動手帳思念大戦 Ps-2 Cp-2 慈悲と信仰心の信頼

もし知ったその時、その時既に事象の一つとなる。

Ps-2 Cp-2 慈悲と信仰心の信頼

俺たちは覚束ない足取りで図書館へと戻る。足ないけど。
ガルテスとヴィグレイマは平和の思念の治癒を受けたもののその状態は完全ではない。俺に関しては治癒そのものを受けていない。平和の思念に治療されるのが嫌なだけだ。
だが俺は先の戦闘で味わった謎の感覚、自分が自分でない何かに陥る感覚によっての疲労が重なり、実質アウトラインギリギリだった。でも治療は受けてたまるものか。意地でも受けんぞ。だがやはり所詮は痩せ我慢である、時々浮力が不安定になり、地面に屈してしまいそうになる。
というか全員フラフラであり、なんというか外からみればまるでゾンビの行進のようである。しかもうち二人は外見だけで言えば幽霊なのだ、自分で言うのもなんだがもう軽く歩く心霊現象じゃねえか。足無いけど。
度々こちらに飛んでくる視線を気に留める余裕も無く、俺達が図書館にようやくたどり着いたその時、そこに待ち受けていたのは。
例の扉の爆音である、全員体力が限界に近かったが、爆音によって扉の前でさらに気を失いそうになる、ヴィグレイマに関してはもう倒れている。
この扉も直す直すと言っておきながら一向に直していない、グリモアが帰ってきたら真っ先にこの扉を直してもらう、そう心に決め、扉は開けっ放しにしておいた。
そして図書館の中ではヤグレムがすでに帰っておりいくつかの本を読んでいる痕跡があった。結局こいつは単独で何をやっているのだろうか。
「随分と派手にやられたようだが、何があった」
「アズゥの部下にメッタメタにされた、よくわからん力でどうにかなったがな」
「4人掛かりだというのにか、それによくわからない力とはなんだ」
「よくわからんからよくわからん力なんだよ」
「それもそうか」
「それと・・・だ」
「何だ」
「お前は単独で何をやっている、別行動とかなんか言ってどっか行ってるみてえだが、お前が実際何をやっているのか知らん」
「それをお前が知って何になると言うのだ、私は私のやる事がある、お前は自分のやるべきことをやっていればいい」
「じゃあお前のやるべき事が何か教えろ」
「言い方が変わっただけだ、質問が変わっていないぞ。それでは同じ返答しか出せん」
しばらく俺とヤグレムは睨み合い、図書館はシュンと静まり返る。
またしばらくして、その沈黙を遮るようにガルテスが俺に話しかけてきた。
「イハン、わりいが俺はそろそろ寝床に戻る事にするぜェ?あまりここに長居するワケにもいかねェし、やっぱ俺は外じゃねえと落ち着いて寝る事さえ出来ねえ」
「・・・・・わかった、戻っていいぞ。ただし扉は閉めるな、そろそろ本格的に音がヤバイ」
「ああ、まあ何かあったらまた来るかもしれねえがなァ」
ガルテスは自らの寝床へ戻っていった、てかそういえばそうだ、アズゥは一度封印を施した思念体には手をかけていない、それに誰かを襲うなんて事も確認されていない、ここに集結するより分散させたほうがいいかもわからん。むしろ無害なら柱なり何なり放っておいてもいいのではなかろうか。
などと考えているとヤグレムが俺の心を見透かしたかのように鋭い視線を向けてくる。この立案は却下、結局アズゥ達の居所を掴むまでは地道に柱をぶっ壊して中の思念体引っこ抜いて回るしかないのだ。それしかやる事ないのだから。でも流石に助けた奴と協力者全員ここにおいておくとパンクするだろう、確実。それは考え物だった。
「しかし、ヴィグレイマは完全にノックアウトだなこれは」
「久々に激しく動いたのではないのですか?」
「元々アグレッシブなジジイではあったのだが、<天空大陸異変>以降運動してないのかもな、運動しろよジジイ、メタボるぞ」
