Ps-3 Cp-3 ルコ=モノトーンの戦慄

『最強の破壊衝動が機能停止・・・加えてこっちが劣勢・・・だと!?ふざけるんじゃねえ!!!人数も!力の差だって歴然のハズだ!!俺っちが負ける事なんざ・・・!!』
『調子はどうだい、黒絶星』
『大将様がのこのこと敵陣に現れるとは、いい度胸してやがるな!!オグ=ホワイトパレット!!』
『敵陣も何も、君の軍勢は一人残らず始末したよ、消滅はしていないけどね』
『なんだと・・・・・』
『既に思念体は君が糸を引く人形などでは無い、各々に個性が芽生え、今の彼らはれっきとした生命だ。君の都合の許す通りに動くハズがない、力無き者は屈服し、力ある者は私達が片付けた、味方同士で戦ってるのもいたね』
『ぐぐ・・・・』
『それでどうする?』
『決まってんだろ・・・此処で引き下がるワケにはいかねえんだよ・・・』
『君ならそういうと思ったよ』
『ならば始めようじゃあねえか・・・・・と、言いたいがそうだった、テメェに質問するのもシャクだが、一つ聞きてえ事があンだよ』
『なんだい』
『この戦いが始まる前、テメェは底辺で思念体と何かしていたらしいが?』
『・・・・・君には関係ない、ついでに言わせて貰うと、彼に手を出せば容赦しない』
『コエエなあ黄希星の思念よぉ!!楽と希望の具現の名が廃るぜェ!!?』
『廃ったって構わないよ』
『・・・何?』
『僕は皆が喜んでくれるのが一番の喜びなんだ、人々が幸せになるためなら、僕は幾らでもその闇を受け入れる。彼だってその一人だ、彼に希望を与える、彼の闇は僕が貰い受ける』
『・・・なんだよその闇は・・・・・なんなんだよそのドス黒い衝動は!!!黄希星だろ!?性質とは思念体の有り方を示すものだと!!言ったのはテメエのハズだ!!!そのお前が!!!こんな真っ黒なものを!!!俺っちでもそんな強大なもの持ってないんだぞ!!!』
『見てごらんよ、人気作者というのは、人々に希望を与える一方で、闇をも生み出している。闇を一方的に生み出す事は容易だと言うのに、人々に希望を与えようをすれば何故か陰りも同時に生まれる。だから人気者というのは、人々の生み出す闇をも内包しなくてはならない。そしてそれはなんらかの形で放出しなければ、最悪、内包した闇に支配だってされる。自惚れであったり、支配欲、軽蔑。放出する闇、内包した者を支配に追い込む闇はその形を変えて様々な面で現れる』
『テメエの中にある闇はかなり膨大だ・・・故にテメエはそれを放出していない、だが支配もされていない。何がテメエをそうさせる?何がテメエを闇に抗わせる?俺にはわからねえ』
『・・・内包する闇を星に乗せたら、それはもう黒絶星だ。人々が幸せになるためには、人々を幸せにするには、その内包する闇を放出してはならない。支配もされてはならない。僕は言ったハズだよ―――』





『人々が幸せになるためなら、僕は幾らでもその闇を受け入れると』

『それ程の闇、蓄えるのに相当な時間を要したハズだ。だが生憎、思念体は真新しすぎるんだよ、それは俺っちも、何故かテメエも良く知ってる事だろう。もう一度質問させて貰うがよ・・・・<テメエは何モンだ?>』

『そのうち嫌でもわかるよ、それじゃあ始めようか、大丈夫、消滅まで追い込んだりはしない』








「まだッスかアーティアさん!!」
「急かすんじゃねえよルーツ!!私が機械苦手なの知ってて作らせたクセによ!!」
「でもっ!!時間が無いんスよ!!!急がないと・・・」


以前私達は、努力の思念、アーティアの製造したレーダーを頼りに、イハン同様柱の破壊へと乗り出した。
だがそれは不運にも殺意の思念の性質。殺意に駆られ、私達を殺す暗殺者となった村人達に襲われる。
私は<空を飛ぶ用途のためだけにコピーした>重複の思念体、ピオネロの持つ能力を駆使し、ピオネロを協力して村人と対峙する。
その間に、はてなの思念、ナーバ。期待の思念、ルーツ。欲の思念、七。
この三体はは柱を捜索する事に専念し、私達の時間稼ぎの戦いは始まった。
個々が非力なために苦戦を強いられるものの、互いの能力をうまく行使し見事に村人達を倒す。
ナーバ達は見事に柱を破壊出来たものの、私達が向かったそこには姿を眩ませていた夢の思念【九十九街道宮橋】の姿が。
宮橋よりも上の存在がある事を、宮橋の発言から知るも、宮橋は殺意の思念を奪い去り、満身創痍の私達はそれを追う事も出来なかった。


さらに時は流れ、依然柱の破壊は順調である。問題は、順調なのは破壊のみである事。
憂鬱の思念。柱の影響で気分が完全に沈みきった人々と遭遇。無害であったために柱までは難なく辿りつくものの、破壊衝動の思念、ヴァーサクによる妨害に手も足も出せずにそれを奪われる。

次に狂気の思念、陶酔の思念、影響の思念の柱の複数設置エリア、イハン側でも前例が無いらしく、当時、どうなるかは不明だった。答えとしては、人々が文字通り狂ったように暴れ阿鼻叫喚となったエリア。無論有害。発する言葉の一つ一つに脈が無く、会話は一切成立しない上で襲い掛かってくる。さらに場酔いでもするのか影響下に無い者に対しても伝染する。と、性質が完全に融合していた。
ナーバの技、《スキルシンクロー》を使い、陶酔に化けて周囲の空気と同調する事で最低限まで凌ぐものの、嫉妬の思念、エンヴィーとの戦闘、手負いのようだったが、太刀打ち出来ずに狂気の思念を奪取される。陶酔は目を離すと何処かへ行き、影響の思念は自然と掻き消えるようにいなくなった。
さらに怠惰の思念。人々が仰向けで何もしない状態の中を突っ切り、無事に柱を発見する。今度は宮橋の妨害があったものの、これは撃退する事が出来た。助け出した怠惰の思念は、そのまま何処かへと行った。のっそりと。
どうにか私たちでも柱に封印された思念体を引っこ抜く事が出来るものの、宮橋を始めとする、破壊衝動の思念。嫉妬の思念といった、何者かの命令によって動く思念体達に助け出す思念体を奪われてしまう。宮橋の上の存在というのは相変わらず不明だが、いきなり出てき始めた事を考えると奴等も本格的に動き出したという事なのだろうか。

そんな最中、殺意の思念体の出来事の際、ルーツがアーティアに頼んだ品。
それがまだ完成しておらず、ルーツがあからさまな焦りを見出し始めた。それも『ただ焦っている』のとは違い、『尋常でないまでに焦っていた』。
時刻としては日が落ちてからそれなりに経っているくらい、真夜中といえば良いか。如何せん空の明るさが一切変わらないので時間感覚が狂い始めている。

