Ps-3 Cp-1 ルコ=モノトーンの遭遇

Ps-3 Cp-1 ルコ=モノトーンの遭遇

どうも、ルコ=モノトーンです。開始早々、変なのに絡まれています。
今の世の中、良くある事です、平和な世界などというのはどこも表向きなだけなのです。

「それで、私はどうすれば良いのでしょう?」

私はその変なのに問いかける。

「何、簡単な話だよお譲ちゃん、お前の持ってる星をあるだけいただけたら痛い目は見ないで済む」

「ああ、違反者さんですか、じゃあ私と一緒ですね」

「は?」

「私、<丸コピが使える>んですよ、といっても、コピーするのはメモじゃないので、星は持ってないんですけどね」

「はっはっは、譲ちゃん、何いってんのかいまいちよくわからねえなぁ、いいからさっさと星出せって言ってんだろ!」

変なのは密かに隠し持っていた短刀で私に斬りかかり、私の右袖に若干深めの切り傷を残した。この手の違反者は短気なヤツしかいない。
幸い、私の上半身は思念体特有の<霊体>なので、痛みもダメージも大した事は無い。一応言っておくとノーダメではない。

「な!いきなり何をするんですか!」

我ながら驚くフリはうまくない。何度か経験しているせいで、不意打ちにはすっかり慣れてしまった。

「お前がいけないんだぜぇ?さっさと言うとおりにしないから・・・」

「でも・・・無いもの出せって言ったってどうしようも・・・」

「いいから星をよこせっていってんだろおおおがよおおおお!!?」

変なのは瞬時に私との距離を詰め、短刀が私の首筋を掠める。
その瞬間、パキーンだとかそんな感じの金属質の音が響き、男の短刀は根元から折れてしまった。
男の短刀、なんだか卑猥である。

「あれ―――」

変なのが動揺する素振りを見せるその時既に、私の両腕から伸び交差する二本の長剣が、奴の喉元を捕らえていた。
先ほどエース・ハイスピードより盗んだ【スラッシュリハイド】なる技である。

「な、何がおこって・・・?」

「良いこと教えてあげます」

「へ?」

「通報されて違反と判断されなかった作品は、例えどんなに通報者が納得がいかなくてもそれ以降違反にはなりません」

「・・・・・」

「私に同じ手段は通用しませんよ?そのままの意味でね?」

変なのは顔を真っ青にしてその場にへたり込み、まああまりにも情けない表情を晒しながら一目散に逃げていった。ざまあ!





突然だが、よく私の能力は最強だと耳にする。主に【∞−インフィニティ−】の事だろう。しかしそれは大きな間違い。
そもそも【∞−インフィニティ−】というのは、簡単に言えば一度受けた技に対して無敵になる能力である。まあたしかに強いっちゃ強いかもしれない。
だが、さっきは食らい所の問題でどうとでもなったが、一度食らうのは激烈に痛くてやってられない。食らったあとでも、食らわないと知りつつその恐怖が再起する。
戦闘において、確かにほぼ確実に優位に立てる能力だ、しかし自ら痛い思いをしてまで無敵になどなりたいと思うだろうか?


この能力を持つ私自身はそうは思わない。何故なら私はマゾナントカではないからだ。痛いものは痛い、自ら痛みを望んだりしない、痛みで快楽を覚えるのはどうかしている。
しかしそんな最強の(とか言われている)能力も創生の世界ではいくらでも雑魚になりえる。

私の能力を封殺するためだけに変な設定や存在を与えられた創生者達に、私は敗北感は微塵も感じず、逆に激烈な哀れみを覚える。

だってそうだろう、存在する理由が思念体を倒す、はたまた倒す対象が私に限られているパターンだってあるのだ。
それは創生者に限る話などではない、私を倒すために、創生の神々は幾らでも御託を並べる。奴等はあまりにもくだらない私を殺すだけの殺戮マシーンを量産している。

最強はひとつだ、最強は二つもいらない、最強の盾には最強の矛。故に皆頂にどうしても立ちたがる。俺より強い奴に会いに行ってぶっ殺さないと気が済まない。
私を最強と錯覚した神は、不要な人形を産み落とす。効かないとか、消失とか、無効とか相殺とか必殺とか削除とかのオンパレード。効かないとか無効は私もそうなのだが。
別に考えるのは良いと思う、だからといって長さも大きさも違うような人の物差しで他を計らないでほしい。

私が何をここまで自身に関する思いに耽っているのか。

それは





ヒマだからである。

エース・ハイスピード、彼の放つ斬撃を目視した私は【スラッシュリハイド】のラーニングに成功し、我が物とした。


そして、その実験台だとでも言うかのように現れた変なのを見事撃退。


だ か ら ど う し た の だ 。



イハンを探せ?


イハンに応戦できる?