「・・・・・・・・・・うっさいぞイハン」
「なんだ、起きてたのか」
ヴィグレイマが起き上がる、平気を装っているつもりだろうが、汗だくだし若干苦しそうなのが表情に出ている。無理すんな、ポックリするぞ。もう歳なんだから。
俺はふと思い立って星を作り出し、それをヤグレム目掛けて打ち抜いた。やはりあっさり掻き消されてしまう。本当に純粋な無想星を作り出せるのかすら疑問に思える。
「いきなり何だ」
「疲れている方が無心になれるんじゃねえかと思ったが、そうもいかねえな」
「そんなに簡単ならわざわざ修行する必要なぞないだろう」
「それもそうか、やっぱめんどくせえな」
無心とはなんなのか、軽く考えていると遠くから・・・なにやらジェットエンジンのような音が聞こえた。
外に出るとそこにはメイドとなにやらどでかい戦闘機が留まっていた。おい住宅地域に戦闘機が飛ぶなよ、ソニックブームで窓がやべえだろ。てかいくつか既に窓割れてるだろ。手遅れかよ。マジかよ。
そしてその戦闘機からまだメイドがおりてくる、戦闘機って普通一人か二人で乗るものですよね。しかもなんか行きの時よりメイドが多い、一匹所か二人増えてる。一匹は思念体だろう、みりゃわかる。もう一人はようわからん、俺の経験的に普通ではない。
空になった戦闘機は謎の変形過程を経てまた一人のメイドの姿へと戻った。<オートマトン・『セルラ=グランギニョル』>、やはり普通ではない。
「ただいま戻りました、ご主人・・・」
「変な演技はもういい」
「あら、気が付いていたのですか」
「いきなりあんなことになったら流石にな、それで・・・だ、あからさまメイドが増えている事についての説明は無いのか」
「出会いました」
「そうか、だからなんだってんだ」
片方は<規律の思念体・エレノア=オルダー>、もう片方は知らん。
「おいセルラ」
「なんでしょう」
「この経験値は何者だ」
「<ヴェルレ=ゼルメタライト>、どうも主とはぐれてしまったようです、経験値だけに」
「で、同行させたのか、この経験値を」
「ええ、まあ倒すわけにもいかないので、経験値ですが」
「あまり経験値って言わないでくださーーーーーい!!」
しかもこのメイドも違反の影響が無いらしい、メイドってのは無敵なのだろうか、そういうもんなのだろうか。わからん。
そこにとてとてとグリモアが駆け寄る、相変わらずメイド服のままだ、よくもその格好のまま外を歩けたな。グリモアはともかくとして、クロニクルまで。
「イハンわたししねんたいたすけてきたよ!ほめてwwwwほめてwwww」
などとぬかしながらグリモアは俺を抱きしめてくる、だがこいつは見た目に反して人一人絞め殺せる位(推測)の腕力があるために俺の生命力が確実に抉り取られていった。
痛いを通り越してもはや意識が消失しそうである。
とりあえず頭を撫でてやると「えへへ〜」と言って大人しくなった、今度から身の危険を感じたらこう対処する事にしよう。
「幽霊さんなにやら他の団体さんの姿が見えませんが何かあったのでしょうかあとそのもあもあしたもの食べてもいいでございますか」
「あの片目隠れたオッサンなら帰った、そしてこれは喰えん。あとサルヴィナ、ヴィグレイマがあっちで寝てるからとっとと行ってやれ」
「なん・・・ですって・・・?」
そういうと一目散にヴィグレイマの方へと飛び出すサルヴィナ、あんな悪乗りには乗っておきながら主の心配はするというのはこいつはメイドとしてどうなのだろうか、それはこいつ以外にも言えた事なのだが。
ここでセルラがふとあたりを見回し、俺に問いかける。
「そういえば、他にも思念体が三人程いませんでしたか?見当たりませんが・・・」
「一人が勝手にどっかいったからな、他の奴等に追うように頼んだワケだ」
「大丈夫なのですか?その今回の異変の親玉が彼らの前にまた現れたらどうするのです?」
