悲劇ノ無双乱舞

「ぐああああああ!!」
「何だお前!!」
「ごちゃごちゃうるさいねぇ、どうだって良いじゃないか、この道場の看板はあたしがもらうんだからね!」
彼女は筍雨後<スンユーホウ>、彼女は強かった、あまりに強すぎて毎日道場破りを繰り返す日々、しかし彼女はそれでも満たされなかった。
彼女と対等に戦うことができる者はほとんどいない。道場破りというよりただの侵略に等しかった。
「戻ったよじぃじ!」
「雨後、あなたまた道場破りを・・・」
「良いじゃないか別に、弱い癖して看板を持つなんて勿体無い、宝の持ち腐れ、豚に真珠だよ」
「だからってそれが正しい訳が無い、あなたは強すぎる、全てがあなたの基準ではない」
「何が正しいかなんて決まってない、じぃじがそういうならそれも正しいし、あたしが言ってる事も正しいと思えばそれが正しい」
「全く・・・」
雨後がじぃじと呼ぶ彼は筍峰山<スンフォンシャン>、筍一族の初代に位置する1000年近く生きる仙人で、山の上に身を潜める。
今彼女が話しかけているのは分身。本体が山から降りることはほぼ全く無い。
「じぃじには攻撃を仕掛けても相手にしてくれないし、此処の奴らは弱すぎてつまらない、このままじゃ鈍る一方だ」
「だからって道場破りはどうかと思いますが。」
「じぃじ、話がループしてるよ、あたしに何言っても無駄さ、あたしはあたしのやりたい様にする、<あたしに勝てる奴なんていない>だから弱い癖して気取って道場なんて開いている奴らを叩き潰す」
「・・・・・時の能力は」
「使ってないよ、雑魚に使う程でもないし止まった時の中で攻撃していいのは本当に殴りたい奴だけって決まりだ。もういいだろう、あたしはもう寝るよ」


「・・・・・・・・・・自らの流派の誇りは忘れていないか、さてどうしたものかな・・・」




その後も雨後は道場破りを続けた、打ち負かした者はもちろんの事、相変わらず対等に戦った者は誰一人としていない。
峰山も拳でものを言えば喜んでしまうしどれほどやめろと言った所で聞く耳持たないため半ば諦めていた。
しかしそこいらのDQNが束になっても全く敵わないため雨後の住む周辺はやたらと治安がいい。
噂では後ろから拘束したら拘束した奴の関節が外れていたり、鉄パイプで殴ったら雨後は無傷で鉄パイプがひん曲がってたり、挙句一つの不良集団のアジトをヘッドバット一撃で崩落させ潰したなんて伝説がある。
あくまで噂なので真偽はわからないのだが、どれも雨後なら容易だろう。きっと。

「約束通り此処の看板はもらってくよ、約束なんだから悪く思わない事だね。」
「お前は・・・」
「ん?」
「何故戦うのだ、なぜ道場破りを繰り返すのだ。」
先ほど打ち負かした師範が尋ねてきた。
「愚問よ、あたしは強い奴と戦って、そして勝ちたいんだ、そして敗者が大口叩けないように道場の誇りを奪う、今の所<強いと思った奴は独りもいない>」
「なるほどな・・ならばいいことを教えてやる。」
「?」
「お前は<棒人間>という種族を知っているか?」
「棒人間?」
棒人間、一見聞こえは悪いようにも思えるが基本スマートな外見を持ち、遠目で見るとまさに絵で描いたような棒人間に見える。
普通の人間に比べると超人的な身体能力を誇る種族、戦うことを生き甲斐としているものが多く、能力も様々。
「それがどうかしたかい」
「その棒人間が師範を務める道場がある、師範が名を<玄白>、刀術に精通した一派で<最強の棒人間と呼ばれる男>だ」
「最強だって?」
「そうだ」
「おもしろいじゃないか、わざわざ最強を語るなんてさ」
「あとひとつ、お前に言っておこう」
「なんだい、これから殴りこみに行こうとしたのに」
「<お前は決して強くない>」
「は?」
意味がわからなかった、さっきあたしに負けたこいつがあたしを強くないと言い出した。
「負けた癖して何言ってんだいあんた、負けて悔しいのかい」
「<あんたは決して強くない、あんたはただ力でねじ伏せているだけだ。>今までお前が戦った奴がどんな奴かはわからないが、」
と言った所で突如奴の姿が消えた、そして気づいた時にはもう遅く、あたしの背面に紙一重で制止した拳があった
「おそらくお前が戦ってきた奴の殆どがお前に一撃、いや、戦闘不能まで持ち込むのは容易いだろう、まあそれでも<このままなら>だれも勝てる見込みも無いのは事実、俺が負けたこともまた、事実に変わりないがな。玄白の下に行くのはお前の自由だが、<お前は弱い、お前が玄白に勝てる筈がない>」
言葉が出なかった、何が起こったか判断に時間がかかった。そして気がついたら看板を置いて走っていた、向かう先は

