Ps-3 Cp-2 ルコ=モノトーンの激闘

『なんだテメエは』
『僕かい。そうだな、君が一番嫌いな思念体。とでも言えばいいかな?』
『思念体・・・だと?バカな事抜かすんじゃねえ!思念体はオレっちしかいねえハズだ!!』
『製造段階、って所か』
『・・・どこまで知っている』
『大体はね。君にとってのイレギュラーである事は間違い無いだろう』
『・・・・・』
『なるほどね、コレが<思念体の種>というわけか、これで出来るのは確か、<人の感情感性を意のままにする人形>、だったかな?』
『テメエ・・・一体なんなんだ?』
『オグ=ホワイトパレット、黒絶星に対極を成す、黄希星の思念体』



Ps-3 Cp-2 ルコ=モノトーンの激闘


欲の思念、七に連れられて思念体の性質をばら撒く謎の柱を見つけた私達。
そこに現れた夢の思念体、九十九街道宮橋の手によって邪魔をされるも、それを撃退。

それで済めば良い話だったのだが、その直後、空が一切の濁りの無い紅色へと染まって行く。
同時に私の中から力が湧き上がるのを感じ、この紅色の空が違反によって齎されている事を悟る。イハンが何か失態したらしいぞクソッタレ。
撃退した九十九街道宮橋はというと、それ以降姿を見せていない。
以前戦った場所に戻ってみれば、その真っ黒こげでサックサクにされたハズのアイツの姿はまったく無かったのだ。
七が心当たりのある場所を一通り捜索しても、手がかりさえ見つからない。
奴を追うのはあまりに非効率だと悟った私は、イハンご一行が柱の破壊に乗り出した事を知り、私達も柱の破壊に行動をシフトする事にした。
まず一人目ははてなの思念、ナーバを。
次に重複の思念、ピオネロを。
そして次に、期待の思念、ルーツに連れられ、努力の思念、アーティアを柱から引っ張り出した。
宮橋が必死に守っていた柱だったが、結局今に至っても、彼が妨害するなどは無かった。

そして私達は今、アーティアの工房に拠点を置いている。

「出来たぞ!」

工房の主、アーティアが命一杯の延びをして高らかに叫ぶ。
元より声がデカいもんだからやかましいにも程がある。

「出来たって、今度こそ大丈夫なんでしょうね?」
「ああ!たぶんな!!」
「アーティアさん、しばらく寝てないッスよね、大丈夫なんでスか?」
「いやあこれが楽しくてさ!眠気を感じないんだよ!!」
「貴女が楽しくても、物が出来てなかったら意味無いです」
「見かけに寄らずつめてえ女だなぁお前。そんなんだからどっかの思念体にも逃げられんだ」
「うるさいよ」
「ケンカは・・・良くないですよ・・・」
「む」

最初こそ私と七の二人だけだった私達だが、気が付けばピオネロとナーバ、ルーツにアーティアと、随分と賑やかになっていた。
うるさくってかなわないですホント。

アーティアが物作りに携わっていると聞き、私はとある提案をしたのだ。
それが<柱を探知するレーダー>である。
性質の円満を目視化する事で、柱の位置を割り出すといった、随分ハイテクな代物だ。
なのだが、このアーティアさん、機械はあまり得意ではないようで、パソコン作ったから大丈夫だと豪語するものの、無数のポンコツを生み出していったのだ。

「まあしゃあねえだろ、フツーの機械作るのとは違うんだ、思念体封じこめる柱探す機械なんて、誰が今まで作った事があるよ?」

ナーバの言っている事は最もだ、最も故に反論の余地が無いのがもどかしい。

「にしてもさ・・・・デカすぎるでしょう」
「デカいですね」
「デカいな」
「デカいッスね」
「デカくするしかなかった」
「む」

どっかの龍珠レーダーの如くコンパクトならば良かったのだが、なんか尋常じゃないまでにレーダーが大きい。
そのレーダーはなんだか四角くてしかし丸みを帯びていて、黒くて振り回しやすそうなリモコン付きだ。
柱の位置を記すためのものであろうモニターには、何故かスティックだのボタンだの、用途の無さそうな何かが埋め込まれている。
最近こんなゲーム機出なかったっけか。