「だったらとっくに此処襲撃でもして、連れ去ってるだろうよ、一度柱に捕らえた奴は用済みかもしれん」
「しかし憶測でしょう?」
「憶測だ、だが勝手に飛び出したのはまぎれもない<信仰心の思念>、他の奴は仮に俺の憶測が外れた時の保険だ、まあもっとも、保険用意した所でアズゥに対抗できるやらわからんがな」
にしても何故信仰心は図書館を突如として飛び出したのだろうか。なんとなく目的も無しに飛び出しそうな性格ではあるのだが。
するとそこにサルヴィナに支えられた状態でヴィグレイマが俺の元へとやって来た。サルヴィナは姫百足を行使しているのでなんか体中がすごい状態である。あえて言えばキモい。
「すまぬ、イハン、ワシらはそろそろ帰還するぞ」
「私達が住む領域はあなた方のおかげで影響下から外れたので、此処に泊めていただく理由も無くなったのです」
「そうか、まあ好きにすればいい、図書館に客でもないのが溢れかえるのも困ったものだからな」
「貴様らしい返答じゃのう、まあ何かあればまた世話になるかもわからんぞ」
そう言って奴らは扉を抜けていく、サルヴィナが扉を閉めそうになるので慌てて静止し、奴らはそのまま遠くの方へと消え去っていった。
「・・・・・グリモア、クロニクル」
「はい?」「なーにー?」
「扉の金具付け替えておけ」
「わかった」「あいさー!」
「それならば私もお手伝いします、経験値さん、あなたも協力してください」
「経験値って言わないでくださーーーーい!!」
「なんですか楽しそうなので私も混ぜていただきたいのですがところでセルラさん太もm」
「・・・・・やれやれ・・・」
俺は一息ついて椅子に腰掛ける、ただし若干浮いている。机の明かりを点し、そばに置いてあった読みかけの本を手にとった。その本にはグリモア手作りのしおりが挟まっており、そのしおりは七色に輝く光の粒子が集まり板状に構築されて出来ているもので、触ると粒子を撒き散らし微かに発光する、どう見ても人工のものではない。
普段人間の姿をしているグリモアとクロニクルだが、改めて人間ではない事を思い知らされる。封印されていたのにも何気に納得がいくだろう、人知を軽く超越した事を平然とやってのけてしまうからな。
俺は本を開いてしおりを抜き取り、1ページ、また1ページと読み進める、グリモア達がドアを直している間の束の間の休息だが、ロクな休息など道端で変な詩聞かされたの以外では全然取っていないので丁度良い心の肥しだった。
「手伝わないのですか?」
「俺は手伝うつもりはない、こういうのはグリモアがやってくれるからな、そう思うならお前が手伝ったらどうだ」
「金具はちょっと、データ類ならどうにかなるのですが・・・」
「<妙な傘>は直せるのにか」
「あれは<傘>ですから」
「おい、イハン」
ヤグレムも入ってくる、ヤグレムから話しかけてくるということはどうせ大した用でもない。
「何の用だ」
「私はまた出るぞ」
「・・・また<お前のやるべき事>って奴か?」
「そうだが、それがどうした」
「お前は何をやっているんだ」
「またその質問か、お前はそれしか言えないのか?」
「それとしか聞きようが無い、言っておくが何度でも聞いてやるぞ」
「・・・・・あまりにしつこいのは困り者だな、少し話してやる、私は<答え>を、<たった一つの答え>を探している」
「答え?」
「2年前、いくら待とうが、いくら動こうが、私が唯一、全く見出せなかった答えを私は今更になって探している」
「何でまた唐突に、その時は見付けられなかったんだろ?その<答え>ってのが」
「・・・私はこの異変に<答え>に繋がる公式が隠されている・・・そう睨んだ。私はあの時に解けなかったこの数式を・・・この異変によって読み解き答えを導き出す。確証なぞ無い、だが―」
