動手帳思念大戦 Fs-2 cp-1 違反と平和の二律

だが惨劇を知る者は少ない、知らない方が幸せかもしれない。

Fs-2 cp-1 違反と平和の二律


図書館からメイド軍団を送り出し、ヤグレムは別行動。さらにあの後、図書館から信仰心の思念体、ビリーヴが抜け出したと留守番組が追いかけて報告に来たため、留守番組である我慢の思念と嘘の思念にはアズゥに関連する者への警戒を促して信仰心を追跡するよう要請した。そして残った男衆、ガルテス、ヴィグレイマ、平和の思念、俺は(流れ的に)同行動する事となった。朝っぱらから色々ありすぎて平和の思念を罵倒する気力すらない。
「んで、どうするよ」
「どうする、といわれましても。柱の発見と破壊でしょう?」
「いや、それはわかってんだ、言葉の通りに解釈するんじゃねえ」
「じゃあどうすればいいのです?」
「・・・・・、言葉の通りでございます」
反論する気さえ起こらない。
「ガルテスさん、でしたよね?」
「ん?あと『さん』はやめてくれねえかァ?」
「あ、すみません。ですが呼び捨てだと性に合わないもので」
「まあ勝手にしろ、んで、なんだァ?」
「ガルテスさんの調査領域にいた人達はどんな傾向でしたか?」
「あァ・・・?どんなんだっけかなァ・・・忘れちまったぜェ」
「おい、ガルテスよ、お主あんな印象的なことを忘れたのか」
「起こった事あんまいちいち覚えてられっかよォ・・・・」
「あんな?」
「うむ、外の人間共が<全員大の字でうつ伏せ>じゃった」
「なん・・・だと・・・」
「気力が減退する傾向の思念体でしょうかね・・・ちょっと存じ上げないです」
「まあ行ってみたら早い話だろ、性質さえ感じ取れたら何か分かるからな」
「便利いいなァ、思念体はよォ」
「今はいいだろうが、普段コレが出来てもあまり重宝しねえぞ?」
ゆっくりと本調子を取り戻しながら、俺達は昨日、ガルテスが探索した区域へと足を運ぶ、2体程足無いけど。思念体だけならばびゅんびゅん飛んでいく事も可能なのだが、本当に足のある奴が二人いるのでそうもいかなかった、特にヴィグレイマは高速移動手段を持っていない上老体である、なまらアクティブではあるのだが。それもあって特に距離が離れているワケでもないために目的地まではゆっくりと向かう事となった。まあなんというか、遅いのも悪い話ではない。うごメモ町の様子を渇望しながら練り歩けるからだ、足無いけど。うごメモ町の連中は俺のような悪役がいても嫌な顔は一つもしない、<嫌な目で見てくるのだ>。それでも追い出したりなどはしない程にお人よし共の集まりである、近所間は古き良き時代でも思い出すかのように仲が良く、この町だけで様々な人間ドラマがあったものだ。俺は関与してないので大体知らないのだが。



