茸の山・筍の里

「ここに来るのはいつ以来だろうか」
竹林が生い茂る山奥にひっそりと佇む小さな山村、そこにそんな村とはいかにも不釣り合いな礼服を着た男がいた。
「ん、刀狩(ダオショウ)さんでねえか!おーい!おめえら!刀狩さんが戻って来たで!」
高らかに村中に響き渡る声をあげる村長、焼飯(シャオファン)。そして凄まじい勢いで飛び出してくる村民。
「おお刀狩さん!」
「元気にしとったかい?」
「懐かしいだなぁ」
村人が同時に喋る、何を言っているのか全くわからない。

刀狩は元々この村の村人だったのだが企業が成功し、一人この村を出ていった、しかし[自分はこの村を捨てた]と思い、心を痛めている。
「みんな怒っていたりしませんか?」
「なんでオイラ達が刀狩さんに怒らなきゃなんねえんだっぺ?」
「勝手に村を出て行ってみんな私が村を捨てたと思っていたら…と……」
「んなわけないべ!刀狩さんは自分の進み道を自分で決めただけだっぺ、それをとやかく言う筋合いはオイラ達にゃねえっぺ、そりゃいきなり刀狩さんがいなくなった事で色々大変だったべ、でもオイラ達は誰ひとり刀狩さんを恨んだり怒ったりしないっぺ。そうだろう!?」
「そうだそうだー!」
「刀狩さんはこの村の一員だっぺー!」
「村長…みんな…」
焼飯の言葉に感激して少し涙ぐんでいる刀狩、ただでさえ涙もろい、涙を堪えているのが簡単にわかる。見てて面白い、と言いかけたが空気読んだ。村長として。
「ん」
誰かがスーツをぐいぐいと引っ張る。
「よう、クソジジイ!」
村長の息子で村一番の悪ガキと悪名高い焼茸(シャオロン)だった。
「よう、クソガキ!」
刀狩も返す。
歳はうんと離れているのにこの二人は仲がいい。
「これ!焼茸!」
よくみたら焼茸の手は土で汚れていて刀狩のスーツがドロッドロになっていた。「ははは、いいんですよこれくらい、私はここの土の匂いは大好きですからね」
ただの成金野郎ならここでぶちギレていると思う。
「そういや刀狩さん、今日はどうしてここに来たっぺ?」
「それなんですが、実は仕事の都合で遠出を強いられたのですが……どうも目的地は環境の面で問題があるようで体が弱い娘を連れていく事が出来ないのです…」
「なんとなく予想はつくな」
「おそらく予想の通りです、娘をこの村で預かって欲しいのです。勝手に村を出て行った身なのに自分勝手だとは思いますが私h」
「いいっぺ」
「え」
「オイラ達とお前の仲だっぺ、そんな堅苦しいのは無しだ、困ったら互いに助け合うもんだっぺ」
また泣きそうになる刀狩、「お前見てておもしれぇな」
今度は言った。
必死に涙を堪えながら刀狩は言った、
「刀嵐(ダオラン)、おいで」
刀狩がそういうと奥から人影が現れる。

凄いフリフリのドレスを着て、
リボンがたくさんついた
焼茸より若干年下の女の子。

刀嵐。