「はいはいわかった、聞いたのは俺だがお前の言ってる事はだんだん分からなくなる、とりあえずお前は何かを探している、この異変でその探し物が見つかりそうなワケだ、そうだろ?それでいいんだな?」
「・・・・・・・」
「・・・・・ハァ・・・もう何もきかねえから、とっとと行って来い、<答えを見つけにな>」
俺は本を読み進めたままそう答え、ヤグレムはエンプティホールを開き、その中に身を沈めていく。
正直驚いた、表情にはあまり出てないのだが、奴はどことなーく熱くなって話していた。冷静さの薄れたヤグレムは見たことがない、その<答え>というのはそこまで重要なものなのだろうか。とりあえず聞けて満足したし、特に内容も俺には全く関係の無い話だろう。どのみちめんどくさいから関わりたくないのだが。
俺は黙々とそのまま本を読み続ける。平和の思念は一度修理組の元へ赴いたが、確認して自分が出る必要が無い事を覚ると本を物色し始めた。ざまあ。
ふと脇を見ると傍に置いたしおりが七色に姿を変えながら光を放っていた。どうやって作ったんだろうか、コレ。




「イハーン!ドアなおったよー!ほめt」
「今日はもうなーでなでしただろバカ、抱きつくな、死にかねんから」
「古い方の金具はどうしますか?」
「ゾンビメイドにでも食べさせておけばいいだろ」
「なんと失礼な私はお肉しか食べませんよところでセルラさんいい加減にその太もも食してもよろしいですかいいですよねいただきます」
「焼肉にしますよ」
「うりーん」
「んで、お前らはそろそろ元の服装に戻ってくれないか、違和感がすごい違和感」
「えー」
嫌がるグリモアを尻目にクロニクルが自らのメイド服を掴み、剥ぎ取るように引っ張るとするりと脱げてしまい、クロニクルはいつもの青々しい格好に、メイド服は本の表紙に戻った。それを見たグリモアもぶーぶー言いながら剥ぎ取r脱ぎ、メイド服は表紙へと姿を戻した。
「んで、やってもらいたいこともやってもらったワケだが、お前らはどうする」
「何がですか?」
「ご覧の通り、大多数はもう自分の居場所に戻っている、お前らは帰らなくて大丈夫なのか?」
「確かにそろそろ戻らないとご主人が怒る可能性があります水切らすとご主人枯れます帰りますセルラさんいい加減太ももかじらせてください」
「ひき肉にしますよ?」
「ハンバーーーーグ」
「まあ、あまり客でも無いのに長居するのは失礼ですね、リザさん?あなたの館へお邪魔させてもらっていいかしら?お手伝いぐらいはさせて頂きますけど」
「おおそれは有難いですぜひお願いしますかじらせて」
「おゆはんはハンバーグですね」
「まるーん」
漫才でも見てるのだろうか俺は。
「経験値さん?あなたはどうされます?」
「私はまた主人を探す事にします、あとさらりと経験値って言わないでくださいよー」
「そういうワケですので、私達はこれで失礼します、また何かありましたらお尋ねするかもしれませんので」
「あいよ」
メイドがぞろぞろと外へと出る、新品の金具に交換されたドアは静かな音を立ててゆっくり閉じていった。音に殺される心配はこれでまたしばらく無い。
さて、今此処に残った奴はまず平和の思念、奴は俺の傍で軽く物色した何冊かの本を静かに読んでいる。何もせずともウザい。
次に規律の思念、他のメイドは去ったがこいつはまだいる、ホコリの有無を確認でもしてるのだろうかさっきから本棚を指でなぞっている。だが残念だったな、ここのものは全てグリモアの魔術によって<汚れなどを弾く>ようになっている。ちなみに今はどうともないが、過去にこの魔術で俺は<一切の本に触れることが出来なくなった>事がある。俺はそんなに汚れているのか、いや確かに心は汚いだろうが。