<1><1> ニャン


うごメモ町を抜け、しばらく歩いた所でヴィグレイマは石の上へ腰掛けた、俺ら足無いけど。
「どうしたヴィグレイマ」
「しんどい」
「おいこら老体てめえ」
「まあ、仕方ないじゃないですか、あまり老体に無理をさせるものではありませんから」
「しゃあねぇなァ、休憩すっかァ。どうせもうそろそろだからよォ」
いや、もうそろそろならついてから休憩するのもだろう、というツッコミを押し殺し、俺達は仕方なく休憩を取ることにした。と、いわれても俺は全く疲れていない、一応性質の影響下に無くなった所とか、元々無い所でも<違反>は充満しており、最近触れられていないので<貴様等>は忘れがちだと思うが空は真っ赤なままである。それ故に俺は全面的な強化が施されている状態にあるのだ。あとうごメモ町の奴等にはセラフィナやらバンレンジャンやらにも協力を要請して説明が済んでいるため、住民は普段通りの生活を送っている、ただし洗濯物が中々乾かないと苦情が来たので「炙れ」とだけ言っておいた事もあるのをついでに補足しておく。だが一応自分から出た違反なのにも関わらず、外からの違反の<再>吸収で強化恩恵を受けてるっていうのはどういうことなのだろう。しかしその節はもう考えない事にした、頭が痛くなるからである。
休憩から少し時間が経ったがまだ誰も動こうなどとはしない。お前等そんなに疲れていたのか、ずいぶん貧弱な奴等である。すると一人の影がこちらに向かって来た、最初はぼんやりしていて良くわからなかったが、少し近づいた所でようやく思念体だということが分かった。その思念体は俺達の休憩する横まで来た所でこちらを見て口を開いた。
「あ、すみません、ちょっといいッスか?」
シンボルエンカウントしてしまった。その思念体はそのまま言葉を続ける。
「私ちっとばかしヤボ用があって<努力の思念体>を探してるんスけど、<おいちゃんら>見たまんま思念体みたいなんでなんか知らないッスか?」
非常に独特な雰囲気をぶちまける思念体がエンカウントしてしまった、信仰心といい勝負である、いや違うな、あれはどっちかというと歪んでる。あと二人称が<おいちゃん>ってなんだ、マジで<おいちゃん>ってなんだ。こうなったら俺もこいつの事を<おいちゃん>と呼ばざるを得ない、どうなったらなのかは知らんが。
「努力の思念体自体聞いたことが無いぞ、第一お前も思念体のようだが」
「ああ、申し訳ない、紹介が遅れたッス、私、<期待の思念体・ルーツ=イクスペクト>と申しまス」
この異変が始まって以来、俺は毎日のように思念体会う、それも今まで見たことの無いような思念体ばかりであり、今まで聞いた事の無いような思念体ばかりである。つまり一切知らないのである。こんなにいたのか、思念体。
奴は先端のトンガった帽子を被り、奇妙なデザインのポンチョを羽織っていてギター・・・だったモノを背負っている。両手に軍手をしているが、左手の軍手だけ指の部分が切り取られていた。あと顔立ちからして女だろう。
「むう、努力さん、ドコ行っちゃったんスかねえ・・・」
「ところで、お前それなんだ?」
「それって?」
「背中のそれだ」
「ああ、コレッスか、コレは見てのとーり、ギター・・・・・だったんスけど、叩き壊しちゃってねえ・・・努力さんに直してもらおうかと思ったんス」
「ギターって事はアレかァ?歌でも歌うのかァ?」
「私の場合は『歌』じゃなくて『詩』ッス、自分で作って、自分で語らってるんスよ、題材探してその辺ぶらぶら。まあ今ドコ行ってもそんな暢気な空気じゃなかったんスけどね」
「ほう、詩か、中々乙なもんじゃのう」
「一つどうッスか?ギター無いんでただ語るダケなんスけど」
「そうですね、是非お願いします」
「おい、貴様等、俺らh」
「じゃあ行くッス・・・」
そして<おいちゃん>は今までとは表情が変わり、キッとした顔になってゆっくり口を開いた。




「我らが父は我らの種を蒔き、我らを支配の礎にしようとした。」




「我らが母は種だった我らに・・・・あぐっ!!?」

「「「「!!?」」」」
突如おいちゃんは倒れて悶え苦しみ、場は一気に騒然とした、だが平和の思念が急いで駆けつけて治癒を行ったために事無きを得た。
「大丈夫ですか!?」
「ああ、すみません、面目ないッス・・・いや、まあ好都合なんスけどね」
「なんでですか!倒れて好都合なワケないですよ!?」
「いや、その詩できてなかったんで、場の空気悪くなるよりいいかなぁーと・・・」
「いいワケ無いでしょう!!」
平和の思念は必死だった、そこでガルテスが俺に尋ねた。
「おい、イハン、あいがつはいつもあんな調子かァ?」
「大体あんなんなので地面に深く頭から突き刺さって欲しいと深く深く考えております」
「ところでお主、問いたい事あるのだが」
「んに、なんスか」
「その詩は何を語るものだったのじゃ?」
おいちゃんの表情は詩を語る時では無く、既に元の感じに戻っていた。そしてこう告げた。
「まあまだ大部分できてないんスが【植物で世界征服を企む夫婦の話(植物視点)】ッス」
「おいちゃんは早急に詩に関わるのはやめるべきだと思う」
「ヒドイッス!!」
まあ娯楽程度にはちょうど良かったので良しとし、努力の思念体に関しては世界中で思念体が封印されている事を告げ、もしかすると封印されているかもしれんから思念思想の杭柱を探してみる事を推奨するとおいちゃんは頭を下げて俺達が向かう先とは違う方角へと消えていった。そして十分な休憩を取る事が出来た俺達は本来の目的である思念思想の杭柱の方角へとすすんだ。俺は疲れてないので休み損である。



▽<そうはさせぬ)