「思念体の性質を可視化ってのが難しくてなぁ、やったことないし。だから色々試行錯誤してたらこんなんなっちまったんだよ」
「試行錯誤でどうにかなるのもスゴい気がしますけどね!」
「問題はちゃんと機能してくれるかどうかなんだよな」
「これで機能しなかったら、今までで最大級のガラクタが誕生した事になるッスね・・・」
「む」

皆、揃いも揃って私を見てくる。それはもうジロジロと。

「な、何…?」
「いや、あんだけうるさく言ってたんだから、お前が起動実験するものだと」
「今までもそうだったッスからね」
「む」
「うーん・・・はいはいわかったわかりましたよー」

私はレーダーの前に立ち、思い切って電源ボタンを力強く押し込んだ。
それと同時に、モニターは白く発光し、その後さまざまな機能がチャンネル形式で並べられている。やっぱあのゲーム機だよこれ。
だが問題はレーダーだ。それが機能しなくてはこの大掛かりなマッスィーンは意味を成さない。

「・・・・・」
「どうした?」
「どうやって操作すんのこれ・・・」
「リモコンを画面に向けるんだよ」

モノだけ知ってても内容を知らないって結構あるよね、つまりそういうことだ。
リモコンを画面に向けると、リモコンの動きに合わせるようにカーソルが出てくる。
ちょっとした感動を覚えながらも、私はレーダーを起動する。


するとここらへん一帯の地図が表示され、地図の中央にぽつぽつとオレンジ色の反応が現れた。

「このオレンジは?」
「これが性質、どの性質かまでは残念ながらわからんが、この地図に表示されてるちっこい点々はたぶん私達だ」
「つーことは?」
「完成したってことですね」
「持ち運びは無理そうッスけどね」
「む」
「でもちょっと待って、それってつまり柱かどうかまでは分からないんじゃないですか?」
「しゃあねえだろ、性質を探知するんだから、性質を持つ私達だって検索対象だ」
「見分けが付かないと意味ないですって!!」
「贅沢言うんじゃねえよ!!」
「いやお前ら、見分けなら簡単に付きそうだぜ?」

もうひとつのリモコンで随分と慣れた手つきで操作するナーバが、私達を制止し、モニターを指差す。
ズームアウトされ、幅広い領域を見る事が可能になった地図には、私達思念体個々の反応とは比べ物にならない程に広範囲に散りばめられたオレンジ色と、その反応達のほぼ中央付近で反応が重なりに重なってまっかっかになっているものが無数に存在した。
というか、地図のほぼ大半はオレンジ色。赤い反応も数えるのが面倒なレベルで存在した。

「見つけるのが容易だって分かったのはいいんだが・・・」
「ああ、途方も無い数だな・・・こいつは」
「あ、あれじゃないですか、ほら、世界中に蔓延した違反の性質が反応してるとか・・・」
「それはそうなると見越して反応しないようになってる、どっかの違反の思念のおかげで、それは容易だったよ」
「しかし、既にこんなにも被害が深刻だったとは・・・」
「私達が宮橋と交戦してた時には既に柱はもう各地に点在してたのかな・・・?」
「たぶんそうッスね、ひっそりと隠すように刺さってる柱もあれば、はたまた堂々と刺さってる柱もある。違和感とか、興味とか、そんなんを持った人っていうのは少なからずいると思うッス」
「だけど、何か分からないようなものを壊そうって思うまでに至る事は中々少ないハズです」
「まあ、私じゃないどこかの違反の思念とかそのご一行なら、その思考に至ってもおかしくないかもしれないけどね」
「その柱への違和感を、性質として感じ取れる思念体の面々は大体は柱の中だ、まあしてやられたって所だな」
「あ・・・宮橋?そうだ!宮橋だ!!」