そしてグリモアとクロニクル、ソファーでゆったりしているクロニクルに対して、グリモアはコスプレにハマったのか色々な本のカバーを物色して着替えまくってる。足が長いからかチャイナが妙に似合っている。あと使ったらちゃんとカバーを元の本に戻してほしい。
・・・・・久々に静かな時間が流れる、出来ればこのまま一日を終了したい、働きたく無いでござる。絶対に働きたく無いでござる。
するとその願望を木っ端微塵に粉砕するかの如く聞き覚えのある甲高い笑い声が聞こえる、もう嫌な予感しかしない。そして盛大に扉が開き、扉が壁にぶち当たる音が図書館全体に響く、直したばかりだぞ、丁寧に扱えバカヤロウ。
「キャハハハハハ!!インポッシブル!!」
図書館を抜け出した信仰心の思念である、とりあえず意味が分からない。その後ろからふらふらと脱力しきった様子で現れる我慢の思念と嘘の思念。相当振り回されたに違い無い。そしてその後ろからまた見慣れぬ思念体の姿が現れる。そしてその思念体は背中の十字架を大きく揺さぶりながらそそくさと中へ入り、丁寧に戸を閉めて挨拶を始めた。
「初めまして、<慈悲の思念体、ミトラ=クルス>です、ビリーヴがお世話になったみたいで、大変感謝しています」
特に何かした覚えは無いし感謝されるタチではない、しいて言えばビン詰めにした程度しか覚えてない。
「特に世話した覚えは無いが、まあいい。ルチア、何があったか説明しろ」
「ご覧の通りですよ、彼女・・・信仰心の思念体が真っ直ぐ向かった先にあった思念思想の杭柱に封じられていたのがこのミトラさん、当の信仰心の思念によれば<彼女を助ける目的で飛び出した>そうですけど」
「それはつまり・・・」
「向かう前から慈悲の思念体の居場所がわかってたって事になるZE?」
俺の発言に割って出るように嘘の思念体が言葉を続けた、確かに嘘の思念の言う通りに考えられる、影響下でその性質を感じ取るなら兎も角、今はどの性質の影響下にも無いここから真っ直ぐに自らの求める性質に直行するというのは元から場所を知っていると考えるのが妥当だろう。まあただ突っ走ってたら偶然慈悲の思念体でしたってのも考えられなくないが。
「あの・・・」
慈悲の思念体が口を開いた。
「彼女が難なく私の元まで辿り着けたのは、<私が信仰対象>だからじゃないかと思うのです」
「・・・ん?」
俺はおもわず首を傾げる、信仰先だから辿り着けるというのはいまいちわからない。
「有難い事に、ビリーヴは私の事を信仰の対象として見てくれています、もしかすると彼女は性質を辿ったのではなくて<信仰を向けるべき先>に向かって突っ込んで行ったのではないでしょうか・・・私も彼女のすべてを知っているワケでは無いのであくまでも憶測の域なのですが・・・」
「そうなのか?信仰心」
「キャハハハハハハハハハハ!!ミトラ様がそう言うならそうなんじゃないかな!!!」
「はい、本人も分かっておりません、本当にありがとうございました」
「どうやらそのようですね・・・・・あ、ダウトは?」
「ダウト?」
「<疑念の思念、ダウト=ディストラスト>です、白髪で周りに目がたくさん浮遊している私の仲間なのですが・・・お見かけしてませんか?」
「仲間か・・・残念だったなそんな奴全く見てない、おそらくお前と同じ、柱に封印されてると見るのが一番だろう」
「そうですか・・・」
「ミトラ様ー、あの性根腐った男がどうかしましたかー」
信仰心の思念が仰向けの状態で俺の足元からぬるりと出てくる、やめろびびるやめろ、まあ足無いけど。
「こらビリーヴ、例えダウトがあまり好きでなくてもそのような言い方はいけません」
「申し訳ありません、キャハハハ」
暴走がデフォかと思ったが、慈悲の思念が相手だと随分素直である。正直ビックリした。ただし笑う。
「せめて場所さえ分かれば行けなくも無いが、流石に一個体がどこに封印されてるかは分からんぞ、いままでだって行き当たりばったりの虱潰しだからな」