イ ハ ン い な い じ ゃ な い か 。



あいつはうごメモ最速(といっても過言ではないの)だ、同じ思念体なのに人並みの足しか持たない私にはイハン=メモラーに追いつけない。
奴がどうしても見つからなかったり、逃げられまくったりした時はこうしてゴロゴロして気分を晴らす。


ありのままにこれまで起こった事を話せばイハンを探すかゴロゴロすると一日が終わっている。


それが毎日続いて一年が終わっている。

何を言ってるのかわからねーと思うがいやあまりにわかりやすすぎる。

皆誰しも、各々のコミュニティがあり、友達がいる。
同じ違反の思念体であるあのイハン=メモラーでさえ、友達がいるのだ。むしろベストパートナーがいるのだ。カレーとナンなのだ。
私には友達がいない、僕は友達が少ない、などというどころか私は友達が全くいない!!具無しカレー独り立ち!!ライスも無いぞ!!

私が持つコミュニティは大体私を殺してくるような奴らばっかりだ!!
思念体は死ぬ事は無い、致死を受けると消滅し、その性質が世界に充満してさえいれば多少記憶が飛んでまた復活する。
だから冒頭のような思考に走ってしまう。無限ループって怖くね?

せめてイハンに匹敵するスピードを持つ者を【スティール】する事さえできれば、イハンに追いつく事だって造作もない。
【スティール】というのは、触れた相手の能力をコピーする事ができる能力だ。ある程度のその人物の外見的特徴を入手する事もできるので、場合によっては空が飛べるようになるなどのオマケも付属される。
それ故なのだ、時既に今更だが、スラッシュリハイドをラーニングするくらいだったらついでにエース自身を【スティール】すべきだったと後悔した。
なんせ彼は速いから、スティールすれば彼の速さも手に入る。


ひとまず、物思いに耽るのもそろそろ飽きて来たので再度イハン捜索の方へと行動をシフトする事にした。
私もイハンやら他の思念体みたく趣味のひとつやふたつくらい持った方が良いのだろうか。つくづくそう思うのだが何をすればいいのやらわからないから困ったものだ。







うごメモ町。
またこの地にやって来た、どれほどにイハンの速度が速くてもイハンは大規模な事件でも起こさない限り遠方まで飛んでゆく事はない(と思う)。
つまりこの近辺をテキトーに捜索するだけでわりとイハンと遭遇できるのだ、実際今までもそうだった。そして成す術がなかった。
ただし図書館に直接赴いてはならない、<よもや異質とも言えるレベルにでかくて頭のよろしくない魔道書>が存在するからである。
あのよもや異質とも言えるレベルにでかくて頭のよろしくない魔道書の持つ固有技、<リリードレイン>。
直訳して百合吸収の意の通り、女の子に対してキスをする事で、魔力だのなんだの、とにかく<その者のありとあらゆるエネルギー系の物質をカラッカラになるまで吸収される。>

もちろん抵抗はした。ああしたとも。

もちろんよもや異質とも言えるレベルにでかくて頭のよろしくない魔道書の見た目通りの腕っ節の強さに成す術が無かった。

もちろんモロに喰らった。

もちろん吸い尽くされて体はまともに動かなかった。

もちろんラーニングだって発動した。

もちろん使うわけがなかった。いや意地でも使いたくなかった。


そんなワケで図書館には赴けないのだ、赴いたら死ぬ(ほどエラい目にあう)。
まあ最近わかったのだが、私の気配を察知するとイハンは図書館には絶対に居座らない。
リリードレインをぶちかまされた後によもや異質とも言えるレベルにでかくて頭のよろしくない魔道書が教えてくれたのだ。
「イハンならなにかをさとったようにとびだしていった」と。
何故リリドレぶちかました後にそれを提示したのか理解に苦しむが、これで図書館に行く必要はなくなった。二度と行くものか。
私は早速イハンを捜索する準備にとりかかる、準備といっても実に簡単なものだ、ちょっとばかし性質を感じ取るだけ。
思念体には全員、性質を感じ取る力が備わっており、感じ取った際にそれが何の性質なのかもすぐ把握できる。
しかし精度は悪い、感じ取った所で、その思念体がどこにいるのかもわからない程。思念体捜索に使う際は、感じ取った性質の濃くなる所を探す他ない。
さらに今回の場合は相手が逃げてしまう。
同じ思念体なのだから、イハンもこの力が使えるのは当たり前、イハンが私の存在を察する前に見つけ出さなくてはならない。

「・・・・・んや?」

違反の性質は確かに感知した、イハンはまだそんなに遠くには行ってない。しかし、気になる点がひとつ。
そこら中から別の性質が感じ取れたのだ、この性質は、<無の性質>だろう。
ヒッドイ精度でも無数に感じ取れるくらいに鏤められた性質。まさに<充満している>と言った方が良いのか。
まだイハンが近くにいる。しかしこの異常とも言える性質の蔓延。

どちらをとるべきか迷った挙句に、私は<無>の性質を取った。



無の性質が色濃く出ている方向をほぼ手探りで辿って行く。
ここまで性質が立ち込めてるのに、町は穏やかな雰囲気で変化は見られない。

「性質が感じ取れるが故に怖い光景だなぁ・・・」

「むー」

「・・・・・あにゃ!?」

背後にさっきまでは存在しなかったモノがそこにはあった。
捜索に必死になりすぎて気がつかなかったが確かに無でも違反でもない別の性質がそこにはあった、一体いつからいたのかわからないが、思念体が私の後をつけていたのだ。
無数のドーナツを頬張りながら盛大にな!