レーダーの残骸によってすでにすごい事になっている工房の中。試作機であろう小型の物体が無数に散乱している。
形状から察するにこれは電話だろうか、しかし、同じものが二つでワンセット存在するあたり、用途としては無線のそれに近い。試作機のひとつひとつに試行錯誤のあとが見られるが、だんだん数を重ねる毎に電話という形を留めなくなってきている。一応付け加えるならば無線機とも言い難い。
現状も、アーティアはどうにかこうにかと作っているが、その取り巻きの思念体がやかましい、期待して待ってろよお前。

「大体、電話なんか作らせてどうするって言うのよ、焦る意味もわからないんだけど」
「確かにな、私も理由を聞いてないぞ、ただ作れって言われただけだしな、よほどの事に使わない限り、私にはあまり関係ない話だが」
「それは・・・違反の思念が・・・!!!」
「・・・私?それともイハン?」
「イハンの方ッス、はてなタワー最上階・・・そこで彼が脅威に変貌するッス」
「脅威って何?そもそも、何でそんな事わかるのよ?」
「それは・・・私の・・・っく!!ああがッ!!」
「期待さん!大丈夫ですか!!」


またこれだ、期待の思念、ルーツイクスペクト。彼女に何かを聞こうとすると忽ち頭を抱え込んで蹲る。これが幾度と無く発生する。
理由を語りたくないがための誤魔化しのように取れなくもないが、その痛がり方は異常に域を行く。何よりコイツはここまで迫真の演技が出来る程のヤツではない。
頭痛自体はガチなのだろう。
何が彼女をそうさせるのか分からない、つまるところ頭痛の原因は私達が知る由も無い。とりあえず頭痛持ちの体質なのだと捉える事にした。声がちょっとエロい。

「関係ないハズなんスけど・・・」
「何がよ?」
「こっちの話ッス」
「ますます分からないなぁ、何か隠してるのは丸分かりなんだけど、その核心を果たして突いたのか突いてないのか、それさえわからず中断する、その頭痛でね」
「・・・・・」
「まあいいじゃねえか、ウチを万能の製造機みたく思われるのは勘弁して欲しい所だが、これはこれで面白いしな」
「それでいいんですか貴女は・・・」
「いいって事よ、ギターの弦腐らせまくるよりよっぽどマシだ」

ルーツの背中に担がれたギターに、ほぼ無意識で視線を移す。
弦以外が新品同然なのが見て取れる。おそらく、アーティアの能力で弦以外はその状態を保っていられるのだろう。
というより、『壊れない』だけで、『劣化』はする。といった所か。
視線を元に戻すとアーティアと目が合う。そして二人同時にまたルーツの方を見て。その後再度顔を見合わせて大きなため息を一発。

「しかし、二つあるって事は、誰かとの連絡手段として使うって事になんだよな?此処にいるヤツらか?」
「いえ、違うッス、違反の思念が脅威へと成りうる、その違反に最も近く、そして対抗出来る術を持つ人物は、おそらくこの世に二人しか存在しないッス」
「二人・・・?」
「はいッス、その二人をはてなタワーに向かわせて、電話で指示を行うつもりッス」
「そのための電話ねえ、他に方法は無かったのか?」
「生憎、テレパシーのような能力を使う事の出来る人物は近くには存在しないッス・・・ルコとピオネロの意思疎通をするにしても、電話代わりに同行する必要があるし、そもそも距離がありすぎて無理ッス」
「というより、同行した所で足手まといでしかないよね・・・」

そう言いながら周囲を見渡し、一人一人、此処にいる思念体を確認する。

ルコ=モノトーン。紛れも無い私。違反の一つ、丸コピーを主体とした能力群による戦闘を行う、融通が効くが、相手に依存する戦い方しか不能な上、自分で言ってて悲しいくらいだが弱い。
ルーツ=イクスペクト。謎の多い期待の思念。時折予言じみた言動を行うが、有無を言わさず弱い。
ナーバ=ウゴリーヨ。はてなの思念。思念体の雰囲気纏う事が出来る。この中でまともに戦える思念体その一。たぶん戦闘力は並くらい。
ピオネロ。心を読める重複の思念。相手のイメージを奪取して使える。が、やっぱり依存性が高く弱い。
アーティア。努力の思念。腕っ節の強さ異常。まともに戦える思念体その二。おそらくこの中で最強。だが寝不足だぞ大丈夫か。
七。欲望に素直な小動物。何か食べてる。ほっこり。

壊滅的、圧倒的に壊滅的。イハンの行き先が彼女のおかげでわかっているとはいえ、そんな事が起こるのなれば上半身を取り戻すとか言ってられない。

「そもそも、根本的な話するけど、信じていいの?それ」

ルーツは起こる前提で話しているが、正直信憑性が無い。起こらない、とも言い切れないのでとりあえず確かめてみる。
そしてその問いに対して答えたのはルーツでは無くアーティアだった。

「それに関しては心配いらん、コイツの予知みたいなのは既に何度か発生しているからな、まああまり精度は良くないみたいだが」

アーティアの折り紙付きのようだ、それならば一応の心配は要らないだろう。『精度良くない』のが若干引っかかる所。
だが結局、電話を届けるためにはその二人の下に赴く必要がある。思念体でないならばレーダーではわからないし、最近活発になっているらしい宮橋やその仲間達に妨害される恐れもある。
相手は二人、ルーツの焦り方から見ても、一人ずつ探している程の悠長な時間は無いと見て良いだろう。そう考えると手分けする必要が発生するワケだが、これで後者が起こった際にどうしようもない。
他の思念が強力なのもそうだが、宮橋自身の戦闘能力も未知数だ、二戦共に自爆してくれたおかげで勝てたものの、あの幻想を呼び寄せる力のひとつひとつは何が起こるのか予測不能でしかも強力。
こちらの事故死だって考えられなくは無い。相手が思念体なのに限らず、実際問題、危ない目には何度かあっている。

「時間はとりたくない、しかし捜索しなければならない、捜索すべき相手がわからない。さて、ここまで厳しい状況だけど、どうするの?」
「生憎その二人の名前がわからないッスが、片方はどこかの森の中に、もう一人は屋敷の中にいるッス、いずれも開放エリアなんで・・・」

そう言いながら、ルーツはリモコンを手に取り、思念レーダーを作動させた。私達の拠点と、そしてイハンの図書館、それぞれを中心に、思念体の性質の反応が大きく消滅している事が伺える。
そのままルーツは言葉を続けた。

「この開放されたエリアの中、一人は我慢の思念が封印されていたらしいエリア、つまりうごメモ町のハズレの一角。もう一人は疲労の思念が封印されていた場所の近く、これが厄介で特殊な移動手段が必要になるッス」
「特殊な移動手段?」
「そこはこの世界とは違う場所にあるんス、ただ飛んだり歩いたりしただけじゃどうにも行けないッス」
「詰んでるじゃないの」
「だったら私に任せて!」
「代行天使飛んできそうなセリフですね」