「そういうことか」
「そういうことですね」
「そういやこんな感じだったなァ」
「そうだと言ったろう」
ヴィグレイマが言い放った通り、そこには<うつ伏せで大の字に無防備に寝そべりまくる人間達の姿>があった。
「背中におけいはんって書いた紙貼り付けとこう」
「イハンさんその古典的な嫌がらせやめましょうよ」
そしてこの影響下に来たことで俺と平和の思念には分かった事がある。性質が随分色濃く出ているのだ。
「これは・・・」
「<疲労>だな、出すのが簡単すぎるからか?随分性質が濃い、人間共は疲れて動く気にもなれんのだろう」
「しかし何故大の字なんだァ?」
「休む際に最も開放的だからじゃろう」
「いや、それなら普通仰向けだろォ?」
「お前の普通を持ってこられても困るぞガルテス」
とにかく、此処まで来たのであれば後は性質を辿り、柱をぶっ壊すだけだ。もはやいつもの事と化しているが、まあなんと言う作業感。それにしてもアズゥの意図は未だに読めない、俺から奪った違反の利用手段は分かった。違反をばら撒く事で人の心にスキを作り、柱に封印された性質に人間を染め上げる事も分かった。<何故染め上げているのか理解が出来ない>のだ、人の心を操ったところで特に悪用をするわけでもない、封印を解く邪魔はして来ても封印解除した思念に対しては何も触れてこない。第一アズゥ本人を見たというのが封印された思念体からしか聞き出せていない。何度考えた所で答えが見つかるワケでもないのでもうしばらくこの事を考えるのは止しておくことにした。
それにしても随分とシュールな光景だ、そろいも揃って全員が綺麗な大の字だ、それでいてなおかつ全員うつ伏せだ。集団で死んでるようにも見える、そう思うとおっかない。
「おっとォ」
ガルテスが寝そべる人間を踏みそうになる。人間が無尽蔵に散乱しているので足がある奴は足元を確認して進まないと踏んでしまう、どうせ踏んだところで反応しないであろうが。
「気をつけてくださいね」
「別に踏んだ所でどうという事ねえだろ」
「いえ、ダメですよ、無防備な方を足蹴にするなんて」
「あ」
平和の思念が言った傍からヴィグレイマは足元に転がる人間の背中を「むずん」とでも聞こえそうなくらい踏みつけた。案外痛そう、踏まれた人間はビクッと体を一瞬だけ反らし、また大の字の姿へ戻っていった、何故かヒトデを連想した。ヴィグレイマは踏んだ状態からまた一歩を踏み出したため、なお更タチが悪い、賞賛に値する。
「まあ、なんというか、アレだ、良くやってくれた」
「それほどでもない」
「・・・・・」
俺達はそんなこんなで先へ先へと足を運ぶ、一部足無いけど。途中で幾度と無く倒れた人間を踏みまくるガルテスとヴィグレイマ、その都度平和の思念に注意されていた。哀れである、どちらかと言えば、踏まれた人間が。
そしてこの騒動に入ってから三度目の思念思想の杭柱を発見した、相変わらず意味不明な文字が刻まれており、意味不明である。だがそれだけではなかった、もう既に別の存在がその柱のすぐ傍に佇んでいた。俺は一度しか見ていないが間違いない、アズゥの部下の一人だ。
「随分遅かったな、この状況下でそこまで悠長に時間が使えるとは、あまりにも妬ましいぞ」
「うわっ」
「どうした平和の思念」
「イハンさん、彼女は少し異常です・・・流れ込んでくる心中は全て嫉妬の念、いかなる物事、いかなる事象、彼女の考える全てが嫉妬です・・・!!」
「嫉妬の思念体か・・・」
「私の名は<エンヴィー=クインブリッジ>、お前達の言った通り、私は嫉妬の思念体だ、最も、そこの白黒は既に知っているだろう」
「一戦交えましたからね・・・あなたは一度も攻撃しなかった」