「え、えーっと、いつからいたの?」

「むっむ」

「名前は?」

「むーむ」

「職業」

「むむむむ」

「性別」

「むんむ」

「好きな食べ物」

「むむっむむむむむ」

「<む>以外喋れますか?」

「むむ」

「フッ・・・」

わっからねえ。

ご覧のとおり、彼(彼女?)は「む」以外の言語を発する事ができないらしい、<欲>の思念であるのはわかるのだが、それ以外はさっぱりだった。
素性も知りようがない者の相手をこれ以上したって仕方がない、私は小さくため息をつき、再び捜索に戻る。

「性質が薄いなあ・・・これじゃ捜索が余計難航しちゃうよ・・・」

「もちもち」

「こっちは結構濃いかも、というか、違反の性質も消えてないし・・・今からイハンの捜索しても・・・いやいや、今は・・・」

「ぐっちゃぐっちゃ」

どうしてだ。

どうしてついてくるのだこの小動物。
しかもなんだ、さっきまで食べていた大量のドーナツが、今度はわらびもちにシフトしているではないか。そんなべっちょべちょするものをどこから出した。

「なんでついてくるんですかねぇ・・・」

「むむー」

やっぱり言ってる事は微塵もわからない。会話が止まれば、またこの小動物は食べる事に集中する。
なおさらついてくる意味もわからない。
しかしこうも私にかまってくると、私だって気になりだすものだ、それが性分だ。
私はイハンホイホイ(仮)として使うつもりだったホットケーキ(冷めてる)を彼(彼女)の眼前にぶら下げた。
するとどうだろう、この小動物的思念体はそのホットケーキに興味をしめしたのか、ぶらーぶらとゆれるホットケーキをまるで輝きの無い目で追っているではないか。
あいかわらずわらびもちを食べる手は一切止めないが、時折むっむっと声が漏れる。やばいどうしようかわいい。

「むっむっむ」

「食べたい?」

「むっむむ!」

相当渇望しているようだ、この小動物の着こなす布からよだれらしき物質がにじみ始めた。

「本当はイハンをおびき出すためのものですけど・・・食べても――」








腕ごと持ってかれたァァーーーーーーーーーーーーッ!!!
まだ言い切っていない!まだ食べてもいいとまでは言っていない!だがだめだ!この小動物はついに自らの抑制をぶち破り己の物欲を赴くがままに開放したのだ!盛大にな!
その結果がこれだ!ホットケーキにかぶりつくどころか、見事に私の右手までもがおいしくいただかれているのだ!私の腕は霊体だぞ!おいしくないぞ!きっとおいしくないぞ!
さらにそれだけで済む話ではなかった!何なのこの子顎ぱぅあ強い!さっきから盛大にジャイアントスイング決め込んでるのに外れる気配が無い!コレが欲に忠実になった者の底力だとでも言うのか!?そうなのか!?

「おまあああああああああ!?おまああああああああああああああああ!!?」

私は思わず興奮状態に陥る、突然自分の手もまるごとかまれたら誰だって焦るものだと思う。
小動物の口の中で、確かにホットケーキが瞬く間に蹂躙されていくのがわかる、わかるが故に余計に気色が悪い。
私の手の内に在ったその確固たるモノがどんどん消滅してゆく、そしてついにそのホットケーキであった存在が完全に消滅すると、小動物の口はさっきまでの強固な顎の力とはなんだったのかと思わせる程にするりと抜けた。
霊体故にべたべたするなどのなんというか精神的に嫌悪感を示すアレは無いが、さっきまで口の中に存在していたという事実が、私の気分を良くない方向性に導く。一言で言えば『なんかいやだ』。

「ふーっ・・・ふーっ・・・」

「むっ」

私の絶大な疲労とは裏腹に、小動物は、満足げだった。それはもう満足げだったのだ。
それを尻目に、落ち着きを取り戻した私は再び捜索を開始しようと試みる。
すると、歩もうとした私を止めるように、小動物は私の服の袖を引っ張るように掴む。
今度は何だ、と若干呆れ気味に反応を示すと、小動物は掴んでいた袖を離し、ふわふわと私の前に出て、前方を指差しながらゆっくりと前進していく。