私は機体に登り、近距離でモニターを凝視する。

「何やってんだお前!?」
「思念体そのものも反応するのなら・・・九十九街道、九十九街道宮橋もこの反応の中に!!!そいつを叩きのめせば!!」
「無理だ!!似たような反応が無数にあって捕らえられねえよ!!地図の倍率考えろ!!」
「さすがに見つけるのは無理だな、柱を壊して回る他無さそうだ」
「むぅ・・・」
「むぅ」
「だとするなら、近場から攻めるのが妥当、といったところだろうな」
「わざわざ遠方に赴く理由も無いしな」
「でも見て下さい、私達のエリア意外にも、小さい反応以外無い部分がありますよ?」
「そこはうごメモ町よ、イハン達が動いてるって聞くし、アイツあんなだけど友達多いから、結構破壊効率もいいかもね」
「じゃあこの反応はイハン達か、イハン自体は写らないが、それでもこの反応の数。結構な数破壊してると見ていいな」
うごメモ町の周辺は彼等に任せても問題なさそうだな、私達は別の場所に回る事にすっか」
「むっふっふ」



そんなワケで、私達は柱があるとされる場所へと足を進める。私以外足無いが。
本来、手分けすれば良いものなのだろうが、私達は個々の力がそこまで強いワケでもない。
私が知る限りでのイハン陣営の皆様方は、なんだかおかしいレベルで強力な奴らばっかりだ、故に手分けした方が、向こうは効率が良いだろう。
だがこっちはというと、技を盗まないと貧弱な違反の思念、食い意地が優先される欲の思念、ひたすら弱い期待の思念、重なる対象が無いとどうしようもない重複の思念と、とにかく壊滅的なのだ。
壊滅的であるその分、私達は柱のほぼ正確な位置の特定が出来ているため、向こうには有るだろう『探す手間』がこちらには無い。破壊不能な存在が散らばるより纏まって少しずつひねり潰す方が良い。
広範囲爆発四散はアイツらに任せておけばいいのだ。こっちはその分確固撃破させてもらう。
そんなワケで、私達が向かうは近隣の小さな村だ。こんな名前さえ知らないような所に柱を配置して何がしたいのだろう。
宮橋の事だ、どうせテキトーに設置したとかそのあたりだろう。

「で、なんで最も戦力になりそうな努力の思念が留守番キメこんでるのかな?」
「私が作って欲しいものがあると頼んだんで作業の方に回ってもらったッス!」
「死ね」
「ヒドいス」
「てかアイツ寝てないよな・・・過労で死んだりしないだろうか」
「死にはしないと思いますが・・・大丈夫ですかね」
「む」
「大丈夫じゃない?クリエイティブ精神の塊みたいな思念体でしたし?おめめキンキラリンでしたし?」
「まあ確かに何か作るってなると何時間起きてても平気な気がするな、アレは」

そんなこんなで、努力の思念を若干disりながら、私達はその目的のエリアまで足を進める。みんな足無いけど。
本来ならば足のある私の存在によって目的地までの到達が遅くなるものだが、<スティール>で飛べるようになる事を既に学んでいる私は、なんとなく気分だけでピオネロをスティールし、飛行能力を得ている。
これで思念体特有の高速の空の旅も可能なのだ。
それにしてもこのピオネロの能力、実に扱いづらい。
一種のコピー能力は可能なのだが、『重複』という性質上、元となったものとほぼ同じ事しかする事ができないのである。
完全に<重ねる『元』の状態>に依存するため、自身で制御できないのが困った所だ。
<相手の発動イメージがなければいけない>、<発動イメージの通りにしか使用できない>。
相手の技を不発に出来る以外は、私の能力の下位互換でしかないのだ。

「こんな能力でどう戦おうっていうのさ」
「何か言いました?」
「別に」
(よくこんな能力でやってけるわねって言っただけよ)
(私あまり戦わないので・・・、と言うかちゃっかり使いこなしてますね)
(丸コピだからね、奪えばそれは自分のものなのよ)
(そうですか・・・)
(ねえ、心が読めるってどんな気持ち?)
(はい?)
(やっぱ答えなくていいわ、気分悪くなりそう)
(ちくわ大明神)
(誰のよ今の思考)