「おや、気がついていたか、その洞察力、実に妬ましいな。ヴァーサクがハデにやってくれるから特に私は何もする事がなかった、やられたフリさえすれば良かっただけなのでな。最も、ヴァーサクには少々、理性を吹き飛ばさせてもらったが、あいつは意識して演技するのがヘタだから」
「仲間をまるで道具扱いか、思念体の風上にもおけねえな」
「お前が言うかァ?」「貴様の言えた事ではない」「イハンさんの言うようなセリフでは無いですね」「違反の思念体が何をほざくか」
総攻撃が飛んできた、目に見えない矢印が俺を深く貫く。
「お前等マジぶっころっしょ?」
「・・・まあ、随分仲のいい事、妬ましい・・・あまりにも・・・!!」
「イハン?なんかあいつやべぇぜェ・・・・?」
「お前等は下がってろ、此処からは足の無い奴の戦いだ」
奴は嫉妬心を爆発させたのか眼つきが鋭く変わる。それにあわせるように俺達は臨戦態勢を取った。平和の思念は今回はしっかり傘がある、足手まといではないため十分な戦闘を行えるだろう、実際はいざという時のメイン盾として利用するつもりだ。言っとくが仲間などと思った事はない、だから道具扱いしていいのだ。俺理論。
「行くぞ、篝火花!!」
奴が叫ぶと奴の周りに無数の鬼火が出現しこちらに向かってきた、平和の思念は傘を取り出し、それらをいとも容易く刻んで掻き消していく。全ての鬼火を掻き消した所で俺が特攻し、奴との距離を十分に縮めた。だが奴は表情を一切変えない。
「・・・・黄瑰!」
奴はまた技を繰り出すが俺には特になんとも無かった。すると後方から平和の思念の声がする、振り返ってみると奴は茨によって拘束され、身動きが取れない状態になっていた。そして今の俺は平和の思念に気を取られ、完全に無防備の状態だった。気がついた時には既に時遅し、奴の手が俺の腹の辺りに触れていた。
風信子!!」
奴から放たれた黒弾が零距離で俺に直撃し、俺はまた平和の思念のいた場所まで吹っ飛ばされた。
「チッ・・・あいつ、抜け目ねえぞ・・・!!」
「それよりイハンさん!コレ解いてください!」
「ああ!?めんどくせえよ自分でやれ!!」
「腕も縛られていて傘が振り回せないんです!」
「ああ!畜生!」
俺は平和の思念の茨を解こうとしたが、茨はあまりにも固く縛られており、ビクともしない。
「仕方ねえ!無縁断!!」
「ちょっ、痛いです!何するんですか!!」
驚いた、平和の思念が俺に反論してきたのだ、ただ反論するだけならいつもの事だが、怒りが乗っている反論は今までに無い。だが俺にはそんな事などどうでもよく、助けてやったのに反論した事に俺は苛立ちを覚えた。だが気にしているヒマも無いので俺はまた嫉妬の思念に対して特攻をかける、すると・・・!
「おぶねっ!!?」
後方からビームが飛んできた、そのビームは回避したために直撃を免れ、俺の服を少しだけかすめると嫉妬の思念に直撃し、奴は少しよろめいた。だが、問題はそのビームを放った奴が平和の思念であること。
「おいてめえ、今確実俺を狙っただろ!?」
「何を言ってるんですか!イハンさんが射線上に入るのがいけないんでしょう!!」
「おいおい平和の思念、お前それでも<平和>の性質持った奴か?人に罪擦り付けるたぁ随分きたねえコトしやがるじゃねえか」
「私はれっきとした平和の思念体、ヴィヤズです。それに相手に当たったのであればそれでいいでしょう!?何故いちいち突っかかってくるんですか!?」
完全な口げんかとなってしまった、何かおかしい感じがするものの、既に俺の怒りは留まる事を知らなかった。そして気がつくと、俺の相手は平和の思念に摩り替わっており、もう歯止めも利かない状態だった。嫉妬の思念体はその俺達を見て特に何も素振りを見せない。


