終わる前の終わりの話の終わる寸前にひとかけら

世界の終焉――

大災害が起こるワケでも無く、悪役達が破壊活動に勤しむワケでも無く。

忽然と『世界が無くなる』。

その知らせに人々はざわつき始めた。終焉を見届けようとする者もいれば、無くなる事が覆るハズなど無いのに世界の終末に猛反発する者もいた。
やがて世界の混沌とした現状は、悪化の一途を辿り。

ある者はこの世界を見て言う。『世紀末』と。


「おい見てみろよォ、スガスガしいまでの混乱ぶりだぜェ?」
「亡者が沸いて出た時を彷彿とさせる光景だな」
「ワシはその亡者とやらは知らんが、今更星など集めてどうするつもりかのう、全て消し飛ぶというのに」
「だが違反者ってのは大急増だぜェ?良かったじゃあねェか」
「此処まで嬉しくない強化は大戦以来だ」
「混乱に乗じて何かやらかすのも一興かのう・・・」

木漏れ日差し込む木々の中、混沌とした世界を傍観しながらそう言うのは「悪役」と呼ばれる三人。
ガルテス、イハン、ヴィクレイマの姿であった。

「まあいずれはこうなるものだろうとは分かっていたが、こうも早くこの結末とはな」
「世界が終わるなどと淡々と宣言されてこうならん方がどうかしておるわ」
「ンじゃあアレかァ?俺らはどうかしてる方だってのかァ?」
「色んな意味で異端であるのは間違いねえだろ」
「違いねェな」
「違いないのう」

三人は非常に落ち着いていた。この終焉迫る世界のやかましすぎる中で、極めて冷静に談笑しているのだ。
その光景は、傍から見れば異様としか言い様が無い。

「んで、だ」

イハンが思いついたように口を開く。

「お前らはこっからどうするんだ?流石にこの世界に留まってるってワケねえだろ?」
「ん、そんな話かァ・・・、まあ俺には元より居場所なんざねェからなァ、この世界が消えるってなりゃ、また別の場所でテキトーにブラブラするわなァ」
「ワシは新たな土地へ行く、世界の終焉でワシの世界も消えてしまうのが少々名残惜しくて適わんが・・・何、新地で新たな世界の王となれば良いだけの事だ・・・」
「どっちもいかにもって返答だなぁ・・・お前らの行き着いた世界が今から哀れに思えるぜ」
「ヘヘッ」
「と、なればこの三人は解散となるのかのう」
「別次元とかの話になると世界だだっ広いからな、またこの3人で巡り合えるやら」
「どうだかなァ・・・」
「案外簡単に出会えるかもしれぬぞ、ワシらはまあ見事に悪運だけは強いからのう」
「悪運ってどういう意味だったか」
「さあなァ」
「・・・・・」
「・・・・・問題は貴様に有るのだがのう」
「結局の所どうなんだァ?」

一瞬にして張りつめる空気。理由はイハン、思念体の境遇にあった。

「九十九街道・・・、あの笠被った夢の思念が言っていた。思念体は、この世界と、この世界に隣り合った世界にしか存在出来ない」
「・・・・・マジかよ」
「ならばその隣り合った世界に行けば良いのではないか?」
「確かにそれも考えたが、思念体としての存在の根源はこの世界にある、この世界が消えてしまえば、隣り合った世界に行こうが俺達は消滅する」
「じゃあ・・・つまりだ、思念体は別世界への移住が出来ねえってのかァ?」
「そういう事になるな」
「完全体になればどうなのだ、あの姿は思念の理から外れた魔人の姿だろう」
「時間稼ぎにしかならん、違反の思念はそれぞれ別の存在として長く留まりすぎた。あの姿でいられるのは数分が限度だ」
「どうにもならねえってかァ?」
「どうにもならんな。俺どころか、思念体全員、この世界と心中らしい」

一陣の風が流れる。
三人の顔には、悲壮な感情も、悔しさを示す表情も浮かんでいない。ヴィクレイマに関しては表情が分からない。
死が確定しているのに、この二人は勿論、死を受け入れなければならないハズのイハンでさえ、至って冷静だ。
この無関心さ、そして非道にさえなれる冷静沈着さは、悪役の成せる所業だろうか。内心どう思っているのかは、知る由も無い。

「それで、貴様はどうするつもりだ」
「何がだ」
「ただ来るべき死を待つか?」
「イハンが此処で引き下がるワケがねェよなァ?」
「良く分かってるじゃあねえか、そうとも、ただ死んでおしまいなんてのは、俺の生には合わない」
「実にお前らしいが、どうするつもりだ」
「世界はこの惨状、血で血を洗い、醜い星の奪い合い、いつしか見たあの光景のように、今この世界には救い様などない。世界は既に手を下さずとも堕落している。ならば、それに対して俺は何をすればいい?どうせ崩れ行く世界、いまや誰もが悪となれる。『その悪もろとも、盛大に困らせる』には、果たしてどうすれば良い?」
「なんだイハン、それはなぞなぞか何かか?」
「簡単すぎて欠伸が出ちまうなァ・・・」
「ああ、そうだとも」







『世界を壊せばいいのさ』