割り込むようにアーティアが大声をあげる、無論作業の手は休めない。
ピオネロのツッコミが何を意味するのかは私にはわからないが。

「そういうのなら私の得意分野だ、電話作り終わったら即刻作ってやっから、あんまその辺は心配すんな」

アーティアさんマジ万能クリエイター。だけど便利屋感が増大しているぞお前それでいいのか。
ともかく、移動手段においては心配要らないと今言われたため、他の思念も召集して作戦会議とシャレこむ事となった。
話聞いてない陣に事の慣わしを説明し、どう動くかを決める。
これから何が起こりうるのか理解しているであろうルーツに、この作戦指揮権の全てを適任した。不安だが、状況が起こる前から把握出来ているであろう彼女に任せるしか無い。

「それじゃあ始まるッス、さっき言った通り、今回は二人の人物にはてなタワーへ向かってもらうように誘導、片方にはさらに、今アーティアさんが作ってる電話を渡して欲しいッス」
「いい加減その二人ってのを教えて欲しいんだが」

ナーバがすかさずツッコミを入れる。その疑問はもっともだ、何をもったいぶっているのかしらないが、さっさとその二人とやらを教えるべき。

「ああそうだった!忘れてたッス!!」

不安が増大する。

「その二人というのは一人が金髪のオジサンで、もう一人が従者を引き連れたオジイサンッス、さっき言った通り、名前はわからないッス・・・」
「金髪のオッサンと?」
「従者を引き連れたおじいさん・・・?」

名前はわからずとも、だ。そんなナリしていたり、部下を引き連れたオッサンなんぞ何度か合った事がある。
間違い無くガルテスとヴィクレイマの事だろう。最初はイハンと共に柱を粉砕するために行動していたと聞いたが、最近となってはイハン側の情勢がわからなかったためにそれ以降の情報はからっきしなのだ。
ルーツの言う事から察して、どうやらイハンの図書館を離れ、それぞれの寝床についた、という所か。この状況下でずいぶんと暢気な事だが、ただ単に興味が無いだけかもしれない、あの人達の事だし。

「それで、その二人に会いに行けばいいのね」
「そうッス、時間はあまり残されていないんで、手分けしてもらう事になるッスが・・・・」

案の定だった。戦力が分散するのはマズいような気もするが・・・四の五の言っていられない。

「どう分けるんですか?」
「ナーバさん、私、そしてピオネロさんはその従者のオジサンを捜しに行くッス」
「おう」 「分かりました!」
「と、なると、私と七はガルテスを捜せばいいのね」
「む」
「ガルテス?」
「ん、ああ、心当たりがあるかもしれないだけ」

チーム分けが決まった所で出発と言いたい所だが、ルーツがまだ何か言いたげだった。
というかそもそも、大事なアイテムの存在がまだある。

「アーティアさんはどうするッスかね?」
「ン出来たァァーーーーーーーーッ!!」

けたたましい叫び声をあげるアーティア。それはもはやさながら悲鳴のようにも聞こえた、耳が痛い。

工房の奥から、死に掛けた目でのっそりやってきたアーティアは、ルーツに対してある物体を手渡した。
これが彼女の言う、『電話』なのだろう、電話と呼ぶにはあまりに歪で色々とぐっちゃぐっちゃしていて其れを電話と言うにはちょっと勇気がいるレベルの品だった。
試しに通話してみると、しっかりと受話器の奥からルーツの声が聞こえる。一応、電話としての機能は果たしている。扱いにくいが。
だが肝心のアーティアだが、なんと既に数週間は寝ていない、威勢はいつも通りに良いのだが、その体は上下左右に常にフラフラと揺れている。
そしてとうとう仕舞には、近くにあったレーダーの残骸に突っ伏すように倒れこんでしまった、無理も無いだろう、あまりにも酷使しすぎた。アーティアは便利屋とかの類ではないのだ。落ち度は私たちにあるだろう。主にルーツ。

「同行は不能だろうな・・・」
「また一番の戦力がいないッスか・・・」
「誰のせいだよ誰の」

そして、アーティア離脱によって、ルーツ方面はある事態が発生する。そう、時空転移が出来ない。
アーティアが心配するなと言っていたため、これまた何か作る予定だったのだろうが、そのアーティアは再起不能だ、このパーティの中に時空転移が可能な者はいない。
皆でどうにか対策を講じようとするものの、案が出るワケでもない。結局、この状況にルーツが口を開く。

「考えても仕方ないッス、ルコさん達は先にその人の元に向かって欲しいッス」
「アンタ達はどうするのよ」
「それがどうにもならないから、先に行ってて欲しいんス。イハンを止める事の出来る可能性は、出来るだけあげておきたいッス」
「・・・わかった」

こうしてルーツ達を置いて、私と七はガルテスと思わしき人物の元へと向かう。
工房を出て、森を抜け、うごメモ町へと歩を進める。・・・案の定飛んでいるワケだが。




うごメモ町、空が真っ赤だが、住民に然程動揺する様子は無い、慣れてしまったのだろうか。どちらにしても異様である。
人が寄り付かないハズレの一角、そこにガルテスと思わしき人物はいるという、もしノーヒントで探すという事になっていたらどうなっていた事だろう。
彼は決まった拠点を持たず、各地を転々とする。故に彼を探そうとするのは一苦労だ、家が無いんだもの。
そんなガルテスだが、イハンは感覚だけで彼の現拠点が把握出来るらしい。相棒であるだけで、そうにも違うものなのだろうか。
そのイハンだが、生憎、というかやはり図書館にはいない、柱の破壊にでも向かったか何かだろう。少なくとも、ルーツの言った通りならば、いない方が合点が行くものだ。

この町は、とてもいい町だ、思念体に対しても、誰もが優しい。ちょっと変わった人とかだいぶ変わった人とかはいるものの、イハンを受け入れてしまう程だ、平和ボケというか、お人よしとでも言うべきか。
そんなこの町が私は好き。この世界が好き。
私は性質が違反で、でもイハンみたいに人を引き付けたりしない。だから私には友達がいなかったし、人ともすぐにいがみ合ってしまう。
それでも私は、この騒動で出会った仲間達も好き。だからこそ、私はこの異変を終わらせたい。
この騒動で私が得たものはもしかすると掛け替えのないものなのだろう、この騒動がなければ出会わない存在もあっただろう。
だからといってこの騒動は許されないのだ、次に笑うのは、世界が平和になってからの方がいいに決まっているのだ。違反の思念がこんな事考えるのも、おかしな話だが。

そこで私はまたイハンを追いかけ、元の・・・・・












元?
元の姿って何?
私の過去の記憶、それは思念の殆どが覚えていないおぞましき記憶。
そこで私は、誰かの隣で戦っている、そしてその中に出てくる『私』の姿は、ぼやけて何もわからない。
だから私は、私を取り戻すために、同じ性質であるイハンを追っていた。それに間違いなど無いのだ。

記憶の中でハッキリとしない私を探す、そのために私はイハンを追い、『私』としての存在を取り戻そうとしている。

だがそれは・・・『私』なのか?
イハンは空に舞う存在で、私は地に足をつける存在だ。
今は別物の意識を持っている、だが、元に戻れば、その意識は、はたしてどちらのものなのだ?