「むっむむむー!」

相変わらず何を言っているのかはわからない、わからないのだが、なんとなく私に対して道案内のようなものをしている、そんな気がした。
果たしてその案内の先にあるものが私の求めるものなのかは定かではないが、私は私自身の予測が合っている事を信じ、その小動物の後をついていく事にした。
時折小動物は他の物に興味を持っていかれそうになり、進行速度はなかなかに遅い。それでも私は黙々とこの小動物についていく、すると、段々と人通りの無いエリアへと足を踏み入れて行っている事に気がつく。
裏通りか何かか、整備された様子も無く、光はあまり差し込まない。
果たしてこんな所に何があるのだと、一瞬疑問を抱いたが、性質を感じ取ってみると、確かに<無>の性質が少しずつではあるが強大になっていくような感じがした。
周囲は薄暗く、そして様々なものが散乱して非常に足場が悪い、足の無い思念体であるこの小動物は、足場の事など気に留める事無くただまっすぐに進んでいるのだが、足がある私は思念体であるのに空を飛ぶ事ができないのだ。
しかし、私はふと思いついた、

【スティール】である。
相手に触れる事で発動するこの能力は、既に先程この小動物に噛まれた事でその条件を突破している。
先程説明したが、【スティール】は能力だけでなく外見的な特徴も多少手に入れる(ほぼ服装が変わるだけだが)、それによって空を飛べたり、高速で動けたりといったオマケも手に入るのだ二度目。
この足場を歩くのはあまりに酷であるため、私は早速【スティール】を発動し、この小動物の能力と外見を手に入れようと試みた。
ティールの発動によって、私の外見は瞬く間に変化する。まるで魔法少女が変身するかのようにコミカルな調子で、頭にはシルクハットが装着され、マフラーにスーツネクタイと、なんだか小動物とはかけ離れた外見となってしまった。
足があるのもそのままだが、一応飛行能力は手に入ったので問題ない。
外見的特徴を得る、とは言ったものの、全部が全部習得元そのままといったワケでもない。それは案外人によって差異がある。
外見を変え終えた私は、先に行ってしまった小動物を追いかける、今度は薄暗いのに注意して壁にぶつかったりなどしないようにせねばならない・・・。
それにしてもこの姿はなんともお腹がすくような気がする。



小動物に連れられ、かなりの時間が経った。
薄暗く、何があるかもいまいち確認し辛い、私は小動物の姿を見失わないように慎重に後をついていった。
着実に前に進んでいる事はわかるのだが、果たして先に進んでいるのかさえもわからないような感覚、光の無い空間とは、ここまでも人を不安にさせるものなのか、私は人ではないのだが。
後ろを振り返っても、この通りの入り口から差し込んでいた光は見えない。もう相当な距離を進んだのだ、当然と言えば当然だ。
一方の小動物はというと、何もしゃべらず、ひたすら何かを目指すように突き進むだけで、一切こちらに反応を示さない。この暗さの中で、この小動物は前が見えているのだろうか。

「むっむむ!」

「ん?どうしたの?」

ぼんやりと見えるその視界の中で、小動物が突如口を開き、前方を指差した。マフラーで口は見えないのだが。
その言葉を聴いた境に、多少、周りの景色に色が灯っている事に気がつく、指差したその先を見ると、一筋の光が差し込んでおり、視界に写るものがかすかに明瞭となっていたのだ。
今までの暗闇から募った不安を、全て振り払うかのように、私はほぼ無意識でその光を目指した。後から小動物も続く。
そして、その通りを抜けた先にあったのは、小さな空間。使われなくなった住居や、廃棄物で囲われるように構成されたその空間は、同じうごメモ町とは思えない、なんとも不思議な空間を生み出していた。
そして、その空間の中央にそれはあった。強大な<無>の性質を生み出す<謎の柱状の物質>がそこに突き刺さっていたのだ。
柱には蒼白く輝くどこかしらの言語のものと思われる文字が彫りこまれている。

「これが・・・町中に充満していた性質の正体?」

「むむっむ」

「なんでこんなものがあるの?それに、貴方は何でこれを知っていたの?」

「むむー・・・」

「まあ、質問してもわかんないんだけどね」

私は柱に存在する文字に目を通す、丸と線で構成されたその文字の束、何が書かれてあるのかは・・・・

「あれ?」

このような文字は知らないし、今日初めて見たハズだ。しかし私はこの文字がなんとなーくよめるよーなそんな感じがしたのだ。

「んーと・・・わ・た・し・の・・・」

と、その時、私は私達以外の別の存在に気がついた。性質を感知できるという事は思念体で間違いない。
私は念の為に警戒したが、私達以外の別の<ソレ>は、特に身を隠す事もなく、普通に私達の前に現れる。

「ありゃりゃ、七(ズィーベン)、どうしてこんな所にいるのさ」

私達の前に姿を現したその思念体、頭に笠を被り、まるでカエルのような感じの顔つき、いうならば風来人といった感じのその思念体は、私の隣にいる小動物に声をかける。
どうやらこの小動物、名前を七(ズィーベン)と言うらしい。

