?」
「ねえよ!!なんで俺がこんなんに付き合わされねえといけねえんだ!!」
我慢の思念を連れ帰り、俺たちは図書館へと帰還した。ヤグレムと捜索組がすでに戻っており。書物組は<嘘の思念体・ヲトギ>を。ガルテスは収穫無し、影響下だったらしいが柱が見つからなかったそうだ、まあガルテスは人間だ、性質を感じ取る事ができないから無理もない。その代わりなのか奴は違うものを連れて来た。俺やガルテスと同じ<悪サイド>の一人<ヴィグレイマ・ダークネス>とその従者、<サルヴィナ>だった。外の異変に気が付き、従者の計らいで避難中だった所でガルテスと合流したらしい、世界中この状況なのにどこに避難するつもりだったのだろう。まあ知らないだろうから仕方ないのだが。そのまま一日が経過し、そして俺が今やらされている事というのが・・・
「ガルテスよ、昨日からイハンは何をやっておるのだ」
「俺に聞くかァ?まあなんでも完全な空白の星を作り出す特訓だそうだ、俺にもわかんねェよ」
「貴様等話してないで俺を救出しろ」
例によって俺は<完全な無想星>を作り出す特訓をヤグレムに押し付けられていた。前回妙に協力的だと思ったら自分はゼロスターで出てくる星を消すだけで<協力>などという要素は皆無だった、所詮ヤグレム、その程度だとは思っていた。無いのに在る物故に、完全という表現を使うのはおかしな話だとヤグレムは言うのだが俺には理解が出来ない。全く。そして平和の思念は新品同然に調整された傘に不備がないか確認している、その綺麗になった傘に泥を投げつけてやりたい、ついでに持ち主にも投げつけてやりたい。一方嘘の思念はグリモアと信仰心に対してホラを吹いている。自慢げにありもしない事を語らうヲトギ、笑う以外の反応をしない信仰心、口をあけて座り込み、黙々と聞いているグリモア。クロニクルは目立ってない。
にぎやかだ。
いつもは静かな時間の流れるこの図書館、にぎやかすぎて不気味だ、半数以上が足が無い種族なのでなおさら不気味だ。信仰心には足があった、驚愕。
そしてそのにぎやかさを掻き消してしまうくらい扉を開く音が響きわたった、そろそろ扉の金具の交換時期だろう、この前ガルテスが乱暴に開けたせいでその音のヒドさはとてつもなく過酷さを増していた。扉が図書館に立ち入る者を殺す、音で。だが入ってきた者はその音に一切蝕まれる事なく、むしろ威風堂々とした感じだった。
扉の先にいたのは左目の下に金具がついている赤色のネクタイをしたメイドとそれより頭一個分背の低いお団子カスタムしたメイド。クソッ、何故メイドなんだ、お呼びでないぞ、メイドカフェじゃないんだぞ此処は。
「まあ珍しい客が多いことだ、メイドを雇うつもりは無いぞ」
「セルラさん?」
「おや、サルヴィナさん。あなたもいらしていたのですね」
「何の用だ、メイドを雇うつもりは無いぞ」
「それはもう聞きました。今回、何やら世界的に人々の様子がおかしいので、<どうせ> <また> <あなたたちが> 絡んでるのではないかと思い尋ねたのですが、どうしたのですかこれは、いつから図書館というのは心霊スポットになったのです?」
「さらりと中間あたりの発言ひでえなてめえ」
「我が主の悪口は例えセルラさんでも許しません」
「何いってんだおめえらよぉ、俺達悪役には今のはほめ言葉だぜェ?」