私の中で、またひとつ、疑問と恐怖が芽生えた気がした。

おそらく凄まじい顔をしていたのであろう私の顔を七は覗き込むように見つめてくる。その眼に生気は見えない。

「むっむ」

相変わらず何を言っているのかわからないが、私が深刻な顔で考えているのを尻目に七は遠方を指差す。
その指し示した先には、木々が薙ぎ倒され、所々にクレーターが出来上がっている光景が広がっていた。
ここが我慢の思念が封印されていたという場所だろう。このドハデな荒れ方は恐らく破壊衝動の思念の妨害があったのだと見て良いかもしれない。
私はさらに道を外れ、そこから人の手が入っていないエリアへと侵入する。それに七は黙々とついて来る。というかこの子らまともに言語喋ってくれないんだけど。

クレーターバイオームを少し越えた先には、木々が深々と生い茂る森が広がっている。なるほど、ガルテスが好んで拠点にしそうな所だ。推測は少しずつ確信へと変わって行く。

が、ここからが問題でもある、木々が生い茂るという事は、同じような景色が続くという事。
その中から探すのは困難だし、さらに私たちが









迷いましたー!

うん、いやだめだよこういうのはね、道無き道とか進むものじゃありませんよホントに、右も左もわからないですよ。ふざけんじゃねえよ。
あたりを見回すもののやっぱり木が連なってる光景しかその目には映らない。七はドーナツ食べ始めるしでいけませんわこの子。
さっきからとりあえず進んではいるものの、果たして前に進んでいるのかさえわからない。木が視界から外れたらまた違う木が飛び込んでくる。

ヘタに動いてもどうしようもないだろう、ひとまずはその場に座り込む事にした。もっとも座り込めるのは私だけだが。
というか何で人里ひとつ離れた場所の森林がこんな大迷宮なんだ。

「・・・・・」
「むっふしむっふし」
「・・・・・」
「ぐっちゃぐっちゃ」

・・・・・会話が出来ない!!
え?何なのこの状況、七がマトモに会話出来ないのは知ってるよ、さっき言ったよ。
でもそれなんだよ!根本的な部分で会話が出来ないんだよ!!私の言ってる事はわかるだろうけど七の言ってる事はわからないよ!!
試しに七の食ってるものを拝借しようとしたら凄まじい嫌な顔をされた、そんな目を私を見ないで。

動いても意味を成さないが、こう動かないのも苦痛だとどうしようも無いではないか・・・、どうするか作戦会議的なのも出来ない。
ルーツめ謀りおったな、ギターで殴るぞ貴様。

いやまて、ルーツ?そうだ、ルーツがいるではないか!!

私は咄嗟に七の背中に腕を突っ込む。盛大にかじられた。ごっつ痛い。だが次からは無効化である、残念だったな。
七の背中は何処かに通じている『何か』がある、七が電話のような物質を欲しがったため、食べようものなら全力で叩く姿勢で電話らしき物体を渡したら、なんとこの子は背中へと収納した。
便利なので入れっぱなしにしていたが、今こそ開放の時である。数時間しか経っていないが。

「七、さっき渡した電話(的なアイテム)、渡してくれないかな?」
「むえー」

また嫌な顔をする。この子は電話かもしれないアレを、もらったものだと思って返したがらないのだろう、欲の思念としての本質故に仕方が無いのかもしれない。
しかしそれでは私が困ってしまうのだ。ドーナツあげた。返してくれた。ちょろい。

一応、他の電話に繋げるらしく、ちゃんと1から♯までのボタンが搭載されている。
一応覚えておいてソンは無いだろうが、今回の対象はもうひとつの電話、所謂内線である。

しかしあの電話はこちらが使う用の代物なので、ルーツが所持しているかというと微妙な感じだ、出てくれると良いのだが・・・




『もスもス!』
「死ね」
『ひどい』

どうやら繋がったらしい電話からは、電子的なノイズも混じったルーツのあまりにふざけた声が聞こえて来た。
あまりにふざけているので条件反射でうっかり何か口走ったがまあいいだろう。

『どうかしたッスか?』
「いやね・・・迷っちゃってね・・・、一応人物の目処は立ってるって話したと思うけど、その人物のいそうな場所に突っ込んだらまあ・・・」
『飛べばいいんじゃないッスか?』

どう思うよね、そうだよね、だが更に生憎な事に、この森林は枝が深い、飛んで脱出しようものならば、少々痛い思いをしなくてはならない。それくらいならば耐えても別に良いのだが・・・
ガルテスを探すためには結局下に下りなければならない、迷う事が回避出来ても、目的は遂行できないのでは意味がないのだ。
それで歩くけどまあ歩いてもラチがあかない、というワケだ。

『元も子も無いじゃないッスか』
「アンタらはどうなったのよ」
『自分達はアーティアさんがあの状況で起きてくれないので出発したんス』
「死にかけの状態のってわかってるのに起こそうとしたの?バカじゃないの?てかバカだお前」
『中々にひどい』
「でも出発した所で、どうしようも無いじゃないのアンタら・・・」
『そうでもないッスよ、今冥蒙界?って所にたどり着いた所ッス』
「はあ!?何をどうしたのよ!?」
『それが――』

ルーツが何かを言い放った直後、私は何かの気配を察知し、あたりに警戒網を張る。ルーツが言葉を続けるものの、既に私の耳にその言葉は入ってこない。
七は「むっむっ」と声を漏らしながら跳ねるように上下している。
この感じは一度味わった事がある。この異変が発生する以前に一度だけ。その時はあっけなく出てきたが、今回はそうも行かないらしい。中々に姿を現さない。
どこから来るか、この木々の中を慎重に見渡しながら臨戦態勢で構える。

そして次の瞬間、遥か上空より、深く茂る木々の葉を物ともせずにその眩い極光は私たちを照らし出す。それはこの地に到達するより前に物凄い熱量を帯び、それが危険なものである事は何も考えずとも把握出来た。

「七!!危ない!!!」

言わずとも分かっているであろう七が慌ててその場を離れる、勿論私も。




強烈な熱を帯びた『ソレ』は今まさに私達が立っていた場所を高速で貫き、空が見えなかったこの森林だが、その照射地点だけにぽっかり穴があいて綺麗な空が見える。
決して山火事のようなものが起きるとかそのような事も無く、瞬間的に焼き尽くし、灰さえ残さない。被害が少ないのは良い事だろうが、同時に今の光がソレほどの威力なのだと、説得力を持たせるには申し分の無い光景だった。

「ルーツ、あとでかけ直すね、場合によってはそっちの電話を渡しても構わないから」
『ちょ、ルコさん?何があっ』

無慈悲なるブチ切り。

「むむーっ!!むー!!」
「七もお怒りみたいね、そろそろ出てきたらどう?九十九街道宮橋!!」



「・・・けけけけ、いやあ参っちゃうよね、自分はこうして隠れてるつもりなのにさ、思念体は性質漏れてるからぜーんぜん意味を成さないの。まあそれを逆にエサにしようとしたんだけどね」

どこからともなく宮橋の声が響き渡る、またどこからくるのか分からない、決して気は緩めない。

「戯言はいいよ、わりと耳障りだから、いい加減姿を現して」
「つれないねえ君も」

そういうと、聳える木々の木の葉の中から笠だけがひらりと落下してくる。
そして枝にぶら下がるようににして遅れて姿を現したその影は、空中で笠を掴みながら地へと降り立った。足無いけど。