「そうなんですよねぇ・・・」
「キャハハハハハハハ、わかるよ、奴の居場所」
「は?」
「え?」
そう言って信仰心の思念体が指差す方向は、巨大なビル郡の立ち並ぶその中にひとつ、天を突く程に高いタワーの聳える【うごメモ中央街】だった。以前バンレンジャンカオスの手によって亡者が集中的に沸いた地点でもある。アレは以降【亡者異変】と呼ばれ、その異変によって使用した救世システムは現在機能が停止している。
「またあそこに赴く事になるたぁおもわなんだ」
「それにしてもビリーヴ、本当にこちらの方角で良いのですか?」
「キャハハハハ!大丈夫です!たぶんね!」
「確証なし・・・ですか・・・しかしミトラさんを一発で見つけだしたのであれば信用の余地はありますね」
気がつくと平和の思念が俺の背後に佇んでいる。
「なんだ、聞いてたのか平和の思念」
「ええ、しっかりと」
「・・・まあいいか、出るならとっとと出るぞ、早く事を済ませたい、めんどくさいから」
「ルチアさんとヲトギさんはどうされますか?」
「HEY YOU![俺はいつでも臨戦態勢だZE!?]」
「私は遠慮しておきます」
二人とも相当バテている様子だった、信仰心の思念、こいつらをここまで疲労させるというのはいったい何をどうしたのか。ところで今の嘘の思念の発言は嘘でよかったのか。規律は今までがメイドまみれだったからあまり見たくないので触れないでおいた。
とにもかくにもこれで次の行き先が確定した、本当に疑念の思念体がそこにいるかわからんが、まあ行く事に越した事は無い。と思う。
図書館の扉がゆっくりと静かに音を立てて開く、外は・・・・・相変わらずの鮮血色に染め上げられている。時間的には夕刻だろうが、日の光すら届かないためにそれがわからない。不便だ、それはもうあまりにも。
俺に続き、平和の思念、慈悲の思念、信仰心の思念が外へ出る、戸をしっかり閉めてルチアとヲトギのいる図書館を後にし、俺達はうごメモ中央街へと飛び立った。




血の色に染まった空に4体の思念体が空を切る、訂正すると一人は走っている。その最中で慈悲の思念は何か深く考え事をしているようだった。なんとなく気になったために俺は慈悲の思念体に問いを向けてみる。
「お前はさっきから何を考えている」
「何故ビリーヴが私やダウトの居場所を特定できるのか気になってしまいまして、私の仮説はどうやら違うみたいですし・・・」
そこまで頭フル回転させて考えるような事なのか、正直どうでもいい気がするのだが。
「あまり難しい事でも無いと思うのだが」
「わかったんですか!?」
「まあ、お前らは信仰心とダウトなんたらをどう思ってる」
「ええ?仲間・・・ですけど・・・」
「つまりそういう事だ」
「ビリーヴがダウトを本当に信頼し得る仲間だと思ってるって事ですか?」
「まあそうなるんじゃないか?あいつ何考えてるかわからんし、可能性も無くは無い」
「ううん・・・でも居場所まで分かるものなのでしょうか・・・?」
「そういうものだ、生憎、こちとら同じような事ができるタチでな」
慈悲の思念は信仰心の思念と見た、それにつられて俺も奴をみてみる、あいかわらずにへらにへらと笑い、ものすごいスピードで地を駆け抜けている、いつにも増して怖い。
慈悲の思念はそんな信仰心の思念を見てクスッと笑った、何故笑ったのかはサッパリだ。
俺は視線を戻すと何の変哲も無い森が目に入る、俺はその森に片目の隠れた中年の姿を思い浮かべた。
「・・・・・・・・・・どうせ雑魚寝でもしてんだろ」
「何か言いましたか?」
「何もねえよ、いちいち独り言に反応すんなバカ」
俺達が何気無く会話をしているその内、前方にいつか見覚えのある巨大な天を貫くタワーがその姿をハッキリとさせた。