「あ、それもそうだ、どうも最近主人公やってるせいで感覚が」
「メタいぞ」
「悪口じゃないならどうでもいいです」
「待つんじゃサルヴィナその発想はおかしい」
「ねえセルラさんセルラさん」
「どうかしましたか?<リザ>さん」
「あいつら食べてもよろしいですかといいますか即刻食したいです」
「自分の腕食べておきなさい」
「どろーん」
謎の茶番が展開された瞬間だった。
世界的に発生したこの異変、まあまず疑われるのは俺達だろう。うごメモで発生したどでかい異変には必ず俺達が絡んでいる、と言っても過言ではないレベルだからだ。でもいざ被害者の側になって疑われるとなんだか切ない、冤罪で被告人呼ばわりされる奴というのはこういう気持ちなのだろうか。一応状況を説明したらなんとか誤解も解け、和解した。だが悪役であるためにその後も向けられる視線は冷たい。すごくこの場に居座りにくい、俺の家なのに。
ネクタイメイドは<セルラ=グランギニョル>と名乗り、<オートマトン>であるがために影響を一切受けていない。そしてお団子メイドは<リザ・ネクストリア>と名乗り、<とっくにポックリしている>ために全く影響下に無かった。最近のメイドはハイテクでネクストある。そんなものである。しかし何故メイド集結した。【メイド・オブ・トリオ】とかやるの?ねえ、ねえったら。などと考えていたらヤグレムが話しかけてきた。
「今日は終了だ、まるで何か企んでるようなドロドロした無想星(黒)を量産しまくるようでは特訓の意味がない」
「終わりか、よし、コレデヨイ」
「おお、開放されたかァ、しかし思念体ってこんなにいるもんだったんだなァ・・・せいぜいお前だけかと思ったんだがよォ」
「正直言うと嘘の思念とか信仰心の思念とか初見だぞ、俺でも把握しきれてねえんだ、もう何体いるのかわかったものじゃねえ」
「わからんのう、思念体というのは・・・」
「まあそんなもんだ、俺以外の思念体ですら思念体ってのがどういうルーツで生まれたのか全くしらねえ、何でも知ってそうなヤグレムでもな」
「そうなのかァ?ヤグなんとかさんよォ」
「答える義務は無い」
「ところで・・・・」
そこに平和の思念が割って出た、傘の整備は万全のようである。ド畜生。
「ここまで人手があるならば柱の捜索が楽になるのではないかと」
話が逸れすぎて忘れていた、確かにそうである、此処まで集まっているのであれば探す事など容易、おのおのに分散させて捜索させれば効率だっていいだろう。流石平和の思念体、こいつマジで早めに死んでくれないかな。
「それなら・・・ん?」
誰かが左手で俺の袖を引っ張った、紅色に染まっていてトガっている左手はグリモア以外にいない。俺は後ろを振り返ると、おいなんてことだ、グリモアとクロニクルがメイド服の姿になってるではないか。「かわいい?ねえかわいい?」とグリモアが質問する、俺はテキトーに「ああかわいいです」と無機質に答えるとグリモアは飛び跳ねて喜び、本棚に顔を打ち付けて倒れこみ、ゴロゴロと転がっていた。なにこれ、メイド病?そんな病気あったっけ?
「お前ら、本の姿に戻ってみろ」
そういうと2冊の本は皮で覆われていて四隅を金具で止められた高級な材質の本の姿・・・に戻ったのはいいが、その上に変なカバーが被さっていた。