しばらく飛行した後、私たちはその村を発見し、その近辺で足を降ろす。降ろせるのは私だけだが。
森の中にひっそりと存在している小さな村で、私達がその存在を把握できないのも無理も無い。
村の中に直接降り立たなかったのは、柱の影響で感情操作された人々がどう動くかわからないためだ。
今、イハンの持つ【違反の力】が増幅されて世界に拡散させられた事で、空は赤く染まり、拡散する違反の影響で人々の心は乱れに乱れている。
その乱れてあまりにスキだらけな心に、柱に封印された性質が上書きするように支配するのだ。
例えそれが善の傾向にある性質だろうが、結果としては変わらない。幾多の感情を持つ人々が突如ひとつの感情、概念、理念、行動だけに縛られてしまうと、それはそれはただ不安定でしかない、何を仕出かすかさえわかったものではないのだ。
全てが有害とは言えない。重複の思念の柱の影響で人々の行動がまるで同一化したりと、一応行動にもよるが無害なのもある、それこそ九十九街道宮橋の意図が読めないが、その光景は【異常】ではある。
イハンや私に普段から関わりがあったり、思念体そのものには影響が無いというのがせめてもの救いと言った所だろうか。
残念ながら、この村は今先程初めて知ったばかり、村人全員が柱の影響を受けていると見て間違い無い、故に注意は怠ってはならないのだ。

「柱ありますか?」
「ダメだな、此処からだと確認できねえ」
「それどころか・・・」

それどころか、人の気配が一切無い。
村人の一人や二人、というかそれなりの人数いたっていい筈だろう、村なんだし。
ただ少し気がかりなのは、若干血生臭い事だ。

「近辺に柱があるのは違いないんだ、まずはその性質を確認してもいいだろう」
「というか、最初からそれやれば対策練りやすいんじゃないの?」
「同感ッス」

性質感知は任意で発動できる、性質を感知出来た所で、普段役に立たないので、存在を知らなかったり忘れてる思念体だって少なくない。
理屈でわかってるけどすぐ行動には移さない事ってあるよね、たぶんそういう事だと思う。

(死ね)
「!?」

その時だ、聞き覚えの無い声が突如として聞こえたのだ。
聞こえたというよりは、頭の中に直接入ってきたとでも言うべきだろうか、そのような感覚だ。

「皆!伏せて下さい!!」

重複の思念が声を大にして皆に注意を促す。
彼女がこう言ったという事は、今聞こえてきた声は誰かの心の声という事となる。
全員がそれに従い、身をその場で屈める。
すると、茂みからナタだの包丁だの、鋭利な物体が無数に飛来し、私達の頭上を掠めて周辺の樹木に突き刺さった。

唖然とする思念体一行、一瞬の静寂の後にナーバが口を開く。小声で。

「理解したぞ、此処の性質」
「何だったんですか」
「ヤベエものを引いてしまったみてえだな」
「だから何なのよ、この状況でもったいぶらないで」
「【殺意】だ、殺意の性質がここいら一帯に溢れ返ってやがる」
「と言うことは・・・」
「此処の村人は今全員アサシン同然って事ッスか・・・」

どうやら貧乏くじを引いてしまったらしい。
一番近場の位置する性質が、まさか殺意だったとは、先程の血生臭さも理解した。
おそらく殺意に駆られた村人同士が殺しあった結果なのだろう。
村の周辺に変わった様子が無い所を見ると、此処のような茂みの中か、家屋の中などは惨事となっているに違いない。
私は重複の思念に心を通して合図を送り、静かに精神を研ぎ澄ませる。
ナーバ、ルーツ、ピオネロの心を感知し、そしてその周囲から無数の心の中を感知した。
殺意に駆られただけであり、いやむしろその殺意に駆られたからこその荒んだ刺々しい心を滲み出している。
人気が無いのも幸いし、心読で人数を把握するのは容易だった、中身については・・・、あまり心地の良い中身でない事だけは言っておこう。