姿を現したのは紛れも無い九十九街道宮橋、なのだが、まさに「影」の名の通り真っ黒なのだ。何があった。

「見たかい?この破壊力!火となり焼き尽くす事さえ許されないこの超火力!!」
「この極光もあんたの仕業なの?」
「そうとも!『衛星兵器:サテライト・ブラスター』!!宇宙で伝道せず直接伝わる太陽コロナの凄まじき熱を凝縮し解き放つ殲滅兵器!!」

案の定その中身は簡単に教えてくれる、バカで何よりだ、だがバカ故に楽しそうに殺しにかかって来る、友好的であるハズの七さえ巻き添えにしてだ。
奴がススまみれで真っ黒なのは・・・おそらく巻き込まれたのだろう、幻想だからこそ、未知数だからこその危険も伴う、いやそんな事じゃなくて巻き込まれるのもバカだからだろうか。
それにしても説明がホントなら直線的に圧縮された太陽コロナ直撃だぞ、タフすぎないか。ギャグキャラはバトル漫画だとある種最強なんだぞ、勘弁しようよ。

「まあ今の極光の正体はお蔭様でわかったけど、今度は何?私達今回ばかりは柱をどうとかじゃないわよ?」
「柱のマイナス思念体の回収にアズゥ自身が乗り出したんだ」
「アズゥ・・・?それが親玉の名前?」
「ああ、言ってなかったか、まあいいけどさ」
「何が狙いなの?貴方達は何をしているの?」

わりと確信に迫る質問だ。普通ならわざわざ手の内を語る事は無いだろうが・・・

「単純明快だ、世界の支配。アズゥは自らの手でソレを成そうとしている」

ビンゴだ、奴は簡単に語ってくれる。

「黒絶星の思念体、アズゥ=ブラックフェザー。今のままでも十分強い彼だけど、どうにもまだ納得がいかないみたいでね。そのために世界を混乱へと陥れた、人の感情たるソレはいかにプラスに働こうがマイナスに働こうが、何かが欠けてしまえば不安定ものとなる。不安定な人間は果たしてこの世界において何を生み出すのかな?」
「むむん」
「黒絶星・・・か」
「ご名答、黒絶星の思念であるアズゥは、その黒絶星の性質を強化する事で彼自身も強くなる、ちょっとまわりくどいけど、違反の性質で心に作用させ、他の性質でスキに付け入る、孤立した感情しか持たなくなった人間は、嫌でも黒絶星を量産する、結果的に効率的なんだよね。全ては支配者たる存在としての、絶対的な力のためさ、簡単だろう?三行でもっかい言ってあげようか?」
「いらないから続けて」
「やっぱ君性格悪いよ、まあいいけどさ。そして、それを充分と判断したアズゥは、今度は柱に封じ込めた思念体を回収するよう指示した」
「おかしくない?私達みたいな柱を壊す邪魔な存在がいるにしても、わざわざ設置したモノ回収せずにギリギリまで粘ればいいのに、結果的に黒絶星の収集率が高いのはそっちのハズよ」
「どうだよね、普通そう考えるよね、ところがそうでもない、柱一本につき思念体一体だ、破壊者達にとっては骨が折れるだろうけど、こっちにしても困った話だ」
「何がよ」
「彼らの殆どは間違いなく、柱に封じ込めた張本人である僕たちに敵対する、いかにアズゥが力をつけるとか言っても、敵が多すぎるのはマズい、数で攻められたら、今度骨を折られるのは僕達だ。だから考えたんだよ、既に力としては充分だから、今度は柱の中身を駒として扱おうってね!!」

なんつー卑劣な事をさわやかに言うのだろうかコイツは、今にもハラワタが煮えくり返りそうだ。

「無論、柱に封じ込めた思念だけじゃない、危険異分子も、その手中に収められるなら収めてもいい。優先は無力化の容易い柱の思念だけどね!!」
「私の所に来たのは?」
「邪魔者のお掃除兼、あわよくばお持ち帰りです、七もそこの思念もね!!」
「殺すぞ」

少々心のどこかでなめていたかもしれない、ただのバカだと思って油断していたかもしれない。
コイツは放っておくとホントに危ない存在だ、今ここで叩き潰す。

「怖いねえルコ=モノトーン!!声は全然怖くないけどね!!ドスの聞いた声は出せない系!?けけけけけ!!!ゲホッ、ゲホッ」
「その前にさらに質問したいんだけど」
「なんだい」
「どうしてそこまで内側の事情を語るの?聞いてもいないのに結構重要そうな事もべらべら」
「そんなの、その方が楽しいからに決まってるからだよ、僕は楽しい事の味方!!アズゥの傍に居るのも、そっちの方が色々と楽しいから!!」
「わかった」

聞きたい事も聞いたので、私は宮橋にずけずけと迫りながら左手を高らかに天へと掲げる。
恐怖は無い、今なら痛いのも怖くない。目の前の対象を殲滅する。『違反』の性質よ、今だけは、その性質の名が指し示す通りの非道さを私に・・・・!!!

左手を振るうように地へと落とす、何処かで見た事のある極光が宮橋めがけて降り注ぐ。

「っぶない!?」
「やっぱり素早いね君」

その極光を宮橋は間一髪で回避した。膨大な熱を帯びた極光が二度も降り注いだ影響か、周囲の温度が妙に高まっている気がする。あと多少コゲくさい。

「今のはサテライト・ブラスターの・・・」
「勿論私は衛星がどんなのか知らないし、それを確認する事も出来ない。ラーニングは、見た技をそのままコピーする能力、あくまで効果以外は視覚情報だけ、見えない部分はデタラメになる。今の私は、『衛星を介さずとも天空からレーザーを飛来させられる』」
「めちゃくちゃだねえ」
「ええ、めちゃくちゃね、滅茶苦茶なアンタを始末するにはちょうどいいかもね!!」

一発、二発と極太の熱線を打ち出す。カスりはするものの、どれも直撃にまで至る事は無い。何より無駄撃ちすればするだけ周囲が熱くなる。

「確かにラーニング自体はめちゃくちゃだけど、君に回避出来るんだ、僕に回避出来ないワケないじゃないか」

確かに奴の言うとおりだ、足が無い分に機動力が高いのは確定的。私がようやく回避出来る程度のものは奴にかかれば容易なのだ。
ならば七に食べさせて、弾数を増やすか・・・?その七はというと熱線の着弾点から生み出される熱で肉を焼いている。さっきまでの怒りは何処へ。

「君の能力は実に厄介だ、見せてしまうだけで簡単に奪われてしまう。だからこそ自身の攻撃に対する対策は怠らない、射出から着弾までの時間とか色々は、自分が放ったレーザーで既に知っているつもりだ。回避するには申し分無いレベルの着弾時間だけど、君の体力は何処まで持つのかな?」