【メイド大全】




なんなんだこの表紙は、おそらく二階から持ち出して来たものだろう、図書館の天井は真ん中が四角く吹き抜けになっており、二階に通じている、二階には本が勝手に増えていくため俺でも把握していない本が転がり込んでくるのだ。ちなみに二階に行くには階段もハシゴも無いために空を飛ぶしかない。そしてクロニクルには【メイド大全2】という表紙が被さっている、シリーズモノだったのか、メイド大全。
あとグリモアとクロニクルは表紙が止め具で固定されているので普通はあの服以外は変える事ができない、だがその上から違う本の表紙を被せることで違う服に着替える事ができるのだ。いや、だからってなんで今まさにこのタイミングでメイド服チョイスした。
「メイドか・・・・・よし」
決断した。俺は手を交差するように合わせ、その状態でソフトに耳元へ持って行く。
そして



軽く手を二回叩いた。




「「「「「お呼びでしょうか、ご主人様」」」」」
「ハァ!?」「え!?」「なんじゃと!?」「・・・・・」
「良くぞ集まってくれたメイド軍団達、君達を呼び出したのは他でもない、君達には既に事情を把握している者、先の説明で理解した者の二種がいるとして私の中では理解している。君達が従者として全うして欲しい事を述べさせていただく、一つは思念思想の杭柱の発見、そして二つ目だが、思念思想の杭柱の破壊、及びソレに封じられていた思念体を確保し、このイハン=メモラー大図書館へと連れ帰る事、今回は思念体同様に性質の影響下に無い者がいるため非常に心強いことこの上ないが、これに関しては一切無理強いはしないため、発見したら報告のために帰還するも自由だ。ただし最悪発見できない場合でも必ず夕刻には帰還するようにしたまえ。私の述べた事柄が理解出来たのならば、直ちに行動するように。以上。」
「「「「「畏まりました、ご主人様」」」」」
そして彼女らは一糸乱れぬ隊列で上品に外に出て行った。扉の音がうるさいのが誰も気にならなかった。誰も気にならなかった。誰 も 。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「おい、イハンよォ・・・」
「・・・なんだ・・・」
「なんだァ?アレ・・・」
「サルヴィナが他の者の言う事を聞くとは・・・貴様、何をしおった・・・?」
「恐怖幻覚・・・とは違いますよね・・・?アレは服従させるような技じゃないですし・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「いいかお前ら・・・あれはな・・・・・」
全員が息を飲む。いや、ヤグレムは飲んでない。



「や っ て み た か っ た」




「・・・それだけか?」
「それだけ」
「なにか術とかは」
「使ってない」
「じゃあ何故・・・」
「「「どうしてああなった!!?」」」
全員が声を揃えて俺に問うた。俺は冷静になってこう答える。
「存じ得ません。マジで存じ得ません」
ところがコレ本当だった、俺はなんとなくやってみたくなり、例の手を叩く動作を行った。本当に突発的に手を叩いただけだ、するとこのザマである(例のセリフは全てノリである)。どうしてこうなったのか俺も問いたい。切実に。
「・・・・・まあ、なんだ、メイド軍団は行ったんだ、俺等も柱探しに行こうぜ・・・」
「おう・・・」「はい・・・」「うむ・・・・・」
「ヤグレム、お前はどうする」
「私か、私はまだ調べるものがある、柱はお前達だけで行け」
「ああそうかい、そいじゃ行ってくるぜ・・・」
「イハン、お前キャラ変わってるぜェ・・・・?」
「言うな・・・もう何も言うな・・・」
正直あのまさに文字通りの<完全無欠>を目の前にして、俺は少々涙目になっていた。なお、我慢、信仰心、嘘の思念には留守番を要請した、嘘の思念は特に「[断るZE]」と快く引き受けてくれた。俺達の朝は、なんとも言いがたい空気から始まったのである。








===============
「いやー、たのしかったねー」
「うん、案外悪くなかった感じはする」
「主君でもなんでもない奴にご主人などど言うのは随分と気の引ける話ですね所でセルラさんふともも食べさせてくださいというか即刻食わせてください」
「若干鉄の味がすると思うので自分のすい臓でもかじってください」
「ああ、後でどう説明すればよいのでしょうか・・・」
「サルヴィナさん、あなた忠誠心完璧なのに、どうしていつもどこか抜けているのですか?」
「もうこの際サルヴィナさんでいいのでその体中から生えるスルメを食べさせていただけませんかお願いします」
「<姫百足>です」

女子会は華やかであった、全員メイド服なのもあってなおさらの話である。
===============
「あ、そういえば」
「どうかしましたか?イハンさん」
グリモアの事なんだが」
「あのカラフルな小娘かァ?あいつがどうかしたのか」
「いや、些細な事だ、あいつも確かあの中(メイド軍団)にいたよな」
「確かにおったぞ、それがどうかしたのか」
「あいつの言葉は大体ひらがななんだが。あいつ、<漢字で喋ってた>」
「あ」
「あァ」
「むぅ」