「むっむむむっむ」

「いや、教えちゃダメだって言ったよね、七には特別に教えてあげたけどさ」

「む」

「お菓子くれたからなら仕方ないね、そうだね」

どうしてだ、どうして会話が出来ている、いや出来ているのか?カエルがテキトーな事言っているだけなのではないか。

「それで?キミはどうしてココに来たのかな」

「え、えーっと・・・異常なレベルの性質が感知できたから・・・かな?」

「・・・・・まあいいや、七なら教えちゃっても仕方ないし、それに漏れてる性質でそのうちバレかねない状況だったし」

その思念体はそのまま言葉を続ける。

「一応自己紹介とかしておくよ、僕の名前は<九十九街道宮橋>、この見た目から分かる通り、僕は思念体、性質は<夢>だよ、まあ君も思念体なら言わなくともわかるか、わかるよね」

「ええ・・・はい・・」

「それで、どうするのキミ」

「え?」

「性質漏れてたのは知ってるけどさ、それ感知して此処まで来て、どうするつもりだったの?」

「あ」

無の性質の異常感知がなんかヤバイなーと思って捜索した、様々な困難を乗り越え、小動物、もとい七の力も借りて私はついにその原因を突き止めたのだ。



だからどうしたというのだ。その先はまるで考えてなかった。やったーみつけたよー、の謎の勝利の余韻に浸りすぎていた。
どうするべきか、いや、せっかく原因を突き止める事ができたのだ、ここはやはり・・・

「性質を放散する原因を取り除きます!」

「人に影響とか無いのに?」

「私が気分的に嫌だからです!!」

「む!」

気がつけば七も隣で戦闘体制をとっている、何を考えているのかカエルが被っていた笠を口に詰め込みながら。
この子も気分で生きてるタチなのだろうか。

「はあ、まあそうなるよね、別に想定内だしいいや、対策くらいしてあるから」

そう言うと、カエルは懐から水晶体の物質を取り出し掲げる。何か仕掛けるつもりだろうと判断した私はそのカエルに向って距離を詰めるのだが・・・
奴の掲げた水晶体は眩い光を放ち、その光に怯んだ私は思わずその足を止めてしまう。その光は私と七、あとカエル自身を瞬く間に包み、私の視界は一瞬だけ真っ白な白無の世界に生まれ変わる。
そして、次に私がみた光景は、柱のあった小さい空間ではなく、どこかしらの平原の一角だった。すぐ傍には七もカエルもいる。

「あの柱を今勝手に弄ってもらうのはちょっと困るんでね、なんだっけこれ、えーっとああ、<転移結晶>だ、それの力で吹っ飛んでもらったよ、消耗品なのが残念だけどね」

「何故貴方も飛んだのですか?」

「いやだってこれ使って自分で飛んだ事無かったし、それにキミ此処で足止めとかしとかないとまたあの場所に来て柱にあんな事とかしちゃうでしょ?」

なんてテキトーな、それにできる事ならあの通りは二度と通りたくないのだが。暗いし怖いし。

「だから僕はキミの邪魔をします。ぶっちゃけヒマなだけなんだけどね、柱を移動し終わったらやる事なかったし」

ヒマ人しかいないのか。

「思念体探しをしているのに毎回違う性質が転がりこんでくるのは嫌です!気色悪いです!キモいです!柱は潰します!あそこ行きたくないけど!!」

「むむーーーーッ!!」

「七は何でそっち側なんだい」

「んむっ!」

「それならまあそうだね仕方ないね、でもやるからには容赦しないからね、6割くらい」

このカエル、七に対して仕方ないしか言ってないような気がする。本当に会話できているのか、ますます微妙だ。あと6割容赦しないとはどういう事だろうか。
「む」としか発音しない思念体と、現代人類よりも地味に先を行く日本語(日本語?)を行使する風来人じみた思念体。
マトモに言葉を話しているのは私だけだ、なのに日本語を喋ってくれないこの二人の方が会話が成り立っているっぽいってどういう事だ。
なんだろうこの気持ち、疎外感?

「ええいおのれゆるさんぞゆるさん」

私は自分の中で勝手に膨張した怒りの赴くままに、ド無機質な声を発しながらカエルに飛び掛る。
無論、その手には二振りの剣が具現されている。
私は自分自身の技をひとつも所持していない。某所でもしっかり目にしみる「技無し」だ。
物凄く汎用的なパンチだとかキックだとかは別にラーニングせずとも繰り出せるのだが、このカオス渦巻く血みどろ☆ワールドにおいて思念体以下どころか人並みに貧弱な私に汎用パンチでダメージを与えられる相手などほぼ存在しない。
だからこそ、私はこの3つの能力を駆使して戦う必要がある。

「スラッシュリハイド!」

交差する二振りの剣が、カエルの眼前で軌跡を描く。全体的になんだかもったりしているものだから、さほど戦闘力は高くないと思っていたのだが、このカエル、スラッシュリハイドをギリギリかわせるくらいには素早い。
空を切った剣の具現を解除し、私は体制を持ち直す。