奴はどうやら∞-インフィニティ-とスティールを知らないらしい。勿論、奴と違って私はそれを教えるつもりは無い。
だが問題は、今回その能力は役に立ちそうにないという事だ、奴の能力は幻想を招来する能力、おおまかにも『幻想』と呼べる存在というのは数え切れない程存在するだろう。
この戦闘、負けるつもりはないが、仮にサテライトの一撃がぶつかった場合は一瞬で消し炭だ。∞-インフィニティ-が発動しても次の無効化が生きる事は無いだろう。厳密には技というカテゴリでは無いのもある。
逆に奴の能力をスティール出来れば心強いものであるのは間違いない、だが、奴に触れるのはそう簡単な事でもない。ヘタに突っ込めばこれまたサテライトの餌食だ。

宮橋を注意深く観察しながら、何か打つ手は無いものかと思考を張り巡らせて模索する。

だがその時、握り締めていた電話が奇妙な音を放っている事に気がつく。それに目をつけた宮橋が透かさず信号を送り、サテライトを起動させた。
音に気をとられてしまった私は当然それを回避する事はままならない。膨大な熱を持った光の塊が、私の視界を真っ白に染め上げる・・・



死ぬかと思った、というか死んだと思った。
しかしまた、あの時のように救われたのだ、なんだかんだでこの子には借りを作ってばかりな気がする。


七が技を食べた、『サテライト・ブラスター』を食べてしまったのだ。あんな極太光線どうやって食したのかは不明だが、熱線が着弾した痕跡は無い。七に収まってしまったのだろう。

「むっむむ!むー!!むむ!!」
「今回ばかりは七の言う事でも知った事ではないね!!こちとら最悪殺す気でいるんだから!!!居合わせたなら死ぬつもりでいてもらわないと!!」

だがこれで、七も同様の技が使えるようになった事になる、問題は、一口しか食べていない事だ、七は食べたら食べるだけ技の精度が増す。
逆に一口しか食べていないという事は、それだけ元の技より精度が曖昧だという事、スラッシュリハイドがバナナになった時のように、どうなるかわからない。
それよりこの鳴り止まない着信は何だ、ルーツ達であるのは間違い無いが、こんな時に何を考えているのだ。
応答したいが、宮橋を押さえ込まない事にはどうしようもない。大きなスキを作ってしまう。

「だったら、皆まとめて消し飛ばす!!」
「むっむーーーーッ!!!」

宮橋が再度照射の体制に入ろうとするが、そこにすかさず七が食べた技を放たんと構える!!
だが果たして七の放つサテライト・ブラスターが足止めに有効なものとして発現するのかが分からない。

「っが!!?」

目視は出来ない、だが何かが降り注いでいる事は見て取れる!!
周囲の樹木は宮橋もろともズタズタに細切れにされて行き、さらに宮橋は切り傷を増やしながらも必死に耳を抑えていた!!

『光よりも劣るもの』として発現した七のサテライトが放ったものはあろう事か『音』だった!!
その音は膨大な風圧を纏いながら、『超音速波(ソニックブーム)』として宮橋に直下する!!!!

「むむむ!!!」

おそらく電話に出るように指示しているのだろう、この土壇場で精度の悪い攻撃で音を引き当てるのは、運が良い!!
七がスキを作っている間に、私は電話に応答する。

「もしもし!!」
『あ!やっと繋がったッス!ルコさん!さっき切れたのは、もしかして交戦中ッスか!!?』
「わりとヤバめのね!!」
『だったら、今からある思念に救援に向かって貰うッス!!』
「ある思念?」
『そうッス!!私達は世界を飛んで!さっきヴィクレイマって人に会って!事を終わらせたッス!!』

異世界とはやはりそういうことだった、ガルテスと来て、異世界の覇者となったイハンに近い存在。ヴィクレイマ・ダークネスに他ならない。

『この世界に送ってくれたその思念がもうすぐにつくハズッス!!』
「しゃらくさい!!」

七の攻撃から復帰した宮橋が私達めがけて光線をぶち落とす!

「あ!ヤバい!」

唐突だったので結構マヌケな声を放ってしまったが、わりとガチでヤバい!!防御の術は御座いませんが!!七もバテてますが!!


高熱の光線が、再度眼前まで迫る!!







ところがどっこい、その眩い光は、突如空中に出現した円形の黒い物体によって遮られ、光線ごと、その黒い物体は消滅した。
何が起こったのかわからず、その場にいる全員が唖然とする、七は肉食ってる。

しかし次に声を上げたのは、私でも、宮橋でも、はたまた、七でも無かった。私の背後から、湧き上がる性質の出現と共に声が響く。

「返すぞ」

ただそれだけの声が聞こえ、私の頭上からは再度あの黒い歪が出現。
するとどうだ、奴が放ったレーザーが、その歪から宮橋めがけて一直線に伸びていくではないか。

突然の出来事に流石に驚きを隠せなかったのか、本当に焦った表情で、しどろもどろする宮橋の姿があった。
勿論、それに対しての対処法など用意しているワケも無く、反応も出来るワケ無い。その白熱の一閃は的確に宮橋を貫いた。

私はその着弾を確認した後、後ろを振り返る。性質の地点で気がついていたが、私の背後に音も無く現れた思念体とは、無の思念、ヤグレムだった。
会った事は無い、イハンがよくグチグチ言っているのを幾度と無く聞いているためにその存在は知っている。
何に対しても無関心であるはずの彼女が何故此処に来たのだろうか。加勢してくれるとなればかなり心強いが、その線はどうにも薄そうだ。
そういえば、この異変が生じる前、宮橋と交戦する前に見つけた柱から吹き出ていた性質も無だったハズ、無事救出されたという事か、むしろ何故入っていた。

「君が来るなんて誰も想像できないね!!」

二度目の光線を貰った宮橋が再度起き上がる、私が喰らえばたぶん一撃必殺コースだと思うのだがこのタフさはおかしいと思う。

「しかし、こうなってしまってはマズいな・・・此処は・・・」

何かを察した宮橋が体を捻り、そのまま流れるように森の奥へと一瞬で行方を晦ませてしまった。

「あ、待て!!」
「お前が待て」

ヤグレムに呼び止められる、何を考えているのだろうか、敵が逃げるというのに。

「お前がルコ=モノトーンか」
「あ・・・はい」

鋭く冷たい眼光で私を見つめるヤグレム。
その目からは今何を思っているのかを読み取る事は出来ない、澄んでいるのに濁っているような、そんな目をしていた。

ぶっちゃけちょっと怖い。


「ふあ」

突如表情ひとつ変えず、私の頭に手を置くヤグレム、わりとソフトに置いてくるので思わず変な声が出たが別に何でも無い。

「あ、あの」
「・・・・・私が此処で成すべき事は完了した」
「うん、うん?」
「む」

そう言うとヤグレムはあの黒い歪の中に姿を沈めて行き、歪も消滅してしまった。


マジで何したかったの!!?

いや来て頭叩いて帰っちゃったよ!!別の意味で何考えてるのかわっかんないよ!わっかんないよこれ!!
宮橋追わないといけないのに!とんだ時間の無駄だったよ!何なのよ一体!なんなんだー!!ヴォー!!