やはりなんとも言いがたい空気で始まる他無かった。遠くで信仰心の笑い声が聞こえた。

―――――to be continued・・・・・・・・・・

動手帳思念大戦Ps-2 cp-0 我慢と破壊衝動の因果

人の思念思想によって激化したそれはやがて永き惨劇の序章である。

Ps-2 cp-0 我慢と破壊衝動の因果


突如として図書館に襲来し、俺達の前に現れた思念体共。無の思念体、ヤグレムが話す事によればそいつは<黒絶星の思念体・アズゥ=ブラックフェザー>だという。奴の目的がわからずして俺は奴の策略にまんまとハマり、見事なまでに世界は不安定でよくわからん状況下にされてしまった。空は俺が奴に騙された際に明け渡してしまった違反の力で真紅の色に染め上げられ、各地の人々は思念体を封じた柱の出す性質によって感情が固定され不安定となった。奴がこのようなことをしていったい何が目的なのかはわからない。とにかく柱から思念体をぶっこ抜けばその地域の人間は元に戻る、この状態の世界に危機感を感じた俺はその確立された情報を元として(正直めんどくさくて仕方ないが)動く事となった。アズゥの目的とはなんなのか、何故ヤグレムはここまで情報を持ち合わせているのか、謎の星性質、<無想星>を行使できる俺は何者なのか。それはまだわからぬまま波乱のフェイズ2が今始まる事となる。