「うわぁあぶね、いきなり斬りかかってくるってなかなかヒドくないっすか」

しっかり臨戦態勢だったくせに。

「既にやるきならこっちも仕掛けるよー」

だからお前も臨戦態勢だったろうが。

「・・・・・」

その手には武器の類は持ってないから、何か特殊技能を使うタイプだろう事は推測できる。
問題は奴の性格だ、元々、能力に依存した戦闘スタイルを取る奴は、パッと見ただけではその手の内がわからないしギリギリまで明かそうともしない。当然といえば当然だ。
故にあのもったりとしてひょうひょうとしている類の輩は、考えが読めない分、余計何を仕掛けてくるのかわからないのだ。
イハンのような力任せな能力や技ならばまだいい方だが、中には尋常じゃないまでに複雑かつ読みにくい能力を持つ者もいる、そう、あまりに複雑すぎて創生の神さえ全く扱いきれていない程に複雑なのが。複雑すぎていちいち説明とか必要なのが。
先ほど、『転移結晶』なる見た事もないアイテムを使用した、アレもヤツの能力の片鱗なのだろうか?

と、ふと奴の手元を見る。
するとどうだ、たった今まで何も握られていなかった腕に、一振りの剣がある。まさに在る。
出した素振りがまるで無かったが・・・、なんかの手品だろうか

「ん?驚いてる?驚いてますよね?しっかたないなー!教えてあげますあげますともさ!僕の能力は《幻想を招来する能力》!この世に存在しないものを何らかの場所から何らかの手段で個此処に持ってくる能力!」

「・・・・・」

「今招来したのは[宝剣カリバーン]、独自の意思を持つ剣で使用者を選ぶってこの前どっかで調べた!」

「随分とアバウトというか・・・なんかアンタ自身全然わかってないでしょ」

「うん、だって幻想だもん、存在しないものなんて想像した虚空しか確固たるモノが無いじゃない、大体は人が考えたモノでしかないんだから。わからないから幻想なの、調べたトコロで架空なの、『諸説あります』でカタがついちゃうの、おわかり?」

何を言っているのか私には半分さえ理解する事ができない、おそらく私の頭力のせいではなくこのカエルの言葉がおかしいのだ。
ただなんとなくうっぜえ事は理解した、OK、それが理解できれば充分だ。
あと、まあ見事に能力バラしおるコイツ、私のさっきの無駄な分析が、本当に無駄になったじゃないか。
実力はそこそこあるようだが、コイツは見た目通りのバカだ。確証した。

「でも、ちょっと待って下さい」

「なにかようかな?」

「カリバーンって、使用者選ぶんですよね」

「はいそうです」

「大丈夫なんですか貴方」

「それほどでもない」

そう奴が言葉を放った瞬間に、カリバーンから青白い雷光が走り、カエルの腕を多少焦がしながら後方へと吹き飛んで地面に深く突き刺さった。
まあ大体予想はしていたが、彼は剣に選ばれなかったのだ。

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

剣が吹き飛んでからの、謎の間と謎の空気、空気を読むように冷たいそよ風が吹きぬけ、落ち葉を転がす。

「ごめーんちゃい☆」

「そうですかありがとうでんせつのhぽうけんすごいですね」

私は表情を変える事無く、そう呟いて奴との距離を詰める。そして咄嗟に放った[スラッシュリハイド]の二連撃が、奴の体を深く捉えた。
斬撃を受けたカエルが棒読みに近い断末魔をあげながら勢いよく後方へ吹き飛び、地面に刺さったカリバーンのグリップって言うのか要は持つところに頭を打ちつけ、再度走る雷光の餌食となった。
何のコントだよこれ。

「ふっふふふ、貴様なかなかにやるようだな・・・!」

あんたもなかなかに重症だと思う。
X字に切り裂かれ、全身コゲコゲで体の至る所から煙が上がっている。
言っておくが、勝負始まってからまだ然程経っていないし、私はまだ一撃しか入れていない、大体のダメージはカリバーンの拒絶反応だ。
一方七はバナナを食べている。

「申し訳ないですけど、私これ以上茶番が続くなら帰りますよ?」

「ああ待ってお願いこれからだからおもしろくなるの!!そんなあっさり終わったらやかんが文字数稼げないでしょうがよ!!」

今こいつ言ってはいけない事言った。

「といっても、あなた既にボロボロじゃないですか、自爆で。自爆で。」

「二回言わないで下さい」

「・・・・・、私あまり戦うのは好きじゃないので、そっちが引いてくれるなら何もしませんよ?ホントデスヨ?」

「それじゃつまらないじゃんか、お楽しみは・・・・・これからだsrえ!!」

奴がここぞという所で盛大に噛みながら、何かを投げつけて来た。
それは大きく上空で弧を描き、私目掛けて、確実に速度をつけながら落下してくる。
それは結晶体のような、しかし先ほどヤツが使った転移結晶とは違う、神秘的でどこと無く怪しい・・・