玄白という奴の道場だ。

あたしが弱いだなんて認めるものか、あたしが弱いと言うならばその<最強>をぶっ倒して証明するまで!!
「行きましたか雨後、まあ、氏ならなんとかしてくれるでしょう・・・」

森を抜け、
山を越え、
人里を駆け、
「・・・・・ここだね・・・?」
そこにはとにかく上へと続く石段があった、何をしたのかはわからないが所々血が染み付いている。
見たところ古い血の跡のようだ。
ここまでぶっ飛ばして来た雨後だったが、その石段はゆっくり上がって行く事にした。
今まで何も感じることの無かった雨後がこれほどまでに無い<威圧感>を感じているのだ。
雨後は若干恐怖しながらも高揚感に襲われていた、それもそうだ、<捜し求めていた強者がこの石段の上にいる>のだから。
石段を登りきり、目の前にはひとつの建造物が待ち構えていた。間違いなくこの威圧感はこの向こうだ。
恐る恐る戸に近づき・・・・・・



戸 を 蹴 っ 飛 ば し た 。




「頼もォォォォォォォ!!」
腕を組み仁王立ちで立ち尽くす男が一人。足元には刀が一本置いてある、間違いない、威圧感の主はこいつだ。
「あんたが玄白か」
「いかにも俺だ、なんなんだ飯の最中だったって言うのに、用なら手短にな、米が冷めちまうぜ」
・・・拍子抜けした、もっと威厳のある奴かと思っていたらずいぶんノリが軽い。本当に<最強>なのか疑わしくなってきた。
「あんたが<最強の棒人間>と名乗ってると聞いてね」
「俺が名乗った覚えはないんだがなぁ、で?何。」
「此処の看板をかけて勝負してもらう、俗に言う道場破りだ」
「ああなんだ、<そんなことか>、最近そこいらで噂の道場破りを繰り返す<娘さん>ってお前のことか、拍子抜けだなあ、もっとパワフルなの期待したのに」
「拍子抜けはこっちだよ、こんな威圧感の持ち主ならもっと威厳のある奴だと思ったら・・・ん?」
そういえばさっき戸を蹴っ飛ばしたのを思い出した、間違いなくまっすぐ飛んでいった筈だが。
「どうした?」
「おい、玄関の戸が飛んできた筈だろ?」
「ああ、<斬ったぜ>」
「え?」
おかしい、蹴っ飛ばしてその後の一秒前後、<こいつは全く動いてない筈だ><斬る動作も刀を納める動作もせずに、第一足元の刀を拾う動作すらしていない、ただ腕を組んだままだった>
しかし奴の後ろには真っ二つになった玄関の戸が転がっていた、<斬った動作を認識できなかったのだ>
「普段は魔法で武器を出したりしてるんだがな。」
「刀術に精通してるとは聞いたけどさ・・・想定外だね」
「で?どうするんだ」
「やるに決まってんでしょ!!」
ここまできて引き下がる事などできない、そもそも引き下がるつもりはない。
「ほう、んでお前武器は?」
「そんなもの必要ない」
「じゃあ俺も素手で行こう」
「なんだって・・・?」
「安心しなって、<軽くたしなむ程度しか精通してないから>」
「ふざけるんじゃ・・・」