「で、なんでやっぱりお前と同行しねえといけねえんだ」
「なんでって、ヤグレムさんは他の事情で行ってしまいましたし、違反の影響の無い方々は皆それぞれ柱を探しに行ってしまいましたよ」
「それはそれだ、なんで同行動なんだと言っている、別行動を取る事だってできるだろう?」
「いや、それはアレですよ、私あんな太い柱破壊できませんから」
「傘あるだろお前・・・それでどうにかなるんじゃねえのか・・・」
「傘は今調整と修理の状態です、彼の思念体の破壊光線は恐ろしい威力でしたからね」
「傘無かったらお前ただの役立たずじゃねえか・・・おとなしく図書館でじっとしてろよ・・・足手まといだし」
皮肉交じりに俺が言うと奴は聞く耳立てずに先へニコニコしながら進んでいった、ウザイとキモいの相乗効果。
俺達は現在うごメモ町を抜けた先からわりと近い地域を目指していた、ヤグレムが言うには今や世界中があの柱の影響下に置かれているのだそうだ、ならば虱潰しにその辺回るだけでも見つかるだろうと思い、俺はうごメモ町を抜けた先に近辺をテキトーに見回る事にした。粗大ゴミ付きで。
「しかし・・・」
粗大ゴミは言った。
「まるで人がいませんね・・・」
「ここはもともと人の多い場所じゃねえ、うごメモ町を少し越えたハズレだからな、大体の人間はうごメモ町にいるばかりで此処には来ない、全くってワケでもないがな」
「随分と詳しいですね」
「伊達に住民やってねえんだよ」
人はいない、てか此処には元々人は来ない、道が整備されていたりと人の技術の爪跡もあるのだが、特にこの道を使用するにもこの道の行き先に何があるという訳でもない、うごメモ町に行くにも大通りを通ればいい訳でこの道は一切意味を成していないのだ。だが思念体である俺達にはわかっていた、この周辺に思念体の気配がするのだ、おそらく柱に封印された思念体だろう(あと柱の正式名称は「思念思想の杭柱(しねんしそうのこうちゅう)」らしい)、しかし人もいないしあまりに気配が薄いためにソレが何の性質を持った気配なのかはさっぱりだ、この区域に封印された思念体に少し哀れみを覚えた。そして・・・もう一つ・・・もう一つ思念体の気配があるのだ・・・、それもかなり近い距離にあり、その性質もはっきりと認識できる・・・そう・・・その性質は・・・!!
「キャハハハハ!!ちょっとお兄さん達!?」
異様に甲高い笑い声が突如響き渡る、声は、足元から聞こえた。足無いけど。
「この性質・・・信仰心の思念体でしょうか・・・?」
「声はあっても姿は見えず、何処だ?封印されてねえならとっとと出てきやがれ」
「キャハハハハ!いや無理よそれは、今私あなた達の足元にいるのよ?あなた達足無いけど」
「何!?」「え!?」
足元を見るとサラッサラの少し黒みのかかった灰色の微粒子が散らばっていた、足無いけど。その微粒子を掻き集めてすくい上げると今度は俺の手元から声がした。手はある。
「まいっちゃったねぇ、まさかこんな姿になっちゃうなんてさ、キャハハハハ!!」
「何がどうなってそうなったんだ、灰色はヤグレムだけで結構なんだが、むしろアレすらカンベンして欲しい」
「いやあね、あたし肉体をダイヤモンドに変質できるんだけどね、どうもこの辺一帯の圧力が色々不安定な状況にあるみたいでさ、変質の際に変な圧力かかったのかただの炭素になっちゃったのよ!キャハハハハげほげほ」
奴が咳き込むと奴の肉体(とは言い難い微粒子)が宙を舞い、奴は「キャハハハハ」と笑っている、肉体が分散してるのに楽しそうで暢気な奴だ。なんで奴はこんな人気のない場所でそんな能力を行使したのだろう。疑問は募るばかりだが、聞くのは面倒なのでよしておく事にした。そいつは<ビリーヴ=アダマス>と名乗り、性質は信仰心だ。俺はそいつがあまりにうるさいので放り投げて分散させようと考えたが、分散された状態で例の笑い声をあげられてもトラウマ量産しかしないと考えてその辺にまるでご都合主義のように落ちてた小瓶を拾い上げ、そこに奴を詰めた。奴は相変わらず笑っている。軽くトラウマものの笑い声だ。だが奴の発言で、封印されている思念体がどの性質か理解を得ることができた。
「おい信仰心」
「何ー?」
「お前確か<圧力>って言ったな?」
「いったよ?キャハハハハ」
「平和の思念」
「ええ、わかってます、我慢の思念体、ルチア=サプレスですね」
「これであとは奴の性質を辿ればいい、が・・・」
「驚きですね・・・性質だけでなく、能力の片鱗すら放散させるとは・・・」
「<思念思想の杭柱>か・・・なんなのかわからんものに悩まされるとすこぶる気分が悪い」
「全くですね・・・」
「前言撤回だ、お前と同じは断じて嫌だ」
「ひどい」