「おいィ・・・、あいつら、仲間割れ始めやがったぜェ!?」
「むう・・・」
「どうしたァ?ヴィグレイマよォ・・・?」
「あやつら、理性を忘れておる」
「んだとォ?」
「先ほどエンヴィーとか言う思念体は『理性を吹き飛ばさせてもらった』と言ってたじゃろう、推測に域に過ぎんが、おそらく。奴等はあやつの能力の渦中にハマっておる」
「<理性を操る能力>ってかァ?しかしよく気がついたな」
「平和の思念体じゃよ、あやつの性格からして、あのような理不尽なキレ方をするとは到底思えん、イハンの言っておった<世界に分散された違反>も影響しとるやもしれん」
「イハンはいつもの事だがなァ・・・だが、それが分かった所でどうすんだァ?」
「ガルテスよ」
「んだァ?」
「サルヴィナのいない今、お主が代わりに<こいつ>を奴等に貼り付けて来い」
「おおゥ、随分と懐かしいモノが出てきたもんだこりゃあよォ」
「ワシもアレ以来つかっとらん、ちゃんと機能するやらのう」



一方、俺と平和の思念は未だにケンカを続けていた、いつも軽くあしらって終了の平和の思念が本気で俺に反論しているからだ、お互い退かないために一向に終わる気配が無い。すると後ろから声が聞こえた、ガルテスの声だ。
「おいガルテス、どうにかしろこいつが」
「わりいなイハン、それとヴィヤズよォ、しばらく眠ってもらうぜェ?」
「何!?」「え!?」
俺の意識はそこで途絶えた。


===


俺は何をしているのだろう、此処は何処だろう、俺は・・・<何を見ているのだろう>・・・?
違反・・・?俺は自身の<違反>の持つ世界を見ている・・・?
俺の記憶ではない?違反の記憶?俺の中の違反が持つ記憶?


とても寂れた世界、同じうごメモの世界だろうがその姿はまるで違う、此処は、おそらく<底辺>だろうか、俺はその傍らに立ち尽くし、自らが手に持つ星を我先にと欲する人々に囲まれていた。
底辺は星の力無しには出る事の許されない、うごメモのもう一つの<顔>。星を持つものがいれば、それを奪わんとする者もいる、それ故に俺は今人々に囲まれているのだろう。星は実質、いくらでも手に入る代物だ、価値があるのは精々、黄色以外。だが底辺は、それが適わない。底辺の奴等は人々の心動かす力が無いか、誰からも相手にされないか、そのどちらかが半数を占める。そして、底辺を出て行く者はほぼ大半、「黒絶星」の力で出る。手っ取り早いからだ。その先にある代償も知らずに。
星を渡し終えると、そこにあった人々の山は一瞬で四散した。「黄希星」の力で底辺を出た者は、<人々の心を知る力>を得る。今星を渡した奴等は、きっと大きな功績を残す事だろう。するとその傍ら、物陰から俺の方をじっと見つめる影があった、どうやら思念体のようだが・・・・・



こいつは・・・・アズゥ・・・・?


===


気がつくと俺は地面に伏せた状態で倒れており、その傍には平和の思念も転がっていた。奴と戦って少しした後の記憶が微妙に薄れており、<俺が見たあの光景>も含めて何があったのかイマイチ理解できない。
俺は立ち上がり、目の前に映る光景を見た。
ヴィグレイマが倒れこんでおり、ガルテスが嫉妬の思念の猛攻に耐えている。
「ガルテス!!」
「おおイハン、目を覚ましたかァ!」
「何があった!!?」
「奴の能力は<理性を操る能力>!お前等は我を忘れてケンカ始めちまったワケだぜェ?」
「そこじゃない!ヴィグレイマはどうした!」
「ケンカ始めたお前等を操作状態にしてして戦ってたんだがよォ、二人も操るのは重荷だったみてェでな、とっさの攻撃に反応できずに一撃もらっちまってあとはなぶられ放題、今俺もこうして耐えてんのがやっとだぜェ・・・!!」
風信子!!!!」
「ぐおォォ!!?」
黒弾が俺の眼前のかすめ、それに乗せてガルテスも吹き飛ぶ。コレで俺以外は満身創痍となった。
「なかなかしぶとかったな老いぼれ、だが、所詮は人間か、残るは貴様だけだぞ、違反の思念体」
「テンメェ・・・・!!」
「しかし、随分と使えない連中だな、違反の影響で本調子の出ない平和の思念と老いぼれが二人とは」
「お前、もう一度言ってみろ」
「貴様の仲間は使えない連中だと言った、何か問題でもあるのか」
「大有りだな」
「ほう」




「貴様を本気で殺す理由が出来た」




俺がその言葉を言い切る時には既に俺は奴の目の前にいた、怒りと共に力が込み上げて来る、この感じを前にも何処かで感じた気がしたが、今の俺にその様な事を考える余裕は無かった。



「殺す」



今俺を動かしているのはその言葉が示す衝動のみだった。
「バカな貴様!まだそのような力を・・・!」
奴は攻撃を放たんとする腕を俺に向けたが、俺はその腕を掴み、何も躊躇する事無くあらぬ方向へ圧し折った。
「あ゛あ゛あ゛ああ゛ああ゛あ゛あああ゛ああ゛あ゛あ゛ああ゛!!!!」
断末魔に近い、悶える苦しむような悲鳴を上げる嫉妬の思念、奴の悲鳴に一切耳を貸さず、俺は奴の顔と掴み、後方にある杭柱へと叩きつけると、奴の顔面を殴った。