「むっむ」
「あ゛あ゛ん!!?」
「むぎっ」

ドスの効いた声出せるんだ私。って違うそうじゃない、ビビらせてしまったが、七が何かいいたげのようである。だが案の定「む」しか発する事の出来ないこの子の言いたい事は分からない。
それは七にも分かっているのか、必死にジェスチャーで私に事を伝えようとする。自身を指さし、その後私を指差して上下に浮遊する。

七で、私で、ふーわふわ。


七を、私が、ふわふわ


七を何かして、私が、飛ぶ


七をスティールして私が飛んだ。


そういう事だったか!!
触れた者の能力をコピー出来る能力!スティールの存在だ!!今回は役に立たないと割り切ってうっかり忘れていたのだった!!


咄嗟にスティールを発動し、ヤグレムとしての力をその身に宿す。灰色のローブを身に纏い、私は全ての念を知りえる目を手に入れた。

ヤグレムの能力、<無常観>。思念体の性質と位置を正確に特定する能力だ。見える、見えるぞ!!奴の場所が!移動経路が!!
しかし問題は、場所が分かってもそれに追いつく術が無い事なのだが・・・・










「思わず逃げ出してしまったけど、どうするか、タワーに向かってるアズゥに合流するか?ラーニングがあるから怖いモンだけど、こう入り組んだ所に紛れたらルコに探し当てられるハズが無い。なんかフラグっぽいぞ!!」
「言ったハズよね『殺すぞ』って」
「フラグでしたね!!」

空間の歪を抜け出し、宮橋の眼前へと姿を現すのは私と七。ヤグレムの技の一つ、「エンプティホール」。
亜空穴を自由自在に生み出す技だ、どうやらヤグレムの作る歪とは別モノのようで、ヤグレムがいくつか収納してあるであろうものは引き出す事が出来ない。私の本質が『コピー』なだけに仕方が無いか。
普段の私なら、思念体の飛行速度には追いつけっこない。だが、この技を使えばどうだろう、あっという間である。色々と未知数だ。

「やっぱりヤグレムの力を会得していたか!だから嫌だったのに!!」
「すごいねこの技、ぶっちゃけ何でもできなさる」
「出来るならどうするんだい」
「穴に閉じ込めてそのまんまでもいいだろうね、日付の変化と共に覚えた技は忘れる。空間ごと抹殺なんて芸当も出来る」
「生憎だけど、僕にその技は通用しない、いやするっちゃするけど」
「まあ幻想を呼び出すんだもんね、ある種どうとでもなっちゃうか。でも大丈夫、元よりそんな事するつもりは無い」
「何だって?」
「アンタは私の手で殺す!!そう決めたもの!!」
「私の手ェ!?何言ってんだ!!アンタ『自分の手』も『自分の力』も持ってないじゃないか!!」
「誰かの作った幻想にしか頼れないアンタにだけは言われたくない!!!」
「ぐぅ・・・!」


これで勝負は仕切り直しとなった、奴に逃げ場など無い、戦う以外の選択肢は無くなったワケだ。
さらに奴に至っては今までのダメージが存在する、体中傷だらけな上、コゲ臭さがまだ残っていた。私達が優勢である事は間違い無いだろう。
七にもエンプティホールを食べさせても良かったのだが、どうにもさっきの肉がおなかに溜まっているらしい、今はいらないようだ。オマイゴッ。

「それにその姿・・・そうか、まだ君には能力が存在するのか、僕の居場所が分かったのもそれのおかげか」
「フツー手の内はあまり晒すものじゃないよ」

宮橋はヘタに動く事が出来ないでいる、先ほどみたいにレーザーを放てば、また吸収されて自分に帰ってくるからだ。
向こうが来ないならばこちらから行くしかないだろう。

私は木々の間を縫うように移動し、宮橋との距離をつめ、さらに上空からの光線を宮橋目掛けて見舞った。
宮橋は私の接近には気がついているだろうが、光線に重点を置いており私の方は見向きもしない。
それもそうだ、私自身が接近した所で、私には肝心な決め手と成り得る攻撃を持ち合わせていない。ホールで奴を吸い込まないのは自分の中で決めた事。自身で叩かないと気が済まないからだ。
故に私が奴に突撃するのはフェイク。だが、その光線もフェイクだ。

「・・・・・んなッ!?」

回避でもするのか、防御でもするつもりだったのか、光線の飛来に備える宮橋だったが、時空の歪が展開され、その攻撃はたちまち飲み込まれてしまう。
充分読めた展開ではあるだろうが、逃走不能、苦戦必至の戦いに奴は相当焦りを見せている。目先の情報しか入ってきていない。

奴の背後から再度展開されるホール、吸い込んだものを出す。流石にこうにも単純な事は宮橋にも読めたようで、奴は上に飛び上がり、光線の射線からは外れてしまう。


それが光線ならばスカだったが。
ホールから出てきたのは、残念ながら光線ではない。



七である!!!

「むっむーーー!!」
「ウソやぁぁぁぁん!!?」

七がまるで戦闘に参加していなかったために、宮橋の意識は完全に私にしか向いていなかった。ちゃっかり七を吸引していたとは思うまい!!!

「いっけー!!七ァァ!!!」
「むえーーー!!!!」

地面と平行に、仰向けの状態で出てきた七はしっかりとその目に宮橋の姿を捉えている。これまた予想外の事態に、宮橋は反応が遅れてしまった。
七の背中から漏れ出す霊体の断片の数々が、高速で宮橋に向かって突っ込んでいく。七が所持する技の一つ、『飛来する内密の青き薔薇(インモストブルーローズ)』である。
鋭利な破片にも見えるその飛翔する霊体が、一つ一つ的確に宮橋の体を捉え、貫く!!そしてトドメに!!

私は宮橋の真上にホールを展開する。

「エゲつねえ!!」

喋る余裕はある宮橋のようだが、もう回避など出来ないだろう。
フェイクとして吸い込んだ光線が宮橋を上空から焼き尽くす!!!さあどうだ!そろそろ死ね!!


煙を上げながら、脱力するように頭から落下する宮橋。ボトリと音をたてて、地に伏した。起き上がる様子は・・・・・無い。



「勝った・・・勝っちゃった・・・」
「むっむーーー!!」
「やったよ七!!!勝っちゃったよ!!なんか勝った!!」

言葉に出来ない、今までだって勝利と呼べるものは何度かしたのだが、こうも気持ちの良い勝利は初めてだった。
確かに自身の力で勝ったとは言い難いが、それでも嬉しいものは嬉しい。あと存分にぶっ飛ばせたのでとてもスカッとしました!!
七も、表情こそ変わらないが、手をバタバタさせている、きっと喜んでいると見ても良いだろう。
さて、宮橋がピクリとも動かない、最初に戦った時を彷彿とさせる、七と私で勝利を掴み、こんがりした宮橋が一切動かない光景。

・・・とにかくだ、私はまだ事を完了したワケではない。
そう、私達が外に出た理由とは、ガルテスを探す事にある、勿論忘れてなどいない。よくよく考えると、ガルテス捜索に関しては一切事が進んでいなかった。
無情観では思念体以外の位置を探る事は出来ない。また地道に探す他無いのか・・・






「けふっ」






嫌な音が背後から聞こえる。
喜びと勝利の余韻を一瞬で崩し去る無慈悲な咳払いが聞こえた。

捜索に踏み出そうとした私達は、その歩みを止め、恐る恐る、ゆっくりと振り返る。





宮橋が起き上がっていたのだ。徹底的に叩きのめしたはずである宮橋が、薄ら笑いを浮かべて立っているのだ、足無いけど。
既にあちこちボロボロの宮橋、しかし奴も流石に限界が近いのか、その浮遊はどことなくおぼつかない。

「まだ生きてるの・・・?どんだけタフなのよ!!」

宮橋は私の声には一切反応を寄こさず、懐から何かを取り出してしばらく見つめた。
そしてそのまま無言でその何かを仕舞う。今の奴は、さながらホラーそのものである、全身ズタボロでフラフラ。そして無言。怖い。



「ふぅ・・・・・」


一息ついた宮橋。その間も、私は警戒を怠らない。


しかしその刹那!!