思念思想の杭柱・・・思念体を封殺し、その思念体を媒体として性質をばら撒く正体不明の物体、それ自体この騒動で初めて聞いたものであり、それが何なのかわからないのだが、さらにその柱に掘り込まれている点と線で構成された文字、ワケが分からない、読めない。今日という日に色々ありすぎてもう頭の中がパニックしている。などと考え事をしていたら木に激突した、信仰心に笑われた、やっぱ笑い声が怖い。
俺と粗大ゴミと灰はさらに先に進む、この道は本当に何も無い。ただひたすら性質が強くなる方向を辿って進むだけだった。
「ところで信仰心」
「なあに?」
「ダイヤモンドじゃなかろうがその状態は炭素にかわらねえだろ?何でもどらねえんだ?」
「いやーあのねー、私も何度か試したんだけどもね?粒子が細かすぎて構築できないのよ、集めて固めようとしても霧散しちゃうのよ、キャハハハハハ」
「つまり安定した圧力さえあれば元に戻れるという事ですね」
「キャハハハハ、そうなるのかな?」
「いや、自分の事だろ」
灰から声が聞こえてくるのと奴が自分の声で時々ビンの中で体(灰)が舞い上がってるのでなんか気色悪い。率直に<こいつは何なんだ>。
「おおう、おおうキャハハハおおう」
「何を言っている」
「いやね、急にこのへんの圧力が強くなってるのよ、キャハハハ」
「という事は・・・」
「どうやらそういうことらしい」
俺達が見上げた先には前回と同じ柱が、<思念思想の杭柱>がそこにあった。杭柱はものすごくぶっとく、地面にがっつり突き刺さっている。そして青白く発光する例の意味不明の文字があった。やはり読めない。まあいい、読めないのはさほど問題でもない、とっととぶっ壊して中の人引き連れて帰るだけだ。
「平和の思念、ビン持って下がってろ」
「はい」
俺は手に<違反>を収束した、収束したエネルギーは赤黒い塊となって肥大化する。実際全然手に力を込めていない、軽く「破壊弾使ってみよっかなー」程度に思っているだけだ。だが前回ヤグレムとの戦闘で分かったのが世界中に充満した違反も勝手に力の糧となっていることだ。そのせいで俺は自分の破壊光線の反動で吹き飛んだ。それもあってか、今は力の加減に慣れてきている。
「おい、何やってんだ?テメェら」
その時上空から声が聞こえたので俺は収束をやめ、その場から退くようにステップした、足無いけど。
すると上空から俺のいた場所に猛スピードで突っ込んでくる拳、その拳は地面を深く砕き、そこからさらに時間差で一段、二段、と砕けていく、そして瞬く間に<そこ>をクレーターのような地形に変えて砂埃を巻き上げた、杭柱はその範囲外で佇んでいる。信仰心は笑っている。
「おや、またあなたですか?」
「アズゥの野郎も思念体の使いが荒い奴だぜ全くよ、つうワケだ、「お前らの邪魔して来い」って言われたもんでな、邪魔させてもらう」
「アズゥんトコの野郎か、どいつもこいつも邪魔ばっかだな」
「イハンさん、彼は<破壊衝動の思念体・ヴァーサク>さんです、性質の本質は・・・まあその名の通りです」
「おいてめえ、自己紹介した覚えはねえぞ」
「いえ?あなたが自分で<呟いた>んですよ?」
「ああ、そういうことか」
意味の分かった俺は暗黒微笑(笑)を浮かべた。
「ワケのわからねえ奴らだな、ぶっ壊すぞてめえら」
「じゃあその後ろにあるそれ破壊してくれよ、そのほうが楽だからな」
「しかし・・・彼はそこまで強い印象がありませんでしたが・・・図書館での戦闘でも殺気は微弱、ダメージはほぼ皆無、そのあたりは演技には見えませんでしたよ。本棚に触れた瞬間に粉砕はしましたけど」
などど奴を小ばかにしていたら奴の学ランのボタンが一個はじけとんだ。その瞬間に奴の殺気は急激に増大し俺達は一瞬氷つく。信仰心は笑っている。
「覚悟しろよテメェら」
「何か嫌な予感がしないでもない」
「毎回そうですけどあなたのそれはもう予感じゃないです」
そして奴は霊体を拳にまとわせ、まるで燃え盛る業炎の如き拳を振るって来た、幸い大振りだったために簡単に回避する事ができたものの、奴が空を切った拳は地面に直撃し、地面はえぐれるように崩壊してまた一つ大きなクレーターを作り上げた。整備されていた地面は原型を留めておらず、人間の手が入る前の姿があらわになっている。命中してたらどうなってただろう。
奴はひとつ舌打ちするとまたこちらに向かってきた、パワータイプであろうが思念体は浮遊しているためにとにかく機動性が高い(個体差はある)。俺はまたすかさず回避する、あたったらやばい。
「おい!平和の思念!!」
「はい!?」
「あまりお前に頼むのは気が進まんが仕方ない!此処はお前との連携を取ることにした!」
「どうすればいいんですか!?」