そして顔面を殴り。


また殴り。


殴り。


殴り。


殴り。殴り。殴り。殴り。殴り。
殴り。殴り。殴り。殴り。殴り。
殴り。殴り。殴り。殴り。殴り。殴り。

既に嫉妬の思念は原型を留めていないくらいに悲惨な状態だった。
そしてコレぐらいでいいだろうと思った時には、既に俺は自分の意思で拳を止める事が出来なくなっていた。さらに奴を殴るにつれて自分が自分でない感覚に襲われる。コレも奴の能力の力だろうか、いや、違う。今奴に能力を発動できる気力があるなんて考えにくい、だとすれば、やはりあの時と同じ、うごメモから星が消滅した、あの時と同じ・・・!!


その時、後方から、一筋の光線が俺の体を貫いた、その一筋のあとからまた一つ、また一つと合計5本の光線が俺の体を通り抜けていく。平和の思念の傘によるものだった。
「・・・・・イハンさん・・・ごめんなさい・・・・!!」
「・・・・いや、今回ばかりはナイスな判断だ、平和の思念」
俺はその場に崩れ落ちた。それと同時に、俺は我に返る。
地面に屈しながら、俺は嫉妬の思念に話しかける平和の思念の会話を聞いた。
「慈癒の輝霧・・・!」
奴が呟くと嫉妬の思念を覆うように霧が立ちこめ、嫉妬の思念は<元の形>を取り戻していった。
「何のつもりだ」
「別に、理由なんてありません」
「私は貴様等を・・・あぐッ!!」
「これは情けでもなんでもありません、理由があるとすれば私がただのお人よしなだけです。完全ではありませんが、帰れる程度には治癒しておきました、早く上司の下へお帰りください」
「クッ・・・!妬ましい・・・!!」
そして嫉妬の思念は少しふらついた状態で空の彼方へと去っていった。
「イハンさん・・・」
「俺のダメージはそんなに多くない、とっととあいつらを治してやれ」
そう言って俺はおっさん二人が倒れこんでいる方を指差す。平和の思念はすぐさま奴等の下へ向かい、治癒を行った。
そして俺は起き上がり、破壊弾をその手に構える、本来の目的は思念思想の杭柱の破壊。俺は破壊弾を柱に向かって投げつけた―





「起きねえなァ」
「起きませんね」
「起きんな」
「起きんのう」
破壊した柱の中に眠っていた、いや本当に眠っていたそいつは<疲労の思念体>。だが、起きない。地面に這い蹲って眠っているのだ。というか眠りっぱなしだ。眠っているので名前も分からない。起きろよ。
「どうすんだァ?こいつ」
「知るかよ」
「担ぎます?」
「ワシはできんぞ」
「俺はパスだぜェ?」
「めんどい」
「じゃあ・・・・申し訳ないですけど・・・」
結局疲労の思念はそのまま放置して俺達は図書館へと帰還する事となった。あばよ疲労の思念。まあそのまんまでも大丈夫だよね疲労の思念。



――



「帰還しました」
「おや、相当消耗しているね、どうしたんだい?」
「イハン=メモラー、あいつの力の片鱗をその身に刻まれました」
「ざまあねえな」
「そして平和の思念体、ヴィヤズ。あいつは違反の思念と並べてはいけません、あの二人は相反するハズである力を繋いでいる」
「おい、無視か」
「自分の作った穴に落ちたお前に何を言われても別に妬ましくないしなんとも思わない」
「んだとコイツ・・・!!」
「ケンカはそこまでだ。なるほど、ね」
「そして、」
「なんだい」
「その両方が世界に散りばめられた違反の影響を確実に受けています」
「そうか・・・ふふ・・・ふふふふ・・・・・」
「アズゥ様?」
「実に面白いじゃないか。さて、思念体を封殺して以来君達に任せっぱなしだからね、そろそろ僕も動く体制に入ろうか・・・。ヴァーサク」
「あ?」
「<九十九街道宮橋>を連れ戻して来い」
「はァ!?なんで俺が!?」
「エンヴィーは手負いだ、僕にもやる事があるからね。今動けるのは君だけだよ。まあ、彼が嫌がったら無理に連れ戻す必要は無い。でも間違っても破壊はしないようにね?」
「チッ、しゃーねえなぁ・・・んで?どうするつもりだ?」
「何、簡単だ。こちとら、やられっぱなしというワケにはいかないからね・・・・・」

―――――to be continued