「む!!」

「え!?」

七が突如叫び出し、落下中の結晶体に意識を囚われていた私は驚いて後退しながらたじろいだ。
おかげで直撃を免れたがその瞬間、地上にぶつかった結晶体が強烈な衝撃を起こしながら姿を変える。

「えぇえ?」

着弾点に、随分と歪な形の巨大な緑色の結晶が無数に生えているのである。いや、生えているだけではない、よく見ればその結晶の粒がそこらに散乱している。
あと少し後退が浅かったらビリーヴ=アダマスのように、いやそれ以上にタチの悪いものになっていたかもしれない。

「どうよ僕の《幻想爆弾》!!扱いに困ったモノをテキトーに放り投げた時に思いついた技なんだけどね――」

「思いついた時の話はいいよ・・・何を投げたの・・・コレは・・・」

奴なら聞けば話してくれるだろう。

「ああ、コレかい、今投げたのは『賢者の石』ってヤツだっけか、錬金術において万能の物質とされ、錬金術に用いれば物体を如何なる性質にさえ変質させられるモノ、だったハズ。簡単な話、生ゴミを純金にできちゃうの」

「・・・・・」

「そこのキレーなでっかい宝石も、別に生えてきたワケじゃない、石が着地した際の衝撃で飛び散った土が、繋がった状態で変質したものさ」

その言葉を聞いて血の気が引き戦慄した、吐き気のようなものも一瞬こみ上げたかもしれない、七がいなければ、直撃は逃れる事ができてもどこかしらが巻き込まれていただろう。
肉体を構成する複雑な元素群を、いとも簡単に血の全く通わないひとつの元素の塊に変えてしまうのだ。わからないから幻想、人の思い描いた形が幻想、その幻想が、奴の持つ能力があまりに恐ろしいものだということを理解した。

怖い。

恐い。

怖くてたまらない。

何をしているんだろう私は、ただ相手に一撃もらっただけじゃないか、それも外れているじゃないか。
当たって死んだとしても、思念体はまた蘇る事ができるのだ、何も恐れる事ないじゃないか。

なのに、

なのに!!

脚がすくんで動けない、スラッシュリハイドを具現した腕が持ち上がらない。奴の幻想爆弾は使う気にはなれない。
エース・ハイスピードの時もそうだった、彼は本気で私を殺しに来た、戦っている記憶が途中から無いということは、私は彼に殺されたのだろう。
だが死んでもまた蘇る事ができても、蘇った際に死に際の記憶が無かったとしても、やっぱり今死に直面するのは恐くてたまらないのだ。
カエルがただ呆然と足無いけど突っ立っている、たったの一撃で恐怖にすくんで動けなくなった私を嘲笑しているのか、視界がぼやけて何も見えない。
おそらく、私は今、とてもだらしない顔で泣いているに違いない。エースと戦った時も、こうだったのだろうか。
慣れたなどというのは錯覚だ、死を忘れてしまっただけの錯覚でしかないのだ。命を賭ける事というのは、此処まで恐ろしいものだったのだ。

逃げなければ。

勝算もあるかもしれない、だが、こんな状態だ、冷静な判断などできない。

死に恐怖して戦いなどできるワケが無い、一人で勝てるワケが無い。

一人で・・・・・・





一人?


ハッと気がつくと、左手に謎の違和感を覚え、目をやる。
七だ、七が私のスラッシュリハイドを食べているのだ、何してるんだこいつ。

ある程度食べ終えると、やはり何を言っているのかはわからないが、七は何か言いながら私の前に立つ、足無いけど。

「ふぅーん」

「な、なんて言ってるの・・・」

「君は一人じゃないよー、だとかその辺、良い友情活劇だねー、待ってた甲斐があったよ」

「むむっ」

「バカにはしてないよほんとだよほんとです」

七は私の方をみて、親指を立てて私にに拳を突き出した。そして再度カエルの方へと向き直ると、七の両手が変化を始める。

「!?」

あの感じはなんとなくだがわかる、あれは私がスラッシュリハイドを具現する時と同じ。
やがて七の両腕は瞬く間に変化して行き、そしてそれは二振りの










バナナになった。

「!!?」

凄く勇ましい感じに(真後ろにいるので表情は見えない)カエルに切りかかって行く七。
交差したバナナの皮が綺麗に剥かれ、凄く黄色黄色している黄色の軌跡がカエルを捉える。
なんというか皮を剥いた状態でそれとなく放置した時みたいなあのすっごくいやな感じの半生具合でカエルにX字状の傷を負わせた。
たぶん傷を負ったのは精神面だと思う。

「むっ!」

そしてこのドヤ顔。
だが、この一撃を食らったカエルも黙ってはいないはずだ(臭いから)

「・・・・・・おのれーゆるさんぞきさまらー」

今の一撃を負ったカエルが激昂し・・・げ、激昂?