「信仰心と!」


「<こいつ>を!!」


「持って!!!」


「俺の!!!!」


「視界から!!!!!」


「失せろ!!!!!!」


これはひどい!!!」
「だってお前足手まといだから!!傘無いとただのゴミだから!!」
「もっとひどい!!!!」
そういって奴は信仰心入りのビンと<アレ>を持って去って行った、ざまあみそづけ!!
一方信仰心は笑ってた。
「逃がしたのか?」
「いない方が楽だからな、アレ」
「こいつはひでえ」
「ほざけ、俺は腐っても違反の思念だ、俺以外の奴がどう思おうがどうなろうが俺には一切関係ないことなんだよ、これでいちいち邪魔者気にする必要ねえワケだな」
「んだとテメエ・・・!!」
「さっき俺は<嫌な予感>がすると言ったな、ありゃ嘘だ。ちょっと貴様の力が強くなったところで今世界中が俺のホームグラウンドだ。どっかのだれかのおかげでな!!」
といい終わったところで奴の拳が俺の顔面を深く突いた。街路樹に3本激突してようやく止まったが障害物がなかったら超飛んでた。ホームグラウンドになろうが防御力はそのまんまだ、めちゃくちゃ痛い。
「おい、こういう台詞というのは最後まで聞いてやるのが礼儀だぞコラ」
「いや最後まで言い切るの確認してから殴ったから問題ねえだろが、あと違反が礼儀とか言うな」
「ぬかせでこっぱちが」
「誰がデコだこの唐辛子」
「黙れ殺すぞカス」
「うっせえ潰すぞバカ」
奴はまた拳を掲げ、すぐさま振り下ろしてきた。俺はそれをしのぐ早さで動きネガティブウォールで防御する。防御力は変動しない、だが<強度>は格段に上がっていた。
「ッ!!?」
「ホームグラウンドっつったろ!小程度強くなった所で俺にたてついてんじゃねェよカス!!」
奴はまだ本気ではない、いや、<本気を出せない>。破壊衝動といったところでまだ破壊の程度はさほどのものではないため強化されたネガティブウォールが若干押される程度で十分凌げる程のものだった。というか望んだ物よりとんでもなくデカい壁が出てきて自分も驚愕。モノリス召喚した覚えはない。
「ってめえ!!」
「<ベクトルアウト>」
俺の掌で完全に止められる拳。さっきまでの強気はどこへやら、すっかり意気消沈しどことなく必死な感じの目をしている。少し余裕をかましたら引っ込めた拳をすぐさま突き出してきてまた顔面を殴られる。今度は地面を500m程地面をえぐるように滑った(うつぶせ)、鼻血がどぼどぼでてくる、鼻血以外のものもだらだら出てくる、クソ痛い。死ぬほど痛い。一撃が重い。たった二発だがよもや瀕死である。
「調子こいてんじゃねえよ」
「ぶふぐぇ・・・だがだぁ(だがな)・・・某成仏出でる画だだぁ(もう勝負ついてるからな)・・・!!」
「あ?寝言いってんじゃねえぞ!!」
奴はまた俺に向けて拳を向けてきた、が、その時。
「なんだ・・・!?」
「いだろが(言ったろうが)・・・ぼうじょうぶづいでるっでぼろろろろろろr!!(もう勝負ついてるってよお!!)」
奴が振り返ったその先には砕け散った杭柱の破片が散乱していた。そこにいたのは、<我慢の思念・ルチア=サプレス>と<信仰心の思念(灰)とついでに平和の思念>だった。いちいちあれだけどやっぱり信仰心は笑っている。
「てめえ!逃げたんじゃねえのか!?」
「ええ、逃げさせていただきましたよ?あなた方の闘争からは、ですけどね」
「あー、なんか出すもの出してスッキリだ!あいにく、奴には信仰心ともう一個渡したものがあんだよ」
「なんだと?」
「<破壊弾>だよ、かなり出力は抑えてあるがな、だがそこにあったチンケな柱を壊すにはちょうどいいぐらいだ」
「渡された時は焦りましたけどね、なんとなく意図は読めたので私も一芝居うってでたんです」
「まあ手違いかなんかで破壊弾落として平和の思念が炸裂してくれたらそれはそれでよかったんだがな」
「てめえらァ!!」
でこっぱちは平和の思念めがけて突っ込んでいった、なんかマズくないか。あいつロクに戦えないぞ。
「いまいち状況の把握に苦しみますが、ヴィヤズ・・さん?でしたっけ?彼の情報を一部分でいいので簡潔に教えていただけます?」
「はい、彼は破壊衝動の思念体・名はヴァ−サクさんです」
「破壊衝動・・・そう、ありがとう」
破壊衝動と聞いた瞬間表情が濁ったが、かまわずに我慢の思念は軽く息を吸いこう唱えた。


「・・・圧力方向・・・対象・破壊衝動の思念を・・・」


「下へ!!!」


するとでこっぱちは直角に角度を変え、自らの作ったクレーターの中に沈んだ。
「ぐふッ!!?」
「退きなさい、破壊衝動。もし私の意志に背くのであればあなたを此処でクレーターの一部にします」
「っち・・・・!」
我慢の思念はそういうと、でこっぱちは空の彼方へと消えていった。


「圧力方向・・・信仰心の思念を中央へ・・・・・」
すると信仰心(灰)は空中で一塊となり、能力でみるみる元の姿へと戻る。
「キャハハハハ!!げほぉ」
奴はゲップのような音を発し黒い煙を吐いた。汚い、煙い。
「にしても良くやってくれたな、お前にしては上出来だ、死ね。ブッ死ね」
「イハンさんとは心が読めずとも大丈夫そうですね」
「いやそれはいいから早く死ね」



「破壊衝動・・・・・」
我慢の思念体はどこか悲しげな目をしていた。気がした。



―――――to be continued