宮橋の両手には、いつの間にか一本の長槍が握られていた!!!
そして、宮橋はけたたましい笑い声をあげながらそれを一直線に私目掛け投擲する!!!

何を考えているのだ、私にはエンプティホールが・・・・



あれ?


無い、無い!!!使い方がわからない!!その上私の姿が元に戻っている!!!




宮橋が先ほど取り出したもの、あれも幻想から呼び寄せた代物なのか!?いや、しかし何かされたような感じはしなかったし、アレを取り出した地点では私の姿はまだ無の思念のものだった!!
じゃあアレは何なのだ!!!




まさか・・・時計・・・・・?




日付が変わった?





とにかく私は避ける事を考え、咄嗟に槍の直線状から外れるように横方向にステップを踏んだ。

だが私は、それが『幻想』である事を忘れていた。
その槍はたちまちに、理不尽に軌道を変えて、高速で私に飛来する。一突きの槍が私の足を貫き、私は痛みと共に体制を崩す。
私を貫いた槍はそのまま樹木に深く突き刺さった。

「う、うわあああ・・・・」

全身を貫くような痛みもあった、しかし何よりも恐怖心が勝り、声を上げる事さえ適わない。

「むっむーー!!」

七が駆け寄るように私に近づくが、何やら嫌な予感がした。ふと宮橋の元に目を向けると、その手には先ほどまで樹木に刺さっていたハズの槍があった。

宮橋は無言でそれを投げつける。しかし宮橋にも疲労があるのか、その槍はあらぬ方向へと飛んでいく。

「むっむむ・・・!」
「ダメ・・・七・・・早く逃げ――」

そう言いかけた時である、あらぬ方向へ飛んでいったハズのその槍は、的確に七の腕を貫き、落とした。

「七ッ!!!」
「むっ・・・・むっ・・・・」

「今までの例に倣って教えてやるよ」

宮橋がようやく口を開くが、その口調は今までの宮橋とはまるで別物だった。もっとドス黒いものを内包してそうな、そんな威圧感を放ちながら、宮橋は言葉を続ける。

「『絶対必中槍グングニール』、投げたら命中、そして持ち主の元へと戻る神話の槍、生憎貴様らに逃げ場は無い」

こいつ、完全に私達を殺す気だ、今まで出さなかったのはあくまでも楽しむため、殺す事が目的となった今、その幻想に躊躇などいらなくなったのだ。
仲が良いように見えた七さえ容赦なく片腕を落としてしまった・・・。
ラーニングで同じものを投げようにもダメなのだ、足をやられて、痛みが私の行動の全てを拒むのだ。

宮橋が再度私に向けて槍を投げつける。神話上の代物だろうと、私に対して二度、同じ手段は通用しない。その槍は私に触れた後に弾かれ、地面へと突き刺さる。
当然、刺さったと思った頃には宮橋の手に戻っている。

「無力化・・・三つ目の能力を持っていたか、つくづく分からない奴だな貴様は」

返す言葉も出なかった。今の私は、ただ死を待つだけの存在と成り果てた。

「まあいいさ、先に七をやればいいだけだ・・・!!」

4度目の投擲、それは確実に七目掛けて突っ込んでいく。身を呈して私が庇えばどうにかなりそうだが、移動さえままならない。
もう無理だ・・・・・











「ったくよォ・・・やかましくて寝れねえから何だと思って来てみればよォ・・・随分おもしれえことやってんじゃねえかァ・・・?」

思わず目を瞑ってしまった私だが、違う声が聞こえた事で恐る恐る目を開ける。
金髪のオッサンが、対象を貫かんと奮闘している槍を片手の一握りで押さえ込み、私達の目の前に立ち尽くしていた。


「が、ガルテス・・・!!」
「むむむっ!!」
「ちぃぃッ!!!」

押さえ込むように握られていたグングニールは彼の手の中で瞬く間に姿を変え、一枚の紙切れへと変貌を遂げた。

「よォ小娘、テメエみてぇなチビがこんな時間に出歩くモンじゃあねえぜェ?」
「何をしにきたジジイ」
「何をだァ?こんなに大暴れされちゃあよォ・・・、血が騒いで黙ってらんねえんだよなァ!!!」
「ならば貴様もろとも幻想に変えて―――」

「っだオラァ!!!!!!!!!!」

新たなる来訪者、上空から飛来したそれは、拳一つで宮橋を捻じ伏せ、大きなクレーターを作りながら地面に押さえつけてしまった。

そのクレーターはどこかで見た事がある。その来訪者とは、破壊衝動の思念体であった。
此処に来て敵の増援・・・今の私と七はハッキリ言ってお荷物、私達を背負った上でガルテスが対峙出来るとは思えない。

「戦闘の最中だったか、本当ならば俺も加わる所だが・・・起きろクソカエル!!!」
「何をさらすんだいでこっぱち!!!」

宮橋の調子がいつもの感じに戻っている、なんたる荒療治。

「デコ言うな壊すぞテメェ。アズゥが貴様を回収しろと直々にだ、さっさと来い!!!!」
「かーッ!!アズゥも何を考えてるんだか!!こんなクソデコを寄こすなんてどうかしてるよ!!!」
「おいテメェらァ!!どこ行きやがンだァ!!!?」
「生憎だけど!上からのご命令なんでね!!此処は一旦引かせてもらうよ!!!命拾いした事をせいぜいかみ締める事だね!!!!」

そう言いながら、宮橋は破壊衝動の思念に引っ張られるように退散していった。
本当に命拾いして、内心、ホッとしているが、足の痛みが抜けないのでそれを表にだす事はままならなかった。

だが、ガルテスを探す必要が無くなったのは幸いだ。私達はどうにか痛みに耐えながらも、ガルテスに事の慣わしを説明し、形容し難き電話のようなものを渡す。
そのまま向かってもらえばよかったが、生憎私達には帰る手段が無かったのだ。それを悩んでいると、ガルテスは私達に手を置く。
紙にその存在を変える事で、運んでもらえるという。かくして、私達の任務は完了した。
はたしてガルテス達がどうなったのかを知るのは、私達が紙の状態から戻った時である。



ルコ=モノトーン篇 END