「もうまったなしだほんきでいくからかくごしろー」

そう言ってヤツが取り出したのは、『賢者の石』。
私は思わずまたあの恐怖が再起しそうになる、が七が私の(食べかけの)スラッシュリハイドが具現された手を握り、あろう事か思いっきりかぶりついた。それとなく痛いです。
だが私はそのやり取りのおかげで落ち着く事ができた。私はもしかすると安心する場所が欲しかったのかもしれない。いや、そんな綺麗な話は無いか。

そういえば、七が先ほど放ったバナナは、見事なまでにバナナだったが、一応形としてはスラッシュリハイドだった。
アレが私のこの具現した剣を食べて会得したものだったとするのならば、食べさせまくればどうなるのだろうか?

一種の賭けだったが、私は勝ちへの活路を見出した。

「七!行くよ!!」

「むーっ!!」

そう言うと、私は七に向けて思いっきり剣を振り回した。
七に向かって伸びる鋭い剣先が空を切る。
打ち合わせなどしていない、もし七がこの攻撃をまともに食らえば、とてつもない大惨事だ。
だが私は知っている、七の『食べる』事への反応速度を、此処に至るまでに幾度と見てきたのだ。
接触するその一瞬で、七は口を大きく開き、剣に向かって思いっきりかじりついた。
勢い良く噛み砕かれた剣はあっという間にバラバラになる、が私は止め処無く、もう一度剣を具現し、2撃目を七に向けて放った。
2撃目を『喰』らい、3撃目を『喰』らい、4、5、6、と続けて行くがあのカエルがただ黙っているワケが無かった。

「そォォーーーーーーーーれぃ!!!!」

奴は七と私の間に向けて石を投げて来たのだ。
私と七は急いで後退し、石から距離を置いた所で石は『錬金』し、今度は黒光りする物体へと姿を変える。黒曜石だろうか。
さらにそこから追い討ちをかけるように石を投げてくるが、私たちはそれぞれ回避する。
当たってしまった時の恐怖はもちろんあったが、さっきのように恐怖に駆られるようなことはなかった。
だがしかし、面倒な事に七との距離が離れてしまった、これでは【技を食べさせる事】ができない。

「七!!今そっちに行く!!」

「むむむ!!!」

「そうはさせないもんね!!」

私と七は互いに距離をつめるように動く。
それを邪魔するかのように奴はデタラメに石を投げるが、その着弾点を縫うように回避して私たちは距離をつめる。
そして――

「むげっぷ」

「満足したかい、七」

「む」

「それは良かったよ」

七が、満足のいくまで技を食べた。言っている事はわからないが、七は腹を摩り、ぽんぽんと叩いている。準備完了だ。

「突撃だー!!標的はあの変なカエルーーーーー!!」

「むーーーーーーーーーーー!!」

私達はそう言うと、カエルに向けてとにかく突撃した。

「う、うわぁあああああああこっち来たああああああああ!!」

今度のカエルは棒読みではなく、ガチで叫んだように思える、が表情は変わっていない。わからんヤツだ。
カエルの抵抗はまるで機能せず、私達はカエルに急接近し、そして二人で、そう、七だ出したのはバナナではない。
私と同じ二振りの剣、スラッシュリハイドを構えた。

「だが残念!!」

しかし奴はしぶとかった、奴が手を合わせると、奴の周囲の空間が歪み、そして奴は叫んだ。

百鬼夜行物語!!!』

奴が叫ぶと同時に、歪んだ空間から無数の妖怪が突撃して来た、この数を対処するのは、どう考えても不可能だ。
せっかく勝機を見出せるかと思ったのに、勝てる寸前まで差し掛かったのに・・・





だが、私は、<既に奴の技を見ている>のだ!!!
私はスラッシュリハイドを一時的に解除し、手を合わせて叫ぶ!!!!

百鬼夜行物語!!!!!』

奴と同じように、歪んだ空間から無数の妖怪が出現し!互いの妖怪達と衝突して相殺した!!
随分と短い百鬼夜行を終えて、妖怪の中に紛れ込んでいた中から姿を現したカエルに向けて、私達は剣を振り下ろす―――

「あ、あかんわコレ」


『スラッシュリハイドXX!!!!!』
『むむむむーむむ!!!!!!!!!』


決まった、確実に決まった。





決まってみると案外あっけなかったりする、恐怖に涙していた事も、今ならものすごく過去の事のように思える。
思いっきり切り裂いちゃったカエルは、一切動かない。死んではいないようで、本当にしぶとい。

「七、ありがとうね」

「む」

私たちは、もう一度柱を探るべく、あの暗がりの裏道を突き進む事になった。
が、しかし、その柱はさっきあったはずの場所には無く、私達は見事に無駄足かまされたワケだ。七には足が無い。
どうやらあのカエルが私達を転移させる際、柱だけ違う場所に転送させていたらしい。