「6人といった所かな・・・」
「結構な数だな、大丈夫なのか?」
「大丈夫かどうかは私が知る所じゃないよ、それに、まだ潜んでる可能性だって考えられる。幸い、相手は殺しに関しては素人。動きも単調で直線的、数で攻められない限り、気をつけていればどうにかなる相手ではある・・・やっぱり怖いけど」
「こちらももうちょっとぱぅあのある人がいればよかったんスけど・・・、アーティアさん留守番させたのはやっぱりマズかったッスかね・・・」
「俺では不満かよ」
「む」

人数的に考えたらこちとら不利ではない。
私達はイハン達のように強くない、あまりに非力なのだ。
クドい程にこれしか言ってない気がするが、そこが重要なポイントなので仕方ない。

「来ます・・・!!」

重複の思念が何かを察知して合図を送る。
それと同時に茂みから高速で人影が一人。その姿を表す。
性質に囚われている関係上、相手は純粋な殺意のみで向かってくる。
それ故に動きこそ単調でわかりやすいが、他に余分な念が無いからなのか、その身のこなしは村人Aというにはあからさまにおかしいレベルだった。
元々農業やってる人というのは筋肉あるっぽいのでそれかもしれない。
私達は、各々の手段でその襲撃をかわす。重複の思念の合図があったために回避出来たが、何も無しに奇襲をかけられるととてつもない反応速度を強いられてどうしようもない。
殺しは確かに素人だろうが、身体能力などの面々で既に色々劣っていた。勝ち目あるんこれ。

「気を付けたらどうにかなるって・・・心読む前提じゃねえか!」
「仕方ないでしょ!能力的にこんなに差があるなんて思ってなかったんだから!!」
「ちょっと攻撃食らってこいよ!<∞-インフィニティ->があればどうにかなるだろ!」
「お前は私の能力便利扱いするけど、お前『血を下さい』と言われて自分で自分の首を落とせるのか」
「ケンカしてる場合じゃないッスよ!!」
「また来ます!!」

別の村人が茂みから襲い掛かる。
私達は再度これを回避するものの、襲い掛かってきた村人はすぐ別の茂みに行方を眩ませる。
これではラチが開かない、柱も見つからない以上、まずはこの茂みから出なければ、地の利的にも相手がますます有利だ。出来るだけ相手が優位に立てる状況を崩さなければ、手も足も出す事がままならない。
今の私ならば重複の思念と同様の能力群を扱う事が出来る。これをうまく有効活用出来ないものか。

そうこう考えている内に次の攻撃が来る。
正確には来ていない、来る予兆が見えたのだ、誰かが攻撃を試みようとしている。
私はその攻撃に対してすかさず動く、そして相手は・・・



行動してこない、思惑通りだ。
既に相手の行動の算段は、<奪った後>なのだ。

「おい!ルコ!!」

私は茂みの中に姿を潜め、<行動を奪った相手>に対しての間合いを確実に詰めて行く。
この行動が重複の思念体、ピオネロのもう一つの能力。相手のイメージを奪取し、その通りに行動する力。
イメージを奪われた相手の技は不発に終わり、奪取した自分が使う事が出来る。
それによって・・・

襲撃するつもりだった村人に対して、茂みから逆にこちらが強襲し、村人に対して一気に詰め寄る。
そして眼前にまで差し掛かった所で、手元に出現したフライパンによる一撃が、村人の顔面を深く捕らえ、村人は崩れるように地面に倒れる。
まずは一人片付けた、俗に言うコピー能力であるため、武器も相手に依存する形となってしまうのだが、
今回相手が持っていた武器がフライパンで良かった。痛いのは免れないが、殺傷能力はさほどでもないハズだ。
一見この能力、ずいぶんと使い勝手が良いように思えるが、実はそうでもない。
相手の行動を阻害し、自分が相手の思っていた通りに行動するという能力は確かに強力なのだが、
その性質上、「相手の中にイメージが無ければ奪う事自体出来ない」のだ。
今回は相手が行動の算段を見定めるという形をとってくれたから良いものだが、この点でも相手への依存性が高く多用できるような技ではない。
そして、もうひとつが・・・