「ないよっ!!!!」

先に仕掛けたのは雨後だった、玄白の額目掛けて真っ直ぐに拳が伸びる。
「おうっ!?」
玄白が声を上げている頃にはすでに玄白は後方に吹き飛び若干壁にめり込んでいた。
「どうだい!<これを受けて立ち上がった奴は誰一人いないんだ!!>」
「なるほど・・・」
「!?」
玄白はケロッとしている、壁にめり込むほど吹き飛んだがまるでダメージが無い。
実は拳が触れた直前に自ら後方に飛んでいたのだ、拳のダメージは皆無だった。
「<これを受けて立ち上がった奴は誰一人いない>、そう言ったな?お前、まさか今までの道場破り、<全部一撃必殺>じゃねえだろうな」
「ああそうだ、拳一発でみんなのしてきた」
「んでお前が戦う理由は」
「あたしは強い奴と戦って、そして勝ちたい、あたしは強くなりたいんだ。何回言ったかねコレ」
「お前弱いな」
「なんだって!!?」
「戦ってる理由は単なる自己満足だし、上っ面の力がバカみてえに強いだけでやってるのは今みてえに不意打ちに近い攻撃ばかりだ。他の奴もそれにやられたんだろう、不意打ちかまされりゃあ回避も受身も遅れるし、殴ったダメージに乗算して頭に直に受けた一撃でしばらく全身に力が入らなくなる、ん?いや頭殴ったら力ぬけはしないか?どっちでもいいか」
「っく・・・・!!」
「それをお前は自分が強いと過信しているだけだ!!お前が強いのはパワーのみ!!戦闘力は無い!!」
「うるさアアアアアアアアアアアアアアああああ嗚呼あああああああああああああああああああああああアアアアあ亜ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああアアああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
強烈に大きな声がビリビリと道場に鳴り響いた。<うるさいがうるさい>。
そしてまた玄白に殴りかかる!!
「それしかできないのか!!」
玄白はそれを回避しすかさず腹部に一撃を突き刺す!!
しかし!!!
「!?」
確かに<今そこにいたはずの雨後の姿が無かった!!>
その姿は上にあった!!!
「この能力を使ってしまうとはね!!」
「瞬間移動だと!?」
雨後は道場破りで初めて時の能力を行使した、使わざるを得なかったのだ。
雨後は降下の勢いで玄白に殴りかかる!
だが玄白は軽く回避し、床に激突する雨後を見送った後足をつかんで放り投げた!
「っごうっふ!!」
雨後は壁に深くめり込み、ゆっくり地面に落ちた、満身創痍だった。
「・・・・・・・・・・」
「もう済んだろ、勝負ありだ」
「ま・・・だ・・・だ・・・!!」
雨後はゆっくりと起き上がった、もはや彼女は執念と意地だけで立っていた。
「まだ・・・終わってないぞ・・・・!!」
しかし玄白の傍まで歩いた所でまた彼女は崩れ落ちた。






「・・・・・!!」
既に夜が明けていた、雨後はあたりを見渡したが全く見知らぬ場所だった。
「おう、気がついたか」
「ここは・・・・」
「俺ん家だ、お前を担いできたら俺のカミさんが目を点にしてよぉww慌てて怪我人ダー怪我人ダーってことになってなw」
「・・・・・私・・・負けたのか・・・」
「・・・・・ああ、残念だが、俺の圧勝だ」
「いいや!まだだ!もう一度勝負しあだだだッ・・・・!」
「多少加減したつもりだったがちょっと力が入りすぎてな、たぶんしばらくうごかんだろ」
「・・・・・・・・・」
「また俺と戦いたいか?」
「当たり前だ!負けたままは気持ちがよくない!!」
「よし、じゃあ条件をつける」
「なに?」
「条件その壱!後でお前を家に送り届ける!家でゆっくり休んだらパクった道場の看板を全部返してくること!!」
「全部!?」
「当たり前だろ、不意打ちで取った道場の看板で優越感に浸ってやがる奴とは戦いたくないからな!!」
(<おそらくお前が戦ってきた奴の殆どがお前に一撃、いや、戦闘不能まで持ち込むのは容易いだろう。まあそれでも<このままなら>だれも勝てる見込みも無いのは事実>)
雨後はとっさにあの師範が言った言葉を思い出した。
(このままってのは不意打ちのことか・・・・そういや昨日もこいつ不意打ち不意打ち言ってた気がする)
「で、次は?」
「条件その弐!その力を何のために行使するべきか、よおおおおおおおおおおおおおっく考えること。ただの自己満足じゃダメだ、せっかく持っている力は誰かのために使え!!」
「いきなり言われてもなぁ・・・」
「すぐ答えが見つかることは無い、焦らずによおおおおおおおおおおおおおっく頭をひねって考えろ、そして条件その参!!」
「・・・・・」
「今の戦い方はとにかく素人以下だ、だがな、お前はかなり筋がいい、並外れた力と相手に向かっていく執念を持っている、お前は格闘の基礎から入れ!そしてあらゆる武術を学び、体に叩き込む!そして強くなれ!!俺と対等に戦えるほどに強くなったらってならまた相手してやる」
「本当だな!?」
「ああ本当だ、わかればとっととお前を家に送るぞ、俺は<いつでも待ってるからな。>条件満たしてかかって来い」
「おう!!」






して・・・・・筍 雨後が玄白の出した条件を全て打破し、正真正銘の<最強の人間>となった頃、二人は二度と会うことは無かった。























ある日、花を供えるために墓へ向かうと、すでに父の墓の前には緑色の中国装束を身にまとった女性がいた。
彼女は「いつでも待ってると言ったのにのう、この大嘘つきめが・・・・・」
と呟くと、顔を隠すようにその場を去っていった・・・・・・・
でも私は隠しきれていない彼女の顔を見た、















その時、彼女は泣いていた。