「ぎゃふん!!」

私は全速力で樹木に激突する。その衝撃を物語るように、幹の軋むような音が響き、葉が揺れる。
ご覧の通り相手の「行動の算段」を読み取った事で、私は「その通り」にしか行動出来ない。何があってもだ。
つまりはそういう事だ、一応結果として一人始末出来たが、樹木にノンストップでぶつかってしまったのだ。これは尋常でない程に痛い。

「何やってるんだあいつ・・・!」
「でも!一人撃退できたッスよ・・・!!」
「そうじゃねえ・・・!今の音で完全に位置を悟られた・・・!何人いるかわかんねえが、全員がルコを狙ってくるぞ・・・!!」

激突した樹木のそばでへたれている私だが、その近づく気配は心を読むまでも無く把握できた。
何重にも重なった殺意が、重い圧力のようなものを生み出しており、一瞬の寒気が生じる。
復活するとわかっていても死は恐ろしい。それは宮橋の時にも重々に味わった恐怖だ。
四方八方から草を掻き分ける音が聞こえる、どこから飛び出してくるかわからない、心を読んだとしても対応しきれるか微妙な所だ。

(違反さん!!)

その時だ、私の頭の中に、村人のものとは違う思考が介入してくる。
ピオネロだ。スティールで心が読める事を良い事に、私の頭の中に直接語りかけてきたのだ。

(何なのよこんな時に!)
(幸い、違反さんが引き付けたおかげでこちらへの警戒は手薄になってるみたいです!はてなさんと物欲さん、期待さんが茂みを出て柱の捜索に向かっています!!)
(それはいいけど!どうするのよこの状況!アンタはなんで残ったの!!)
(こちらからだと・・・見えるんです!!村人の姿がしっかりと!!)

視線をその方向へ向けてみる、うまく木の葉の中に埋まる形にはなっているが、確かに木の上にはピオネロの姿が確認出来る。
確かにアレならば私の周囲はよく見渡せるハズだ、しかしよく登れたなお前!!
しかし、見えた所でどうするのか――

いや、そういう事か。
既にやっているではないか、私とピオネロは擬似テレパシーが出来る。
見えるピオネロが指示をよこして、私はそれに対応すればいい、さらに柱は他の奴等が探しているのだから時間稼ぎさえすればいいのだ。

(そうと決まれば、やるしかないね。ちゃんと指示してよ!?)
(ま、任せて下さい!!)

こちらでも精神を研ぎ澄ませ、心読能力に最大限に集中する。
五人の思考が、私の周囲を取り囲むようにぐるぐると渦巻く。いつ出てくるのかはわからない。
イメージ抽出しても良いが、相手は多数、そう考えるとやはりむやみには動けない。

(今です!!違反さん!!右から来ます!!)

ピオネロからの指示が入る。
それとほぼ同時に茂みから村人が姿を現す、やはり村人の動きは早い、だが指示のおかげで回避には充分な余裕がある。
ピッチフォークを構えて突撃してきた村人を難なくかわすが、その次、背後から来ると絶え間なくピオネロからの指示が入る。
だが私は既に『見ている』のだ。私は先ほどの村人が持っていたものを同じピッチフォークを携え、背後に迫る村人に対して突進した。
可能ならば先ほどのフライパンで気絶させるのが望ましいのだが、生憎それはイメージを抽出しただけで見るには至っていない。
【ラーニング】で使う事は出来ないのだ。

「ごめんね」

背後から巨大なナタを携える村人だが、ピッチフォークはリーチがある、村人のナタは私に届く間合いにたどり着く事無く、私の突いたピッチフォークが村人の足に深々と刺さる。
悶絶し、鮮血を流す村人、見ているだけで痛々しい、だが止む終えない状況だ、時間稼ぎとはいえ、私の体力にだって限界がある。相手の手数は減らせるだけ減らす。
急所は外しつつ、再起不能にする。

(違反さん!!左の方向!そしてもう一人が上から来ます!!)

一人片付けたがそれでもこの猛攻は終わらない、今度は左から一人、上から一人と、同時に奇襲をかけてきた。
指示があるおかげで対応には困らないものの、一寸の狂いも無い動きを強いられるのは事実で、わりと緊迫している。
上からの奇襲に対して、先ほど『見た』ナタの一振りを見舞い、相手の武器を弾き飛ばす。
その流れに身を任せてピッチフォークで左からの襲撃者に対応、先ほど同様にリーチの差でこちらが勝り、五つ並んだ鋭利な刃が的確に足を捕らえて相手を立てなくする。
立てても動きを鈍らせるくらいは出来るだろう。
そして始めに武器を弾き飛ばした村人を・・・落下の勢いに任せて地面に叩き付けた。非力故にラーニング無しではまともに戦えないが、慣性を利用したために威力は絶大、のはず。
地面に叩きつけられた村人は顔面を地面に埋めた状態で気絶してしまった。

ピオネロからの指示が止まる、残る村人はあと二人、私は依然警戒を続ける。
村人は相変わらずその溢れ出る殺意を抑えられておらず、それは威圧感、そして思考としても充分に現れていた。
漏れる思考と威圧感は常に私の周囲を渦巻くように回っている。相手には私が心読出来る事など知る由も無い。一定の陣形を保っていたがそれを崩された影響で、こちらの出方を伺っているのか、それともこちらの集中を削ぐ作戦か。
殺意むき出しの割には統率のとれた器用な動きを見せる。村人同士で殺し合った末の精鋭部隊なのだろうか。


自身でもその気配を追いながら、私はピオネロの指示を待つ、数を減らせたとはいえ、やはり下手に自分から動くべきではない。
しかし相も変わらず、村人達はかく乱のつもりか、私の周囲をひたすらに回っている。
奴等は一向にかかってくる素振りを見せない、いつ動く、いつ動くと常に私の周囲に対しての警戒網を張り巡らせる。いつ私に襲い掛かってきても、ピオネロの指示ですぐに動ける万全の体制だ。


が、しかし、それが盲点だった。

突如として村人一人の思考が遠のいたのだ!
私の周りを周回する動きを止め、一人の村人があらぬ方向へと走り出した、といった所だろう。
一体何を、と考えたが、はっとしてピオネロの心に呼びかける。

(ピオネロ!!一人がそっちに行った!!逃げて!!)

しばらく旋回していたのは、周囲の情報を把握するためだった。ただぐるぐる回っていたのではなかったのだ、あの間に、ピオネロの存在に感付かれていたのだ!!
ピオネロの方へと走ったのはピッチフォークを持った村人、既にその身を隠す必要も無いと悟ったのか、その姿はしっかりと捉える事が出来る。
あわてて木から下りるピオネロだが、もう遅い、その姿を村人に見られてしまった。
その村人はピオネロに対してピッチフォークを投擲する!!
だがその投擲はしっかり私が『捉えていた』!!
間に合うかはわからない、だが選択の余地も無い、その捉えた投擲を、ほぼ直感的に、コンマ1秒さえ経たぬ刹那で私も放つ!!
しかし今度は私がそちらに気をとられ過ぎていた!!
もう一人、私の傍で静かに待機していたもう一人の村人が、「今が好機!」とでも言わんばかりに私に対して襲い掛かる!!殺意のクセに理性的なんだよ動きが!!!
せめてもの悪あがきに、私は回避行動をとろうとするも、足が動かない!!足元み見ればどうだ!私が伸した村人三人が、私の足を掴んで離さない!!まるで身動きが取れないでいた!!
そしてその村人の手に握られたのは短剣!それが私に向かってくるその一方でピオネロに向けて飛翔するピッチフォークと、それを阻止せんとする、私の放ったピッチフォーク!!

投擲されたピッチフォークがピオネロへと迫る、ピオネロは腰でも抜かしているのか身動きが取れない!!

ピッチフォークの切っ先がピオネロの眼前まで迫り、ついに直撃したかとはんば諦める・・・・




が、間に合ったのだ。
私の放ったピッチフォークが、うまい具合に村人の放つピッチフォークと樹木を捕らえ、ピオネロに突き刺さらんとする紙一重の所で制止に成功した!!私何回ピッチフォークって言ったかなこれ!!
本来ならばほっと無い胸を撫で下ろす所だが、私も安心してはいられない状態だという事を無論忘れてはならない。
短剣を構えた村人もまた、既に私の眼前へと迫っていたのだ。足元は這い蹲った村人がしっかりと掴んでいる事で身動き出来ない。
だが私は、不思議と恐怖しなかった。擬似テレパシーさえ忘れて私に呼びかけるピオネロの声が聞こえる、何か叫んでいるようだが、その内容は私の耳には届かない。全く、まだそっちは村人が生きているのに、そっちをどうにかしようよ。









私の上半身は霊体である、それでは効果が薄いと悟ったか、はたまた最初から狙って来たのか、私の額には、村人の突き立てたナイフの感触がある。

金属特有の冷たい感触だった。




「ん?どうしたのピオネロ、そんな唖然とした顔して」



あくまで感触がするだけだ。刺さってなどいない、むしろ《刺す事は不可能》なのだ。
短剣の切っ先が、私の額に触れた状態でピクリとも動かない、村人は何が起こったのかもわからぬ様子でただ私の額にその手に持ったものを押し込もうとする。
が、そのような努力も空しく短剣は私には刺さらない。
覚えているだろうか、イハンを捜索する以前、私はそこらへんにでもいるであろう違反者と思しき変な奴に絡まれた事がある。
彼が持っていた得物はなんだったか、そう短剣だ。
生憎、《私に短剣でただ切りつけるだけの攻撃》は、既に通用しない。
無敵化能力【∞-インフィニティ-】。一度攻撃を受けなければならないという制約のせいで、あまり好きではないこの能力だが、このような形で役に立つとは思いもよらなかった。
結局無敵TUEEEEEEEってなるからあまり素直に良い展開とは言えないのがアレだが。

どうにか出来ないものか、とでも言わんばかりの表情で私に刃を突き立てまくる村人。
その攻撃すべてが弾かれ、やがてその村人は、ピオネロの傍にいた奴もろとも意識が途絶えたようにその場に崩れた。

ナーバ達が柱を破壊したのだろうか、この周辺に蔓延していた殺意の性質が薄れていくのを感じた。
それと同時に、思い出すかのように私の体に疲れがどっと押し寄せ、その場でへたり込んでしまう。

「大丈夫ですか違反さん」

ピオネロが私の傍に駆け寄る、足は一応無いけど。

「大丈夫なワケないよ!疲れたよ!はぁー・・・ちょっと休もう、少ししてからナーバ達と合流すればいいや」
「そうですね、それがいいかもしれません」

そうして少しの休息をとった後、私達は茂みと出てナーバ達の姿を探す。
どうやら村の奥地に柱があったようで、そこにナーバ達の姿もあった、しかし何か様子がおかしいのだ。

何かと対峙している、そしてその相手を見て私は衝撃が走る。

「九十九街道・・・宮橋・・・!!!」

私は夢中になって駆け寄る。

「ナーバ!どうしたの!?何があったの!?」
「柱を破壊して殺意の思念を掘り起こしたのはいいが!!いきなりコイツだ!現れては殺意の思念体を気絶させて奪いやがった!!」
「あ、久しぶりだねルコ、元気してたかい、まあ元気だろうね、空がまっかっかで嫌でもお元気だろうからね」
「それでも結構しんどいよ!!じゃない、何でここにいるのよ!!!」
「聞いてよそれが上からのご命令でねー、せっかく入れた思念体だけど壊す人たちが現れ始めたでしょ?壊した際に引っ張り出した思念体回収しろって言ったきたの」
「上!?アンタが仕組んだんじゃないの!?」
「3分の1くらいは僕が仕組んだよ、おかげで色々地の利に詳しくなったよ!やったね!!」
「だから上って何よ!!」
「質問多いなあ、今色々教えてもつまらないから、僕はもう帰るね。あ、しっかり殺意の思念はいただいておくよ」

そうして飛び立つ宮橋、全員が満身創痍のようで、彼を追いかける事は出来なかった。七はカステラ食ってた。
ひとまず柱を破壊してこのエリアを開放した私達は、アーティアの工房へと帰還する事にした。